004 女神さまは、やっぱりえろえろでした
「あ、こんにちわ。ぼくはクリスです」
「前世で勇者をやってましたけど、魔王と相打ちになって死んじゃったので? いまはこっちの世界で、男のコに転生しています♪」
とまぁ、思わず現実逃避しちゃうぼく。
というのもここ数日、ショックなことが多すぎたから~
「ええと、まずぼくの前世が勇者で、その記憶を取り戻しちゃったこと」
これは~ 思い出したところで、どうしようもないというか。
そもそも魔王も死んじゃってて、いまは比較的ではあるけど平和な状態だし?
もちろん魔物や魔族はいるけれど、魔王のいない状態だと脅威度は低くて、人族の軍隊でも十分対応できたりする。
「それに勇者でいた時間よりも、いまのぼくである方が長いしなぁ」
前世のぼくが勇者をやっていたのは、ほんの3ヶ月くらい。
アイナママたち、3人の従者と引き合わされた後、1週間くらいの訓練をしたら、すぐに討伐に出ることになったんだ。
「ゲームなんかだと、ちょっとのお金と最弱の武器をもらうところだけど~」
ぼくの場合はまるで逆だった。
装備も得られるかぎりの最高のものがもらえたし、お金もほぼ無制限。
毎日3食の食事や、寝泊まりするためのキャンプとかも、お世話してくれる兵士さんたちがついてきた。
移動手段だって、馬車、船、気球とかが、いつも用意されてたんだ。
「だからあれは【冒険】というより……業務?」
そんな手厚い王家からのサポートに応えるべく、ぼくは黙々と魔物を狩り続けるという……ひたすら効率優先の、わりと殺伐とした旅だった。
おかげでレベル上げ、お金稼ぎ、それにアイテム探し、謎解き、お使いイベントみたいなのは、ほぼナシ。
その結果……召喚からわずか3ヶ月で、魔王の玉座に辿り着いたんだ。
「相打ちになって死んじゃったけどね。でも恋人だったアイナママは、悲しんだだろうなぁ……うぅ」
戦闘不能になった他の従者たちと一緒に、前世のぼくが魔法のアイテムで強制転移させちゃったけど。
あの時の絶望的なアイナママのお顔は、思い出すだけで胸が痛くなる。
「次は~ アイナママが前世のぼくの恋人、だった件についてだね」
これもやっぱりどうしようもない、よねぇ
そりゃあ、ぼくだってアイナママのことは大好きだ。
でもそれは、やっぱりママとしてであって、恋人のソレじゃない──と思う。
記憶を取り戻してすぐの頃は、なにかとハァハァすることも多かったけど?
やっぱりいまのぼく、クリスがベースのせいか、そういうのもだいぶ落ちついてきた。
「やっぱり? ママをエッチな目で見るっていう【しちゃいけない感】のほうが強い、よねぇ」
それとも──
『アイナママっ 実はぼく、死んだ勇者の生まれ変わりなんだ!』
とか、ぼくが言ったら、信じてくれるかなぁ?
うぅっ かわいそうな子を見る目で見られそう。
でも当時の勇者しか知らないことを、アイナママと答え合わせとかすれば、信じてもらえたりするのかなぁ?
「むぅ やっぱりこの件も、じっくりと考えた方がよさそう」
ええと、それから──
「アイナママの娘で、幼なじみのレイナちゃんが、前世のぼくの娘だった件」
これもホントにどうしようもないというか~
そりゃぁ、できるものなら名乗り出たいところだけど。
やっぱり【かわいそうな子】だと思われるのが目に見えてるし?
それに、あくまで前世は前世。
いまのぼくは転生した別人であって、レイナちゃんとは血縁もない。
「そもそもぼくは。レイナちゃんを父親として、どうしてあげたいんだろ?」
父として支えてあげたい?
困ったときに助けてあげたい?
