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15年前の君へ

作者: たすきー




◯====================◯


      〜15年前の君へ〜


◯====================◯





「本当に、ありがとう。」





君に出会えなくて、本当に寂しかった。本当に辛かった。本当に悔しかった。


君も僕に会いたかったかもしれない。





だけど、今、


ここで会えたから、、


あの時会えなかったから、、





ここに僕がいるんだ。。。











======================


僕の名前は、助。


晴れ渡る日差しの中、僕は高校に進学した。


もちろん、少年の頃から目指してきた、甲子園を夢見て!





中学時代、クラブチームでキャプテンとして活躍していた僕には、

多くの強豪校から誘いがあった。


そんな多くの誘いを蹴り、地元の「ころなくるな高校」に進学すると、

入学時から、3年生の遠征に帯同して試合に出させてもらうなど

チームから活躍を期待された存在だった。



転機は、1年の秋だった。


腰痛を患い、長期間、チームの練習に参加できなくなった。


2年の春になると、新たに後輩が入ってきて、

優秀な選手は、メインチームの練習に加わり、試合にも出るようになった。


僕は、その姿をスタンドから眺めるだけ。


「これで、俺の高校野球も終わっていくのか…」


練習が思い切りできない辛さと、

後輩に先を越された悔しさで、

僕の心は病んでいた。





夏が終わり、3年生が引退すると新チームが始まり、僕が最上級生となった。


ようやく、腰痛からも解放され、

メインチームの練習にも賛同できるようにはなっていた。


「甲子園に出場できるチャンスは、あと2回だけ。」





そう自分に言い聞かせ、厳しい練習を耐え抜いた。


だけど、そう簡単に、レギュラーにはなれなかった。


僕が練習に参加できない間に他の選手は力をつけていたのだ。


腰痛で練習に参加できなかったブランクは想像以上にでかかった。





練習試合で結果が出せず、心が折れそうになるときが何度もあった。





「もうダメかもしれない…」





小学生の頃から、甲子園を目指して、毎日練習してきた。


ずっと、野球のことばっかり考えてきた。


友達が遊んでいる中、土日は朝から晩まで、ずっと厳しい練習を耐え抜いてきた。


だけど、このままじゃ…





そんな焦りと悔しさを胸に抱え、

春の甲子園に繋がる秋季大会を迎えた。





結局、僕は

レギュラーにはなれなかった。





しかも、

秋季大会直前に目をケガしてしまい、

1回戦はベンチメンバーからも外されてしまった。





「ああ、終わったな…」





小学生の頃からここまで頑張ってきたけど、


甲子園って思ってたよりも遠いんだな…


ずっと、試合に出てチームに貢献したいと思っていたけど、

それはもう諦めて、チームを支える側として頑張っていこうかな…


それがいい。

そっちの方がもうこんなに苦しい思いをせずに済むかもしれない。





「もう少し頑張ってみようよ!」という天使のささやきと

「夢はもうあきらめろ!」という悪魔のささやきが、心の中でこだました。





僕がスタンドで見守る中、

チームは、1回戦を突破し、2回戦へ駒を進めていた。





そんな中、


チャンスは突然訪れた…





監督:「助!外野のノックを受けてみろ。」





思わぬ一言だった。


それまでずっと、内野しか守ったことがない。


それは、大きな転機であり、大きなチャンスであった。





と言っても、今まで練習したこともない外野の守備だ。


そんな簡単に上手くいくはずもない。





だけど、監督は僕を見込んでくれたようで、

秋季大会2回戦からレフトとして、試合に出場するようになった。





そこからだった。





今までの苦難と挫折が一気に解消されてく気分だった。





僕は2番レフトでレギュラーに定着し、

打率は4割を超えた。





チームは、県大会で準優勝し、近畿大会まで駒を進めた。

近畿大会では1回戦で敗れたものの


好ゲームをしたことを評価してもらい、


春の選抜甲子園大会出場を決めたのだった。


甲子園出場は、僕の高校にとって半世紀ぶりの快挙であった。





「努力は報われる。」





そんな言葉があるけれど、


その時ばかりは、信じても良い気がした。





なんといっても、


少年の頃から夢見てきた舞台に、

本当に立つことが決まったんだから!





