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11.不吉な存在

「ねぇあなた、どうして死神になれたのかしら?」

「さぁ? 僕には素質があったらしいですよ」

「死神の仕事って大変なのよ? 本当は迷惑って思っているんじゃない?」

「迷惑だなんて思うわけありませんよ。あの時、イルが助けてくれなかったら僕は死んでいた。後悔を残して死んでいたでしょう。彼女に救われ、死神になれたから後悔せず今を生きていられるんです」

「そう。信頼しているのね、イルカルラを」

「はい」


 即答した僕に、ムスッとした表情を見せるライネル。

 彼女は僕を睨みつけて、何かを思いつき、ニヤリと笑みを浮かべる。


「だったら当然知っているわよね? イルカルラが成績最下位の常連だってこと」

「ぅ……」


 イルから小さく声が漏れた。

 どうやら本当のことらしい。

 最下位常連というのは初耳だけど、成績が良くないことは知っていた。

 要領が悪いことも、ここまで一緒に旅をして実感している。


「あなた当面はその子とペアを組んで行動するんでしょう? だったら本当に大変ね~ 霊炎も使えない、魂の感知能力もない。そんな子と一緒なんて私なら文句を言いたくなるわ」


 霊炎が使えない?

 魂の感知能力もない?


「あら? まさか知らなかったの?」

「……」

「霊炎と魂感知は、死神なら出来て当然の技術よ。特に魂感知は、彷徨う魂を探すためには必要不可欠だもの。それが出来ないってことは、仮にすぐ近くで迷える魂が助けを求めていても、見えなければわからないってことになってしまうわ」


 そうか、だから成績が良くないのか。

 魂の気配を感知することが出来ないから、どこにあるのかわからない。

 自分の足で探索し、目を凝らさなければ見つけられない。

 感覚が一つないだけで、一歩も二歩も出遅れてしまう。

 霊炎も使い方を教わっている時に、自分は苦手だという話を聞いていたが、そもそも使えなかったのか。


「イルカルラが他の死神からなんて呼ばれているか知ってるかしら? 出来損ないの死神もどき、よ。悲しいけどその通りなのよね~ だからあなたも黙っているのでしょ? ねぇ、イルカルラ」

「……ごめんなさい」

「それは何に対して謝っているのかしら? 欠陥だらけの癖に死神を名乗っていること? そのことを隠していたこと? それとも生まれて――」

「そこまでにしてもらえますか?」


 ライネルの言葉を遮って、僕は大きくハッキリとした声で言う。


「あなたが言いたいことはわかりました。忠告感謝します」

「そう。ならあなたは、その子みたいにならないよう気を付けなさい」


 僕は彼女の言葉に答えない。


「今日は挨拶をしに来ただけなので、これで失礼します。イル、行こう」


 イルは小さな声で返事をして頷く。

 扉のほうへ振り向く僕らを、ライネルが引き留める。


「そうだわ。忠告はもう一つあったのよね」

「……何ですか?」

「しばらくこの街に滞在するのでしょう? だったら気を付けなさい。まだ未確定な情報だけど、この街に捕食者(グール)が潜んでいるかもしれないから」

捕食者(グール)?」


 僕の脳内に疑問符が浮かぶ。

 聞いたことのない単語だった。

 それを感じ取ったのか、ライネルは続けて言う。


「あら? もしかしてこれも知らないの?」

「ええ、まぁ」

「はぁ~ ちょっとイルカルラ、ちゃんと教えておきなさい」

「す、すみません」


 ライネルはイルに強く当たる。

 この人は何かにつけて彼女を非難したいようだ。

 そういう所が、かつてパーティーを組んでいた彼らに似ていると思う。


「捕食者っていうのは、力を得た罪人の魂のことよ。罪を犯した者の魂は濁り、やがて赤く染まる。そこから罪を重ねていくと、さらに色は濁っていく。すると稀に、黒く変色することがあるの。黒い魂になった者は、他人の魂を食らいだす」


 ただ、彼らより面倒見は良いらしい。

 ちゃんと質問には答えてくれるし、知らないと言えば教えてくれる。


「魂を……食らう?」

「ええ。食べた魂を自分の力に変える。故に捕食者……出現なんて本当に稀よ。一年に一人出るか出ないかってレアケースが、まさか自分の担当区域だなんて」

「ついてませんね」

「逆よ、ついているわ。捕食者を討伐すれば私の評価がグンと上がる。もし捕食者の情報が手に入ったら教えなさい」


 この人は出世欲が強いようだ。

 ギラギラと光る眼には、溢れんばかりの野心が宿っている。


「まぁ精々あなたも食われないよう気を付けなさい。捕食者に食われた魂は冥界には戻れないからね」


 語り終えたライネルは、テーブルの上へ視線を向ける。

 もう話すことはないと言いたげに、彼女は書類仕事を始めた。


「忠告ありがとうございました。では、失礼します」

「失礼します」

「ええ」


 部屋を出て、僕とイルは街の散策を再開した。

 気まずい空気が続いて、ほとんど会話もないまま、やがて夜になる。

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