017 ゆえに、ふぇちずむ大事
「ほらほらっ クリス! はやくはやくっ」
「あっ まってよぉ レイナちゃんっ」
ぼくはそんなレイナちゃんに手を引かれて、おうちの外へかけ出した。
そのレイナちゃんの手には、ぼくのプレゼントしてあげた、かわいい手袋。
これをあげたとき、とってもよろこんでもらえるかと思ったんだけど?
(なぜだか泣かれちゃった、なんでぇ?)
しかも後ろからぎゅって抱き付かれて、
『ぜったいこっちを見ちゃダメ!』って。
(そんなに一緒に、街に行きたかったのかなぁ)
それから晩ごはんにお肉が出たときも、
レイナちゃんは泣きながらお肉をパクパク食べてた。
(それにアイナママ、レイナちゃんにしゃべっちゃうし!)
ぼくが『おうちでレイナちゃんと一緒に食べたい』っていったこと。
そしたらまたレイナちゃんに泣かれちゃった。
なんでぇっ
(でも、お菓子と紅茶とジャムが出たときは、ニコニコしてた)
アイナママも、そんなぼくらを見てニコニコしてたし?
うーん、解せぬぅ。
「あ、あそこっ ほらっ」
「あっ ほんとだ!」
ぼくたちが向かった村の広場には、うちの村の人たちと、冒険者の人たちがいた。
なんで冒険者がいるかっていうと? 村からの依頼として、冒険者ギルドに山狩りをお願いしてるから。
魔物や大型の獣なんかを討伐してもらってるんだ~
「あっ あの女の人っ 今日もきてるっ」
今日来てる冒険者のパーティーは、なんどかうちの村に来てる人たち。
ぼくもあの、神官服を着た女性冒険者のことは覚えてた。
レイナちゃんはその女性冒険者に、お話しを聞くのを毎回楽しみにしてて、今日も目をきらきらさせてお話しをおねだりしてる。
(レイナちゃん、冒険者になりたいのかなぁ)
するとパーティーのリーダーっぽい人が、村の人とお話しをしてた。
「では獣はいても、魔物はいなかった、と?」
「ええ、熊や野犬はいたんで狩っておきましたが、魔物はスライム1匹すら見かけませんでしたよ」
「ふうむ、村としてはありがたいが、1匹もというのは」
「ですね、こっちもこんな事は初めてですよ」
なんて話してて……
(ぎくっ!?)
そそ、そういえば。
(ぼくがこの前、村の裏山の魔物……ぜんぶ討伐しちゃった!)
戦いのカンを取り戻そうって、つい夢中になっちゃって。
おかげでこの人たちのお仕事を、取っちゃったんだ!
(うぅぅ、でも『ぼくが討伐した』なんていえないしっ そもそもナイショで山に入っちゃってたし~)
せめてもの救いは、熊が2頭狩れたので、肉と毛皮でそこそこお金になりそう?
ってことだけど、
(うぅ、悪いコトしたなぁ)
ふと、レイナちゃんとさっきの女性冒険者が目にはいる。
魔物討伐のおはなしをしてるみたいで、レイナちゃんも大こうふん!
そしてそんなふたりを、ニコニコと見てる冒険者のお兄さんがいた。
「あのぉ、お兄さん? ぼくもお話し、きかせてもらってもいいですか?」
「お? いいよいいよ~」
「ありがとうございますぅ」
「いやぁ、あっちの娘といい、この村は可愛い娘が多いなぁ」
「ぼっ ぼく男のコですけどっ」
「おっ? そうなの?」
「そうですのだ」
「いやぁ ゴメンゴメンw」
「むぅ」
「で、少年はなにが聞きたいのかな?」
「ええと……ぼく、ついこの前? はじめて村を出て、ケストレルの街に行ってきたんですけど」
「ほほう? じゃあアレを見たんだな?」
するとお兄さんは、レイナちゃんとおはなしする女性冒険者をチラッと見た。
あの女の人は神官で、ごく普通の神官服を着てる。
「あ、はい。ビキニ、ですよね?」
「ははっ 驚いたろ?」
「とっても」
「でもアレ、マジで強いんだぜ? 俺の装備してる革の鎧なんかより、よっぽど防御力高いんだ」
「はい、そう聞きました。おかげでこの10年、女性冒険者のひとたちがすごく死ににくくなったって」
「ああ、それはホントだな。マジで神様ミヤビ様だよw」
「ミヤビさま」
あの露出女神── もとい、ミヤビさま、あんがい慕われてる?
でも神殿にある絵姿とかは、ちゃんと服着てるんだよなぁ。
「ええと、じゃあなんで」
「あー」
ぼくの視線をたどって、女性冒険者を見るお兄さん。
最後までいってないのに、ぼくの疑問もわかっちゃったみたい。
「あの女神官な? 俺の姉貴なんだよ」
「おねえさん」
「それでな? 姉貴も今は神官服だけど……2年前だったかな? それまではビキニを装備してたんだ」
「してたんだ?」
「姉貴ももう、冒険者やって10年以上経ってるんでな~ アレコレ経験積んで、けっこう強くなったワケだ」
「ベテランですね」
「おう、レベル30越えの3等級、【上級者】ってヤツだ」
「すごいっ」
「だからな? もうビキニがなくてもじゅうぶん強いんだよ」
「なるほどー」
「……というのが、表向きの理由だなw」
「おもてむき?」
「姉貴な? こんな仕事のせいか、まだ独身でなぁ」
「どくしん」
「そんなこんなでもう26なんだよ。ま、世間でいう【大年増】ってヤツだなw」
「あわわ」
「だからな? ビキニをやめたホントの理由は~」
「あっ もしかして」
「そうそうw【いい歳をしてビキニは恥ずかしい】ってコトだなw」
「おぅふ」
ま、まさかの年齢問題!
