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『1話 異世界に転生したら製本士だった』

『1話 』


 アルバイトである俺の職業は印刷製本という本を作る仕事で、アルバイトでの時給はたいてい安いのが相場だ。

 俺の時給はコンビニなどとほぼ同じで、暮らしていくのが精一杯な残念な金額である。

 それでも俺の年齢が40代なので、選べる職業は限られてくるから、贅沢は言えない。

 もらえるだけありがたいと思っている。

 仕事の内容は、誰もが知っている本を作ること。

 わかりやすく言えば、機械で印刷された紙を本にする。

 そこでは製本用のノリが必要で、ノリを大量に使い、バラバラにならないように使う。

 機械は慣れれば簡単だ。

 機械に入れていけば勝手に製本されていくから。

 誰でもできるので、その分時給も安いのだうろ。

 週五日はフルに勤務。

 休みは二日あるのが救いだ。

 自宅は親と実家暮らし。

 家賃などとても払える自信はない。

 独身は当然だろう。

 テレビで深夜アニメを見るのが、楽しみな趣味。

 お金もかからないし、なにしろ面白い。

 アニメを見て食って寝て、また起きて出社するのを繰り返す毎日であった。

 あっという間に数年がたっていた。





 いつものように会社に出社した。

 毎日のことなどで、もう慣れたが。

 作業は忙しく、これは残業ペースだなと思った。

 大量の印刷された用紙。

 俺はまず用紙を断裁する。

 断裁するのは断裁機と呼ばれる機械だ。

 カッコイイ名前通り、かなりぶ厚い用紙も、コイツなら真っ二つに断裁してしまう。

 日本刀で切ってもここまで真っ二つには切れないだろう。

 それくらいに切れ味は鋭いのが断裁機だ。

 危ないので手を出すのは止めた方がいい。

 用紙を断裁したら、画像が印刷された用紙を手で合わせていく。

 断裁された状態では本になっていないから。

 そこでページ数を確認してしっかりと本にしておく。

 この段階では本になっているが、バラバラになってしまう。

 ここで製本機の登場だ。

 内部にあるノリを高温で温めておくこと。

 そうしないとノリが融けないからだ。

 その製本機の内部にノリ用のタンクがあり、温度は約170度くらいに設定しておく。

 あまり温度が低いとノリの付きが悪くなるからだ。

 

 ノリが融けたらさっそく製本に取り掛かる。

 先ほどの合わせてあった用紙を機械に入れていく。

 すると背の部分にノリが付けられて、バラバラにならなくなるわけだ。

 表紙もこのタイミングで投入される。

 表紙付きの本の完成となる。

 しかしまだ完全に完全とは言えない。

 なぜならば、本には指定された寸法がある。

 最後に寸法になるように周りの部分を断裁する。

 縦型のもあれば、正方形や横型、スマホくらいの大きさのもあり、全て断裁して完成となる。

 指定された寸法を確認しないでいると、とんでもない失敗にみまわれる。

 断裁した後に、しまった!となる。

 間違った寸法に断裁する失敗だ。

 これは痛い。

 もはや取り返しがつかない失敗。

 自慢だが俺は何度も経験済みだ。

 忙しくなるとついやってしまうミスである。

 魔法でもあれば、あっという間に作れるかもしれないが、俺の住む世界に魔法など存在しない。

 地道に作るしかない。

 これをひたすら繰り返すのが俺の仕事ってわけだ。

 とてつもなく疲れるのがわかるだろう。

 肉体労働の代表的といえる。

 その日もいつもと変わらず製本作業をしていた。

 何の変化もない作業だと……。

 しかし印刷された用紙を見た。


「…………?」


 俺はふと見てしまった。

 なんだろう?

 あまり見慣れない画像であった。

 これは……ゲームや漫画で見たことのある形。

 蜂の巣のような形だ。

 魔法陣か?

