〜400年前の厄災〜
過去
今から約400年前、グレンたちのいるこの国ーーカルバンシア帝国は戦争一歩手前であった。相手は隣国であるアザフ=カバス王国。その理由は『山』であった。
カルバンシア帝国は内陸国であり、海の恵みはないが、自然が多く森の恵みは多い。さらに後述する『山』からの鉱物資源にも恵まれている。が、貿易するにはその相手は森を抜けた先。
アザフ=カバス王国は海に面していて、海の恵みを受けられる。船での貿易にも適している。が同じ『山』に面していてもこちら側からはなぜか鉱物資源は取れなかった。そのかわりこちらの地域には、栄養分は多分に含むが作物を作るのには適さない海風が、なぜか山から吹きおろす風によって栄養分だけが分離され土地に残る、という奇跡のおかげで、海風を直接受ける国でありながら、作物を作る環境ができていたのである。
お互いの国の領地のちょうど間に位置する山、『龍霊峰』
この場所は、両国にとってなくてはならないものであるが、その場所に対する両国のあり方には違いがあった。
アザフ=カバス王国は自らの国の繁栄が、龍霊峰のおかげであると信じ、龍霊峰を『神が眠る土地』と位置付けていた。この山の神のおかげで自分たちは生きている、と教えられてきた。
だからこそこの国に生まれてこの山に感謝しないことはあり得ないのである。そしてこの山の守護者の役割を果たし、守ってきたのである。
一方で森の恵みがあるカルバンシア帝国は、言い換えてしまえば、森に囲まれていて、貿易に適さない。森を抜けてその先の国々と国交を開いてはいるが、簡単に言えば遠すぎるのだ。陸路だと効率が悪い。道を整備するにしても、1つの国との道を整備するだけで何年もかかることが予想される。
そこで、鉱山資源の取れる『山』を、こちらで切り開くから貿易をして欲しいとアザフ=カバス王国へ持ちかけたのだった。すでに貿易路が確立されている国と貿易をすることで、間接的にいくつもの貿易路を確保しようと考えたのである。
だが王国は激怒を持ってこれに対応。山に触ることは許さないと言ってのけたのである。王国としては貿易相手には困っていなかったし、そもそも『龍霊峰』に手をつけるというのが許せない行為だった。王国にとっては『神の眠る土地』なのである。
まさか断られると思っていなかった帝国側は、どうせ断られるなら、と戦争を仕掛け、一気に国を攻め落とし、貿易路もそのまま奪ってしまおう、と考えたのである。
幸い森に魔物が出ることで、腕利きの冒険者と呼ばれる者も多く生み出し、国の騎士にも手練が多く、鉱山から取れる物資により、状態の良い武器も豊富ときている。
戦争など久しくしてこなかったが、これほど恵まれた国もない。ただ負けることなどあり得ないから攻めよう、ということである。
帝国は手練れの騎士と冒険者を集め、山から攻略するように命じた。
山を攻略する一行、いや、一軍は厳しい道ながらも、ぐんぐん進んでいった。
一軍は頂上に到達すると、濃い霧と嫌な静けさに襲われた。あたりを警戒しながら進んでいくも、その警戒はなんの意味もなさなかったと気づくことになる。
ゴオオオォォォと言う爆音と共に、濃い霧の奥から真っ黒な炎が飛び出してきて、一軍の4分の3以上の人数が死に至った。
その炎の通り道は何も無くなり真っ白な灰となっていた。
その一瞬の出来事に、生き残りは恐怖に怯え、帝国に逃げ帰ったのだった。その誰もが国へ帰ってこう言った。
あれは『黒龍』だ、と。
龍のような影が見えた途端、みんな黒い炎に燃やされて死んでしまったのだ、と。
その時に山上で起きた土砂崩れのせいで鉱山さえも使えなくなり、痛手を負った帝国は戦争すら起こせずに終わったのだった。
その後帝国では、『黒龍の炎の後には何も残らず、ただ白の世界があるのみ』それが厄災だ、と伝えられていくことになるのである。
今日は更新はこれだけです。明日また上げます。