そういえばアイナママも同じようなこと、いってたっけ。
「んで理由はもうひとつあってなぁ」
「もうひとつ?」
「あのビキニな? ある程度レベルが上がると、もっとビキニを小さくしないと加護が下りなくなるんだ」
「………………は?」
「あー、そもそも【なんでビキニ?】って思わなかったか?」
「とっても」
「俺もそう思った。それで神殿の神官に聞いたんだよ。そしたら」
「そしたら?」
「あれ、戦いの神様に捧げる【奉納舞】の衣装の、簡易版なんだってさ」
◇◆◆◇
このお兄さんのいうことをまとめると。
かつて神話の時代。
【巫女神】はほぼハダカ同然で、まとっているのは透けるような羽衣のみ。
──という故事にちなみ、その【さらす肌の多さ】を重んじる形で【ビキニアーマー】が誕生。
ゆえに、ビキニアーマー姿は簡易的な【奉納舞】の効果があり、装備するだけで、絶大な防御効果が得られ、パワーアップする。
という仕組みなんだとか。
(ま、まちがいなくミヤビさまの権能だっ コレぇ!?
それにこの前いってたセリフ。
『全てを見せると、むしろ飽きられやすい……故に、ふぇちずむ大事……と』
(あんの露出女神ぃぃぃっ)
「だからなぁ 姉貴がレベル30になった時、それまでのビキニ、装備できなくなっちゃったらしくてさー」
「たいへん」
「で、装備可能なビキニを店で見せてもらったんだけど? そのちっちゃさに青くなって、ビキニを止める決心したんだとw」
「な、ななな」
「まー、姉貴もいい歳だし? さすがに若い娘に混じってビキニはキツいってw」
「あ……」
「しかも姉貴のおっぱい、まな板だからなw いくらちっさいビキニでも、嬉しくねーってw」
「お、お兄さーん、うしろうしろー(小声)」
「ん? 後ろがどうし──」
ゴゴゴゴゴ……
「へぇ? だれが【いい歳】で、【まな板】だってぇ?」
「おっ お姉様っ? いいっ いまのは冗だ──がぁぁぁぁっ!」
そんなお兄さんは、お姉さんに──流れるような動きでアームロックを極められた!
「んふふ そこのボク? ちょっとこの男、借りるわねぇ」
「あだだだっ!? おっ お姉様っ!? 痛っイイっ お……折れるぅぅぅ!」
「んふふ、大丈夫 折れても直してあげるから」
「そんなぁっ」
「それなら何度折っても平気よね(ぼそ)」
「ひぎぃぃぃっ!」
「あ、やめてあげて! それ以上いけないっ」
◇◆◆◇
「むふんっ やっぱり現役の女性冒険者はカッコいいわ」
「アイナママだって、べつに引退したワケじゃぁ」
「でもうちのママ、ぜんぜん魔物とか討伐してないしー?」
「それは~」
レイナちゃん、アイナママが【勇者の従者】だったこと、教えてもらってないからなぁ
それにレイナちゃんが【勇者の娘】だってことも。
きっとアイナママのことだから、レイナちゃんが一人前の歳になったらお話しするのかも?
「あのさ、レイナちゃんは冒険者になりたいの?」
「んー、そうね。ちょっとはきょうみ? あるかも」
(そのニコニコ顔、ぜったい【ちょっと】じゃないよね?)
「でもぉ 危なくない?」
「そりゃあ、危ないわよ」
「だったら」
「でも、こんな魔物のいる世界なんだもん。どんなおしごとだって危ないわ」
「それは、そうだけど~」
「なら、自分でたたかえた方がいいじゃない」
「うぅ~ん」
レイナちゃん、なんて男前なんだ!
でもレイナちゃんのいうとおり、この世界ならそういう考え方もアリ、なのかなぁ?
「それにうちのママのことだもん。このままだとわたし普通の神官になって、この村でママのおてつだいをすることになっちゃうわ」
「それは、そうかも?」
「そんなの、つまらないじゃない」
「えー、そうかなぁ」
「そ、それに危ないっていうなら? その(ちらっ ちらっ)クリスが一緒に──」
「レイナちゃん」
「へ?」
ぼくは、そんなレイナちゃん両肩に手を乗せて、その目を見つめながらいったんだ。
「そうやって普通のくらしをして普通にケッコンするのも、じゅうぶん女のコの幸せ? じゃないのかなぁ」
「にゃ──っ!」
「えっ?」
「くくっ クリスぅ!」
「はい?」
「そそっ そんなのまだっ わたしたちには早いわよぉぉぉっ」
「レイナちゃんっ そんないきなりかけだして、どうしたのぉぉっ」