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【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜  作者: O.T.I
レティシア15歳 輝く未来へ

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おせっかい



 リディーが他のスタッフに指示を出して準備……走行コースになる場所を空けたり、来客に注意を促したりする。

 それから車に乗り込んで魔導力モーターを始動させると、「キュイィーーーン……」と甲高い音が聞こえてきた。



「あいにくと出力が弱いのであまり人数は乗れませんが……お二人くらいなら大丈夫ですね」


 運転席の窓を開けてカティアとルシェーラの方を見ながら、リディーはそう言った。


「レディーに体重を聞かないところは褒めたげるわ。二人とも、さあ乗って乗って」


「レティは良いの?」


「私は別にいつでも乗れるから」


「それもそうか……じゃあ失礼します」


「失礼しますわ」



 二人が後部座席のドアを開けて乗り込む。

 魔導力自在車の大きさや形状は、レティシアやカティアが知る前世の軽ワゴンに似ている。

 運転席と助手席、後部座席があるが、全席に乗せられるほどのパワーは無いとのこと。




「じゃあ走らせますね」


「お願いします!」


 リディーが周囲を確認してから操作すると、車はゆっくりと動き出した。

 会場内のそれほど広くないところを走るので、それ程スピードも出さずゆっくりとコースを周る。



「これ、どれくらいスピードは出せるんですか?」


「この試作車だと……大体馬車の倍くらいまでは出せますかね」


 大体20〜30km/hほどか。

 前世の感覚からすると遅く感じるものの、馬車の倍なら稼働時間さえ何とかなれば実用化はできそう……と、カティアは思った。


「馬車の倍の速さと言うだけでも凄いですわ」


「そうですね……ただ、レティの最終目標としては、今のこの大きさのままで魔導力機関車と同等の稼働時間、出力、速度を目指すと言ってますね」


「なるほど……なかなか長い道のりになりそうですね」


「ええ。でも、やりがいがありますよ」


 そう言ってリディーは楽しそうに微笑んで言った。




 その雰囲気に触発されたのか……ルシェーラが唐突に切り出す。


「ところで……リディーさんはレティシアさんの事を『レティ』って親しげにお呼びになってますけど、彼女のことはどう思ってらっしゃるんですの?」


(おお!?ド直球放り込んで来た!?なるほど……ルシェーラ的にはこっちを焚き付けたほうが良いという判断なんだね)


 カティアはルシェーラの言葉に驚愕して目を見開いたが、その意図をすぐに察した。


 彼女たちは、リディーの雰囲気からレティシアに気があると見ていたのだが……どうやらルシェーラはお節介を焼くことにしたらしい。


 レティシアの方もリディーに好意は持っているように見えるが、まだ自覚しているかどうかは分からない。

 なので、リディーの方を焚き付けて彼が積極的にアプローチすれば、あるいは……と考えたのだ。



「どう…とは?」


 問われたリディーは特に取り乱すわけでもなく、一見して落ち着いた様子で聞き返す。


「もちろん、彼女を女性として意識してらっしゃるのか?と言うことですわ」


(やっぱり直球勝負ですわね、ルシェーラ先生)


「……彼女の事は同じ目標を持つ大切なパートナーであると思ってますよ」


「あら?私は『女性として』どうかと聞いたのですわ」


(グイグイいきますわね、ルシェーラ先生)


 逃げ道を塞ぐようなルシェーラの追求に、戦慄しながらも感心するカティアである。



 そしてリディーは、少し顔を歪めながら返す。


「彼女と出会ったのはもう7年近く前……彼女は当時8歳くらいだったかな……?とにかく、それ以来の付き合いなんですが……私にとっては可愛い妹のようなものですよ」


 それも彼の本心には違いないだろう。

 今までであれば。



「そうですか、妹みたいなものだ、と。……ところで、先日カティアさんのお披露目パーティーがあって、レティシアさんも出席なさったのですが……カティアさんと同じくらい殿方の視線を集めて、ひっきりなしにダンスのお誘いを受けてらっしゃいましたわ。ね?カティアさん?」


「え!?あ、ああ……そうだね、レティは凄く可愛いからね」


 突然同意を求められたカティアは驚くが、何とか調子を合せた。

 ……テオフィルスが誘うまで、『殿方』どもが尻込みして壁の花になっていたのは秘密である。



「そ、そうですか……」


 そこで彼は初めて動揺をあらわにした。

 それを見た二人は、やはり脈アリで確定……と思った。


 そしてルシェーラは更に畳み掛けるように続ける。


「妹のように……も良いですが、うかうかしてると他の殿方と婚約なんてこともありますわよ。なんと言っても彼女は公爵令嬢ですからね。引く手は数多ですわ」


 そう、きっぱりと告げた。



 だが、彼女に言われるまでもなくリディーはそれを理解している。

 もう既に婚約の申し込みがあったことも。

 その相手がレティシアに相応しい好人物であることも。

 ……レティシアも少なからず好意的であることも。



「しかし……私はただの平民で……」


 もう、リディーも取繕わなくなった。

 彼はただ弱々しく呟く。


 ……運転は大丈夫だろうか?



「私の母も平民でした。もちろん色々と苦労はされたみたいですが、今は幸せそうですわ。それに、レティシアさんのお母様、アデリーヌ様もそうだったはず。確かに身分差で様々な困難はあるかもしれません。ですが、大切なのは自分の気持ちがどうなのか?レティシアさんを幸せに出来るのか?と言うことだと思いますわ。……もし、リディーさんが本気でレティシアさんと添い遂げたいと思うのなら、私は協力を惜しみませんわ。ね、カティアさん?」


「もちろん。レティはまだ自分では気づいてないだけで、リディーさんのこと好きだと思うし」


「……そう、ですか。ありがとうございます。ただ、今はまだ……」


「まあ、いきなりこんな話をしましたが、見た感じレティシアさんが他の殿方になびくとも思えませんし……そう焦らずとも大丈夫だと思いますわ。ただ、あまり待たせてはダメですわよ」


 そうルシェーラは締めくくった。

 凄くやりきった感のある笑顔をしている。



(他の男には靡かない……それはどうだろうか?)


 ルシェーラが自分に発破をかけているのは分かるが、彼はその言葉を鵜呑みにすることなどできない。


 しかし、アデリーヌや親方、恋敵のフィリップさえも、彼が心に蓋をしようとするたびにそれを踏みとどまらせてきた。

 そのたびに少しずつ、彼の心は……




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「お帰り!どうだった?」


「ええ、とても有意義でしたわ、ねえカティアさん?」


「う、うん、まあ……楽しかったよ」


「ん?何かあったの?……あれ、リディー?どうしたの?なんだか元気無いみたいだけど……」


 少し沈んだ表情となっていたリディーに、心配そうな表情でレティシアが尋ねる。


「あ、ああ、いや……ちょっと新しい課題が見つかってな」


 心の整理がつかないまま問われた彼は慌てるが、しかし何とか取り繕おうとする。



「え?なになに?」


「あ〜、え〜と、だな……ほら、あの試作車は大してスピードは出ないんだが、それでも結構振動が酷くてだな。実用化に向けては足回りの改善も考えないと、と思ってな」


 何とか誤魔化して答えるリディーだが、その言葉にレティシアは納得した様子だった。









 その後、モーリス商会をあとにしたレティシアたちは、再び街を見て回り……思う存分に祭りを楽しむのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] いいぞもっと外堀を埋めろ。ディーゼル機関車のようなパワーで。
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