『12話 初めてのお客さん』
『12話 初めてのお客さん』
ついに開店した俺の魔導書店。
品数も少なくぱっとしない。
人通りが少ないのもあってか、お客さんはまだ一人もいない。
あせることはなく、ジッとお客さんが来るのをひたすら待つことに気持ちを切り替える。
そこへオッサンらしき人が売店をのぞいてくれる。
おっ、初めてのお客さんか!
ちょっとソワソワしてしまうが、オッサンは珍しそうにしていて、
「本を売っているのかい?」
「本は本でも魔導書です。それも俺の自作の魔導書を販売してまして、なんと今日が開店なのです!」
「魔導書でしたか。僕は冒険者でもなくて魔法は使わないのでね。買わないけど、魔導書ならどこでも売ってるだろう」
なんだ魔法は使わないのですか。
ただ見に来ただけの人でした。
あせってはいけない、気長に気持ちを緩くしておく。
「魔導書といっても特別な魔導書なんです。最初からレベル2が覚えられる、どこにもない魔導書なんです」
「ええっと! レベル2の魔導書を。それは嘘みたいな話だな。お姉ちゃん可愛いね、名前は何ていうの?」
「あなたね………気安く名前なんて聞いてどうする気、さては私が貴族なのを知ってて近寄ったの不審者!!!!!!」
「不審者?」
「いやいや、聞き間違いでしょう、アハハハ」
エテルナがいきなりワケのわからない言葉を言ったからお客さんがびっくりしてしまい、直ぐに言い訳した。
お客さんもお客さんで、エテルナが目当てだったらしく、魔導書など実は興味なくてエテルナが見たくて近寄ったらしい。
エテルナもまさかお客さんにまで貴族なんたら話をするとは。
冒険者と期待したがそもそも服装が防具もなかったから無理だった。
「おい、お客さんに今の言葉はマズいよ」
「はい、気をつけるわ」
エテルナに忠告しておくと、新たなお客さんが来た。
先程のお客さんと違い、防具と剣を腰にしているので、今度こそと期待してみる。
「魔導書ですか。売店で売ってるの?」
「はい、自作の魔導書です。もしかして冒険者風に見えますが」
「冒険者してるんだ。魔法も覚えたいと思っていて。ウォーターもあるのか」
「あります。ウォーター魔導書レベル2です!」
ウォーターに興味あるそうだから、これはチャンスだ。
ここぞとばかりにウォーター魔導書レベル2を示した。
「ええっと! ちょっと待ってくれないか。今キミは魔導書レベル2と言ったように聞こえたが、聞き間違いだったかな。聞き間違いだよな、この世に魔導書レベル2は存在しない」
「聞き間違いじゃないですよ、魔導書レベル2で販売してます」
少し疑問に思っていた。
不思議そうにしているが、強く魔導書レベル2だと説明。
「嘘を言ってもダメだよ。魔導書は全てレベル1が常識だ。レベル1でない本はどこにも存在しないし、悪徳な品物だと思われても当然だよ。誰も買わないだろう」
冒険者さんは俺の魔導書が偽物だと判断したらしく、疑いの目で見て来る。
常識を超えた商品なのを、どう説明したらいいかな。
説明するのは難しいです。
「う〜ん、偽物でなくて本当に魔導書レベル2なんです。どうしたら信じてくれるかな」
「無理無理。世界中を探しても誰も信じやしないさ。逆にレベル2を買ったなんて言ったら、笑い者になるさ、あははははは!」
冒険者さんは、どうしても信じてくれないようでして、高笑いし出す始末に。
こうなると買ってくれる方法を変えるしかなさそうです。
「ダメね、完璧にマツシマを疑っているわ」
エテルナにも同じように伝わったらしい。
普通に売っていても買わないと考えてみる。
そう言えば日本のテレビでよく放送していたの番組を思い出していて、テレビショッピングてあったなと。
あの手の番組は売り方が大変に上手いなと思っていた。
中でも記憶にあったのが無料でお試しさせておいて、気に入ったら購入してもらう販売方法である。
