『14話 ウインベアーの討伐』
『14話 ウインベアーの討伐』
ファイア魔導書レベル5が完成したのをエテルナに報告したら、大変なことになってしまう。
彼女なら慣れてきているから驚かないだろうと思ったが違った。
「えええええ!!!!! レベル5を作ってしまったの! レベル2でも凄い魔導書なのに、レベル5となると衝撃的だわ」
「そんなに驚かれても、作ってしまったから。それがこれ」
かなり驚いてます。
この世界に生まれ育った人には非常識な本に映るようだ。
非常識こそ逆に異世界生活には効果がある。
普通にいくより非常識が必要となった。
「売るの?」
「売る前に俺が使ってみる。自作の魔導書を自分で実験します。販売分の魔導書はまた作ればいいから」
まるで研究者の言い方です。
いつから俺は研究者の発言をするようになったんだ。
販売してもいいけど、好奇心がまさり、自分に使うと決める。
魔導書を持って使用してみた結果のステータスは変化していた。
魔法
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
ファイアレベル5
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
いい感じです。
逆にいいのでしょうかと悩むレベルでしょ。
まだ冒険者ギルドに登録をしたばかりで、経験も少ない俺は魔法ファイアレベル5となった。
これってエテルナの話ではファイアだけ使って最速で5年以上かかるらしい。
5年どころか超楽勝で達成しました。
こんなに楽勝でホットメルトに感謝、感謝。
素晴らしいスキルに恵まれたものです。
「どう?」
「バッチリ、ファイアレベル5になりました」
「えええ!!!」
「大丈夫っすか。ファイアレベル10まで俺は続けるよ」
エテルナは壊れたのか、叫び出した。
大丈夫ですか。
ファイアレベルのアップはまだまだ続けるつまりですから、この程度で驚いてたらダメです。
「マツシマ……あなたは天才だよ!!!!!!」
「おおおおお!」
エテルナは俺に才能があると勘違いして抱きついてくる。
天才でも何でもない、ただホットメルトで接着しただけです。
今まで誰もしなかったのが不思議なくらい。
どうして誰も考えつかなかったのかと。
日本に住んでいたら日本の常識に囲まれて暮らすので、日本の常識が普通になるのと一緒なのだろう。
知らず知らずに頭は常識で囲まれて、そこから違う考えは行動しなくなるもの。
外国から来た人が日本に住んで、違う発想をするみたいなものだろう。
カルチャーショックていう言葉があるが、正しく少しズレた発想から生まれた魔導書ですね。
俺以外の人がホットメルトをスキルとして持っていても、この様な発想をしていたか、わからないかもな。
「自作のファイアレベル5の力を見てみたいんだ。自分で確認するのが一番わかりやすいってのもある。あと魔導書が大量に必要になるので、報酬目当てもね」
「気持ちはわかるような、わからないような複雑だわ。でも知りたいなら冒険者クエストが一番ね。クエストで稼げれば魔導書分のマースはある程度は稼げる。それにファイアレベル5が実際に習得できてるなら、マツシマはもう私よりも力は上です。私の冒険者クエストランクは再下級よりは少し上だった。マツシマは再下級でしたけど、中級くらいのクエストを受けれるわ」
「希望がわいてきた!」
中級者レベルにまでなってしまったのか。
案外、楽に成長してしまうと魔物と戦う経験は追いついているのかが気になる。
非常識に魔法レベルを上げても、それはあくまでホットメルトで接着したに過ぎない。
本来の実力は再下級であろう。
そこで中級にいっても勘違いして死ぬなんてオチはないかな。
しかし心配していても成長はしないので、思いきって中級ランクくらいのを申し込むのもありだ。
なんといってもランクが上がれば報酬も増えるからで、今は金が欲しい。
魔導書から自作するため、魔導書が大量に必要なのです。
「製本したら疲れた。寝ようと思う」
「どうぞ、クエストもするから寝たほうがいいわ」
エテルナに言って寝ることにした。
夜になっても中々寝付けないので、どうしたのかと悩みました。
ホットメルトが上手く行ったから興奮したらしいです。
興奮すると寢れなくなるタイプみたい。
そこでお風呂にでも入ろうかと思いついた。
お風呂につかる後の方が、ぐっすり寝れたりします。
お風呂場にいき扉を開いた時だった。
あっ!
「やだっ!」
「エテルナ!」
扉の向こうにはエテルナが立っていた。
しかも裸の状態で!
