063 それはぼくのおいなりさんです
「違うのですっ!」
「えー」
それは、ぼくがベッドでお休みしてすぐのこと。
ミヤビさまが、ぼくの夢枕に立ってくれたんだ。
そして開口一番のセリフがそれ。
「ちがうって、何が違うんですかぁ? ミヤビさまぁ」
「あぁっ またクリスきゅんが、わたくしを家畜を見るような目で、ハァハァ」
「しまった! コレじゃミヤビさまがよろこんじゃう!」
それというものゆうべ、お休みする前にアプリルさんのいってたセリフ──
『【武芸守護】を司る高位神!【ミヤビ】さまが与えて下さった力です!』
だからぼく、おへやの明かりを消したあとに、ミヤビ様を想って──
『えー、業務放送・業務放送』
『天界からおこしのミヤビさま、クリスくんが【おこ】でおまちしています。至急、夢枕にお立ちください』
そうしたらミヤビさま、来てくれました~
「うぅ、あんな業務放送で呼び出されるだんて……わたくしの、神としての威厳がぁぁぁ」
「っていうか、そこを気にするなら、いちばんで言い訳しないでくださいよぉ」
「でもぉ、クリスくんが【おこ】だって」
「もう【おこ】じゃないですから、ね? だ・か・ら、なにが【違う】んですかぁ?」
「うぅ、あの【姫巫女の戦装束】のことですぅ」
「やっぱりアレ、ミヤビさまのシュミですよねぇ?」
「は、はいぃ ですが、あれには実は、理由があって~」
「りゆう? それってどんなのです?」
「実は、千年前の当時の勇者が【アレ】に夢中だったんですぅ」
「せんねんまえのゆうしゃ」
ええと、【アレ】こと【セーラ服美少女戦士】が活躍するアニメは~
日本人だったぼくが召喚された時点で、30年前くらい前の作品だったはず。
こっちじゃ千年たってるのに、時間がずれてるの?
「それというのも、その異世界の勇者をここへ召喚した際に、彼は紙で出来た手提げ袋の中身を、全部ぶちまけてしまったのです」
「ぶちまけた?」
「そこには大量の【アレ】の絵が描かれた薄い本が──」
え、エ○同人誌だそれぇ!?
「ですが、その薄い本に描かれた女子の装束は、わたくしに、いんすぴれーしょんを与えました!」
「与えちゃいましたかー」
「そんな折、エルフの森に魔族が襲いかかり、わたくしに救いを求める声が!神としてはこの事態、捨て置くわけには行きません!」
天の神様、魔族と魔物を倒すためなら? めっちゃ協力的ですからねー
「さて、どの様な力を授けましょう? そうわたくしが思案した──その時! わたくしに『神』が降りたのです!」どどーん!
「神さまなのにっ?」
「あの【特別な戦装束】を魔法でまとい、剛力と絶大な魔法を得るその姿……これは使える、と! そしてわたくしは早速その【でざいん】に入りました!」
「あー、入っちゃいましたかー」
「その作業は徹夜に至り、そして明け方になった頃……それは完成しました! 心地よい疲労感がわたくしを包みます」
「おつかれさまですぅ」
「それによりわたくしは、少しだけ仮眠を取り……そして目覚めた後、改めてその装束を見てわたくしは思いました」
『もしかしたら、これは攻めすぎたかもしれない』
「わたくしとしてはまさに【至高の逸品】。しかし、エルフや人族には【まだ】早かったかもしれない……そんな不安がわたくしを襲います」
それって~
徹夜で書いたラブレターとかポエムを、次の日改めて読み直したら~ ってヤツですよね?
「しかし、クリスきゅん? 【交渉事】には、こんな手管があるのです」
「あ、はい」
「まず、相手にとって、到底納得出来ない【厳しい条件】を叩き付けます。そしてそれは、当然の様に【却下】されるでしょう」
「ですよねぇ?」
「ですがその後、『では少々、条件を緩めましょう』そう提案します。すると相手は『まぁ、さっきよりはマシ』と、警戒を緩めてしまうのです」
「ほほう」
「そうなれば、あとは微調整をして契約に漕ぎつけるだけ……そうすることで本来よりも有利な状況で、契約することが可能なのです!」
「なるほどー」
だけど、ミヤビさまはなぜか悲しそうに目を伏せて──
「ですが、なんということでしょう」
「え?」
「エルフの姫巫女は、その一番最初の条件──すなわち【一番過激なでざいん】のソレを、受け入れてしまったのです!」
「あー」
あのー、ミヤビさま?
