008 やっぱりコレ、ミヤビさまのミス?
「なっ ななな……」
ステータス画面を延々とスクロールして、軽く100を超えるそのスキルの数に、気が遠くなるぼく。
「まさかコレ、勇者のステータス?」
勇者時代の記憶を辿れば、確かにどれも見覚えのあるモノばかり。
それというのも勇者召喚されて間もない頃、このスキルのリストを元に、
「ひとつづつ、確認していったから、ね」
例えば剣術。
剣の達人を呼んでおいて、剣を持ったぼくと模擬戦をする。
するとその剣をしばらく受けているだけで、剣術のスキルが覚醒したんだ。
「そうしたらもう、あとは勝手に身体が動いてくれるとか~ ホント勇者のスキルって、反則だよねぇ しかもレベル1じゃなくて、最初からレベル80オーバーだし?」
そうやって、100個以上のスキルをコツコツとチェックしていって、1週間も過ぎる頃には?
すべての上級スキルを覚えた勇者のできあがり~
召喚勇者の為のそういうマニュアルが伝わってるそうだけど、どの先生たちもすぐにぼくにマネされちゃって、ビミョーなお顔、してたなぁ
「って! そーじゃないっ? そもそも勇者時代のステータスが、なんでぼくにっ?」
やっぱり、ぼくが前世の記憶を取り戻したから?
それでいまのぼくと混じったことで、使えるようになっちゃった──って、考えるのが一番それっぽい。
「うぅ ミヤビさまがまた、夢まくらに立ってくれればいいんだけど」
でも前にお話しした時は、勇者をもう一度やれってハナシは全然なかった。
しかもいまは魔王のいない、わりと平和な時期だし?
「やっぱりコレ、ミヤビさまのミス? だよねぇ」
うーん、ちょっと考えてみよう。
ステータスが勇者時代のものなのは、とりあえずわかった。
まだそれが使えるかどうかはわからないけど? もし使えないなら、そこでお話しは終わり。
ただの表記ミス、うん。
「じゃあ、使えちゃったら?」
しかも魔王決戦の時の、最強勇者のチカラが使えることになっちゃう。
こんな、ただの村の少年のぼくに。
「お、おちつけ……ぼく! すぅぅぅ はぁぁぁ」
何度も何度も深呼吸をして、必死に落ちつこうとするぼく。
その甲斐もあって、なんとか頭が動くようになってきた。
「ええと、じゃあもし使えるとしたら、それは【ラッキー】なの? それとも【ガーン】なの?」
そう考えると……やっぱり、チカラはあったほうがいい?
魔物に襲われても身を守ることができるし、それが魔族でも勝てるはず。
というか、前世のぼくは魔王以外には負けていないんだ。
「じゃあ逆に、このチカラの良くないところは……」
まっさきに思いつくのが、勇者のチカラを利用されること。
軍隊とか騎士団に、強制的に組み込まれるかもしれない。
ただこれは、誰にも教えなければ、そうならずに済むかもだけど?
「あとは、魔族かなぁ」
勇者は魔王の天敵なんだ。
だから勇者時代は魔王軍の魔族たちに、やたら襲われたっけ。
正面からぶつかってくるのもいれば、人族を騙して襲わせる卑怯なのもいた。
「うぅっ とにかく魔族には絶対バレないようにしないと。ええと、【万物真理】を使えば、偽装とかでき──」
パッ!
-------------------------------------
【万物真理】
種別:勇者魔法
状況:常時
対象:術者、対象者、魔物
効果:世の中の万物を見通す、勇者のみ使用を許される魔法。
自らのステータスはもちろん、対象者や魔物のステータスも閲覧可能。
いわゆる【鑑定】としての機能もあり、偽装されたものも看破できる。
また敵意や好意などから【敵味方の判別】も可能である。
特記:自らのステータスを任意の数値で偽装する事が可能(常時偽装も可)。
-------------------------------------
「おぉうっ できるんですね? さすがは勇者魔法! っていうかやっぱり勇者魔法、使えちゃってるし!」
◇◆◆◇
【万物真理】の魔法はMPの消費が無いし、今みたいなコンシェルジュっぽい使い方もできたから、勇者時代もやたらお世話になったっけ。
「あー、特に【敵味方の判別】が便利でよく使ってたな~ 勇者を騙そうとするヤツは、ほぼコレで見抜けたし?」
それに、恋愛にヘタレだった前世のぼくがアイナママに告白できたのも、これで好感度をこっそり調べられたから。
けど、【好感度】と【愛情】は別モノだと知ったのは、そのもう少しあとのコト。
そもそもアイナママは【慈愛の聖女】。
ほとんどの人に分け隔てなく優しく接していたから、むしろアテにならない。
「うぅっ アイナママが前世のぼくを好きでいてくれて、ホントよかった」
もしフラれていたら、あの後の旅がどうなっていたか。
ガクガクブルブル……
「う~ん、もういちどステータス画面をよく見てみよう 【万物真理】!」
パッ!
