012 ビキニは布と、ヒモでできている
「はぁぁぁぁぁ」
アイナママが、神殿の人とおはなしをしているあいだ、ぼくは神殿の前の石段にこしかけて、ぼんやりと街をみつめてる。
お向かいに冒険者ギルドがあるせいか、通りには冒険者がたくさん歩いてる。
そしてそのうちの半分くらいが、女性冒険者に見えた。
けど──
「あの装備……うぁぁ!?」
ミヤビさまのファッションセンスが存分に活かされたその装備は、【ビキニアーマー】として、すっかり普及していたんだ!?
そのあまりの衝撃に、ぼくが頭をかかえて身もだえしてると、
「おっと、そこの少年── だよな?」
「男のコです! ぼくっ」
「おぉ? もしかして、ビキニアーマーを見るのは初めてか?」
通りすがりのお兄さんが、ぼくの肩をぽんと叩きながらそういった。
「は、はいぃ ぼく、村からでたのも今日が初めてで……」
「あ~ だったら驚いただろうなぁ」
「はい……」
「わかるよ、そりゃぁ……前かがみにもなるよなぁ」
「ちがいますぅっ」
そりゃぁ、みんなビキニだけど?
そんなのでおっきしちゃうほど、ぼくはケダモノじゃありませんのだ。
それに、まぁ?
(アイナママのほうがきれいだし? おっぱいやおしりも大きいし? えへへ)
そんな失礼なことをいうお兄さんだったけど? ぼくがあれこれ質問したら、ちゃんと答えてくれたんだ。
もちろん、ビキニアーマーについて。
◇◆◆◇
人族と魔族の争い合うこの世界。
十数年前、各地の主だった神殿に、神託があった。
天界の女神、芸能と武芸守護の神、ミヤビ。
勇者に魔王が討伐──
多くの人々が、その祝賀に狂乱した。
そのとき、ひたむきに防具作りに向き合う男たちがいた。
王都、25軒の防具職人たち。
防具作りが、なにより好きだった。
挑んでいたのは、夢の防具──
ビキニアーマー。
女性冒険者の命を守る、防具革命だった。
しかし見た目はただの、布とヒモ。
こんなものに命は預けられないと、女性たちは言った。
男たちは、負けなかった。
針と糸と布を手に、集まった。
赤字を覚悟の、闇プロジェクト。
そこで出会った、運命の瞬間。
これは──
神託に翻弄されつつも、夢を諦めなかった防具職人たち、
執念の物語である。
『男たちの復活戦──ビキニアーマーに賭ける』
◇◆◆◇
「ま、でも? つまるところは布とヒモだろ? 結局は防具屋じゃなくて、仕立て屋の仕事になっちまったけどなw」
「おぅふ」
そう、ビキニ【アーマー】とはいっても、その見た目はただの布とヒモ。
ぜんぜんアーマーっぽくない。
「それでも神様からの神託の防具だろ? そりゃあ最初は防具屋にハナシが行くわなw」
「しんたく?」
「ああ、少年はそこからか。十ウン年前に魔王が討伐されて、しばらく経った日にな? 天界の女神【ミヤビさま】から、各地の主だった神殿にお告げがあったんだ」
「おつげ」
「ああ、それが、女性冒険者のための【加護】付きの防具だってハナシでな? 各神殿の神官たちの脳に、直接絵となって告げられたぞうだぜ」
「のうにちょくせつ」
それ、ぜったいにミヤビさまのシュミだ。
あの神さま、おくちでもしゃべれるのに……
「で、大あわてで防具屋にソレを作らせたら、それがあの布とヒモでできた【ビキニ】だったんだ」
「なんと」
「まぁ? 今となっちゃビキニは普通だけどなぁ」
「普通、なんですね」
「それでも、最初にソレに関わった連中は大騒ぎさ」
「ですよねー」
まるで下着みたいなものだし、さぞかしモメたんだろうなぁ
「でもな? 信者の中でも特に敬虔な神官たちのコトだ。これっぽっちも疑いもせず、それを女性冒険者たちにテストさせたんだよ。そしたらな? あのビキニ、もの凄いアイテムだったんだ」
「すごいアイテム?」
「ああ、まずな? ビキニアーマーを装着すると、それだけで常時、絶大な威力の魔法防壁がその身体を覆うんだ」
「まほうぼうへき」
「そんで物理耐性がガーっと上がって、【防御力】がメッチャ上がるんだよ」
「めっちゃあがる」
「ああ、ホントだって。しかもその防御力はな? 屈強な男性騎士の【盾役】クラスの防御力に匹敵するんだぜ?」
「なんと」
「それだけじゃなくてなぁ 魔法を使えるヤツは、その威力が倍になったってハナシだ」
(あっ パラメーターの【知力】が増えたんだ)
そして知力が上がるということで、魔法の威力もさらに強大になった。
つまり?
