葉っぱ
逆光に浮かぶ人物は、焚き火に向かい合い、呪いや礼拝のように地面に膝を着き身を屈め起こすことを繰り返した。
巫女のように踊っていた女性たちが、艶やかに光る山盛りの葉っぱを運んで来る。
大人たちは皆、その葉っぱをむしゃむしゃと頬張った。
不安と、好奇心、そしてその葉っぱを食べてみたいという食欲、色んな感情が僕の中で渦巻く。
ふと気付くと、僕の目の前に、母親の手が伸びてきた。
そして、僕の口の中に、母親が噛み潰した葉っぱが押し込まれた。
あっという間の出来事で、僕はそれを拒否しようなどという思いには至らなかった。
驚いて母親を見上げると、彼女は目を血走らせながら、新たな葉っぱをもう片方の手で掴もうとしていた。
僕の口に運ばれた、液体と固体の混合物。
そのどろどろとした葉っぱのスムージーは、恐ろしく苦く、化学薬品のような不自然な匂いがした。
僕は驚いて、すぐさまそれを吐き出す。
しかし、母親は僕が吐き出したことに、それほど関心を抱いてはいないようだった。
何かが、おかしかった。
僕の感情は、恐怖に染まっていく。
周りでは、母親と同じように、大人たちが狂ったように葉っぱを食べていた。
そして、大人たちは、その緑色の咀嚼物を赤ん坊の口に押し込んでいく。
当然、あんな苦くて奇妙なもの、赤子が食べれるはずもない。
口元を緑色に汚し、ほとんどの赤ん坊が泣き出した。
自分の意志で動き回れる赤ん坊は、その場からハイハイで逃げ出そうとする。
しかし、どれほどそれを拒否しても、大人は赤子を捕まえ、無理やりにでも口を開けさせ、その苦い葉っぱを口に押し込んだ。
僕は泣かなかった。
いや、恐怖で泣く事など出来なかった。
母親の唾液と混じりあった緑色の咀嚼物が、再び僕の口に運ばれる。
僕は再び吐き出すが、今度はさっきよりも苦さが薄れ、爽やかな香りが鼻に抜けたような気がした。
口や鼻の感覚が、麻痺しているのかもしれない。
母親は、再び緑色の咀嚼物を僕の口の中に導く。
視界がぼやけていくような感覚があった。
身体がぽかぽかと暖かいように感じられる。
僕はまた吐き出した。
しかし、どれほど喉の奥を閉めて、口の中に残る葉っぱの成分が胃の中に移動することを拒否しようとも、僅かな液体はじわりじわりと薄まり広がり、鼻や目、そして消化器へと浸透していくのだった。
母親の美しい手が、どろりと緑色をこぼしながら、僕の口元に何度目かの咀嚼物を運ぶ。
僕は、そのとき、自分の意志で口を開いたことに気付かなかった。
甘い。
ひどく甘い粥を、口に入れられた気分だった。
花のような香りが、僕の脳みそを揺さぶる。
自分の身体が自分で制御できない、そんな感覚があった。
舌の奥で、とろりとした旨味が広がり躍る。
美味しい。
僕は、その緑色を飲み込んだ。