甲子園が決まる頃にはもう、

外野の守備にも慣れ、レフトよりも肩の強さが求められるライトを守るようになっていた。





甲子園で試合ができることが嬉しくてたまらない!楽しみでたまらない!


そんな感情を押さえ込むことはできなかった。


家族や友達、地域のおじさんおばさん、学校の先生、

みんなから祝福してもらった。


たくさんの人からエールをもらった。





「頑張れよ〜!!応援してるでな〜!!」





僕は、今まで以上に練習に精を出して取り組んだ。





しかし、


甲子園大会を目前に控えたある日、

突然のニュースだった。





「新型コロナウイルスの影響受け、選抜甲子園大会の無観客試合を視野に入れ判断する。」





そのニュースを聞いた時、


体が凍りついた。





これだけ苦労して、ようやく手にした切符なのに…





「ちゃんと開催されるのかな…」


どうなるんだろう…





数日後、判断が下された。








「選抜甲子園大会の中止」





大会本部も苦渋の決断だった。


僕はこの現実が受け入れられないまま、その後の数日間を過ごした…。


悔しさと寂しさを胸に抱えながら、

どうしても、選抜への執着を捨て切ることはできなかった。





夏の大会は、県大会2回戦で敗れてしまい、

甲子園への夢は途切れた。





こうして僕の高校野球生活は幕を閉じた…











=======(15年後…)========





「おめでとう〜!!」


「頑張れよ〜!!!」





暖かい声援を受け、応援してくれる地域の人、学校の先生、


そして、学校の生徒に


僕は“監督”として、挨拶をしていた。





僕は甲子園という“恋人”に、15年越しに出会うことができたのだ。





15年前、春の選抜が中止になって、

正直僕は、ずっと恨んでいた。


自分の運命を。





高校時代は結局、甲子園に出場できず、

その後、野球の道は諦め、大学へと進学した。





大学進学にも苦労した。


高校時代、ろくに勉強をしてこなかったツケが回ってきた。


1年間の浪人生活をした。





「今度は監督として、甲子園を目指そう」と

大学では、教員資格の取得に励んだ。





それから教員試験を通過し、無事教師になれたものの、


生徒とのコミュニケーションには苦労し、指導者としてのあり方を何度も考えさせられた。


たくさんのコーチングや心理学などの本も買って、

すき間時間を見計って、日夜勉強に明け暮れた。


土日は、野球の練習と試合で

同世代の友人たちのように、旅行をしたり、合コンをしたり、遊ぶこともなかった。


ひたすら、選手たちと一緒に甲子園を目指してきた。





甲子園を目指し、自分についてきてくれる生徒たちをみて


ある時、思った。





「もう自分の運命を恨むのはやめよう。」





自分には、こんなにも頑張り屋で、一生懸命で、素敵な仲間(生徒)たちがいる。


こんな仲間たちが側にいるのに


いつまで自分の運命を恨んでんだ!僕は…!!





そう思えてからだった。





チームは秋の大会を勝ち進み、近畿大会でも好成績を残した。





そして、

“春の選抜出場”を決めた。





15年ぶりだった…





そんな経験したことないんだけど、

15年越しに恋人と会えた感じがした。








ずっと、暗くて、辛くて、厳しい道の上を走ってきたけど、


僕は、そんな険しい“これまでの道のり”に心の底から感謝した。





「こんな気持ち、きっと僕じゃなきゃ味わえないんだろな…」





甲子園中止になったの、僕の時だけだもん…


そりゃ、この気持ちは僕だけのもんだよ!笑








見える世界が明るくなった。





これまで、混沌としていた僕の世界はもうそこにはない。


こんなにも世界は明るかったんだということに、今、気がついた。








天の神様は僕に、ちょっとキツめの試練を与えたかもしれない。


だけど、そんな神様にも今の僕なら感謝できる。





ありがとう。


ほんとに…








君と出会えて、よかった。


君がいてくれて、本当によかった。





「本当に、ありがとう。」












(The END)







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