009 勇者魔法って、超べんりすぎ
「あ、ぼくクリスです」
「そしていまぼくは、ぷち家出、してますぅ」
それというのも、ぼくのおっぱい好きをアイナママに知られてしまったから。
「んあーっ? けど! ウソじゃないところが~~~っ?」
あれから何度かぼくは、アイナママに勇者の件を話そうとした。
けど? 結果はぜんぶ同じで、別のセリフに強制変換されちゃったっ?
「しかも! よりによって! ぼくの恥ずかしい好みを! 話させるだなんてぇぇっ?」
おかげでぼくはアイナママに、何度も恥ずかしいカミングアウトしちゃって──
いまはただ、ひとりになりたくて……ひとりで山の中を歩いていますぅ。
「うぅ、紙に書けばいける!って思ったら……」
書き終わった文字を読んでみれば、
【朝起きるとぼく、なぜだかおちん○んがおっきしちゃうの】
なんて書かれてて──
「そんなの! アイナママに読ませたりしたらぁぁっ? ぼくが!【恥ずか死】するぅぅぅっ?」
この下ネタ変換は、ミヤビさまのシュミにちがいないっ?
「こんど会ったら、絶対にクレームを入れなきゃ!」
ぼくは固くココロに誓い、もくもくと山中を歩いたのでした。
◇◆◆◇
「ふう、このあたりでいいかな?」
今まで出なかった村のお外に、ぼくはいまひとり。
わりと山の奥に入ったそこは、いつ獣や魔物が出てもおかしくない、危険な場所だった。
「アイナママや村の人に、ウソいって出てきちゃったのはムネが痛むけど、んー【万物真理】!」
ぼくのステータスさんは超有能なので、いろんな機能がある
【自分のスキルがしらべたいなー】って考えながら発動させれば、通常のステータス画面が出て、各種パラメーターやスキルが表示されるし?
【このアイテムがしらべたいなー】だったら、そのアイテムの【鑑定】がされちゃう。
そして今回は【まわりに敵がいるかなー】って考えたから……
パッ!
ぼくの視界に、自分を中心とした360度のまぁるいレーダーが表示された。
そこにはいくつかの緑色の光点があって、
「緑ってコトは動物かぁ もうちょっと範囲を広げて~ ああ、いたっ」
およそ2時の方向、距離300メートルくらいの所に赤い光点がひとつ。
この赤い光点が【魔物】や【魔族】を示してしてるんだ~
「青い光点は人族や亜人で、黄色い光点は【敵意を持つ人族や亜人】、だっけ?」
ちなみにメートル表記なのは、召喚勇者が日本人だから。
もちろんこっちの世界にメートル法なんてないけど、いまのぼくにはこっちのほうが便利なのでこっそり使い続けてる。
「この光の大きさだと、やっぱしアレかな?」
光点が大きいほど、強い敵(もしくは人)だってコト。
けれど、この【獣よりはちょっと強いくらい?】な光点は、
「えと【異空収納】!」
広げたぼくの左手の手のひら。
その数センチ前に、すうっと魔方陣が現われた。
ぼくはその魔方陣に右手を差し込むと──
「よ……っと」
そこから抜き取った右手には、剣のグリップが握られてて、そのままにゅ~~~っと、魔方陣から刀身が現れた。
「んふふ 異空収納が使えて、ホントよかったぁ やっぱこれ、便利だもんね~」
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【異空収納】
種別:勇者魔法
状況:常時
対象:術者
効果:異空間にアイテムを収納し、無限に持ち運べる魔法。
念じると手のひらに魔方陣が展開して、そこから物を出し入れが可能。
魔方陣のサイズを大きくする事で、かなり大きな物でも収納できる。
中は次元の異なる空間で、入れた物体は時間が停止した状態となる。
生物は入れる事ができないが、死体・石化状態などなら収納可能。
任意でいつでも発動可。魔力消費は、出し/入れする毎に『1』。
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「あぁこの剣、懐かしいなぁ」
召喚されてすぐ、剣術のスキルを付ける為に渡された、細めの剣。
初めて触ったホンモノの剣ということで、記念にもらっておいたんだ~
ヒュっ
「んー、いまのぼくにはちょっと重いけど、ギリギリいける?」
試しに何度か、剣を振ってみるぼく。
レベル87の剣術スキルがあるから、それはもう滑らかな剣筋でした。
「んー、スキルはともかく、問題はぼくの【パラメーター】だよねぇ」
アイナママも説明してくれたけど、普通、魔物を討伐すると経験値が入る。
そして経験値が一定数貯まれば、レベルが上がる。
そしてレベルが上がれば、HPにMPとかのパラメーターも上がる。
「ええと【万物真理】!」
パッ!
