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【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜  作者: O.T.I
レティシア12歳 鉄の公爵令嬢

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顔繋ぎ


 夜会はいよいよ佳境を迎え、酒が入った多くの招待客が歓談する楽しそうな声がそこかしこから聞こえてくる。

 夫婦や婚約者同士の者たちは、宮廷楽団が奏でる優雅な曲に乗せて舞い踊る。

 そうでない若い男性たちも、着飾った美しいご令嬢をダンスに誘い、今にも新たな恋が芽生えているかもしれない。



 そんな華やかな会場にあって、レティシアは両親や兄について回り、大人たちの話に混ざっていた。


 退屈するかも……と最初は思っていた彼女。

 しかし、今回の催しは『技術開発品評会』のプレイベントということもあり、品評会の目玉出品とも言える鉄道開発の一人者であるレティシアを知るものも少なからず来場していた。

 そのため、彼女に話を聞こうとする者が集まってきて、かなり話が盛り上がった。

 その事は彼女にとっても良いアピールとなったので、喜ばしいことだったのだろう。



 だが……

 もとより、その幼くも美しい容姿で若い男性の注目を集めていたレティシア。

 そんな中、鉄道事業の話が来場者たちの間に噂となって駆け巡ったことで、目敏い貴族や商人たちから更なる注目を集めることとなった。


 その結果どうなったかといえば……



「は、初めましてレティシア様。僕はアドレアン伯爵家の長子、ユーグと申します。よろしければ一曲、お相手頂けないでしょうか?」


 顔を赤らめ緊張した面持ちでダンスに誘ってきたのは、レティシアと同い年くらいの貴族子息。

 他にもレティシアに歩み寄ろうとしていた男性たちの姿もあり、彼らは先を越された事を悔しがっている様子だった。



「え、え〜と……(うわっ!だ、ダンスに誘われた!?)」


 まさか自分が誘われるとは……と無自覚なレティシアは予想外の事態に内心で慌てふためいて、咄嗟に返事することが出来ない。



「レティ、踊ってくるといいよ。君もダンスは習ってるだろう?」


「え、あ、うん……」


 彼女とて貴族令嬢として、マナー教育の一環でダンスなども習ってはいる。


(それに……彼の父、アドレアン卿は国土・都市計画室の室長だ。これからお世話になるだろうから顔繋ぎしておいた方が良い。多分、彼が気を利かせてくれたんだろうね)


(そう言うことなら……)


 アンリに助け舟を出されたレティシアは、仕事に関わることならば……と、気を取り直して少年に向き直る。

 そして、緊張して不安げな表情のユーグを見ると、その微笑ましい様子に余裕も出てきた。


(転生後は精神年齢が身体に引きずられてる気もするけど……ここはオトナのよゆ〜ってやつを見せないとね!)



「失礼しました、ユーグ様。ぜひ、一曲お願い致します」


 そう言って彼女は、差し出された手を取ってダンスの誘いを受ける。



 そして少年少女はダンスホールに繰り出して、今日のタイミングに合わせて踊り始めた。








 最初は少し動きがぎこちなかった二人。

 しかし、時間が経つにつれて段々と息も合ってきた。

 そうなれば……



「その……レティシア様は今日が社交界デビューでしたよね?」


 ユーグはダンスに集中していた意識を会話に振り向けるくらいには、余裕が出てきたようだ。

 そして、それはレティシアも同様で、ステップを刻みながら返事をする。


「ええ、そうです。ユーグ様は……」


「あ、僕は何度か……。あの、僕がファーストダンスの相手でよろしかったのでしょうか?」


「まぁ、特に……決まった相手もおりませんので」


 そもそも、未だに自分が男性相手に恋愛することすら想像出来ない。


 今、こうやって少年の手を取って踊っていても、異性として意識することはない。

 一方で、嫌悪を抱くことも無かったのは、彼女に取って幸いなことだったのだろうか。



「そういうユーグ様は、婚約者はいらっしゃらないのですか?」


「僕も婚約者はおりませんが……」


 視線を反らしながらの答えに、レティシアはピンときた。

 どうにも自分の感情には鈍感な彼女であっても、他人のことには敏感になるようだ。


「好きなお相手がいらっしゃる?」


「うっ……いえ、その……」


 バツが悪そうに口ごもるユーグ。

 それは肯定しているのと同意だろう。


 おそらくは、想いを寄せる相手がいるのにも関わらず、こうしてレティシアをダンスに誘ったのを申し訳ないと思ったようだ。

 それがかえって彼の誠実さを感じさせ、レティシアは好感を覚えた。


「ふふ……お父様にけしかけられたのでしょう?」


「け、けしかけられた……というわけではないのですが……」


「私も父から、これから仕事でお世話になるだろうから……と言われたので、同じですよ。……ほら、うちの父とお話してるの、お父様でしょう?」


 踊りながら視線を家族の方に向ければ、アンリと話をする男性の姿が見えた。

 目の前の少年と良く似た面影の男性は、彼の父親であるアドレアン伯爵その人だろう……と、レティシアは当たりをつけた。

 そして、ユーグもそれを肯定する。


「ええ、そうです。私の父も、レティシア様にはこれからお世話になるだろうから仲良くしておけ……と言ってました」


「そうですね、年も近いですし、これから仲良くしていただけたら私も嬉しいです。……それじゃあ、そろそろ曲も終わりますし、ご挨拶にお伺いしましょうか」



 ちょうど曲が一区切りとなり、レティシアたちはダンスを終えてアンリたちのもとに戻っていった。


 そして、ユーグの父親に挨拶をしたあとは、鉄道開業に向けた今後の見通しなどについて語り、彼に建設ルートの計画策定等についての協力をお願いする。





 アドレアン伯爵との話を終えたあとも、声をかけられたりアンリの伝手も駆使してこちらから話しかけたり……様々な人脈を築く事ができた。


 最初は憂鬱と感じていた夜会ではあったが、思いのほか有意義な時間を過ごせた……と、レティシアは満足気であった。




 しかし……宴も酣といった頃合いに、それは起きた。

 彼女にとって苦い思い出となる事件が……



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