【だからわたくしは悪くないのです!】ってお顔、してますけど?
「ミヤビさま?」
「……はい」
「いちおう、いっておきますけどね?」
「……はい」
「神さまからいただいた【神託】のデザインに、リテイクを出せると思います?」
「も、もしかしたら? ……と」
「出せませんからね? 普通はそういうの。ですからもうそういうの、止めましょうね?」
「……はい」
気づいたらミヤビさま、床に正座してしょんぼりしてました。
なんだかかわいそうになったぼくは、そのおひざを借りて、ひざまくらしてもらったんです。
そしたらミヤビさま、
「うふふ、クリスきゅん♪」
そんなふうに楽しげに、ぼくの髪をなでてくれました。
◇◆◆◇
カポーン
「「はふぅ」」
そして今回も、ミヤビさまご自慢の、露天の風呂につかるぼくたち。
例によって湯船の底がないから?
またミヤビさまに、仰向けでだっこされてます~
「それにしても、ミヤビさまぁ」
「はぁい なんですか? クリスきゅん」
「あの【姫巫女の戦装束】のデザイン変更とか──」
「ムリです」
「えー」
「すでに千年間、エルフたちに伝えられてしまっているのですよ? それが急にカタチが変わってしまったら?」
「あー」
きっと、すっごく混乱しちゃうよねぇ?
見た目はともかく、その効果はすごいんだし?
「ええと、じゃあ、新シリーズ展開による【フルアーマー化】とか?」
「む、なにやら魅惑的な響きですが、布面積を増やすのはわたくしのぽりしーに反します」
「えー」
「むしろ、その余剰な装甲を吹き飛ばし【きゃすとおふ】すべきかと」
「アレ以上削っちゃダメでしょ!?」
「くろす・あうっ(脱衣)」
だから脱いじゃらめぇ!
「それにあの装束には【認識阻害】の効果があるのです」
「にんしきそがい?」
「ええ、その姿を他の者に見られても、その顔は印象に残らないのです」
「なにそれすごい!」
そういやあのアニメも、額のティアラにそーゆー効果があったんだっけ?
「ですから初心者でも、安心して楽しめるのですよ」
「なにを楽しむのぉっ?」
やっぱりミヤビさまのシュミ、丸出しだよぉ!
「ですが、その【転身】を見られた者には、認識阻害は働きません。そしてその後も効き目はありませんので、注意してくださいね?」
「そうなんですね? 注意しますぅ でもあれ、ビキニアーマーよりずっとすごいんですね?」
「ええ、その威力には自信がありますが、ほぼ姫巫女専用ですから~」
「あ、そっか」
いま、ビキニアーマーはすっごい数、装備されてる。
その総数による効果を考えれば、ビキニのほうが確かにすごいよねぇ
「あの戦装束は、わたくし単独で授けたもの。ですが【びきにあーまー】は、何人もの高位の神々たちから力を借りた、いわば【共同ぷろじぇくと】なのです」
「え? それってすごくないですか?」
「えっへん、実はすごいのです」
「おぉぉ」
ミヤビさま、高位の神さまだとは知ってたけど、実はかなりすごい?
「というか、ミヤビさま?」
「はい、クリスきゅん」
「もみもみしないでください」
「もみもみ♪」
「それはぼくのおいなりさんです──って! ぼくのおいなりさんがないんですよぉぉ!」
いま、こうしてぼくが【クリス】の姿なのは、ここがミヤビさまの司る【精神世界】のようなものだから。
いまごろぼくは、ベッドの中でスヤぁ。
もちろん、アプリルさんのカラダのままで。
「ミヤビさまぁ その無敵の神通力でなんとかしてくださいよぉ!」
「ですが、わたくしは、地上の民に直接手を出せないのです」
「そうでした~」
「ですが、今回の件は【魔族による被害】ですので、諦めずに申請すればおそらく通ることでしょう」
「おぉぉ」
なんだか…お役所とか保険会社っぽい?