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・H P:《ヒットポイント》『打たれ強さ』を数値化したもの。
生命力の数値化ではない。
(現状/最大)で表示される。
一割を切ると【瀕死】となり、ゼロになると死亡する。
・M P:《マジックポイント》魔力量を数値化したもの。
魔法を使うと数値が減ってゆく。
(現状/最大)で表示される。
一割を切るとだるさを覚え、ゼロになると昏倒する。
・筋 力:総合的な『力の強さ』を数値化したもの。攻撃力の数値に影響する。
・瞬発力:『素早さ』を数値化したもの。攻撃の速度や回避に影響する。
・知 力:『賢さ』を数値化したもの。この数値が高いと魔法の威力も高まる。
故に同じ魔法でも、冒険者の等級により威力が異なる。
・攻撃力:相手を攻撃する際の力の強さを数値化したもの。
武器の装備でプラス補正される。
・防御力:相手の攻撃を受ける際の防御性能を数値化したもの。
防具の装備でプラス補正される。
・経験値:魔物および魔族を討伐した際に自動的に得られ、蓄積してゆく数値。
強い魔物ほど、高い数値が得られる。
ある一定の経験値の取得によりレベルが上昇する。
単独討伐の場合は全てを得るが、パーティーの場合は頭割りとなる。
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「んー、さすがぼくのステータスさん、有能」
この世界の神々の魔物&魔族嫌いはかなりのモノで【魔物を倒してくれるなら、いくらでも強くしてあげちゃう】という大盤ぶるまい。
だから、魔物さえコツコツと討伐していけば、どんどん強くなれるんだ。
「あぶないお仕事なのに、冒険者が減らないハズだよねぇ」
なので強い冒険者パーティーに寄生して、パワーレベリング! なんてこともできたりする。
とはいえそのやりかたで上がるのは、レベルひとケタの【初心者】くらいまで。
それ以降は神々が祝福をくれなくなっちゃうけどね~
「じゃあ、魔物を討伐していれば、訓練はいらないかというと?」
それだと増えるのはパラメーターだけで、スキルが付かない。
なのでけっきょくは、ふだんの訓錬もしなくちゃいけないんだ。
うーん、日ごろの訓錬とお勉強、大事!
「筋トレはしなくていいけど、剣の練習はしなきゃダメ! みたいな感じ?」
だけど【召喚勇者】だけはさらに【ズル】をする。
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【超越身技】
種別:勇者魔法
状況:戦闘時
対象:術者
効果:筋力、知力、攻撃力、防御力などのパラメーターを増強する魔法。
いわゆる【バフ効果】で、術者のパラーメーターを、
1等級冒険者(英雄級)の3倍相当の能力値に高める。
効果は術者が望む限り継続するが、魔力消費が膨大なので注意が必要。
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──という、超反則級魔法です。
スキルも最初から高レベルのを持ってるし?
これで一切の訓練ナシで、超人になれちゃいます。
「というか? 英雄級の3倍とかチートすぎだよねぇ」
けどコレ、魔力消費量がメチャクチャ多めで、発動中は魔力を消費し続けるという、超・悪・燃・費!
しかも戦闘時に自動で発動するから、戦闘が10回なら、その魔力も10倍かかるワケで~
もちろんいまのぼくのMPじゃ、発動すらしません。
「うぅ、MPが20万とかある勇者だからこそ使える、ゴリ押しワザだよねぇ」
そして、いまのぼくのパラメーターは、こくフツーの少年の【レベル1】相当の数値であり、超貧弱。
なのにレベル63なので、64まで上げるのは、めっちゃ経験値が必要。
なので? レベルアップによるパラメーターの増加も見込めない。
つまりぼくは──【天才的なスキルを持つ非力な少年】というワケだ。
「なっ なんという中途ハンパ」
ヒュンヒュンヒュン──
「まぁ? そのへんは、少しづつ工夫、するしか、ないよ、ねぇ」
トントンとステップを踏みながら、踊るみたいに剣を振るぼく。
ただ、まぁ?
「ふぅ やっぱり、途中で息が、切れるなぁ はふぅ」
筋力や持久力のなさはどうしようもない。
そのへんはスキルと工夫を組み合わせて、地道な練習を何度も繰り返す事でなんとかするしかない……かなぁ?
「っと、そろそろ──いたっ」
そこには、おおむね30センチオーバーの【たぷんっ】 とした青い魔物──
【スライム】がいた。
「あ、ちなみにこの世界のスライムは、まぁるいなみだ型です」