この方法なら疑いのあるお客さんにも通用するのではと考えてみた。
①誰も買わない商品。
②笑い者になるなら、無料ですすめてみる。
③無料なら試してもいいだろう。
④嘘であっても損はない。
⑤もし嘘の偽物の商品でなかったなら、その時はお金を払って買う。
この流れならレベル2を売る糸口になり得る。
俺は、じゃっかんの不慣れがあるも、お客さんに伝えてみることに。
物はためしと言うからね。
「あのお客さん、もし良ければ無料でウォーター魔導書レベル2を差しあげます。そして試しに魔導書を使い、レベル2が覚えられたら本物と信じてくれますよね。その時はお金を支払いしてもらえればいいですよ、どうです?」
「なに……無料でお試しかい。まぁ無料なら試してもいいぜ。しかしレベル2じゃない時は支払いはなしだぜ!」
「はい、どうぞ、お使いください!!」
おおっ、どうやらお客さんは俺の考えていた通りにウォーターの魔導書を使ってくれそうです。
上手くいくかは、時間が経てばわかる。
「ちょっと……無料でいいの?」
「いいさ」
エテルナは心配そうに言ってきたが、俺は頷く。
俺のステータスも空間に現れた。
ファイアレベル1と表示されていたから、お客さんのステータスにウォーターレベル2と表示されれば成功となる。
ここが俺の魔導書の成功か、それとも失敗して廃業になるかの分かれ道になる気がする。
冒険者さんは魔導書を持ちページを開き、ウォーターと読んだ。
俺にはよくわからないが、魔導書を覚える作業をしたようだ。
表題を読めば覚えられる感覚なのだろう。
表題はエテルナたちにも読める言語で書かれているから読める。
本文の術式は賢者にしか読めない仕組みだ。
すると俺の目の前でウォーターの魔導書は消えて無くなった。
消えたぞ!
冒険者さんは消えた魔導書を探しもしない。
使うと消えるものらしい。
そして冒険者さんは驚いて俺の顔をみて、
「嘘だろ!!!!!!!!」
「どうしました!」
「僕のステータスには、しっかりとウォーター魔法が記述されてる。しかもウォーターレベル2と!! 信じられんぞ! 常識破りの魔導書だぞ!」
やったね、成功てこと!
冒険者さんはあまりのショックだったのか大声で叫んだので俺とエテルナも驚いてしまった。
普通に売るのを変えて、無料で試させる方法が功をそうしたようです。
お客さんは喜びのあまり飛び跳ねている。
まるで宝くじにでも当たったかのように。
「凄い魔導書だよ。ウォーターレベル1を覚えて、そこからレベル2に達するまでの期間は一年と言われる。それが何もせずにレベル2。いくらで売ってくれるのだい?」
冒険者さんは嬉しかったのか俺にマースの支払いを求めてくる。
おおっ、買う気満々ですね!
「ウォーターレベル2は一冊、8000マースになります」
基本のレベル1は3000マースで売っていたのを購入した。
なので俺の作業費や労働費を価格に反映して8000にしましたが、高いのか安いのか判断がつかなかった。
エテルナにも販売前に相談したら、妥当ではないかとのこと。
あまり高くし過ぎて売れなかったら意味がないと結論に達する。
売れるようなら価格を高くしていけばいいだろうから、今日はこの価格で問題なし。
「8000マースだと!!!!!!!!」
しまった、高く設定したか。
「す、すみません、高すぎまたか。そしたら少しお安くします!」
冒険者さんは驚いて言った。
やっぱり8000は高すぎましたね。
レベル1の価格の二倍以上は、ボッタクリでしょうか。
「安くしすぎだぜ!!!!!!!!」
「ええっと……安いですかね」
逆に安かったとは。
俺にも自作の魔導書の価値がわからんです。
まぁ安くしろと言われるよりは、高く売れた方が嬉しいに決まっている。
冒険者さんは買ってくれそうですから、いいとしましょう。




