011 じろじろ見ちゃうのは、マナー違反です
「いーなーっ いーなーっ」
「えへへ」
そろそろ夜が明けるかな? というそのころ。
ぼくとアイナママは、冒険者ギルドのある街、【ケストレル】に出発することになったんだ。
「もーっ クリスばっかりずるーいっ わたしもいきたーい!」
「レイナ、クリスは遊びに行くんじゃないのよ? それにあなたは一人前の歳になるまで、まだだいぶあるでしょう?」
「むぅ、そんなのわかってるもんっ」
とまぁ、出発の直前にレイナちゃんがゴネてるんだ。
でも? レイナちゃんの次のお誕生日まで、村から出ちゃいけない決まりがある。
なので今日はおるすばんをしてもらう事になってるんだけど……
「でもクリスは街にいけて、わたしはおるすばんでおしごとなんてっ やっぱりずるいわ!」
「レイナちゃん…… はっ?」
アイナママのほっぺが、ぴくぴくしてるっ?
これはマズいっ
アイナママが、【笑顔の威圧】を放つ5秒まえだ!
「ね、レイナちゃん?」
「にゃぁっ くくっ クリスぅっ?」
ぼくは、そっとアイナちゃんの手を、両手で包み込むように握った。
そしてじっとその瞳を見つめながら──
「ごめんね? ぼくも、レイナちゃんと一緒に行けないのはさびしいんだ」
「うっ うんっ」
「ご用がすんだらなるべくはやく帰るから、きょうはおうちでまっててくれるかな?」
「はっ はひっ!」
「ありがとう、大好きだよ レイナちゃん(ニコっ)」
「にゃぁん クリスぅぅ」
ふう、アイナママが怒る前に、なんとかなってよかった。
ん? おひさまが朝やけ、してるからかな?
レイナちゃんのお顔が赤いや~
「じゃあ行ってくるね? レイナちゃん」
「うん。気をつけてね? わたし……まってるから、クリスのこと!」
「ありがとう じゃあいってきまーす」
ぼくはレイナちゃんに手を振りながら、村の門に向かって走る。
でも? なぜだかアイナママが、困った笑みで見てるんだよねぇ
◇◆◆◇
「ねぇねぇ アイナママ あのお山はなんていうの?」
「あれはね、ビオス山よ。てっぺんに雪が積もって白いでしょう? あの雪はね、夏になっても溶けないのよ」
「すごいっ それって高いところだから?」
「ええ、そうよ。高い山に登れば登るほど、寒くなってゆくの」
「えへへ~ まえにアイナママに教えてもらったから」
「まぁ、クリスは賢いわね。ちゅっ」
そういうと、アイナママはぼくにキスしてくれる。
こんなごほうびがあるなら、いくらでもお勉強できちゃう~
「それにしても、いいお天気で良かったわ」
「うんっ きょうはポカポカしてあったかいし」
「そうね、でもあまり風にあたると身体を冷やすから……クリス? こっちにいらっしゃい」
「うん、アイナママ」
今日もアイナママは、女性神官の神官服を着ているんだけど、そのベールはマントみたいに長くて、けっこうあったかい。
だからぼくはアイナママのおとなりに、身体をくっつけて座る。
そしてそのベールの中に、一緒にはいっちゃう。
「えへへ、あったかいね」
「うふふ、クリスは甘えんぼうさんね」
「カラダを冷やさないためだもーん」
「あら、うふふっ それもそうね」
そんなふうにぼくたちは、きゃっきゃうふふと、おたがいを抱っこする。
アイナママの握ってくれた手が、とってもぽかぽかとあったかかった。
◇◆◆◇
(あとどれくらいかな? 【万物真理】?)
パッ!
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現在移動中:【自宅】から【ケストレル】
67% 終了 速度:08km/h
残り時間:約 53分
現在時刻 06:41 詳細情報の表示▼
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これが現代日本なら、腕時計かスマホを見るトコだけど、もちろんないし?
それどころかこの世界には、まだそれぞれのおうちにカレンダーも時計もない。
(あと50分ちょっと…。んふふっ、べんり)
そして【万物真理】の時計とカレンダー機能をみて、改めてわかったことがある。
(この世界って、地球と時間と暦の進みかたが、一緒なんだ)
勇者だったときは、やることがいっぱいあったから深く考えなかったけど?
時間や日付というのは、地球の回るスピードとかから計算したもの。
だから、それがまったく同じということは──
(ここは日本のある地球と同じ星の【異世界】ってこと、だよね?)
まぁ? それが判ったところで、どうということもないんだけど。
ともあれこの世界でも、60分で1時間で、24時間で1日だし?