「具体的には聖女に【正しき身体にその魂を戻す魔法】、これを授けましょう」
「パーフェクトですっ ミヤビさまぁ」
「感謝の極み」ズパッ
そんなミヤビさまに、なんとかひとあんしん。
「じゃあ、あしたにでもその魔法、もらえます?」
「ええ、この後にでも、神託を授けましょう」
「やったぁ えへへ ミヤビさま、すき」
「あぁぁ、クリスきゅん」
ぎゅぅ♪
「……ですが!」
「びっくり!」
「クリスきゅん? すぐに元の身体に戻ってはいけませんよ?」
「なんでぇっ?」
思わずカラダの向きを変えて、ミヤビさまに向き合う格好になるぼく。
「それはあなたと姫巫女、ふたりの魂がまだ、馴染んでいないからです」
「たましいが、なじむ?」
「ええ、実際に今、あたたがたの魂は、その身体に違和感を感じています」
「それは、そうですよねぇ?」
「ですからその魂は非常に不安定で……いつ身体から魂がぬけ出しても、おかしくない状態なのです」
「な、なんだってぇぇっ?」
それって【幽体離脱っ】てコト?
「そしていちど魂が抜け出してしまえば、自力で元に戻ることはまず不可能」
「そうなの? ええと、魂の状態で身体に飛び込めば~?」
「魂だけになってしまえば、もはや物質に触れることは出来ませんよ?」
「なんと」
「故に、身体に触れてもただ突き抜けるだけ、乗り移ることなど出来ません」
「そんなぁ」
そんなの、ユーレイになってさまよってるのと同じじゃないかぁ!
「ですからまずは今の身体に魂を、馴染ませる必要があるのです。でないと元の身体に戻っても、その魂が安定せず抜け出してしまうでしょう」
「うぅ、はい。具体的にはどうすればいいんですか?」
「そうですね……さしあたって問題なのが、あなたと姫巫女の性別が異なること」
「そうなんですか?」
「ですからクリスきゅんは姫巫女に、姫巫女はクリスきゅんに、なりきってください」
「えっ」
「そうすることで、その身体に違和感をなくさせるのです。その【思い込み】の力が、より魂の安定を授けてくれるでしょう」
「ぼ、ぼくが、アプリルさんになりきるの?」
「ですから、あくまで期間限定です。それが成された後なら、聖女の魔法で元に戻っても良いでしょう」
「うぅ、わかりましたぁ」
な、なんだかスゴいことになっちゃった!
「あ、それからぼくの勇者スキルなんですけど、どうしてカラダが入れかわったのに、こっちに移ってるんですか?」
「うふふ、それは当然のことなのですよ? クリスきゅん」
「とうぜんのこと?」
「ええ、なぜなら勇者魔法とそのスキルは、あなたの魂に結びついているからです」
「ぼくの、魂に」
ミヤビさまは、とても優しい目でそういってくれたんだ。
ぼくの頭を、愛しげになでながら。
「そもそも勇者の力は、決して他の者に奪われてはならぬもの……そしてクリスきゅん? あなたの様な清く正しい魂の持ち主にこそ、勇者の力は授けられるのです」
「ミヤビさまぁ」
そんなミヤビさまに抱っこされていると、その心地よさに、思わず眠ってしまいそう。
でもぼくは、がんばってそれをこらえて──
「わかりました! ミヤビさまっ ぼくがんばって、あの【悪霊】と6体の魔物を討伐します」
「うふふ、あなたならきっと出来ますよ」
「ミヤビさまぁ」
「それに、女の子になりきることも」
「うぅ、そっちもがんばりますぅ?」
「うふふ、がんばれがんばれ♪」
「むぅ、ぼくはちいさいコじゃありませんのだ」
「ふふ では、おっぱいは吸わなくていいんですか?」
「……吸いますぅ ちゅぅ」
「あン♪」
ミヤビさまの、とっても大きなおっぱいに、吸い付いちゃうぼく。
けど、ミヤビさまはそんなぼくをからかったりしないで?
またやさしく、ぼくのあたまをなでてくれるのでした~




