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音色

僕の泣き声に反応するように、大勢の大人たちが僕と僕を抱く女性の周りに集まってきた。

彼らは僕を覗き込むと、笑顔を作った。

皆が、母親と同じように、日焼けした美しい肌、漆黒のような艶やかな髪の毛、深淵のように奥行きのある黒い瞳を携えている。

彼らは、わがままな赤ん坊を可愛がるように、友好的な態度で僕の機嫌を取ろうとした。

何人かが僕の頬を撫でたりもした。しかし、不思議と嫌な感情は生まれない。

次第に、その場に居た全員が僕を取り囲んだことが分かった。

各々が好き勝手に、僕のことを話題にして談笑しているようだった。

それが、僕に対するどのような評価なのかはわからない。

しかし、皆が自分自身に注目していることがわかると、不思議と涙は止まり、少しの恥ずかしさだけが僕に残った。


いつの間にか母親が隣に現れ、僕を布の包みごと受け取った。

ぽかんと口を開ける僕を覗き込み、母親は笑顔で歌のようなものを口ずさむ。

周りの雑踏に打ち消されてしまうほどの小さな声で、彼女は僕にだけ聞こえるように、優しく歌ってくれた。

母親の腕の中で、心地よく揺られながら、彼女の笑顔を独り占め出来ることは幸せだった。

彼女の声色が、耳から入り、僕の脳みそに咀嚼さていく。

ああ、きっと泣き疲れたのかもしれない。

僕は、再び眠りに落ちていった。


---


次に目覚めたとき、辺りはもう夜になっていた。

大きな焚き火の炎を囲み、みんなが地面に座って食事をしている。

昼間目覚めた時には気付かなかったが、おそらく僕と同じような赤子が何人か、この場に連れて来られているようだった。

地面に敷いた布の上で、僕はそのまま寝転がっていた。

太鼓を打ち鳴らす人が居た。

大小の弦楽器がメロディーを奏で、この場の雰囲気は祭りの様相を呈している。

巫女のような、着飾った女性たちが現れ、躍り出した。

太鼓の鳴りと響きはだんだんと大きくなり、地面を伝って僕の身体を震わせた。


お腹が空いた。

無償に何かを腹の中に入れたかった。

隣にいる母親に「あーあー」と声を上げ空腹を訴える。

しかし、僕の非力な呼びかけは、周りの談笑や楽器の音色に打ち消された。


何かが始まるような気がした。

男性たちは、段々と口数を少なくさせていき、中心に燃える炎をじっと眺め、瞼さえも動かさなくなった。

太鼓と弦楽器は、音量を更に上げ、音色の性質を変えていく。

それはまるで、魂に直接訴えるような音楽だった。

いや、それは音楽とは言えないまったく別のものだったのかもしれない。

その響きは、僕を不安にさせた。

太鼓の低音と弦楽器の低音が共鳴し、音が揺らいでいく。

その場を支配する音が揺らぐと、世界の全てが揺らいでいるように感じられる。

皆が取り囲む中心の焚き火は、さっきよりも炎の勢いを増したように思えた。

炎の先端は、3メートルほどの高さに達している。

大きく、力強い炎。

赤や、オレンジ、青、紫。

火の色が幻想的に混じりあい、それは最終的に真っ白に輝いて見えた。


ふと気が付くと、その炎の目の前に、一人の人物が立っている。

真っ白い逆光に照らされた人影。

祭りの目的が、いまはっきりと輪郭を表そうとしていた。

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