廃坑
坑夫村の跡地で野営した一行。
特に魔物の襲撃などは無く一夜を明かす事が出来た。
日の出と共に皆目を覚まし、身支度を整えて朝食を取る。
そして、いよいよ廃鉱山の探索が始まる。
「さて、これから探索を始めるが……レティシア嬢、すまないが明かりの魔法をお願いできるだろうか?」
「あ、はい。お任せください!」
当然のことながら廃坑の中は真っ暗なので明かりが必要になる。
フランツ達はそれぞれが照明道具を持っているが……魔物との戦いが予想されるのであれば、出来るだけ手は空けておきたい。
普段であれば斥候のウルスラと、もう一人が照明係となる。
魔導士二人のうち一人が照明の魔法を使っても良いのだが……それを使っている間は他の魔法が使えなくなるので、戦力がダウンするという弊害がある。
しかし、魔法による照明は非常に明るいので視界がクリアになると言うメリットも捨てがたい。
今回は魔法が使える非戦闘要員……レティシアがいるので、彼女にお願いしたというわけだ。
廃村にある道を奥に進んでいくと、やがて岩壁にぶつかった。
壁面には坑道が口を開けている。
「……うん、坑道はしっかり補強されてるね。多少補修は必要だと思うけど……これなら直ぐに採掘再開できそうかな?まぁ、奥まで見てみないとだけど」
「落盤とか洒落にならんからなぁ」
「よし、では行くか。どれくらい魔物がいるか分からないから油断しないように」
そうして、一行は闇の中へと進んで行くのだった。
「分岐があるわよ。どうする?」
「今回は魔物駆除が目的だからな。一通り見て回らなければならんからどちらでも良いが……レティシア嬢?」
「はい、特に迷うような構造では無いので、左から順に見ていけば良いでしょう」
一応、前利権者から坑道の簡単な地図も入手しており、レティシアはそれを見ながら言う。
事前に皆にも見てもらっているが、彼女が言うとおり単純な構造なので迷う心配は無いだろう。
坑道は思ったよりも広く、二〜三人が並んで歩ける程度の幅はあるだろうか。
天井は大体2メートルほど。
大柄なジャンは少し窮屈そうに見えるが、屈む程ではない。
彼は、狭い場所では取り回しの悪い長柄斧や大盾は装備せずに、代わりに片手斧と小盾を手にしている。
他のメンバーは特に装備変更は無い。
「……ちょっと待って。この先に気配を感じる」
分岐を暫く進んだところで、ウルスラが警告を発する。
「おっと、いよいよお出ましか」
「数はどれ位だ?」
「…それほど多くはないわ。多分二体。こちらに気が付いてるかどうかは分からないけど、向かってきてるわ」
「よし。迎撃準備」
さっ、と戦闘陣形を取るメンバーたち。
ウルスラと入れ替わりにフランツとジャンが先頭に立つ。
なお、殿はエリーシャが務めている。
そして、待ち構えていると……坑道の曲がり角から現れた魔物が、魔法の明かりに照らし出された。
「オークだな」
「ブタ野郎か」
「うわ……」
「やだ……」
女性陣から嫌悪の声が上がる。
単体で脅威度Dの人型の魔物。
高ランク冒険者にとっては大して脅威になる相手ではないが……女性にとっては忌むべき魔物である。
(うわ〜……めちゃ目が血走って……ナニが……ひぃっ!?こっち見た!!)
オークから獣慾に満ちた視線を向けられて、ゾゾゾッ……!と怖気が走る。
おぞましいモノも目に入ってしまったので、余計に気色悪い。
「お嬢様、あのような汚らわしいものは見てはいけません。目が腐ってしまいます」
「フランツさん!ジャン!早く殺っちゃって!!」
ウルスラが、あまりにも気持ち悪い視線に耐えきれず叫んだ。
『プギィッッ!!!』
『フゴーーッッ!!』
そして、ウルスラの叫び声に反応したオークたちが襲いかかってきた!
「……瞬殺でしたね」
「まぁ、Dランク程度ならどうとでもなる」
無造作に近付いてきたオーク二体は、フランツとジャンによって特に苦戦することもなく撃退された。
しかし、余裕で撃退した割にはフランツの表情は硬い。
「どうしたんですか、フランツさん?」
「いや……こういうところにオークが居るということは……」
「ここを集落にしてる可能性がありますね」
「まぁ…住処としちゃあ、お誂え向きだろうからな。ことによったら王がいるかも知れねぇ」
「もしそうだったら最悪よ……気色悪さという点で」
「まだ何とも言えないが、更に気を引き締めて行くぞ」
(……まだ自分の性的アイデンティティも定まってないのに、貞操の危機とか絶対に勘弁して欲しいよ。でも、まぁ…このメンバーなら平気だよね?)
初めて魔物の害意に直にさらされたレティシアは、一抹の不安を覚えるのであった……