そして12ヶ月で1年なのも同じ。
(そういう意味では、日本の記憶のあるぼくには便利だけどね~)
そしてぼくのステータスさんによると、うちの村からケストレルの街まで、この荷馬車のはやさでだいたい2時間半ちょっと。
でも、道は舗装なんてされてないし、穴ぼこだらけだからすぐに遅くなる。
だから乗りごこちはかなりビミョー。
だけど、
(アイナママとこうしてふたりでくっついてお話しできるから、ぜんぜん気にならなかったり~)
だから──
コトコト揺れる馬車の旅も……悪くないと思った
◇◆◆◇
「んー、やっぱりおしり、痛いかも」
荷馬車からおりて、ぼくは自分のおしりをナデナデする。
歩かなくて楽ではあったけど? ずっと座ってたから、おしり痛い。
「うふふ、クリスはお尻のお肉が薄いのかしらね」
「むぅ、そりゃぁアイナママにくらべれば、ちっちゃいもん」
「まぁ、ママのお尻が大きいっていうのかしら?」
「やぁん♪」
アイナママはそんなぼくに、おしりをえいっとぶつけてきた。
ぼくも負けずに、おしりをぶつけ返しちゃう。
「さ、じゃあ行きましょうか」
「うんっ」
荷馬車に乗せてくれた村の人にお礼をいって、また帰りに乗せてもらう約束をする。
ちなみに街に入るには、ホントはひとりひとり手続きがあるんだけど……
アイナママとその連れのぼくたちは、ほぼ顔パスでした
(うーん、やっぱりアイナママはすごいなぁ)
そしてアイナママとぼくは手をつないで、初めての街の中へ入るのでした
◇◆◆◇
ぼくの住む村もそうだけど、この世界の街はぐるりと壁で囲まれている。
魔物が街に入り込むのを防ぐためだ。
(まぁ、ぼくの村と大きさはぜんぜんちがうけどね~)
そんな街の中心にあるのは、たいてい神殿です。
それは、神官による防壁が張られているからなんだ。
そしてその神殿を中心に、放射状に道ができるのがよくあるパターン。
(で、人が増えて街がおおきくなると……)
壁の外に建物が増えて、ひとまわり大きな街になる。
するとそれまでの古い防壁はとり壊されて、そのまま街の中の環状道路になったりする。
(んー、勇者時代にいろんな街に行ったけど? だいたいどこの街もそんなカンジだね~)
でもそれは、あくまで十数年前の記憶でしかない。
いまのぼくとして見るこの街は、とにかく珍しいモノでいっぱいだ。
(あっ あの髪かざりはカワイイな。レイナちゃんににあいそう おこづかいで買えるかな? あぁっ こっちのくだものもよろこびそう♪)
なーんて、見るものすべて楽しくてしかたない。
それに……
「おぉっ 聖女アイナ様だ!」
「ホント? あぁっ お美しいわぁ」
アイナママに気付いた人たちが、みんな嬉しそうにこっちを見てる。
なかには深々と頭を下げて、感謝の言葉をいう人までいた!
そしてアイナママは、そのつどニッコリと微笑みかけるんだ。
(すごいっ やっぱりアイナママ、みんなに大人気)
そう思うと、ぼくはとってもお鼻が高い。
だけど?
「あらっ アイナさまの連れているコも、すっごくカワイイ」
「きっとあの子、アイナ様のお嬢様よ!」
「うふふ 今日は男のコみたいな恰好なのね。でもカワイイ~」
なんて、ききづてならないセリフが聞こえる。
むぅぅぅっ!
(ぼく! 男のコなんですけどっ?)
◇◆◆◇
「なな、な」
ぼくは、すごいショックを受けていた。
最初は、なにかの間違いかと思った。
「あ、あぁぁ」
けれど、それは人が増えてゆくごとに、【事実】として認めなくてはいけないと知った。
「ね、アイナママ?」
「あら、クリス? どうかしたかしら?」
「あの、あのひとたち──」
「あの人? ああ、あの女性冒険者たちのことかしら?」
「う、うん」
それは、およそ10代後半に見えるふたりの女性冒険者だった。
(ひとりは、剣士だよね?)
細身の剣を腰に下げ、両腕と両脚を丈夫そうなレザーアーマーで堅めている。
手に抱えているのは兜かな? あと赤いショートマントが格好いい。
(そしてもうひとりは、魔法使い)
つば広のとんがり帽子に自然木の杖は、いかにも元素魔法使いっぽい。
こちらも丈夫そうな革のブーツに、同じく革のロンググローブを着けてる。
「あら、あのふたり」
「う、うん」
「クリスは、ああいうコたちが好みなのかしら?」
「なっ? ちがっ──」
「はいはい、レイナにはナイショにしてあげるわ」
「ちょっ?」
「でも、あまり女性をじろじろ見ちゃダメよ? マナー違反ですからね」
「マナーいはん?」
「そうよ? とくに【ビキニアーマー】を装備している女性は」
そういうとアイナママは、神殿の人に声をかけられて立ち話をしはじめた。
でも? ぼくはとてもじゃないけど、なっとくできない!
(しかもあれっ アーマーっていうよりっ ただの【布の三角ビキニ】だよねぇっ?)
そう、この街の女性冒険者の【ほぼ全員】が装備している防具。
腕や脚、そして頭部こそ、鎧やブーツで覆ってはいるけれど?
そのボディはほぼ、肌も露わな三角ビキニしか身につけていなかった。
(まさかミヤビさまの【守りの加護】って、アレなのっ?)
あ、あはは……
ちょっと考えれば、わかることだったんだ。
加護を与えてくれたのは、だれだっけ?
そう、【あの】ミヤビさまだ。
そしてそのファッションセンスは──
(やっぱり【露出女神さま】だったぁぁぁっ?)