「それだったら……今までどおり家族として支えてあげればいいんじゃない?」
そう思ったら、ストンとココロが落ち着いた。
「つまるところ、どれもこれも現状維持、だよねぇ はふぅ」
◇◆◆◇
とまぁ、そんな結論を出したぼくが、夜にベッドでおやすみしていたら──
「なんだか見おぼえのある、真っ白なところにいるんですけどっ?」
すると……
『……きこえますか……異世界の勇者よ……』
「この直接脳内に語りかけるその声は、女神さまっ?」
『うふふ……そうです……わたくしが女神さまです』
そんな声とともに、女神さまが姿を見せる。
あいかわらず、ほぼ全裸で。
「女神さまぁ お願いですから服を着てくださいよぉっ」
『ですから……この羽衣が……わたくしの服なのですが……』
「そんなの服じゃないですっ ほぼハダカですよぉっ?」
『異世界の勇者よ……これはわたくしの権能に関わる仕方のない事なのです……』
「女神さまの、けんのう?」
『ええ……わたくしは【芸能】を司る神……【ミヤビ】』
「ミヤビ、さま?」
『こんごともよろしく(ニコっ)』
◇◆◆◇
ぼくがいま暮らしているこの異世界でも、宗教というモノはある。
とはいえ現代日本の宗教と違って、ほんとうに神さまは存在してたりする。
(でも? さすがに神さまとお話しするのは初めて──あ、2回めか)
そして天界には800万柱の神々がおわすとされていて、その加護の確かさから信仰するひとは多いそうです。
(やっぱり、人がカンタンに死んじゃう世界だからね)
その中でも、特に広く信仰されている4柱が、こんな感じ。
・豊穣神:【豊作祈願】【商売繁盛】など。
・武 神:【武運長久】【必勝祈願】など。
・太陽神:【国家安泰】【子孫繁栄】など。
・学問神:【学力向上】【魔力向上】など。
そしてその4柱に次ぐ信仰があるのが、こちらの芸能神、ミヤビさま。
ちなみに加護は【芸能上達】【武芸守護】とかです。
(だから吟遊詩人とか踊り子さん。芸術にかかわる人に……あと女性冒険者とかの信仰があるんだっけ?)
あ、ちなみにボクが神さまに詳しいのは、神官であるアイナママの影響ですぅ。
◇◆◆◇
『故にわたくしは、神々が天界で行う神事に際しても……わたくし自らが舞を捧げるお役目を、承っているのです(どやぁぁぁ)』
「だったら! ますますそのお姿ではマズいのでは?」
『………………は?』
「ですからハダカでは、他の神さまたちにも怒られちゃいませんか?」
『いえ……大ウケでしたよ? 異世界の勇者よ』
「えー」
それでいいの? 天界の神さまたち。
『そもそも……神事の奉納舞が全裸なのは、基本なのです……異世界の勇者よ』
「ぜ、ぜんらがきほん!」
『それはもう……わたくしが初めて舞った際は、おーるすたんでぃんぐでした』
「がみがみがそうだち!」
『しかし……それがいかに強い【いんぱくと】であろうとも、慣れてしまうもの』
「……は?」
『わたくしは学んだのです……全てを見せると、むしろ飽きられやすい……故に、ふぇちずむ大事……と♪』
「ストリップですよぉっ ソレぇっ?」
◇◆◆◇
もう、ぼくはこの女神さまを、性的な目で見ることはヤメました。
ええ、匿名掲示板なんかでも【掲示板荒らし】とかに対して、絶対にしてはいけないことは【構う事】です。
なので、そういう目で見たらぼくの負け、負け──
「それでは女神さま? ぼくに何のご用でしょうか」
『うぅ……な、なぜそのような、牧童が家畜を見るような目で……わたくしを?』
「え? やだなぁ女神さま。家畜は服なんて着ませんからw」
『はぅんっ』びくんっ
「ですから、メスのブタさんやウシさんのおっぱいにドキドキなんてしたら──」
