005 女神さまの、すごい加護
「うぅ わかりました。ぼくにはNTRの属性はないので、それでいいですぅ」
『そう、ですか……それもまた愛のカタチ……んふふっ』
「っていうかっ そっちの方が主流派みたいに言わないでくださいよぉ 女神さまぁ」
『ふむ……【NTRのタグを付けた方が売れる】……そう聞いたのですが?』
「女神さまの言ってるのは、あくまで18禁のおはなしの場合ですから」
あいかわらずナゾの知識を披露する女神さま。
おかげで、まるでお話が進まない。
「っていうか【異世界の勇者】っていうのも、もう違うんじゃありませんか? ぼくは前世の知識こそありますが、この世界で生まれた普通の男のコですし」
『そういえば……そうですね……異世界の──あら、ついうっかり』
「ええと、ぼくのことはクリスと呼んでください。女神さま」
『……わかりました……では改めて……クリスきゅん、あなたに──』
「【きゅん】はいりませんのだ」
『えー』
その後、女神さまとの何度にもわたる交渉の末に……
ぼくが女神さまを【ミヤビさま】とお呼びすることで、ようやく【クリス】と呼んでもらえることになりました。
「ええと、ではミヤビさま? もうひとつのぼくの願いというのは」
『ええ……あなたのもうひとつの願い……それは──【女性冒険者たちに、守りの加護が欲しい】です』
「あっ」
コレも前世で勇者をやっているころ、ぼくは常々そう思っていた。
そう、ミヤビさまのいう女性冒険者とは──
(すごく、死にやすいんだ)
◇◆◆◇
この世界には【冒険者】と呼ばれる人たちがいる。
【魔物を討伐する】ということを、主なお仕事とする人たちのことだけど?
そのお仕事は薬草とかの素材集めから、果てはドラゴン討伐まで、かなり広い。
(つまりは荒事専門の何でも屋さん、だよね)
【冒険者ギルド】という組織がそのバックアップをしてくれはするけれど、国や貴族に仕える【兵士】とは違って、その存在はあくまで自己責任。
自分を守るすべも、戦う仲間を集めるのも、ぜんぶ自分でやらないといけない。
(もちろん強い魔物とかを倒せれば、その報酬で一攫千金もできるけど)
たとえ弱い魔物でも、相手は殺すつもりで襲ってくる。
だからどんなに強い冒険者でも、油断すればすぐに死んでしまう。
そんな──命の安い職業でもある。
(それなのに、冒険者に女性がいるのは──)
この世界には【魔法】がある。
魔法の源である【魔力】は、ほぼ全ての人たちが持っているけれど、実際に魔法を発動させる事のできる人は、全体の2割くらい。
だから【魔法が使える】という時点で、社会的に優遇されるといってもいい。
(その魔法による攻撃はすごく強い武器で、そして魔法が使えるのは……ほぼ女性に限られてる)
その理由はカンタンで、女性は【魔法総容量】──いわゆるゲームなんかでいう【MP】が、男性の10倍近くあるから。
そもそも男性には魔法のスキルを習得することが難しいとされているし、仮にスキルがあっても魔力が少なくては使い物にならない。
(だから魔法の使える女性冒険者は、すごくチヤホヤされるんだよね)
そのぶん、男性には武器を使う才能があることが多い。
筋力や打たれ強さ……いわゆる【HP】が高く、武術スキルも多彩だ。
だからこの世界では【武力は男性、魔法は女性】という、役割分担がある。
(けど体力があって、重くてじょうぶな鎧を装備できる男性とちがって……)
ほとんどの女性冒険者は、軽量で防御力の低い防具しか装備できない。
ごく稀に、魔法のかかった防御力の高い防具も存在はするけれど? すごく高価でレアだから、そんなのを入手することは、ほぼムリ。
じゃあ、どうするかというと~
(それも魔法……だよね)
女性は防具で身を守るんじゃなくて、火や風とかの魔法で防壁を張るんだ。
そして【魔物を近寄らせないこと】で、攻撃を防ぐ。
もちろんこれだって、有効であるには違いない。
(けど……)
魔物に防壁を突破された後は……なすすべがない。
なのでHPが少なく、防御力の低い防具しか装備できない女性は──とても死亡率が高いんだ。
だから勇者としてのクエストの間、協力してくれた女性冒険者たちが、何度も死にかけたり亡くなったりした。
(そしてそれはアイナママみたいな最強に近い冒険者でも……例外じゃなかったんだ)
魔王のスキル【忘却の波動】は、あっけなく魔法防壁を無効にした。
それはまさに、戦士が盾と鎧を奪われたのと同じようなことで──
(あんなのは……もう見たくない)
傷ついた彼女たちを……そして亡くなった女性たちを見るたびに、ぼくは思っていた
【女性冒険者たちに、守りの加護が欲しい】、って。
◇◆◆◇
「ミヤビさまっ ありがとうございますっ ほんとうにありがとうございますっ」
『あぁっ クリスきゅんの純粋な感謝と信仰が……まぶしいっ あふん』
「きゅん付けはヤメてぇっ?」
こんなミヤビさまだけど? これがホントなら、すごいことだ!
