品評会開催
品評会当日。
会場では、朝早くから開会式が執り行われ、国王ユリウスの宣言をもって品評会の開幕と相成った。
この日のために準備が行われてきた特設会場は、晴天に恵まれたこともあって多くの人々が訪れ、開場して早々に大変な賑わいを見せていた。
最新の技術・研究成果の発表の場と聞くと堅苦しい感じもするが……目に見える形で様々な成果物が出展されており、一般人や王都観光で訪れた旅行者も、興味津々といった様子で各ブースを巡って楽しんでいるようであった。
そして物見遊山の者たちがいる一方で……
各分野の専門家であれば、配布資料を片手にスタッフに様々な質問をぶつけたり議論を行っているし、商人たちは利益になりそうなものがあれば商談を持ちかけようとしてたりと、真剣な様子の者たちも数多くいた。
そんな活況を呈する品評会場にあって、とりわけ注目を集めているのはやはり、モーリス商会技術開発部門の出展であった。
その『鉄道』を初めて目にしたであろう来場者の驚きと言えば筆舌に尽くし難く、実際に乗車してみようと駅には長蛇の列が作らる。
想定外の大反響に、モーリス商会のスタッフだけでは手が回らず、主催者からも応援が駆けつけたほどであった。
「ふぅ…………まさか、ここまで大盛況になるとはね〜」
「会長、お疲れ様です。お茶をどうぞ」
出展パネルの前に立ち、来客に説明を行っていたレティシアだったが、途中でリディーと交代して人心地ついたところだ。
特設会場内におけるモーリス商会の臨時事務所、兼休憩スペースとなっている仮設テントの中で休むレティシアに、秘書がお茶を勧めてくれる。
「ありがとうエリーシャ。ずっと喋りっぱなしだったから、もう喉がカラカラだったよ」
「本当に……次から次へとお客様がいらしてましたからね」
「エリーシャも資料配布とか案内とか、大変だったでしょ?」
「いえ、私はお嬢様たちに比べればそれほどでも」
レティシアとリディー、マティスは、主に来場者に対しての出展内容の説明や質疑に対応していた。
リディーやマティスは学院出身であるから、研究内容の説明などは慣れているし、レティシアも前世は理系大学生として似たような経験がある。
親方と彼の弟子たちは、車庫で待機中の編成の整備を行ったり、運転士として活躍中。
そしてエリーシャはそれぞれのサポート役や細々とした雑用、調整事項などを処理し、副会長のアデリーヌは貴族の来客の応対に追われている。
その他のモーリス商会の面々も含め、まさに総動員体制で事にあたっているのだった。
ピィーーーッッ!!
タタン……タタン……タタン……
休憩するレティシアの耳に、警笛の音と車輪がレールのジョイントを刻む軽快な音が聞こえてきた。
彼女がテントから顔を出すと、直ぐ側にある線路を列車が通過するところだった。
親方が運転する魔導力機関車を先頭に、満員の乗客を乗せた五両の客車。
最終的に目指しているもののおよそ半分の大きさであるし、スピードも2〜30キロ程度。
レティシアの感覚では遊園地の遊具のようなものではあるが……
もう既に実用化間近まで来ていると、誰もが感じ取っている事だろう。
乗客たちは誰もが驚きと興奮の表情だ。
小さな子供が大喜びで手を振るのに、レティシアは笑顔で手を振り返す。
そうしていると、彼女の心のなかに感慨深いものがこみ上げてくる。
「……喜んでもらえて良かった」
その言葉に込められた感情は、一言で言い表せない。
彼女がこの世界に転生した時の、衝撃と絶望。
それから、家族に支えらながら立ち直り、この世界で前を向いて生きていくと決意した時の想い。
そして、これまで出会った多くの人達、大切な仲間との大切な思い出……
様々な想いがレティシアの心に去来し、複雑に絡み合う。
自分が思い描いた夢は、今となっては多くの人々の夢と希望を乗せるまでに至った。
(……だけど、まだまだ。自分のために……皆のために、この歩みは止められない。もっと頑張らないと)
「え……?お嬢様、いま何かおっしゃいましたか?」
「ううん、何でもないよ。……さぁ!休憩はこれくらいにして、また頑張っていこう!!」
「はい!」
そしてレティシアは再び歩き始める。
彼女の夢はようやく形になりはじめたばかりだ。
これからも、人々の笑顔を乗せて列車は走るだろう。




