表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/16

16.僕たちは死神だ

 霊印には能力が付与されている。

 イルのフクロウへ化身する力のように、能力は個人の特性によって異なる。

 俺の能力の名は『霊王』。


 その力は――


「刈り取った魂を使役する。それが僕の……霊印に刻まれた能力だ」

「魂の使役だと?」

「そう。この狼たちは、僕が殺したウルフの魂をウィスプの炎で肉付けしたものだよ。ほら、胸に赤い魂が宿っているのが見えるでしょう?」


 僕は魂をストックできる。

 本来、刈り取られた魂は冥界か地獄へ送られるものだが、僕の能力はそれをコントロールしている。

 そして、自らに従順な僕として、彼らの魂を行使できるんだ。

 めぐる前の魂には、宿っていた頃の形状が記憶されている。

 ウィスプの炎はその形を再現している。


「これで、数の不利はなくなったよ」

「……なるほどなぁ~ だったらこれで勝負を決めようぜ」


 ガーベルトは剣を生成する。

 イルが言っていた。

 彼の剣は、刈り取った魂の一部を寄せ集めて作られた霊装擬きであると。

 奇しくもそれは、僕に与えられた霊装と似ている。


「つくづく嫌な気分だ」


 僕はそうぼそりと呟き、大剣を取り出す。


「いくぜぇ!」


 ガーベルトが地面を蹴る。

 すさまじい速力で接近し、怒涛のような連撃を加える。

 それらすべてを躱し、受け流し、反撃する。


「はっは! やるなてめぇ! この動きについてこられるとはよぉ!」

「それはどうも」


 彼に褒められても嬉しくないな。

 それに、僕が凄いんじゃなくて、この大剣が凄いだけだ。

 この霊装は、冥界に下った剣士たちの魂を材料に作られた物らしい。

 握るだけで、彼らの研鑽が、戦いの記憶が流れ込んでくる。

 お陰で僕みたいな才能のない人間でも、これだけ戦えるようになったんだ。

 僕は彼らの力を借りているに過ぎない。

 そしそれは、彼も同じはずだ。

 違いがあるとすれば、その自覚があるのかどうか。


「そんだけの力があるのに死神なんてやってんのか?」

「どういう意味?」

「つまんねーだろって言ってんだよ! こっちは楽しいぜ~ やりたい放題出来るからな~」

「そう。生憎そんなものに興味はないよ。僕たちは死神だからね」

「そうかよ。じゃあ――」


 突然、ガーベルトが大きく後退する。

 逃げる気ではなさそうだ。

 何かを企んでいる予感がして、急いで後を追う。

 草が生い茂る中へ手を突っ込み、何かを掴んで取り出した。


「死神ならこういうのは捨て置けねぇよな?」

「お前は……」

「た、助けてぇ」


 涙を流す少年の頭を、ガーベルトが掴んでいる。


「気付けなかっただろ? こんだけ魂が周りにありゃーしたかねーよ」

「……」

「そんでどうする? 動けばこいつも食っちまうぞ」

「……」

「そうだよな~ 動けねぇーよな~」


 人質をとられ、僕は剣を下ろす。

 ニヤリと笑うガーベルトは、少年を掴んだまま徐に近づく。


「大人しく食われろ。そうすりゃー楽に行けるぜ」

「……どうやらわかっていないようだね」

「は?」

「言っただろう? ()()()は――死神だ」


 ガーベルトの背後に、一羽のフクロウが降り立つ。

 姿を隠し、殺気を隠し、姿を変えて――


「させない!」

「なっ……」


 イルの大鎌が、ガーベルトの胴を斬り裂く。

 すかさず僕も大剣を振り、ガーベルトの手を切断。

 解放された少年を抱きかかえる。


「もう大丈夫だよ」

「うん」

「あ、ありえねぇ……なんで……」

「見ればわかるでしょ? イルはとっくに、モンスターを全滅させていたんだよ」

「あの数を……」

「そう。あなた敗因は、僕たち死神を侮ったことだ」


 ガーベルトの身体が燃え上がり、悲痛な叫び声をあげる。

 地獄へ導かれるというのは、どんな気持ちなのだろう。

 きっと苦しくて、寂しくて、辛いのだろう。

 僕は一生、知りたくないけどね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 捕食者との戦いが終わり、一夜明けた今日。

 ヘルメイア様に呼び出され、僕とイルは冥界を訪れていた。


「イルカルラ、あなたを地区長に任命するわ」

「え、わ、私が地区長?」

「そうよ。クローネが担当していた地区を任せるわ。ウェズ、あなたは補佐ね」

「わかりました」


 念願だった地区長に任命され、イルは喜んで……はいなかった。

 驚きと疑問のほうが勝っていて、それどころではないという表情をしている。

 

「イルカルラ」

「は、はい!」

「あなたは捕食者を倒したのよ。もっと胸を張りなさい」


 そんな彼女を励ますように、ヘルメイア様は優しく微笑む。


「……はい! 頑張ります!」

「ええ」

「良かったね、イル」

「うん! ありがとうウェズ」


 ガーベルトと裏で繋がっていた人物が誰なのか。

 捕食者がまだ潜んでいるかもしれない。

 問題は山済みだけど、一歩ずつ、目標に近づいている。

 死神として、今日も――


「さぁ、お仕事をしよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