そしてその褒賞、つまり女性冒険者の守りの加護は、魔王討伐のあと、すぐに授けられたそうで。
「じゃあその加護が広められて、もう十数年たってるってことですか?」
『その通りです……クリスきゅ──こほん、クリスよ……』
『わたくしは、すべて女性たちに……その守りの加護の防具を広く授けました。初の【女性専用加護】です……』
「女性専用?」
『そしてそれは安価にして入手しやすく……もちろん魔族では扱えない代物です』
「えっ じゃあ──」
『絶大な威力の魔法防壁がその身体をまとい……物理耐性が急上昇します』
「すごい! あ、魔法は──」
『同時に『知力』が倍増し……魔法の威力もさらに増大しました』
「じゃあ、女のひとたちは──」
『死亡率が……激減しました』
「パーフェクトですっ ミヤビさまぁ」
『感謝の極み』ズパっ
すごい……ミヤビさまはほんとうにすごい!!
ああもうぼくっ
今からミヤビさまを主神として信仰してもいいっ
『あっ すご……ひ♪ クリスきゅんの感謝が……あふれ……て』
びくんびくん☆
あいかわらずのきゅん付けと、なぜか小刻みにぴくぴく☆してるのは、このさい無視するとして……
あれからもう十年以上、女性の死亡率が激減したなんて、ほんとうにスゴいことだ!
「……ん? でもぼく、その加護の防具、見たことない?」
ぼくの村にも、ごくたまに冒険者のひとたちが来ることがある。
山や森に住み着いた魔物なんかを、討伐してもらうから。
その中にも、けっこう高いレベルの女性冒険者がいたんだけど?
『はふぅ♪ クリスきゅん……あなたはまだ、あの村から出たことがないのですね?』
「あ、はい。ミヤビさま」
『あなたの村は……さほど強い魔物もおらず……比較的平穏な地域』
『むしろ……強力な魔物が出現する地域──人族のいう【冒険者ぎるど】のある街などでは……とても普及しています』
「あ、なるほどー」
ミヤビさまにいったとおり、ぼくは生まれ育った村から出たことがない。
それは例の【一人前になる年齢】になっていなかったから。
村や街の中は神官による防壁があるのがふつうだから? めったなことでは魔物が中に入り込むことはないんだ。
(でも、すごく強い魔物や魔族なら、カンタンに入り込めちゃうらしいけど)
だから、ちょっと前までのぼくみたいな【半人前】のコドモは、村の外に出してもらえないんだ。
「わかりました! ぼくも一人前の歳になったので、大きな街に行くこともあると思います。その時にぜひ、その加護の防具を見せてもらいますね」
『ええ……楽しみにしていてください……クリスきゅん』
「……もうその呼びかたで決定なんですね、そうなんですね……」
『ああっ わたくし女神なのに……人族の少年に敬称をつけてしまうだなんて……くやしいっ でもクリスきゅん、カワイイっ びくんびくん☆』
「【きゅん】って敬称なのっ? っていうか、少しは本性を隠してくださいよぉっ?」
あぁんっ もうっ ミヤビさまっ
やっぱり露出の女神さまなんじゃないのぉぉっ?
◇◆◆◇
「………………はっ」
気がつけば……ぼくはベッドの中にいて、もう朝だった。
「うぅ、なんだか寝た気がしないぃぃ というか~ さっきのは夢、だったのかなぁ?」
けど、夢にしては妙に鮮明だったし? その内容はしっかり覚えてる。
「そう考えると~ ミヤビさまは夢枕に立って、ぼくに会いに来てくれたのかなぁ……ふあぁぁぁ」
◇◆◆◇
「アイナママ、おはよ~」
「おはよう、クリス。あら、今日はなんだか眠そうね?」
「うん……たっぷり寝たはずなんだけどね~ なんだか眠くて」
「寝る子は育つというし、クリスも成長期なのかもしれないわね」
「えっ? そ、そぉかなぁ」
そういえば、前世で聞いたことがある。
成長ホルモンが出て背丈が伸びるのは、とくに眠っている時なんだって。
(※注 そう言われていますが、エセ科学だそうです)
(急に背が伸びて、成長痛で眠れないってこともあるみたいだし……んふっ」
「まぁ クリスったら、嬉しそうね?」
「だってぼく、はやく大きくなりたいし」
前世に関連した件を除けば? ぼくの悩みは背が低いこと。
それと女のコによく間違えられること。
「うぅ、せめてレイナちゃんよりは大きくなりたいよ」
「うふふっ クリスたちくらいの年齢はね、女の子のほうが成長が早いのよ?」
「え~、じゃあ」
「あとしばらくは、レイナの方が背が高いままかしらね」
「がーんっ」
そんなぼくがショックに震えていると、アイナママが後ろからぼくを抱きしめてくれた。
そしてそのまま、すとんとお椅子に座っちゃう。
「大丈夫、そのうち背も伸びて、すぐにママよりも大きくちゃうわ」
「そ、そぉだよね?」
「でもそうしたら、こうやって抱っこできなくなっちゃうわね……ママ、寂しい」
「うぅ、アイナママぁ」
ぼくだって、アイナママに抱っこやおんぶ、されなくなるのは……寂しい。
でもぼくとしては、もっと強いオトコになってママを守りたいっ!
「うぅ でもぼく……あぁっ?」
「うふふ、冗談よ。クリスがあんまり可愛いから、からかっちゃったの。ゴメンなさいね」
「ヒドいよぉっ? それに、カワイイって言わないで! ぼく──」
「はいはい。男の子、ですものね」
「むぅ、そうだもん」
そんなむくれるぼくを、アイナママはナデナデしてくれた。
(あぁん そんなナデナデなんかでぼく……ごまかされたりしな──あふん)
あぁ、アイナママ……だいすきぃ
今日はもう1回更新します~