お風呂に入った後の様子でした。
しまった、まさかエテルナが居たとは……。
俺は直ぐに扉を閉めて戻った。
しかしエテルナの裸姿を見たあとに寝るのは難しい。
目に焼き付いていて、寝るどころじゃないです。
◇
エテルナと冒険者ギルドに向かうと受付けの女性が笑顔で対応してくれた。
いつも仕事とはいえ大変。
ギルド店内はいつもと変わらず血気盛んな者達のたまり場に。
中には俺をギロっと見てくるガタイにいい男もいた。
エテルナよりも小さな体の低身長な女の子もいて、杖を持っているから、魔法使いだと思った。
いつになっても雰囲気に馴染めそうにありません。
無理に馴染もうともしてませんが。
エテルナが掲示版に貼ってあるクエストから今まで受けたよりもやや高いランクのクエストを選んだ。
「これはやや高い中級ランクに属するクエストだわ。マツシマとわたしはの力では対抗するのは無理。しかしファイアレベル5かあるなら話は別。受けてみる価値はあるわね」
「それにしよう。ファイアレベル5の力を試すには、高いランクの方がいい。報酬はどう?」
「格段に報酬は増える。けど失敗は許されないわよ。怖くはないか」
「大丈夫だ。自作のファイアを信じたい」
「わかったわ。マツシマの勇気のある行動を私も信じてるわ」
エテルナが受付けの女性に今決めたクエストを申し込んだ。
しかし受付けの女性は受け取ると同時に険しい顔に変わる。
「こんにちわ。マツシマさん、エテルナさん。今日はクエストの依頼は沢山あるのでお願いします。えええっと……これは少しランクが高いですけど、よろしいのですかね。エテルナさんが一緒でも不安はありますが」
「俺が試したいのです。自分の力を。ファイアレベル5の力をね」
「ええっと……言ってる意味がわからないです。マツシマさんは少し前までファイアレベル1のはず。それに再下級ランクでも厳しいと伺ってました。そしたらファイアレベル5と言うのは信じられる話ではないですけど」
死にますよっていう言い方です。
女性はレベル5を完全に疑ってきて、ランクが高過ぎると警告してきた。
ギルド側からしても冒険者を安全に誘導するのも仕事の一つなのだろう。
無理に高ランクに行かせて死者を続出させても何の利益もない。
冒険者に適正なランクを紹介するのに限る。
ホットメルトを説明するのも面倒なので、無理にでも受けたいと言うしかない。
「本当にレベル5なんです。信じてって言っても難しいかもしれないが、このクエストでお願いしますよ。何かあっても責任は俺が取りますので」
「あっははははははは!!! 無理無理、キミには無理だぜ!!!!」
周りにいた冒険者が笑い者にしてくる。
笑ったのは俺が言ってる内容を聞いていたらしい。
そしてあまりにもおかしくて笑ったのだった。
笑い者にしてくれて、ムカっときました。
しかしこの場で争うのは敵を作るとだけだし、エテルナからも、
「相手にしちゃダメ。あんなのを相手にしてケンカしたらギルドから追い出される。無視して」
エテルナからのアドバイスに頷いて答える。
無駄なケンカは避けます。
ホットメルトを知らない連中にはどう説明しても無駄だから。
「わかりました。マツシマさんがそこまでおっしゃるなら受付けますが、危なくなったら逃げて来てください。ギルド側は逃げてくるのは一向に構いません。命を落とす方が困ります。決して恥ずかしいものではありません。ちなみにクエストの魔物はウインベアーです。凶暴なクマで、一撃で冒険者を天国に送ると報告があります。すでに亡くなっている冒険者が出てます」
「ありがとうございます。気をつけます」
「あはははははっ! 大丈夫かよ若造! ウインベアーは強えぞ!」
うるさい周囲の冒険者を無視した。
もう死者が出てますてか。
やはり死ぬ冒険者はいるのですね。
これはますます力を試せるクエストになりそう。
怖くないかって聞かれたら怖いでしょう。
誰だって今の話を聞かされたら怖いですよ。
「エテルナ、死ぬらしいよ」
「マツシマが死ぬのは嫌よ」
「俺も死にたくはないさ。けどこれで面白くなってきたな。相手は手強いクマ。力をはかるのにいい相手だ」
エテルナにも納得してもらいクエストを申し込んだ。
もう後には引けないのはわかっているが、冒険者の笑い声で怖くなってきてます。
ゲームなら例え死んでもセーブしておけばいいが、現実となるとセーブ機能はない。
死んだら終わりなわけで、俺にとってはかなり大きな仕事になりそうです。




