『2話 スキルがホットメルト(製本のノリ)』
『2話 スキルがホットメルト(製本のノリ)』
町は石で作られた建築様式で二階建てまでの高さ。
歩道も同じく石や土で固められていた。
日本ではアスファルトが一般的だが、アスファルトは全くなかった。
俺のいた町の駅前にあるハンバーガー店、牛丼店、コンビニ店は全くなかった。
あるのは小さな構えの店が並んでいるだけだ?。
コンビニ店がないのは新鮮だな。
当たり前のようにコンビニに行ってはマンガを読んでいたから。
そのついでに、ポテトチップスや菓子パンを買うのが日常だった。
コンビニがないとなると不便かもしれない。
日本のある程度の人口のある町なら当たり前だから。
道行く人は色々な人種に見える。
アジア系っぽい人もいれば、ヨーロッパ系っぽい人もいた。
髪の色は黒髪から金髪もいる。
しかし驚いたのは服装である。
普通ならジーパンにシャツ、パーカー、スニーカーが日本では主流だろう。
俺も普段着はそんな感じだ。
しかし目の前を通り過ぎる人たちは、服装はカジュアルな服装ではない。
革や布の衣服に、まるで防具とも思える見かけ?をしている。
しているというよりも、身につけているといった方が近い。
防具だとするとますますロールプレイングゲームに似ているが。
さらに驚いたのは腰に剣をつけている点であろう。
まさかの剣だった。
コスプレ的な感じを通り越している。
完全に戦闘しますという風に感じる。
剣や防具を身につけているとなると、町の外には敵がいるのと想像できる。
ロールプレイングゲーム的ならモンスターの可能性がある。
その点、俺の上着は作業着にジーパン姿だ。
俺が変な服装となり、周りから浮いてる。
ジロジロと見られてる感じすらする。
このまま俺はどうなってしまうのだろうか?
率直に言って不安だ。
ここで生活していかなければならないとなると、不安は高まる。
まず金がない。
いや、財布はあるにはある。
しかし日本のお札が使えるかと言えば、たぶん無理だろう。
そうなると三日持つかどうかだ。
食料もないし寝る家もない。
なんで俺はこんな目にあってんだ。
そしてもっと不安なのは言葉だ。
俺は生まれてからずっと日本での暮らし。
一度も外国にも行った経験はないし、外国語もわからない。
英語ですら何年も学習したのに話せない。
この地の言葉が理解できないとしたら、絶望的だろう。
そこで近くにいって会話を聞いてみることにしよう。
若い男女が日常会話をしている風景。
そこに何気なく近くに行ってみた。
怪しまれない距離に行くと会話が耳に入った。
「大変らしいわ、どうやらオーガが王都に来るとか……」
「オーガだって! まさかオーガだとしたら大丈夫かな」
「きっと王都にいる賢者や剣聖が倒してくれるでしょう」
「賢者がいるなら安心か」
俺の耳に入った言葉はなんと日本語であった。
まさかな!
信じられないが本当に日本語であり、ちゃんと理解できたのだった。
なぜだろうか?
思い当たるのはスキルの言語理解とやら。
言語理解のスキルが影響して、俺にも理解できる日本語になっているようだ。
俺の話した言葉も通じるかはまだ未確定だが。
理解できたのだからいいとしよう。
本当はなぜ日本語なのか重大なことだけど、俺が考えてもわからない。
しかしもっと重大なことが耳に入った。
男女の会話の内容だ。
確かに俺にはオーガと聞こえた。
待てよ、オーガって、あのオーガか?
嘘だよな?
ゲームではおなじみのあのモンスターか?
やはりここは日本でもないし、俺のいた世界とは違う世界が濃厚となった。
もし話が本当なら俺も危ないだろう。
なにせ戦闘経験はない。
体力も自信はない、ただのオッサンだ。
早く安全な所に避難するのが得策だろう。
戸惑っていると先ほどの男女が話しかけてきた。
「あなたも逃げた方がいいですよ。オーガが来ますから」
「オーガですか……。どこに逃げたらいいのだろう」
俺は何もかも全くわからないから。
「逃げたいなら城の近くに行きましょう。城に行くほど騎士団もいます」
「騎士団? わかりました。城に行きます。ありがとうございました」
俺はとりあえずお礼を言った。
初めての会話がオーガの話とはな。
あまり良い感じはしないが。
ただとても親切な人で助かったようだ。
オーガが来襲するよりも早く、城に逃げたい。
実際に城を探すと遠くに見えた。
どうやらここは城がある王都らしい。
そして王都の城下町に俺はいるようだ。
それもかなり町の外れにある。
城に行くには急いだ方がいいよな。
慌てて俺は避難することにした。
異世界とやらに来ていきなりオーガとは。
この先のことがとても思いやられる感じがする。
町の人も避難していたので、俺も続いた。
安心していた俺はそこで衝撃的な光景を目にした。
すっかり安心しきっていた。
「オーガだ!!!!!!!!!!」
悲鳴が俺の耳に突き刺さった。
振り返りたくはないが、ごう音のする方に顔を向けたら。
こ、これがオーガかい!
背は軽くマンションくらいあるよな。
思ったよりもかなりデカイ。
それも数体いる!
町の中に入ってきて、踏みにじってる。
最悪だ。
俺はこのレベルのモンスターのいる世界に来ちまったわけだ。
足を止めたら死ぬよ。
ひたすら走って逃げる。
「あ、あれは賢者様!」
「賢者様だ!」
「もう大丈夫だ。あの方が来てくれたなら!」
言われてみたら二人の冒険者らしき人物がオーガに向かっている。
まさか二人だけで戦うというのかい?
それは無謀だろう。
俺は正直言って無理だなと感じた。
しかし二人は近くに行って、戦う構えをとった。
周りに人がいないのを確認していた。
「フレアスパイラル!!」
賢者と呼ばれる者から突然に炎が猛烈に発せられた。
なんだ……魔法か!
強烈な炎の魔法だ!
凄い炎だ!
オーガが頭から炎に包まれてしまい、火あぶりになってる。
さらにもう一人が剣で苦しむオーガに切りかかった。
「黒龍の疾風!!」
オーガに向かった剣は黒い龍のように不気味な空気に変わり、オーガを切り裂いた。
オーガは腕や胴体を切り裂かれて、次々と倒れていった。
すげぇな!
マンガやアニメの世界でしか見たことない光景であった。
強い、強すぎでしょ。
オーガは全滅したぞ。
圧倒的な強さに俺は感動した。
人々も逃げていたが、オーガの負けがわかると、いっせいに二人に拍手した。
賢者とか言ったな。
女性だったから、余計に驚いた。
相当な強さなんだろうな。
だが俺は怖くなった。
あのレベルのモンスターに遭遇したら勝ち目はない。
冒険に出ればこの先に遭遇することもあるだろう。
足が震えてきた。
地面に俺は腰を抜かしてしまい、尻をついた。
情けないが立ち上がれないのは無理もないでしょ。
日本に生まれて、モンスターなど初めて見たのだから。
楽しくなる奴などいるわけないよね。
ゲームなら楽しいだろうが、ここはマジで現実です。
楽しいどころか、マジで死ぬ。