7.腹が減る
現世へ戻る前。
僕はイルに、死神の力の使い方を教わった。
「最初に霊装について教えるね」
「それなんだけど、さっきの大剣ってどう出すの? 手に持ったら消えちゃって」
「霊装は自分の魂に収納されてるんだよ。出し方は簡単! 武器の形をイメージして、出て来いって念じるだけ」
武器の形をイメージして……念じる。
言われた通りにやってみると、目の前にヘルメイア様から貰った大剣が生成された。
「本当だ」
「でしょ? この霊装で魂を斬ると、青い魂は冥界へ、赤い魂は地獄へ送られるんだ。それと霊装は斬る対象を選択できるんだ。例えば魂だけを斬ったり、岩だけを斬ったりとか」
便利な機能だなと思った。
それとタイミングを同じくして、魂について疑問が生まれる。
「紫色の魂をした人もいるけど、あれは何なの?」
「あれは罪人になりかけてる魂だね。罪ってほどでもないけど、ちょっとした悪いことを繰り返したりすると、青い魂に赤い魂がまじりあって紫になるの。紫色になっても、その人が罪を悔い改めて、ちゃんと直せば青く戻るよ。だから紫色は冥界だね」
「なるほど」
紫色は危険信号で、赤色は超えてはいけないラインを超えた者。
という認識で正しいようだ。
つまり彼らも、僕を見殺しにすることで、そのラインを超えてしまったわけか。
「ならモンスターの魂は? あれも赤いし、地獄へ送られるの?」
「うん。でもモンスターと人間の魂は、同じ赤色でも違うよ」
「違うの?」
「全然違うよ。具体的には、生まれた場所とサイクルが違うの」
イルは詳しく説明してくれた。
それを簡単にまとめると、人間の魂は冥界で生まれ、現世に戻るのに対し、モンスターの魂は地獄で生まれるらしい。
最初から赤い魂として生まれ、現世でモンスターに宿る。
人間の場合は、青い魂が罪を重ねると赤く染まる。
だから人間の赤い魂は、紫色の部分が混じっていたり、少し黒く濁っている。
「でも結局、モンスターの魂も赤いよね? だったら僕たちはモンスターも狩らないといけないの?」
「ううん。モンスターは無理に刈らなくてもいいよ。あ、でも地獄へ行かず漂ってるモンスターの魂はちゃんと送ってあげないとね」
現世で死んだ生き物の魂は、通常そのまま冥界か地獄へ行く。
ただし現世に未練があったり、何らかの理由でとどまってしまう魂がある。
魂を放置し続けると、周囲によくない現象を引き起こしたり、最終的には消滅してしまうそうだ。
そうなる前に死神が見つけて、送り届ける必要がある。
「もし消滅したらどうなるの?」
「言葉通り消えるんだよ。二度と現世で生まれなおすことも出来ない。そうなると、魂のバランスが崩れかねない。だから罪人を見つけるより、漂ってる魂を見つけるほうが最優先なんだ。ここまではわかったかな?」
「うん、何とか」
「じゃあ次は霊印だね」
僕は自分の右手の甲に視線を向ける。
ヘルメイア様に触れてもらって浮き上がった紋様を霊印と呼んでいた。
「霊印にはヘルメイア様から授かった力が宿っている。死神個人が持つ特殊能力みたいなもので、私の場合は――」
説明しながら、彼女は霧のように消える。
消えたと思ったら霧が集まって、フクロウの姿に変身した。
「『猫鳥変化』。フクロウに変身できるんだ」
「本当にあの時のフクロウだったんだ」
「うん!」
イルは元の姿に戻る。
「ウィズの能力は?」
「僕のって言われても……どうやって確認するの?」
「自分の霊印に聞いてみるといいよ。目を瞑って、霊印に宿った力を感じるの」
僕は目を瞑り、意識を霊印に集中する。
宿った力を感じ、その名を知る。
「――『霊王』」
「霊王? それが能力の名前?」
「うん。たぶん」
「霊王……どんな能力なの?」
「えっと――」
僕が能力を説明すると、彼女はひどく驚いていた。
「凄いよウィズ! そんな能力聞いたことない!」
「そ、そうなの?」
「うん! そんなことできるの、ヘルメイア様だけじゃないかな?」
そんなにすごい能力なのか。
イマイチまだぴんと来ないけど。
「実際に使ってみればわかるのかな」
「うん。練習しないとね」
そうして、イルからレクチャーを受けた僕は、晴れて現世に帰還した。
現世に戻って最初にやることは、もう決まっている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ふぅ」
目の前にはかつての仲間が倒れている。
赤い魂は地獄へ送られた。
「お疲れさま、ウィズ」
「イル……」
「大丈夫だった?」
「うん。怪我してないよ」
「そうじゃなくて、辛くなかった?」
イルが心配しているのは、僕の心のほうだ。
仲間の魂を刈り取って、心が傷ついていないのか。
「辛い、のかなって最初は思ったよ。でもあんまりかな。散々酷い目にあわされたし、同情とかもないよ」
「そっか。じゃあスッキリした?」
「それもあんまりかな」
スッキリもしないし、悲しくもない。
何とも思わない。
彼らの死体が転がっている中で、僕が一番思っていることは……
「お腹減ったよ」
他愛もない欲求だった。
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そして明日の正午にもう一作投稿します!
どちらも区切りまでは書き終わってるので、更新はご心配なく。
あとは皆さんの心に響くかどうか。
響いてくれ……というか穿て!