001 ぼく、交わっちゃいました
はじめまして。
ユル~いココロで読んでいただければ幸いです。
気がつくと、そこは真っ白な世界だった。
「ここはあの世か? そうか……やっぱり俺は死んだんだな」
異世界──
ごく普通の日本の高校生だった俺は【勇者召喚】され、そしてついに魔王との最終決戦に挑んだ。
しかし苦戦の末、従者の3人は戦闘不能に。
俺はそんな従者たちを転移アイテムで逃がし……
そして、魔王と差し違えて相打ちとなった。
「世界と大事な人達を守れたんだ、悔いはない……ただ」
従者にして恋人であった聖女には、幸せになって欲しい──
そう願った。
◇◆◆◇
突然──声が聞こえた。
『……きこえますか……異世界の勇者よ……』
「なっ こいつ、直接脳内にっ?」
『……異世界の勇者よ……わたくしの姿が見えますか?』
そして目の前に、女性がひとり現れた。
『……わたくしは、あなたの心の中に現れる……時の流れを旅する女神……』
「め、女神様?」
その女神様は……
まさに神がかった美貌の妙齢の女性で、柔らかにウェーブする桜色とも金色とも見える足首まで伸びた髪。
顔立ちは穏やかで、どこか母性を感じさせる豊満なナイスバディ。
──なのに。
「ちょっ なんて恰好してるんですかっ」
『……は? なんて恰好……と言われましても、これは神具【風花の羽衣】……ですがなにか?』
「羽衣には違いないでしょうけど……いや それじゃなくってですねっ」
その女神様のいでたちは──
「それって限りなく、全裸ですよね?」
『いえ……ですから羽衣を纏っていますが?』
「いやだからっ なんでその羽衣でっ 乳首と股間しか隠してないんですかっ」
【みてみんメンテナンス中のため画像は表示されません】
その手には背丈を超える長さの金の杖を持ち、両の手首と足首に金環をつけてはいるものの、他はほぼ全裸。
かろうじて乳首と股間だけは、フワフワと宙に浮かぶ羽衣をリング状のアクセサリーで留めて(?)隠している様なのだが。
『異世界の勇者よ……それは誤解です』
「誤解、ですか?」
『はい……わたくしが羽衣で覆っているのは……乳首と股間ではありません』
「そうなんですか?」
『覆っているのは……乳頭と、陰核だけ……ですがなにか?』
「もっとヒドかった!」
いやいや、神様のすることだ。
コレにもなにか理由がある──のか?
「ええと、では他の神様たちも、そんな恰好で?」
『………………(ふいっ)』
「なんで目を逸らすんですか?」
『うちはうち、よそはよそ……そう教わりませんでしたか? 異世界の勇者よ』
「オカンみたいなコト言いはじめた」
とはいえ女神様自身が見ていいと言ってるんだ!(※言ってません)
(だったら見ちゃうぞっ ガン見しちゃうぞっ!)
俺が決心して、そのお姿を目に焼き付けようとしたら──
『異世界の勇者よ……いまはわたくしの装束よりも、伝えねばならないことがあります』
「そうでした! やっぱり俺は死んだんですか?」
『……はい あなたは魔王との戦いで命を落とし……』
「ぐっ」
『この世界……あなたの言うこの【異世界】に……転生をしたのです』
「………え?」
◇◆◆◇
女神様の説明によると、あの魔王との戦いの後、すでに十数年が経っているとの事。
そして俺は王都から離れた小さな村に転生し、とある【少年】として暮らしているらしい。
の、だが──
『異世界の勇者よ……あなたは誕生日を迎えたその晩に……高熱を、出したのです』
「高熱? それって……」
この世界の医療レベルは限りなく低い。
故にちょっとした風邪でも簡単に、ヒトは死んでしまう。
『はい……高熱によって死にかけて……その意識が失われつつあります』
「なん、だと」
転生したのにもう死にかけてるとか。
「やっぱりココは、あの世なのかぁぁぁっ」
『落ち着いてください、異世界の勇者よ……あなたは死んでいません』
「えっ ホントですか?」
『はい……しかし、その【少年】としての意識は一意的に失われ……』
「………………(ごくり)」
『その深層に残っていた前世の記憶を……取り戻してしまったのです』
「前世の記憶?」
すると女神様はどこからか、俺の目の前に大きな鏡を取り出した。
そこには魔王決戦時の装備のままの勇者──俺が映っていた。
(そもそも、俺が転生してその【少年】になったワケだから? その【前世の記憶】って──)
そうだ、さっき女神様も言っていた。
『魔王との戦いの後、すでに十数年が経っている』と。
「もしかして、この【俺】そのものが、前世の記憶?」
『はい……そして記憶は混じり合ってしまい……もう元には戻せないのです……』
辛そうな憂い顔で、女神様が言う。
記憶がふたつ? 混じり合う? それってどういう──
ますます混乱は収まらない。
『ごめんなさい……これはすべて、わたくしの責任……です』
