053 エルフの森の、そういった習慣
「むぅぅぅっ!」
「……………うぅ(大汗」
いま、ほくとアイナママは──
ルシアママのお部屋で、床に正座しています。
(え、エルフにも、正座の文化ってあるんだ? って、土下座するくらいだし、それもそう?)
床にはふかふかのじゅうたんが敷いてあるし?
ぼくは元日本人だから、わりと平気だけど、
「………………(プルっ ブルっ」
(ああっ アイナママがもう限界っぽい!)
あれから──
ルシアママはスネました。
それはもう盛大に拗ねまくりです。
(うぅ ルシアママ、【激おこ】だぁ)
ともあれ、ぼくたちは必死にルシアママに説明したんだ。
これは【手ほどき】であること。
一人前になった人族は、経験豊富な村の女性からそれを受けること。
そしてそのぼくの相手を、アイナママがしてくれたこと。
「い、いつからなのだ。その、クリスに【手ほどき】を始めたのは!」
「それは、収穫祭の日から、ですね」
「そんな前からなのかっ?」
「ええ、その数日前の大イノシシの討伐──それが村人たち全員が、クリスを【一人前】として認めた日、でしたから」
ぼくもいま知ったけど?
村のお姉さんたちがいっぱい【手ほどき】の相手として立候補してたんだって。
どきどき!
「な、なんと」
「ですから経産婦であり、夫の居ないわたしが手ほどきをする事に」
「だ、だが──」
「ではふたつ、貴女にお伺いします」
「な、何をだ?」
「ひとつは、エルフの森には、そういった習慣はないのですか?」
そう聞かれて、思わず『むぅ』っとしたお顔をするルシアママ。
だけど──
「………いや、ある。むしろエルフの出産率は、人族のソレに比べてかなり少ない。故にそうした教育は必ずする」
「なるほど、そうなのですね」
やっぱり、エルフにもそういう文化があったんだ?
そういえば、エルフは【氏族】を大事にする種族。
赤ちゃんも氏族全体で育てるっていってたし、やっぱりそうなるよね?
「そしてその相手は、同じ氏族の者から選ばれる。その【手ほどき】をする事で、その者も子供を授かりやすい身体になるからな」
「子供を授かりやすい身体、ですか?」
「ああ、エルフは寿命が長いからな。夫婦になってもその期間が長すぎて、どうにも子作りが疎かになりがちなのだ」
「まぁ」
「妊娠出来る期間も長いので、新婚のうちに出来ないと……『まぁ、いずれそのうち作ればいい』と」
「さ、さすがは長生きな種族ですね」
この世界の人族の平均寿命、は50~60歳くらい。
それにくらべて6倍近くあるからね。
「となると、ますます赤ん坊が授かりにくい体質になる様でなぁ」
「そうなのですか?」
「ああ、長生きな種族はある意味【生への執着】が薄くなりがちだ。故にそうした行為をすることで、身体が活性化するというか……主に【子孫繁栄】【種族繁栄】への意識が高まるらしいのだ」
「な、なるほど」
「だからむしろ【人妻】の方が、手ほどき役に選ばれることが多いのだ」
「えっ 人妻っ?」
「ま、まさかその【手ほどき】で、子供を?」
「ああ、それは違う。あくまでも自分の夫とだ」
「あ、あぁ、安心しました」
「妻の方は母性本能を刺激され、子供が欲しくなるし……夫の方も何故かその妻を、強く求めるらしいのでな」
それってNTRですよね?
な、なんてミヤビさまが【はぁはぁ】しちゃいそうなしきたりなんだ!
「とまぁ人妻は子宝の即戦力だからな。むしろその手ほどきをする事は、慶事の様な扱いですらある」
「そ、そこまでエルフは重視しているのですね」
そんな習慣がエルフにもあるなら?
ルシアママも、納得してくれる、かなぁ
「わかりました、ではもうひとつお聞きします」
「むぅ」
「ではルシアは、村のどの女性なら、納得したのですか?」
「ぐっ」
「先程も申し上げましたが、わたしは夫の居ない経産婦。そして『ママ』と呼ばれてこそいますが、血の繋がりもありません」
「うぅ」
「しかもこの村の誰よりも。そしてルシア? 貴女に負けないくらいクリスを愛しています」
「だ、だがっ」
「だが、何でしょう?」
「ぐぬぬ、だが、なら何故、私に相談してくれなかったのだ!」
「そ、それは……」
アイナママが、目を伏せてる。
そしてしばらく考え込んで──
「それは、その……ルシアはいつ、帰ってくるか判りませんでしたし」
「な、なら何故帰ってきても、今まで──」
「それは……」
「それは?」
「は、恥ずかしくて、うぅ」(かぁぁぁ)
「んなっ!」
「そ、そこは申し訳ないと思っています。ですが、どうしても恥ずかしくて、言い出せなくてぇ うにゅぅ」
「あ、アイナママぁ」
お顔をまっかにして、もじもじしちゃうアイナママ。
かわいい♪
「そ、それにクリスに【レッスン】をするとですね──」
と、【MP】のお話をするアイナママ。
さすがにそれはルシアママもしらなくて、びっくりしたみたい。
「なんと、MPが……か?」
「ええ、そうよね? クリス」
「うん、さいしょはぼく、29しかなかったけど? いまはそろそろ、400になりそうなんだ」
「400! というと、そろそろ上級の冒険者というところか」
「えへへ」
ルシアママ自身も、精霊魔法使いだし?