(ミヤビさまのいうとおり、貧弱だった女性魔法使いが【盾役なみの防御力の、すごい魔法使い】に、なっちゃったんだ)
「おかげでその加護は【本物】だ! って大騒ぎになってなぁ」
「おおさわぎ」
「ただこのビキニアーマーはな? そいつを服とか鎧で覆っちまうと、加護を失っちまうんだわ」
「おぅふ」
「だからその加護が欲しいなら、あの恰好で魔物と戦わなきゃいけないんだよ」
「えー」
「当然? 当時の女性冒険者たちはそりゃもう、檄おこだ」
「ですよねー」
『こんなハレンチな恰好で戦えっていうのっ?』
『ワタシたちを殺す気?』
ぼくにだって、そんな【おこ】な女の人たちの声が予想できちゃう。
「とまぁ、そりゃあもう大混乱がおきかけたんだが……そんな時、一部の【ガチ】のトップ冒険者の連中が、ソイツを試したんだ』
「おぉ」
「そしたらな?【超使える】と、結論が出ちまった」
「なんと」
あー、ガチの人たちなら【性能】が最優先だよねぇ。
性能のためなら、多少の見た目はガマンしちゃうのかも?
「んでな? そのガチの冒険者の連中は、さらにこうも言ったんだ」
『これは【中級】や【初心者】の女性冒険者こそ使うべきだ』
「ってな? そのすさまじい加護のおかげで、とにかく【死ににくくなる】からな」
「な、なるほど」
それはそうだよね。
初心者こそ、むしろ防具はいいものを選ぶべきだし?
「と、なると? そんなふうに、開き直ったオンナはとにかく強い」
「つよい」
「そこからは【死ぬよりマシ】【みんな着てるし?】ってなぁ そんな大義名分で、あっけなく普及しちまったってワケだw」
「たいぎめいぶん」
「しかもアレ、ぶっちゃけただの布とヒモだろ?」
「ですね」
「だから安くてすぐ手に入るんだよ」
「あー」
「もっとも初期の頃は、少しでも強度が欲しいってんで? 木や金属で作ってみたらしいんだけどなぁ」
「ダメでした?」
「【フツーに痛い】【重い】んで【メッチャ跡が残る】と超不評」
「おぅふ」
「おまけにそれで【加護】が増すワケでもなくてなぁ それ以来、ビキニはほぼ布で作られてるワケだ」
「な、なるほど」
そりゃぁ布だけで加護がつくなら、それで済ませちゃえばいいよねぇ
「でも加護は、どうやって付ければいいんですか?」
「ああ、いったん神殿に【奉納】するんだよ」
「ほうのう」
「神様に捧げることで【加護】を得るってワケだな。で、それをまた【授与品】として返してもらう時に、カネがかかるんだが」
「おいくらなんですか?」
「大銅貨2枚が相場だっていうから、防具としちゃ激安だな」
「ええと」
(日本のおかねでなら、2千円くらいなかんじ?)
なのでお兄さんがいうには? 買ったモノでなくても、自作したモノでも奉納さえすれば問題ないっぽい。
そして防具のお店や衣装のお店では【奉納済み】のものが買えるんだって。
「そんなワケで、女の冒険者はとにかく死ににくくなった。おかげで今じゃ男の冒険者顔負けで、あちこちで活躍してるよ」
「そう、だったんだ」
あの見た目はともかく、ビキニアーマーの性能は本物みたい。
そうでなけりゃ、あんなにみんな着てないだろうし?