「えっ?」
『わたくしは……人界の出来事に、直接の干渉ができないのです……だから、せめて……』
「め、女神様?」
女神が、俺の額にそっと指で触れる。
すると俺の意識の中に、どっと奔流が流れ込んできて──
「うわっ なんだこれ! えっ あぁぁぁっ!」
『落ち着いてください、異世界の勇者よ……あなたはひとつになるのです』
「かはっ ひ、ひとつ……に?」
『はい……』
その奔流は、いわゆる俺の現在の記憶──この世界に転生した、【少年】としての記憶だった。
それがいま、俺の中でひとつになろうとしている。
「ああ、そうか……俺は── ううん、ぼくは……」
永遠に続くかと思われたその一瞬で……気付けば、ぼくの身体は勇者の姿から、少年の姿になっていた。
「ぼくは……クリス」
背は縮み、140センチくらいに。
手足はすらりと細く、かなり脂肪薄めではあるが健康そうな身体つき。
腰まである長い髪は黒く、首の後ろで結んでいる。
そしてその顔つきはまるで、女の子みたいで──
「ぼく、思いだしました。ぼくが元日本人で、勇者だった時のこと」
『あぁ、よかった……異世界の勇者よ、あなたが無事で……』
記憶が──研ぎすさまれて、整ってゆく。
人格も、前世日本人の記憶を持った【この世界のぼく】のモノになったみたい。
だけど……
「女神さま。でもぼくは、これからどうなるんでしょうか?」
『勇者としてのあなたは、もう死んだのです……しかし』
「しかし?」
『あなたの戦いによってまた、魔王も滅びました……世界は救われたのです』
「そう、ですね」
また勇者をやる、というわけではないみたい。
でも、まだ混乱は収まらない。
けれど、いまはとにかくぼくが無事であることを、ぼくの大切な人に伝えたい。
ぼくを育ててくれた、あの優しくて心配性の──
「女神さま。じゃあぼくは、助かるんですか?」
『異世界の勇者よ……あなたはいま、現世の母の治癒魔法によって……回復に向かいつつあります』
「えっ ママが?」
『ええ……彼女は相当に無理をしたようですね……しかし、それは報われました』
「そうでしたか、ママが── って、あぁぁぁぁぁっ?」
という事は……ぼくは、ぼくのママは──
「女神さまっ その、ぼくのママって──」
しかし、ぼくのセリフは遮られ、女神さまは満足げに微笑んだ。
『異世界の勇者よ……魔王を討ち、世界に平和をもたらしてくれた事……ほんとうに感謝しています』
「ちょっ 女神さまっ」
『では……あなたの新しい人生に、幸いあれ──』
「おねがいだからっ ぼくの話をきいて~~~っ」
しかし、女神さまの姿はまぶしく光り──
そして視界が暗転した。
◇◆◆◇
「………………ん」
ふと目をさます。
と、そこには──ぼくの開いた目を覗き込む、
大粒の涙を零す、メガネをかけた女性のお顔が。
「アイナ……ママ?」
「よかった! 気がついたのね」
「むぎゅうっ」
ぼくのお顔に押しつけられたのは……おっぱいだった。
それも、なぜか肌も露わなビキニのおっぱい。
そんなビキニのおっぱいにお顔をうずめる格好で、アイナママに抱きしめられる、ぼく。
(って、ビキニっ?)
「ああ、熱も少しは下がったみたいね」
「う、うん」
「でもいまは、もう少しお休みなさい? わたしの可愛いクリス……ちゅっ」
そういうと、アイナママはぼくのほっぺにキスをする。
その瞳になみだをためた笑みに、きゅっと握られたその手に──ぼくの心はぽかぽかと暖かくなる。
「アイナ、ママぁ……ぼく──」
「おやすみなさい……クリス、良い夢を」
そしてまた、ぼくはそんな優しいアイナママのぬくもりに包まれて──
ここちよい夢の世界に、誘われたのでした。
◇◆◆◇
「……ん、朝?」
まぶたに感じる眩しさに、ぼくは目を覚ます。
そして、その横には──
「すぅ すぅ」
ぼくを看病しつつ、うたた寝をしているアイナママがいた。
その姿は、いつもの女性神官の服。
腰まである明るいブラウンの髪はまっすぐスベスベで、そのお顔にはアンダーリムのメガネをかけてる。
そしてちょっと垂れ気味なやさしい目は、今は閉じられて眠ってるみたい。
「ゆうべのあのかっこうは──夢、だったのかなぁ ……ううん、それよりもありがとう、ぼくを救ってくれて」
それは祈りによって神の奇跡を発動させる【神聖魔法】による癒やし。
アイナママは、その神聖魔法のすごい使い手なんだ。
「でも、ぼくに前世の記憶が混じっちゃったことで、まさかこんなコトにぃっ」
そう、アイナママは【慈愛の聖女】の名を持つ、高位の神聖魔法の使い手。
そして、かつての勇者の従者にして、恋人でもあった【聖女アイナ】。
あのやせっぽちな少女だった聖女は、とても美しいオトナの女性に成長し──
「どうしてぼくのママになってるのぉっ?」
今日はあと2回、更新します~






