輝けなかった星たち
「星」をテーマに書いた作品です。
私は星になりたかった。ステージの上でキラキラと輝く星のようなアイドルになりたかった。
白い湯気をあげるお湯をカップラーメンへと注ぎこみ蓋をする。私は1Kの小さな部屋に戻り、ラーメンを待つ間に冷蔵庫からビールを取り出しテレビをつけた。テレビからは煌びやかな衣装をまとったアイドルが光の飛び交うステージで美しい歌声とダンスを披露している。
心がざわめいた。彼女らの歌声は私の耳を逆なでするようにその透き通った声を脳に響かせ、そのダンスはまるで私を挑発しているかのようだ。「私だって」そんな言葉を吐きかけた。そして、そんな自分に言いようのない怒りと恥ずかしがこみ上げていた。
あの頃の私はアイドルを夢見る若者の一人でいつかきっと自分も星になれると信じて疑わなかった。周りにも自分と同じような子はたくさんいて「一緒にアイドルになろう」と約束したこともあった。日々を駆け抜けていくうちに約束した仲間たちも減っていったがそれでも自分こそはいつかと信じて私は目指し続けた。
今にして思うとその自信がどこにあったかすら分からない。何を根拠に「自分はいつか」なんて信じていたのか。頑張れば夢が叶うなんて誰も保証してくれてないのに。
小さなアイドル事務所に所属することができた。そこにもステージの上で眩いほどの光を浴びる夢を見る仲間たちがいて一緒にその場所へ行こうと約束した。少しずつ仕事がもらえるようになった。そのどれもが夢と比べると小さな仕事だったがあの頃の私からするとその一つ一つが夢へと一歩ずつ近づいているような気がして誇らしかった。
あの頃は楽しかったと覚えている。私にとっての青春とも言える時期だった。だからこそ、みずみずしく輝いていて愚かしく滑稽な日々だった。夢へと一歩一歩近づく日々、されど星は遠く、手は届かない。
充実した日々を送っているある日、事務所が路上でスカウトしてきたという女の子が事務所に入所した。可愛らしく初々しさが残る子だった。最初は先輩として可愛い後輩ができたと思ってことあるごとに話しかけ面倒を見てやっていた。しかし、しばらくするとその女の子は仕事が忙しくなり、だんだんと姿を見ることがなくなっていった。私の仕事は全然変わらないのに。とある有名監督が手掛けるドラマのオーディションがあった。そのオーディションには私とその女の子も参加しており、最終的にその女の子が役者の座を勝ち取った。その瞬間、私の心は真っ黒に染まりただ一言「どうして」という言葉だけが口からもれた。
きっとあの頃から私の夢は穢れていった。穢れは輝きを鈍らせ星は地へと墜ちていった。それからは仕事もなんのためにしているのか分からなくなり自分がどこへ向かっているのか分からなくなり、結局私は歩くのをやめた。歩き続けてどこに行く。どこにも行けない。星は遥か彼方、それを手にするにはあまりに遠く。
テレビでアイドルがインタビューを受けている。
「私が今ここに立てているのはこれまで私を支えてくれた皆さんのおかげです!」
澄んだ涙を流しながらアイドルはそんなことを話している。
彼女は私のことを覚えているだろうか。きっと覚えていないだろう。明るく輝く星は周りの星を曇らせる。輝けない星は誰に見られることもなく沈んでいく。
「星」をテーマに書いた作品です。受験だったり就職だったり、誰かの成功の裏には無数の成功できなかった夢が転がっているのだと思います。そんな夢の想いを継いでいかなければいけないとは思いませんが叶わなかった夢の上に立っていることは忘れないでいたいですね。