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8.悪くない気分だ

 ぐぅ~

 大きくお腹の虫が鳴いている。

 僕ではなく、鳴いていたのはイルのお腹だった。


「ご、ごめんんさい……そういえば朝から何も食べてなかった」

「ううん、僕もお腹が減ったし、何か食べに行こう」

「そうだね。でもその前に」


 イルの視線は下へ向く。

 転がっている三人の死体を、このまま放置は出来ない。

 見つかれば大騒ぎだ。


「燃やしておこう」

「うん」


 イルの提案に頷き、僕は彼らの死体に手をかざす。


霊炎(ウィルオウィスプ)


 彼らの死体を青い炎が包み込む。

 霊炎(ウィルオウィスプ)

 死神が扱える特殊な青い炎。

 魂の色と同じだけど、霊炎の青は魂よりもずっと濃い。

 霊装と同じように燃やす対象を選べたり、形を自由に変えられるとても便利な力だ。


 死体が燃え尽き、足元がスッキリした。


「これでよし」


 さて、現在の時刻は深夜の二時。

 この時間だと、酒場もほとんど閉まっているだろうな。


「宿屋の台所を借りようかな」

「え、私料理とかできないけど……」

「大丈夫、僕が作るから」


 宿屋へ移動し、台所を借りて簡単な夜食を作った。

 宿屋の主人が気前の良い人でよかったよ。

 台所と一緒に、余っている食材も使って良いと言ってくれた。


「美味しい! すごく美味しいよ!」

「それは良かった」


 美味しそうに料理を頬張るイルを見て、何だか嬉しくなる。


「料理も出来るなんてすごいね」

「別に凄くないよ。一人で生活している間に、自然と覚えただけだから」


 冒険者という職業は安定しない。

 加えて僕に入ってくる報酬は微々たるものだった。

 お店で食べるより、自分で作る方が安いという世知辛い理由で身につけたに過ぎない。


「十分凄いよ。私も一人で生活してるけど、料理は全然だし……お金もないから、そもそも料理する食材もなかったりとか……」

「そ、そうなんだ。何だか大変そうだね……でも意外だな。死神もお腹が減るんだね」

「うん。冥界にいる間は平気だけど、現世にいる間は現世のルールに従うの。お腹も減るし、眠くもなるよ。だから、生活していくための資金集めも大事なんだよ」

「資金集めか。それって支給されたりしないの?」


 イルはごくんと飲み込み、首を振る。


「基本はされないよ。生活するためのお金は自分たちで集めるんだ。私みたいな平死神は、冒険者として活動してる人が多いかな? 役職もちの死神は一か所に留まるし、自分のお店を持ってる人もいるんだよ」

「へぇー、イルも冒険者だったんだ」

「うん。平死神には相性良いしね! でも依頼を受けたりは大変で、生活するだけで一苦労だよ」


 イル曰く、生活資金集めに必死で、本来の役割である魂を探すことが疎かになりがちだと言う。

 ヘリメイア様が言っていた成績がよくないという話も、こういう部分から来ているのかもしれない。


「はぁ……このままだと一生平死神のままだよ」

「落ち込まないで。今日から僕も手伝うから、一緒に頑張ろう」

「うん……ありがとう」


 成績の良い死神には役職が与えられる。

 イルのように、担当区域を持たない者は一般死神。

 【地区長】の役職者は、ヘルメイア様から担当区域が指定され、その区域内にいる他の死神を指揮する権利が与えられる。

 そして地区長の上には、東西南北と中央に分かれた五つの地方を統治する【統括】が存在する。


「目指せ地区長だね」

「うん! 地区長になれたら、私もみんなに認めて……」

「イル?」

「な、何でもないよ! ウェズも食べないと! 私が全部食べちゃうよ」


 イルは思い出したかのように料理を口に運ぶ。

 こうして誰かと一緒に食事をするのは久しぶりで、僕は感慨に耽っていた。

 

 ふと、思うことがある。

 僕は数十分前に、良く知る人物を殺した。

 正確には罪人となった魂を地獄へ送った、だけど……結局は同じことだ。

 人を三人、この手で殺したんだ。

 だというのに、今の僕は何も感じない。

 美味しそうに食べるイルを見て、微笑ましさすら感じる。

 とても穏やかで、落ち着いている。

 死神の力を得たことで、僕の心は変わってしまったのだろうか。


 いいや、たぶん違う。

 あの時、薄れゆく意識の中で、僕は二度と他人を信じないと誓った。

 裏切られ、見捨てられて、張り詰めていた糸が切れたんだ。


「ウェズ?」

「イル、僕を助けてくれてありがとう」

「きゅ、急にどうしたの?」

「どうもしないよ。ただ、もう一度ちゃんとお礼が言いたかったんだ」


 僕はもう人間じゃない。

 人間としての僕は、あの場所で終わったんだ。

 今あるのは、二度目の人生と言っても良いだろう。

 そして、今の僕には役割があり、出来ることがある。

 役立たずと罵られ、雑用ばかりさせられる日々は終わったんだ。

 今日から、新しい生活が始まる。 

 そう思うと悪くない。

 死神として生きていくことは――僕にとって地獄からの解放に等しい。


二作目の新作異世界ファンタジーを投稿しました!


『成果ゼロダンジョン探査団の逆転劇 ~クビ宣告を受けて最後に臨んだダンジョンには古代文明が眠っていました。餞別として見つけた物は全部くれるって言ったよね? やっぱり返してほしい? 答えは当然ノーです~』


ページ下部より移動できます。


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