016 アイナママと、デートみたい♡
「うわぁ やっぱり街はお店がいっぱいだね? アイナママぁ」
「ええ、この街には5千人くらい住んでいるそうよ?」
「すごい!」
それだけぼくの村が、イナカってことなんだけどね~
それでもお店のある通りには、お買いもののお客さんでいっぱいだ。
アイナママもぼくが迷子にならないように、さっきから手をつないでくれる。
「ねぇアイナママ? にもつ、ぼくも持つよ?」
「うふふ、大丈夫ですよ。こう見えてもママは力持ちなんです」
「んー」
そりゃぁ、アイナママはレベル50オーバーの【英雄級】冒険者だし?
レベルアップで【筋力】とかも高くなってるはず。
「でも、男のコのぼくが持たなくて、女の人のママが持ってるのは~」
「うふふっ そういうのはレイナにしてあげなさいな。あの子きっと、すごく喜ぶわ」
「むぅ そんなの、ぼくが持つのあたりまえだもん」
「ええ、クリスは優しい子ね」
でも、レイナちゃんはぼくよりも背が、ちょっとだけ! 高くて。
それに重いものとかを持つときも、レイナちゃんのほうがチカラ持ちなんだ。
「うぅ、もっと剣の練習とか、しなきゃダメかなぁ」
「でも剣術のスキルは、レベルが6もあったのでしょう? それなら今はじゅうぶんよ」
「そぉかなぁ」
でもそれ、ホントはレベル87なんですぅ
レベル6はレイナちゃんのレベル5に、1足しただけなんですぅ
「さ、今日はお誕生日のお祝いだから、約束どおりお肉でも食べて帰りましょうか」
「わぁい あ……でもぉ」
市場の通りには、それこそいろんなお店があって、そこにはお魚やお肉も売ってた。
「ね、アイナママぁ ぼく、やっぱりおうちで食べたいな」
「あら、そうなの?」
「うん、ぼくもお料理、おてつだいするから。お肉はレイナちゃんと一緒に食べようよ」
「まぁ。うふふっ クリスはほんとうに優しい子ですね、ちゅっ」
「やぁん♪」
そんなぼくに、アイナママはほっぺにキスをしてくれた。
アイナママとふたりでデートも、いいけど?
やっぱりおいしいものは みんなで食べた方が、もっとおいしいからね。
「じゃあ今日は、お菓子も買っていきましょうか?」
「えっ いいの?」
「ええ、最近話題になっているお菓子があると、ギルドで伺いましたから」
「わぁい」
「そこでお菓子を3つ買って……レイナにはナイショで、わたしたちはお店でも食べちゃいましょう」
「うあぁ」
「あら? ダメかしら」
「えへへ、ぼくとアイナママの、ヒミツだね」
「まぁ、うふふ」
そんなぼくたちは、ニコニコしながらお店を探す。
やっぱりこれ、デートみたいかも♪
◇◆◆◇
「えへへ、おいしかったね~」
「ええ、これは当たりでしたね」
ぼくたちはカフェみたいなお店でほっこり中。
ちなみにお菓子は、ワッフルみたいな小麦粉を焼いたのでした。
サクサクしてるのにふんわりしてて、それにハチミツまでかけてあったんだ
(まぁ? この世界のお菓子って、だいたいおさとう入りの小麦粉を焼いたのだけどね~)
「でもこのお菓子、サックリ甘くていいかんじ。おいしかったぁ」
「ええ、そうね」
ちなみに? ぼくたちの主食も小麦粉で、それでパンを作って食べる。
だけど保存優先だから、固い黒パンにすることが多い。
どのご家庭でも7~8日にいちどくらいのペースで焼いて、保存に気をつければ、半月くらいはもつんだ。
(これにマメとおやさいのスープ、だいたいいつもこんなかんじ?)
で、たまーにお魚やお肉が手に入れば、塩漬けにして少しづつ食べる。
なので、しょっぱくないお肉はけっこう貴重だったりする。
「えへへ、お肉たのしみ~ お菓子もおうちでまた食べられるし? あぁ、しあわせぇ)
「まぁ、うふふ」
ここでお茶がほしいところだけど?
こういうお店では、お酒しかおいてないことが多いんだ。
(そのお酒も、お水でわってるからすごくうすいけどね~)
だからアイナママも、いまは水割りのワインを飲んでる。
まえにちょっとだけ飲んだことがあるけど、ぶっちゃけ美味しくない。
(あとビールとかもあるけど~)
やっぱり薄くておいしくないっぽい。
でも、塩漬けのお肉やお魚ばっかりだから、どうしても飲みものがいる。
なので【生水飲んでおなか壊すよりはマシ】ってかんじっぽい。
「それに、おうちなら紅茶があるもんね?」
「ええ、今日はとっておきの缶をあけましょう。それからジャムもたっぷり入れちゃいましょうか」
「わぁい」
アイナママは、いつも【質素倹約】をモットーにする【神官】だけど?