MPの量の問題に関しては、けっこう大事だってわかってる。
そしてぼくみたいな【筋力】のない冒険者が、魔法が使えるのはとっても大事!
「で、ですから、その、定期的に【レッスン】をしてですね──」
「ずるい!」
「ず、するい、とは──」
「それならっ! 私とてこの村でクリスを一番愛しているという、自負がある!」
「ルシアママ」
「そ、そして私もまた、クリスの母ではあるが、血縁はないっ にゃので!」
噛んじゃった!
かわいい♪
「わ、私も! 義母として、クリスに【女】を教える!」
「「え?」」
ルシアママが、ぼくと?
「「えぇぇぇぇっ!」」
◇◆◆◇
「ルシアママぁ」
「く、クリス」
そしてルシアママのお部屋に、ぼくたちはふたりきり。
ステラママを亡くしたぼくを、育ててくれた、大好きなルシアママ。
そんなルシアママと、【レッスン】する。
「ルシアママ、きれい」
ルシアママはベッドの上、シーツの下にはなにも着ていない。
そのきんいろの髪がキラキラ光って、ほんとうに女神さまみたいに見えた。
「ふふ、ありがとうクリス。だが、これは付けたままでいさせてくれ」
「うん、」
そんなルシアママがぼくに見せたのは、
ハダカの身体に装備したままの、ガントレット。
左手首は、魔王戦で失ってしまったから。
「これがないと、クリスを両手で抱きしめられないからな」
「うん」
「すまない、こんな身体で、ほんとうにすまない」
「ルシアママ」
無事なほうの右腕で、自分の左腕をきゅっと抱くルシアママ。
だけど──
「ううん、ぼくはこの手になんども抱っこされてきたんだ。だからそんなこと、言わないで?」
「く、クリスぅ」
ルシアママのその手に、ぼくは指を絡めてきゅっと握る。
そうしたらもう……
することはただひとつだけだった。
◇◆◆◇
「はふぅ」
ぼくは──ルシアママおっぱいに、お顔をうずめた。
(ぼくのできるだけのことはした!)
アイナママとの【レッスン】で身につけた、あれこれ。
それをルシアママに、ぜんぶ出しきったつもり。
「ルシアママぁ ありがとう。ぼく、とってもうれしかっ──あれ?」
「………………」
「ルシアママ?」
ルシアママ、なんだか寝ちゃってるみたい?
ときどき、腰のあたりが【ぴくんっ】って跳ねるけど、さっきから揺さぶってもぜんぜん起きないっぽい。
「うぅ、寝ちゃうくらいダメだったのかなぁ でもこのまま朝まで寝たら、カゼひいちゃうよね?」
なんとか気をとり直して、ぼくはルシアママをベッドの真ん中にうごかす。
それで毛布をかけてあげようかと思ったんだけど──
「あれ? なんだろ、この赤いシミ? って……ま、まさかこのシーツの赤いシミって」
もしかして、血?
そして見れば、ルシアママの脚の付け根にも、同じ赤いモノが!
「なんてことを! ぼくがあんまりダメだったから、ルシアママのカラダを傷つけちゃった!?」
いつも元気で【最強】のルシアママ。
そのカラダから血を流すなんて、魔王戦以外で見たことないのにっ
「あわわ、どどど、どうしたら! ま、まずはキレイなお水で洗って──」
そんなふうに、ぼくがあわあわしていると、
「う、ん……」
「ルシアママっ」
ルシアママが目を開けて、ぼんやりと宙をみつめてる。
「ルシアママぁっ ごめんね? ぼくっ ぼくぅぅ ぐすっ」
「く、クリス! どうした、そんな泣いたりして」
「え? だ、だって、ぼくルシアママを傷つけて」
「傷つけた?」
「え? その、平気なの?」
「ん? いやその、平気かと聞かれれば、平気ではいられなかったというか?」
「やっぱり! そんな痛かったんだっ」
「あ、ああ。やはりそれなりに、な?」
「うぅ、ごめんね、ルシアママぁ」
「ん? だから何故、そこで謝るのだ?」
「え? だって、ぼくがあんまりダメだったから、痛かったんでしょ?」
「え? いやその、痛さより、むしろ天国が見えたというか~」
「天国!? 死んじゃうくらいだったのっ?」
「あ、あぁ 途中、何度も『死んでしまう』と──」
「うぅ、やっぱりぃぃ はっ 今ぼくが、回復魔法を!」
「回復魔法? クリス、どこかケガでもしたのか?」
「ぼ、ぼくじゃなくて、ルシアママが!」
「私が? あんなに丁寧に愛されて、ケガなどしていないが?」
「でもっ そこに血のあとが」
「こ、これは……うぅ」
自分の脚の付け根を見て、びっくりするルシアママ。
ルシアママ、今まで気づかなかったみたい。
「待ってて! いま呪文を──」
「いや、いらん」
「なんでぇ!」
「こ、これは、仕方ない事なのだ」
「しかたない?」
「あ、ああ……私は」
「今日この今が、初めてだったのだ」
「………………はじめて?」
ぼくはルシアママを改めてじっと見る。
「そ、そんなに見つめないでくれ……は、はじゅかしいではにゃいか」(かぁぁぁっ)
かわいい!?




