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4.死神代行

 吹き飛ばされた衝撃で頭から血が流れている。

 血が目に入り、視界がほんのり赤い。

 その中でもハッキリと見えた。

 僕を見捨てた彼らの魂が、濁った紫から赤色に変わる瞬間を。

 まるでモンスターみたいな魂の色だった。

 ピッタリだと思う。

 僕を散々雑用として使い古し、簡単に切り捨てて、自分たちだけ逃げたんだ。

 あんな奴らが、自分と同じ人間だなんて思えない。

 仮にあれが人間なのだとしたら、僕は人間を止めたくなる。


「ぅ……っ、あーあ……」


 ここまでか。

 出血は止まらず、骨も折れて動けない。

 何よりもう、立ち上がる気力すら湧いてこないよ。

 裏切られて、捨てられて、本当に散々な最後だ。

 良いことなんて何もない。

 もしも来世があるのなら、その時は……他人なんて信じない。


 意識が薄れ、命の終わりが近づく。

 そんな僕の前に、ヒラヒラと舞い落ちる一枚の羽。

 

 フクロウの……羽?


 そういえば、出発前にフクロウを助けたんだっけ。

 もしかして恩返しにでも来てくれたのかな?

 って、そんなわけないか。


 意識がもうろうとして思考が止まりかけている。

 僕の前には、一羽のフクロウが止まった。

 そのフクロウは形を変え、人の姿になる。

 小柄なその人は、自分より大きな鎌を振り回して――


「だ……れ?」


 途中で意識が完全に落ちてしまった。

 僕はこうして、死を迎えたんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 暗くて、寒い。

 真っ暗な海底に沈んでいくような感覚が襲う。

 そうか、僕は死んだのか。


「そうね。でも半分よ」


 半分?

 半分ってどういう意味だろう。


「それを知りたければ、目を開けなさい」


 その声に従って、僕は目を開ける。

 最初に飛び込んできたのは、可愛らしい女の子の瞳だった。

 宝石みたいにキラキラしていて、髪と同じ黄色。

 

「良かった」


 彼女はほっとしたように微笑む。

 さっきまで聞こえていた声の主ではないようだ。


「君は……」

  

 誰だと聞く前に、別の疑問が飛び込んできた。

 彼女の後ろに見えるのは空だ。

 ただ、僕が知っている空とは違う。

 色が紺色だとか、月がないとか、星がないとか。

 出せばいくらでもあるけど、感じられる雰囲気が違う。

 そして何より、寒い。


「ここは冥界。死せる魂が帰り、再び現世へ戻るための場所よ」


 さっきの声だ。

 僕は徐に起き上がり、声が聞こえたほうを見る。

 そこには美しい女性が座っていた。

 空と同じ紺色の長い髪に、透き通る白い肌。

 黒いドレスのような服に身を包み、その様はまるで……


「……女王」

「あら? よくわかったね」

「え?」

「私はヘルメイア。この冥界を管理する女王よ」


 冥界の女王……ヘルメイア?

 初めて聞く言葉の数々に混乱して、僕は声もでない。

 ただ、冥界という単語から、一つの結果だけは理解した。


「そうか……やっぱり僕は死んだのか」

「ええ、半分ね」

「半分? さっきそう言って」

「正確には死にかけね。瀕死だったあなたを、そこにいるイルカルラが助けて、そのまま冥界まで逃げてきたのよ」

「イルカルラ?」


 黄色い髪の女の子。

 彼女が僕を助けてくれたのか。


「普通はダメなのよ? 死んでない魂を肉体ごと冥界へ連れてくなんて。他の子たちに見つかっていたら、間違いなく批難されていたわね」

「ご、ごめんなさい……」

「いいわ。それはさっき散々注意したものね」

「あ、あの……どうして僕を?」


 色々と疑問はある。

 なぜダンジョン内にいたのか。

 あのゴーレムからどうやって助けたのか。

 でも一番聞きたいのは、助けてくれた理由だった。

 僕と彼女は初対面だ。

 口ぶりからして、僕を助けることは彼女にとってリスクある選択だったように思える。


「それは……貴方が私を助けてくれたからです」

「助けた?」


 記憶にない。


「はい。路地に倒れていたフクロウを覚えていますか? 実はあれ、私なんです」

「え、フクロウが?」


 ゴーレムに倒された後も、フクロウの羽が見えた気がする。

 彼女が助けたというのなら、話は繋がる。


「私、ドン臭くて……あの時もうっかりモンスターに襲われて、怪我をしてしまったんです。そんな私を貴方は助けてくれた。優しい言葉をかけてくれた。それに……」


 彼女は僕の胸を見つめる。


「そんなにきれいな魂を見たことがありません。きっと優しい人なんだと思いました。だから恩返しなんです」

「恩……返し」

「はい!」


 たったそれだけのことで、僕を助けてくれたのか。

 危険な敵を前にして、リスクを冒してまで。

 そう思うと、なぜか僕の瞳からは涙がこぼれていた。


「ど、どうしての? まだどこか痛むの?」

「違うよ。ただ……嬉しくて……ありがとう」


 細かいことは考えなくて良い。

 今は彼女への感謝で胸がいっぱいになった。


「ど、どういたしまして……先に助けてもらったのは私なんだけどなぁ~」


 彼女は照れながらそう言う。

 そして、空気を読んでいた女王様が口を開く。


「さて、ここへ至るまでの話はわかったわね? それじゃここからは今後について話してもいいかしら?」

「今後?」

「ええ。まず結論だけ伝えましょう。あなたはまだ死んでいない、でもこのまま現世に戻ればすぐ死ぬわ」

「え……」

「当然でしょ? 現世のあなたは瀕死の重傷を負ってるのよ。その状態へ戻るということはすなわち死を意味する」


 それじゃ……助けられた意味もないじゃないか。

 ただの先延ばし、後回しだ。

 結局僕は死ぬのか?


「安心しなさい。あなたには選択肢があるわ。このまま戻って死ぬか、死神になって冥界のお仕事を手伝うか、ね」

「し、死神?」

「言ったでしょう? ここは冥界、死者の魂が送られる場所よ。ほら、周りに青い炎が見えるわよね? あれは全部人や動物の魂よ」


 周囲を照らしている青い炎。

 見覚えのある炎は、生きていた者の魂だったらしい。


「見覚えがあるでしょう? その眼……魂を見る眼は本来、冥界の死神しか持っていないはずなの」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。でもあなたは持っている。だから、あなたには死神になる素質があるの」

「死神に……」


 隣にいる彼女、イルカルラも死神なのだろうか。

 そういえば薄れゆく記憶に、大鎌を振り回す小柄な誰かがいたような……


「さぁ早く決めて。あまり時間がないのよ」

「え、そんな急に言われても」

「簡単なことよ。あなたは、このまま死んでも後悔しない?」

「それは……」


 そんなの考えるまでもない。

 後悔するに決まってる。


「わかりました。生き残れる方を選びます」

「決まりね。あなたは今日から死神――いいえ、死神代行よ」


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