ひとつだけ、ぜいたくをするのが【紅茶】なんだ。
(前世のぼくが、そうさせちゃったんだけどね~)
◇◆◆◇
前世の召喚勇者をやってるときも、飲み物はほぼお酒だった。
品質こそよかったけど。
でも、前世のぼくもお酒はぜんぜんダメ。
薄めるともっとまずくなるから、ブドウをしぼったジュースを飲んでたんだ。
(そのジュースも、飲む文化がなかったんだけどね~)
で、そのうちぼくはこう聞いたんだ。
『お茶はないの?』って。
(紅茶くらいはあると思ったんだけど……)
そうしたら、この大陸にはお茶そのものがなかったんだ。
あるのはいわゆる【ハーブティー】で、それはぼくの好みじゃなかった。
で、王宮の人が探してくれたのが、ずいぶん前に献上品として届けられた、極東の島国【フソウ】のお茶だった。
(もらってなん年もたってたから、緑茶みたいなのはダメだったけどね)
中国茶みたいな発酵させたお茶があって、それは紅茶っぽい味と香りがして、けっこうおいしかったんだ。
で、そのお茶に、
(アイナママが、ハマったんだ)
そこでアイナママの気を引きたい前世のぼくが、とりあえずそれを【紅茶】ということにして。
おいしい淹れ方とか、レモンやミルクをいれる飲みかたとかの、ウンチクをおしえてあげたら?
アイナママは、もっとハマっちゃったんだ~
(でも?)
そもそも喫茶文化がない大陸だから、あったのは献上品としての1缶づつだけ。
なので勇者のクエストでフソウに行ったときに、ぼくがワガママをいって、おいしい紅茶を探しまくった。
(クエストと関係ないのにねぇ)
で、その時に魔族から助けてあげた人が、フソウのえらい人だったんだ。
お礼をしたいといってきたので、紅茶(っぽい発酵したフソウ茶)を、こっちの王宮あてに送ってほしいってお願いしたら……
(それがいまでも続いてたんだなぁ フソウのえらいひと、ありがとう)
そしていま思えば? 年にいちど、おうちににお茶をとどけてくれる人。
(あの人、王宮からのお使いのひとだったんだね)
なのでアイナママはその時期が来ると、うきうきして待ってる。
そしてその紅茶を、少しづつじっくりと味わいながら楽しんでる。
(アイナママ、かわいい)
◇◆◆◇
そしてアイナママは、ぼくたちのためにもぜいたく品を買ってくれる。
(それは、ハチミツ)
ほんとうはおさとうが欲しいところだけど?
それはとってもお高いアイテムで、まだハチミツのほうが普及してる。
(ハチミツとビールは神殿が作ってるから、神官のアイナママはちょっとだけお安く買えるみたいだね~)
それを季節のくだものと一緒に煮て、ジャムを作ってくれる。
それでそのジャムは、クッキーとかと一緒に、おやつにしてくれるんだ。
ぼくもレイナちゃんも、アイナママのジャムが大好き!
(そしてアイナママは、紅茶と一緒にジャムをなめるのが好き)
いわゆる【ロシアンティー】の飲みかた。
お茶に溶かして飲むんじゃなくて、スプーンですくって少しづつなめるんだ。
ジャムの甘さとお茶のシブさが交互にきて、止まらなくなっちゃうんだって~
(ぼくもいつかアイナママにプレゼントしたいけど、どっちもすごくお高いからなぁ、ふぅ)
ぼくもおこづかいはためてるけど、レイナちゃんのおみやげを買ったらだいぶへっちゃった。
ちなみに買ったのは、あったかそうなかわいい手袋。
でも後悔はしていない。
(レイナちゃんの笑顔、プライスレス)
レイナちゃんはかわいいのに、なぜだかいつも怒ってる。
だからぼくは、そんなレイナちゃんを笑顔にしてあげたいんだ。
◇◆◆◇
それからぼくたちは、おみやげ用のお菓子を包んでもらって、また村の荷馬車にゆられて村へ帰ったんだ。
(いろいろあったけど、やっぱり楽しかったなぁ)
おかいものもできたし?
お菓子もおいしかったし!
(ビキニアーマーは……うん、これはもうあきらめよう)
あんなかっこうになったとはいえ、女性冒険者は死ににくくなったし?
なんだかんだで、女の人たちもビキニを楽しんでるみたいだし?
もちろん男の人たちも、うはうはだったみたいだし!
(それに、ぼくも命を救われてる。ビキニアーマーを装備した、アイナママに)
そう考えると、あんがいビキニアーマーも悪くないのかも?
(うん、そういうことにしておこう)
それに、アマーリエさんのお話しも、すごく勉強になった。
前世の記憶で知ってたこともあったけど、依頼のお仕事のノルマのこととかは、知らなかった。
(でも、それをするのも楽しそ──ん? そうだ、これなら)
ノルマといえ、これはりっぱなお仕事。
ちゃんとおちんぎんだって出るんだ。
だったら──
(依頼のおしごと、いちどは受けてみたいな)
あはは、やっぱり今日は楽しかったぁ
お菓子もおいしかったし?
アマーリエさんともなかよくなれたし!
「あっ そういえば。アマーリエさんがくれたきねんひん、なんなんだろう?」
そんなぼくが包みをあけると、そこには──
「ん? ちいさな布とヒモ?」
「あら? クリス、それ」
冒険者ギルドがくれた記念品、それは──
ギルドのロゴ入りビキニアーマー(未奉納)でした。
「クリス、装備してみましょうか♪」
「ぼくっ 男のコなんですけどっ」