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1.雑用係ウェズ

 魂には色がある。

 青い炎のような形をしていて、色の濃薄に個人差はあれど、人や動物であれば大抵は同じだ。

 対して、モンスターの魂は赤い。

 血の染まったような真っ赤で、気持ち悪くて、恐ろしい。

 それはきっと、罪の色なのだろう。

 ならば罪を犯した人間も、同じように魂は赤く染まるのだろうか。

 まぁもっとも、それがわかるのは『霊視』というスキルを持つ僕だけだと思うけど。


「よし、これで一先ず大丈夫かな?」


 街の路地で、一羽のフクロウが傷つき倒れていた。

 見かねた僕は手持ちの薬草と包帯を使って、応急処置をしてあげた。

 それほど大きな傷ではなかったけど、飛べなくなって地面に這いつくばっていたら、いずれ野犬にでも食べられてしまいそうだったから。


「ごめんね、簡単な手当てしかできなくて。僕にも回復魔法とか、癒しの祈りとか使えたら良かったんだけど……目が良いこと以外大した取柄もないんだ。お陰でパーティーでも雑用係だ。今日もたぶん……」


 フクロウはじーっと僕を見つめている。


「って何の話してるんだろ。フクロウに人の言葉がわかるはずないよね」


 ちょっとした愚痴をこぼしていた。

 誰かの前で話せば、風に乗って本人たちに聞かれるかもしれない。

 そう思うと怖くて、ずっと心の奥にしまっていた言葉だ。

 言葉が通じない動物相手なら、話しても噂が広まることはないという打算からか。

 とにかく少しだけスッキリした。


「さて、もうそろそろ行かないと」


 あまり待たせると、彼らは不機嫌になる。

 フクロウは地面から飛び上がり、路地に捨てられていた大きな木箱の上に乗る。


「薬草が効いてきたかな? 良かった、飛べるなら大丈夫そうだね」


 フクロウがホーと小さな声で鳴く。

 まるでお礼を言っているように見えて、僕は嬉しくなった。


「どういたしまして。今度は怪我しないようにね」


 僕は手を振り、路地を出て大通りへ走る。

 さっきまで日陰にいた所為か、太陽の光が余計に眩しくおもえる。


「何だか今日は、良い日になりそうだな」


 なんてことを思うくらい良い気分だった。

 だけど、冒険者組合の集会場に到着してすぐ、そんないい気分は帳消しにされる。


「おいおせぇぞ! どこほっつき歩いてたんだ!」

「ご、ごめんなさい」


 開口一番に怒鳴られた。

 待ち合わせの時間には間に合っている。

 まだ十分くらいの余裕はある。

 いつもは自分たちが遅れてくる癖に、今日は偶々早く集まったのだろう。


「俺たちを待たせたわけだし、何かペナルティーが必要じゃないか?」

「報酬は十分の一とかで良いんじゃないかしら」

「そうだな、妥当だな」


 槍使いのロンと、魔法使いのサリーの会話が聞こえてきた。


「そ、そんな……十分の一なんて生活できないよ」

「うるせいぇんだよウェズ! 遅れてきたお前が悪いんだろうがぁ」

「遅れては……」

「あ? まだ文句あるのか? これ以上ごねるなら、パーティーから追い出すぞ」

「そ、それは……」

「嫌ならさっさと準備しやがれ」

「……はい」


 パーティーリーダーで剣士のドーガに言い負けて、僕はしぶしぶ出発の準備に取り掛かる。

 こんな扱いを受けるなら、いっそ追放された方がマシかもしれない。

 だけど、そうなれば一人になる。

 また一人になって、何も出来なくて、途方に暮れる。


「ったく鈍間が。荷物持ちくらいでしか役に立たねぇーお前を、こうして雇ってやってるだけでもありがたく思えよ」

「全くだな」

「本当よね」

「……」

 

 言い返すことすらできない。

 事実、その通りなのだから。

 剣は扱えるけど人並み以下、魔法も使えない。

 持っているのは、魂の色がわかるという戦いには役に立たないスキルだけ。

 そんな僕が冒険者として活躍できるはずもなく、いつしか役立たずの雑用係という評判が広まった。

 罵詈雑言を浴びせられるし、雑用ばかり押し付けられれ扱いも最悪だ。

 それでも、僕なんかをパーティーに入れてくれただけマシだと思うようにしている。

 もし一人なれば、僕は何もできない。

 路上でのたれ死ぬか、モンスターに食われて死ぬかの二択だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 三日ほど前、街の近くで新しいダンジョンが発見された。

 ダンジョンが発見されるなんて珍しいことで、冒険者たちは沸き上がった。

 未開拓であれば、お宝が眠っているかもしれない。

 ダンジョンとは大昔の偉人が、自らの所有物を隠すために造り上げた巨大な宝物庫だ。

 これまでにダンジョンから発掘されたお宝のお陰で、巨万の富を得た者たちも多くいる。

 

 近くの街ユーメルンを拠点にする冒険者たちは、ダンジョン探索に夢中だ。

 僕の所属するパーティーも、その一つではある。


「昨日は三階層までしか行けなかったからな。今日はせめて五階層は超えるぞ」

「ああ」

「噂だと十階層以上あるんでしょう? まだまだ先は長いわね」

「だからこそお宝も眠ってる可能性が高いんだろ。いざとなったらダンジョン内で野宿だな。おいウェズ、ちゃんと準備は出来てるんだろうな?」

「はい。出来てます」


 僕は一人だけ、自分の身体の二倍はある大きなバッグを背負っていた。

 この中にはダンジョン内で生活するための道具が入っている。


「本当だろうな? もし足りなかったらぶっ飛ばすぞ」

「……は、はい。ごめんなさい」


 何で謝っているのだろう。

 何も悪いことはしていなくても、先に謝るのが癖になっていた。

 そんな自分が嫌で、変えたいと思うけど……僕には自分を変える力はない。

 ただ強い者に従うことが、弱い者の定めなんだ。


 僕は彼らの後ろから、彼らの魂を見つめる。


「汚い色だな」


 濁った紫色をしている。

 時折、彼らのように青くない魂を見かけることがある。

 理由はわからないけど、あまり良い色だとは思えなくて、僕はぼそりと口に出していた。


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