「でだ、そこまで広まっちまうと、他の女連中も飛びつくワケだ」
「ほかの?」
「ああ、国軍の魔導師団や、宮廷魔導士なんかの連中だな」、
「それに城勤めの女騎士まで、ビキニアーマーを装備してるらしいぜ?」
「おんなきし」
「しかも戦うオンナだけじゃなくて、今はそうでないヤツまで着てる」
「戦わないのに?」
「ああ、なんでもビキニを装備してると、頭も良くなるんだってさ」
「あっ」
そっか、【知力】が上がるなら、それだけでも装備する意味があるんだ!
「だから研究者や商人とか、そういう連中も飛びつくワケだ」
「なるほど! でも、そういう魔物を討伐しない人だと、レベルがあがらないんじゃ?」
「お? よく知ってるなぁ そこはそれ、裏ワザってモノがあってなぁ」
「うらわざ?」
「【パワーレベリング】っていってな? 腕のたつ冒険者と一時的にパーティーを組んで、魔物を倒してもらうんだ。するとなにもせず、そこにいるだけで経験値が入るってワケだな」
「あー」
「もっとも? それじゃたいしてレベルも上がりゃしないんだが、それでも【入門者】から【初心者】くらいには上がるってハナシだぜ?」
「むぅ」
「ははっ ズルっぽいってか?」
「そうじゃ、ないですけど」
それはそれで、冒険者の人たちにはパワーレベリングのお仕事が生まれるし?
それに【初心者】止まりといっても、いざという時に魔物と戦える冒険者がとっても増えることになる。
神殿にとっても信者を増やすいい機会だし、奉納で入るお金もバカにならない。
「ああ、それからな? もうひとついいことがあったんだよ」
「いいこと?」
「お前さん、女の下着ってのは見たことあるか?」
「えと、ママのなら」
「そうか、まぁ少年のママさんなら美人だろうなぁw ともあれ、それまでの女の下着ってのはなぁ、そりゃあ色気がなかったんだわ」
「いろけ?」
「ああ、【ドロワーズ】っていってな? 膝丈のズボンみたいな、だぶっとしたヤツだったんだよ」
「あー」
アイナママやレイナちゃんも、そうなんだよね。
おっぱいの方も、やっぱり【だぶっ】としたチューブトップのブラ。
もちろんゴムひもなんてないから、普通のヒモを通して締めてるみたい。
「ビキニアーマーのおかげでな、変わったんだよ」
「かわった?」
「そ オンナの下着が、みんなビキニアーマーみたいなちっさいヤツに」
「なっ」
◇◆◆◇
そもそも、前世における【ビキニ】だってそうだ。
第二次世界大戦のちょっと後、マーシャル諸島の【ビキニ環礁】で、米軍が【原爆実験】をした。
そしてそれはたった1発の小さな爆弾で、圧倒的な破壊力を見せつけた。
(で、それに乗っかった人がいたんだ)
同じ年に、斬新な水着を作ったデザイナーが、その【小ささ】と【破壊力】を原爆実験に例えて──
(【ビキニ】って名付けて発表したんだ)
だから当時はすごい話題になったし、普通の女性が着るには、だいぶ勇気がいる水着だった。
(でも? いまじゃ、ねぇ)
どこのビーチでも、ビキニの女性はいっぱいいるし?
よほど面積のちいさなモノでないかぎり、もはや珍しくも何ともないフツーの水着になっちゃった。
(そしてこの世界でも、ビキニアーマーがひろまってからもう十数年、たってる)
十数年という時間は、もはや【ひとむかし】だ。
だから若い女性は、冒険者もそうでない人も、みんなビキニを着て歩いてる。
むしろ『え? 女子なのになんでビキニ着てないの?』
っていうくらいに──
(すっかりあたりまえに、なってしまっていたんだ)
◇◆◆◇
こうしてまとめてみると、みんな幸せになれて、Win-Winって感じ?
とまぁ、りくつではわかってる。
わかってる、けど!?
(このはだ色だらけのけしきが、ぜんぶぼくが望んじゃったことが原因だったなんてっ?)
「ちょっ ミヤビさまぁぁ! ちゃんと説明してくださぁぁぁぃ!」