 六角形の形をした画像が印刷されていた。

 文字のような、日本語ではない文字もある。

 周りには何人も作業者がいる。

 みんな自分の作業に夢中で俺のことなど見ていなかった。

 そこで俺はその気になったページを触って確認しようとした。

 印刷されたページを持った時だった。

 まるで光のような閃光が用紙から放たれた。

 

「うゎっ!」


 俺は思わず声を出してしまった。

 普通なら変であろう。

 コイツ大丈夫かのレベル。

 しかし紙から光が発せられたら、誰でも声を出すのは当然だ。

 ありえない。

 経験したこともないし、聞いたこともない。

 俺は光に包まれた。

 なぜか、意識が遠のいていく気がした。

 俺はこのままどうなるのかな?

 …………

 ……

 …





 ここは?

 俺は死んだのかな?

 目を開けるとそこは都市であった。

 人が歩いているし、賑やかな声も聞こえた。

 どうやら俺は死んではいないようだ。

 生きた感じは変わっていない。

 呼吸もできる。

 俺は生きていてホッとした。

 しかし問題はあった。

 確か俺は製本作業をしていたはず。

 それかなぜこんな町の中で立っているのだろう。

 それも日本の町の風景とはまるで違う風景。

 アジアの風景ではなく、ロールプレイングゲームで見たことのある懐かしい風景であった。

 不思議としかいいようがない。

 夢なのかなとも思った。

 だが夢にしてはあまりにもリアルである。

 そうなるとどこかに俺は一瞬で移ったとしか考えられない。

 俺は頭がおかしくなったのか?

 服装は作業着のまま。

 思いつくのはアレだ。

 作業中に見た魔法陣のような画像だ。

 あのページを見た時に光が俺に向かって来たのは鮮明に覚えている。

 きっとあの六角形の魔法陣が関係していると考えた。

 つまりは俺はあのページにあった魔法陣の影響を受けて、まるで知らない世界に転移されたと。

 そう考えると、今の俺の立場は理解できる。

 職場では俺はどうなっているのかはわからないが……。


たぶん俺は作業中に突然に消えたとかにされているのかもしれない。

 そこらへんは考えても俺にはわからない。

 日本ではないのなら、日本のことは考えるのはよそう。

 大事なのは今いる世界である。

 現実感がないが現実を生きるしかないから、前向きに考えていこう。

 そこに俺の頭の中に不思議な現象が起こった。

 視界に突然に液晶画面らしき物が現れたからだ。

 なんだこれは?

 まるでゲームに出てくるステータス画面らしき物に驚いた。

 そこには文字が書かれてあったから、再び驚いた。

 読んでみると、



○○○○○○○○○○○○○○○○○○

名前 マツシマ

年齢 20才(実年齢40才)

種族 人族

職業 製本士

称号 

体力  10

攻撃力 10

防御力 10

魔力  10

素早さ 10


スキル 

 言語理解

 ホットメルト


魔法

 ファイアレベル1

○○○○○○○○○○○○○○○○○○




 なんだこれは?

 俺の頭が狂ったのかな。

 いや間違いなく現実に見えてる。

 そしてびっくりしたのが俺の名前や詳しいステータスが書かれてあったことだ。

 年齢が20才てのは意味がわからない。

 俺の実年齢は40才だからだ。

 職業が製本士とある。

 まぁ俺の実際の職業だから、問題はないが。

 攻撃力とかのステータス数値などは、もう理解不能であった。

 スキルとやらは、ホットメルトと。

 ホットメルトは俺が知ってるあのホットメルトなのか?

 まさかノリだぞ!

 ノリがスキルって弱すぎやしないか!

 印刷された紙に付けるノリだぞ!

 ちょっと残念過ぎる。

 スキルならカッコイイスキルが良かったが、とても残念な予感がハンパない。

 最初からこれでは俺のこの先の人生も見えてるだろう。

 完全にゲームの世界としか思えない内容だ。

 こうなると何でもありな気もする。

 ここまでわかったのは俺は作業中にあの魔法陣を見てしまい、この世界にきた。

 そしてたら職業は製本士だった。

 年齢は若くなっているようだ。

 色々と知りたいことがあるので、俺は歩いてみることにした。

 


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