-------------------------------------
・名 前:クリス(人族)
・性 別:男
・レベル:LV63
・状 態:正常
・H P:102544/102569
・M P:29/29
・スキル:【剣術:LV87】【槍術:LV81】【弓術:LV72】【抜刀術:LV87】
【盾術:LV83】【斧術:LV80】【鞭術:LV71】【格闘術:LV77】
【体術:LV82】【暗殺術:LV85】【隠密:LV84】【投擲:LV82】
下画面があります▼
-------------------------------------
改めて目の前に浮かび上がった勇者のステータスに、ぼくは──
「あれ? でもこのいちばん下にある魔法スキルって……」
【清浄魔法:LV01】【土魔法:LV01】【風精霊魔法:LV01】
「ほかにもいくつかあるけど、これって勇者時代には覚えてなかったはずだよね?」
というか、勇者は【元素魔法】や【神聖魔法】が使えない。
使えるのは、チートな【勇者魔法】だけなんだ。
だから覚えているはずがないんだけど……
「あっ もしかしてこれ、いまのぼくに授かってたスキルってこと?」
そう考えてみれば、どれもレベルが1と低レベルだ。
どれも【クリス】としてのぼくが、直に見たり、魔法の教本を読んでいたりする魔法ばかり。
「うぅ、これだけだったら、素直に喜べたんだけどなぁ HPも10万超えてるし、MPも── 29?」
勇者時代には20万以上はあったはずのそれが、29になってた。
「レベル1なら、29はむしろ普通だけど……ん?」
そこでふと思いつく。
このMPを上げるには、どうするか?
「普通に考えるなら、レベルを上げればいい」
レベル2になれば、たいていHPやMPも上がってく。
そうやっていくつかレベルを上げてやれば、十分戦闘で使いものになる。
「でもぼくはいま、レベル63だ」
これを64に上げれば、MPもめちゃくちゃ増えると思う。
でも?
「それこそ魔王でも討伐しないとっ 64にレベルアップなんてムリいぃぃっ?」
しかも勇者魔法は強力なぶん、その燃費は最悪。
MPがたったの29じゃ、勇者魔法はその多くが発動すらしない。
「なっ なんてこったぁぁぁっ?」
◇◆◆◇
「………………ん」
そして、朝。
きのうのぼくは、勇者魔法がほぼ使い物にならないコトを知って、そこでオーバーヒート。
ぱたりと倒れ、そのまま寝ちゃったみたい。
「おかげでアタマは冷えたけど~ ミヤビさま、来てくれなかったなぁ」
おかげでなにも解決せず、すべては保留のまま。
「ギルドにいく楽しみ、なくなっちゃったなぁ MPの量やスキルも、ぜんぶ判っちゃったし? というかこれ、ギルドに行く前に擬装しとかないとダメだよねぇ」
そんなぐんにょりした気分で、ぼくはお顔を洗いにいく。
そしてふと思いつく。
「これ、やっぱりアイナママにおはなしする?」
一度は話さないって決めたけど、勇者のスキルがあるとすればハナシは別かも?
「うん、やっぱりおはなししよう」
ぼくはそう決めて、とりあえず水場にお水を汲みにいった。
◇◆◆◇
「あ、アイナママ~ おはよー」
けさもアイナママはきれいでステキ。
香水も使っていないのに、ふんわりといいにおいがする。
そんなステキなアイナママが、ぼくは大好きだ。
「おはよう、クリス。ゆうべはよく眠れた?」
「うん、なんだかいつもよりぐっすり寝れたかも」
それはもう倒れるように、ね。
ミヤビさまが来なかったから、夢も見なかったし?
「それは良かったわね。じゃあ朝ごはんにしましょうか」
「えっと、レイナちゃんは?」
「あの子はおとなりのおうちに、ハーブを分けてもらいに行ってるわ」
「そうなんだ」
なら、いまこそおはなしするチャンスかも。
ぼくは改めて決意を固めて──
「あのっ アイナママっ」
「あら、どうしたの? クリス」
「ぼくは、アイナママのおおきいおっぱいが、だいすきなんだ!」
どーんっ!
「まぁ、クリスったら」
「………………え?」
「もう、クリスはほんとうに甘えんぼうさんねぇ」
「ちっ ちが──」
「でも、お外でそういうことを言ってはダメよ?」
「うぅっ なんでぇっ?」
「なんでもなにも、クリスはもう赤ちゃんじゃないでしょう?」
「いっ いまのはアイナママに言ったんじゃなくて!」
なな、なんだこれっ?
ぼくはナニをいってってるんだっ?
ええと、もういちどっ
「ぼくはアイナママのおっぱいをっ ちゅうちゅうしたいだけなんだぁ!」
どどーんっ!
「って! なんでぇぇぇっ?」
「もう、それこそママが聞きたいわ? クリスったら、どうしちゃったのかしら」
またもやぼくのクチは、考えている事とぜんぜんちがうコトをしゃべって──
「はっ? これってまさか」
(ミヤビさまがっ しゃべれないようにしてるってコトぉっ?)
そのときなぜか、ぼくのアタマのなかにミヤビさまのビジョンが浮かび上がった。
なぜだか嬉しそうにおくちに人さし指を当てながら──
『それは……【禁則事項】ですぅ』
あ、ありえるっ?
とくにぼくのセリフが、下ネタになってるトコとかっ
(ミヤビさまっ やっぱり【露出女神さま】だよぉぉぉっ?)