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12.見返してやろう

 散策の途中で宿をとった。

 夜になり、その近くにあった飲食店で夕食をとる。

 食べるのが大好きなイルだが、今日はめっきり元気がない。


「まだ落ち込んでるの?」

「……ごめんなさい」

「謝らなくて良いよ。イルは悪いことなんてしてないんだから」

「……ううん、黙ってたことは悪いこと……だよ」


 イルは申し訳なさそうに目を伏せ、テーブルの上の料理にも手を付けない。


「ライネルさんの言ってたことは本当なの。私には……死神の才能がないんだ」

「そんなことないでしょ。イルは死神になれてるじゃないか」

「なれたことが奇跡なんだよ。ううん……何かの間違いだったのかもしれないね」

「間違いであるはずないよ。絶対にない。だって、僕はイルに助けられた。こうして生きれいられるのも、イルがいたからなんだよ」


 彼女が死神でなかったら、きっと僕らは出会わない。

 出会わなければ、僕はあのままダンジョンの奥深くで死んでいただろう。

 死んで、悔いを残して、全てを忘れて新しい生を授かっていただろう。

 そんなの……あんまりじゃないか。

 それに――


「死神の仕事は、迷える魂を導くことなんでしょ? だったら僕は導かれたんだ。イルに導いてもらえたから、こうして死神になれた。この力は……僕の力はイルの力でもあるんだよ」

「ウェズ……」

「だから一緒に頑張ろう。みんなが驚くような成績を叩き出して、見返してやろう! 目指せ地区長! そういったのはイルでしょ?」

「……うん、そうだね。そうだったね! これくらいでへこたれてたら地区長になんてなれないよね!」

「うん!」

 

 イルの顔に元気が戻っていく。


「クローネさんみたいな死神になる……そのためにはもっと頑張らなきゃ」

「そうだね。僕も頑張るよ」


 後悔はさせない。 

 僕を助けたことが、イルの選択が間違いだったなんて、僕が思わせない。

 そう心に誓って僕は彼女に微笑みかけた。


「ありがとう、ウェズ。あー何だかスッキリしてお腹減っちゃったよ!」

「料理ならまだたくさんあるよ」

「うん!」


 イルは豪快に料理を頬張り始める。

 それを見て安心する。

 良かった。

 ようやく彼女らしさが戻ってきたようだ。


 しばらく食事を堪能して、ふと僕は思い出す。


「捕食者か……」


 ライネルが言っていたことだ。

 僕がその言葉を口にすると、イルがぴくっと反応して、食べるのを止めた。


「イルも知ってるんだよね?」

「うん。ごめんね、ほとんど都市伝説みたいな存在だから、伝え忘れてたんだ」


 ライネルも、一年に一人現れるかどうかと言っていたな。


「私が知る限り、ここ十年で現れたって報告はないはずだよ」

「一年に一人以下じゃないか」

「昔はそのくらいだったと思う。私も死神になる前だから、詳しく知らないけど、大変な時期があった……みたいな噂はあるよ」

「大変な時期か……捕食者は魂を食べるんだろ? そんなこと可能なの?」


 死神でさえ、魂に直接触れることは出来ない。

 ましてや食べるなんてありない。

 そんなことが出来るとすれば、冥界の女王であるヘルメイア様か、あるいは……


「私も初めて聞いた時は信じられなかったよ。でも、極限まで濁った魂が力を得る……これは本当みたいだね。私たちも気を付けないと」

「そうだね」


 と、そんな話をしている時だった。

 一人の男性が慌てて店に駆け込んできた。

 店員が事情を聞き、代わりにお客全員へアナウンスする。


「皆さん、少しお聞きください」

「何だろう?」

「さぁ? 何かあったのかな」

「今連絡がありました。街の中で殺人鬼が暴れているようです」

「殺人鬼!?」


 店内がざわつく。


「冒険者の方が追っているそうですが、依然捕まっておりません。逃走しながら、見かけた人に危害を加えているとも聞きました。くれぐれもお帰りの際は注意して下さい」

「ウェズ」

「うん。もしかすると……」


 互いに考えていることは同じだった。

 捕食者の話を聞いていたから、その存在が過ったのだ。


「行こう」

「うん!」


 僕らは早々に会計を済ませ、夜の街へ飛び出す。

 人通りの多い道を外れ、路地に入り、建物の天井へと駆け登る。


「ねぇウェズ、ライネルさんに報告しなくていいのかな?」

「まだ捕食者と決まったわけじゃない。それにこの騒ぎなら、伝えなくてもわかるよ」

「わかった。早く捕まえないと、また人が殺されちゃうもんね」

「うん」


 それに、僕らが先に捕食者を倒せれば、イルの成績も上がる。

 こんなにも早く見返すチャンスが来るなんて思わなかったけど、この機を逃すわけにはいかないな。


「路地を中心に探そう!」

「うん!」


 そして――

 路地を駆け抜ける人影に、赤い魂を見る。


「はぁ、はぁ……くそっ、思ったより手が早いな。まだ三人しか殺してねぇってのに……ん?」


 殺人鬼は空き箱の上に注目する。


「何だフクロウか」


 そう言って、通り過ぎようとした。

 すれ違い、視界から外れた瞬間に、イルは変化を解く。


「なっ――」


 気付いた時にはもう遅い。

 イルは大鎌の霊装を取り出し、彼の魂を斬り裂いた。

 

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