『めっ 牝ブタに牝ウシっ! はぁはぁ』びくんっ
「……親に泣かれちゃいますよ(ぽそ)」
『そっ そういうココロに来るのはヤメてぇぇぇっ?』
と、なぜか女神さまがうずくまって、シクシクし始めたので……
ぼくはその背中を優しくなでなでしてあげながら、女神さまが立ち直るのを待つのでした。
◇◆◆◇
『ふ、ふふ……なかなかやりますね……異世界の勇者よ』
「いえいえ、女神さまこそ」
『こほん……きこえますか……異世界の勇者よ……』
たち直った女神さまがおすまし顔そういうと、まるで何事もなかったかのように仕切り直した。
「ああ、その声は女神さまー(棒)」
『もう少し……感情を込めて欲しいのです……異世界の勇者よ……』
「2回めですから」
『せちがらいですぅ……』
なんだかすっかりしおれてしまった女神さま。
というか、さっきからぜんぜんお話が進まない。
「では改めて──女神さま、ぼくになんのご用でしょうか?(キリっ)」
『は、はいっ ……そろそろあなたも冷静になった頃合い……ひいてはわたくしから……申し伝えることがああるのです』
「もうしつたえ……それは、どんな?」
『わたくしは、先日あなたに伝えました……魔王討伐の件、感謝している……と』
「はい、それはたしかに」
『それに際し、わたくしは……魔王討伐の褒賞を与えました』
「えっ ごほうび、ですか?」
『はい……そしてそれは、すでに叶えています』
「いつの間にっ? というかそれ聞かれてないし、願ったおぼえもないんですが~」
『ふふ……口に出さずとも、わたくしには真の願いなど……お見通しなのです(どやぁ)』
「さすがは女神さまっ? で、その願いって、どんなのですか?」
『それは2つあり……ひとつは──【聖女アイナに幸せになって欲しい】です』
「それは──」
それは、確かに願った。
魔王と相打ちになって、意識が途切れゆく、その最中に。
でも……
「ええと、それは」
『わたくしは……あなたをこの世界に転生させ……あなたを聖女アイナの家族として、巡り合わせました……』
「っ! ではアイナママとぼくが、家族でいられるのは──女神さまのおかげ、ですか?」
『その通りです……異世界の勇者よ』
「あ……ありがとうございますっ 感謝しますっ! 女神さまぁ(きらきらっ)」
『はうっ 純粋な感謝と信仰が……まぶしいっ あふん』
なんてこったっ?
こんなすばらしい巡り合わせをしてくれるだなんて……
あぁっ 一瞬でも【露出女神さま】とか思っちゃってゴメンなさいっ
『露出女神っ! はうっ』びくびくっ
「えっ まさか聞こえるんですか? ぼくの心の声」
『こ、ここはわたくしの司る世界……声に出さずとも、その想いは伝わるのです』
「そうですか……(ふいっ)」
『なぜ……目を逸らすのですか……異世界の勇者よ?』
いけないいけない。
雑念よ、されー
んー、ココロを空っぽにして──
「ではお聞きします! その……アイナママは、どんな感じで幸せになるんですか?」
『それは……あなたが【家族】として、聖女アイナを幸せにするのです……』
「ぼくがするのっ? ってまぁ、そりゃもちろんそのつもり、ですが」
『……ふむ? ですが……とは?』
「そのー【新しい恋人として幸せにする】っていう選択肢とかも? あったのかなぁって」
『なるほど……それはつまり──』
『前の男の事は忘れさせてやるぜ!…… という【えぬてぃーあーる】ですね? NTR!NTR!』
「ううっ? 家族として幸せにしますぅ」
って……なんでNTRなんてコトバ、知ってるのっ?
やっぱりこの女神さまっ えろえろだよぉっ
今日はあと2回、更新します~