4. 王妃の怒り、王女の憤り。
■ 1.4.1
魔王城を目指して敵の有力なユニットが大量に進撃してくるのを確認したが、それでもこちらのやることは基本的に変わらない。
20万対26という、数の上では乾いた笑いさえ出ないほどの圧倒的劣勢に立たされているのだ。
戦いの序盤は、我慢に我慢を重ね、とにかく敵の数を倒して自軍ユニットのレベルを上げていかなければならない。
数の絶対的劣勢を個別ユニットの能力でどうにか捌けるようになるところまでユニット達が育ったら、全面反攻に出る。
今はまだカタストロフ程度しか使えない魔王ユニットも、レベルが上がれば定番のメテオストライクや、アースクエイク、タイダルウェイヴと云った大規模殲滅魔法が使えるようになる。
ドラゴンやダークナイト達も、上位クラスに進化してより強力な範囲攻撃が使えるようになる。
元の個体の地力が高い魔王軍は、上位クラス高レベルユニットになる事で手の付けられない強さを手に入れる事ができるのだ。
終盤15ターンくらいで、行きの駄賃で手当たり次第に敵軍を消滅させながら一気に敵の大将ユニットに向けて攻め込み、そして大将首を取る。
運が良ければそれが敵のサブ敗北条件、最悪でも主軸ユニットを失い雑魚ばかりになった敵軍の殲滅戦。
その為には、今は我慢の時。
穴熊のように城に閉じ籠もり、次から次へと攻め込んでくる敵ユニットを返り討ちにする事で、反撃ボーナスが付いた経験値を少しでも稼ぐのだ。
■ 1.4.2
テンプルナイトにアークウィザード、アークビショップと云った敵主力が攻め込んできて数ターン。
やばい。
レベルアップによる魔王様の体力魔力の回復が追い付いていない。
出城で戦う魔王様は、基本的にターン毎の回復が望めない。
敵に攻撃されて経験値を稼ぎ、レベルアップ時の完全回復を頼りにして戦っているのだ。
強力な敵ユニットが魔王城近くに攻め込んできたことで、敵の打撃力が一気に向上し、さらに魔王ユニットのレベルがそこそこ上がってきたことで成長が鈍化した。
ターン開けに残り体力が半分を切り、次のレベルアップまでの経験値が半分に達していない。もう無理だ。
他の自軍ユニットで出城から魔王城までの道を開き、満身創痍の魔王様ご帰還。
玉座に座る魔王ユニットを他のユニットで囲み、体力がかなりヤバい魔王を守って敵ターンを凌ぐ。
次のターンで全回復した魔王様、今度は魔王城の最前面で敵を迎え撃つ。
王様なのに。
哀しいけど、最強のユニットである魔王様を遊ばせておく余裕なんて無いのよね。
だが、安易なその配置がまずかった。
大魔法であるカタストロフを最大の効率で使用しようとして、城壁の角まで出た。
周り4方向ががら空きになる。味方は後方2方向、城壁の角両脇に陣取ったドラゴン2匹のみ。
ヤバいかな? とは思った。
敵ユニット溢れる平原に向けて岬のように突き出した城壁の角。
だが、まだ遠隔広範囲攻撃が出来ない魔王の、現段階で最大の魔法であるカタストロフを最も効果的に使えるのもこの城壁の角。
カタストロフによって周囲8ヘクスが消し飛ぶ。
ホーリーヘビーナイトの様な、体力と防御力の高いユニットが残るが、レッドドラゴンとブラックドラゴンのブレスで殆どが消し炭になり消えていく。
ターン終了。敵側のターン開始。
と同時に、大司教が突入してきた。
城壁の上に立つ魔王に、至近距離から聖裁雷電を放つ。
電撃の威力は城壁の地形効果で大きく削がれたが、しかし混沌属性の魔族に対して秩序属性の聖魔法は効く。
これまでの戦いで体力が尽きかけていたアークビショップは、魔王の反撃を受けて命を落とす。
息絶えたアークビショップの屍を乗り越え、今が魔王を討つ千載一遇のチャンスとばかりに、別のアークビショップが魔王に肉薄する。
再びホーリーボルト。魔王の反撃。息絶えるアークビショップ。
さらにアークビショップ。ホーリーボルト。魔王の反撃。
しまった。やられた。
これは、味方の被害がどれだけ甚大なものになろうともそれを全く省みず、目標としたユニットを確実にこのターンで撃破するための、半ば填め手、半ば特攻の戦術だった。
目標のユニットに対して優位属性を持ち、且つ傷付き体力の残り少ないユニットを幾つも用意する。
目標ユニットに攻撃を加える。優位属性なので通常よりも大きな損害を与えることが出来る。
だが、自軍ユニットは既に体力の残り少なく、敵の反撃によって撃破される。
その空いたヘクスに対して、次のユニットが突撃し、攻撃を行いダメージを与える。
反撃されユニットは再び撃破されて消える。
そして再び空いたヘクスにさらに次のユニットが突撃する。
それまで大切に育ててきた強力なユニットを文字通り使い潰すことになるが、体力や防御力が高すぎて味方の総攻撃程度では簡単に潰せなくなってしまったユニット、しかも放置しておけば後々レベルアップしてさらに手が付けられなくなるようなユニットに対して行う填め手だ。
ましてや魔王。
魔王を倒せば相手は勝利条件を達成するのだ。
そして単発マップでユニットの持ち越しも無い。
相手側は一切躊躇わないだろう。
さらに特攻してきたアークビショップが魔王に深いダメージを与え、そして魔王の反撃を受けて消滅する。
六連続でアークビショップが特攻してきたところで、相手側も付近のアークビショップの在庫が尽きたらしい。
次に飛び込んできたのはテンプルナイト。
アークビショップほどでは無いが、やはり秩序属性の魔法を使用する事が出来、ナイトである為当然物理的な攻撃防御にも優れるという、ある意味アークビショップよりも面倒な連中だ。
だが俺はテンプルナイトを見て笑みを浮かべる。
テンプルナイトは、アークビショップよりも遥かに防御力が高いのだ。
そう、魔王の一撃を耐えられてしまうほどに。
テンプルナイトのランスチャージ(城壁の上の魔王に、地上にいるテンプルナイトがどうやってランスチャージを掛けたのかは不明だが)を受けてダメージを負う魔王。
そして鬼マッチョの魔王に殴り返され、大ダメージを受けるテンプルナイト。
しかしテンプルナイトは耐えた。
これで魔王の正面のヘクスが埋まった。
次々と雪崩れ込んでくるテンプルナイト。
いずれのユニットも、魔王にランスチャージを掛け、反撃を受けるが耐えきった。
魔王の周りが4騎のテンプルナイトで埋まった。
魔王の体力は残り1/4を切っているが、まだ生きている。
どうやら相手の目論見は外れたようだ。
ほっと安堵の息をついた俺だったが、次の瞬間、テンプルナイトの外に移動してきたユニットを見て舌打ちする。
アークウィザード。
アークビショップ同等以上の魔法攻撃力を持ち、空中を移動出来るために移動距離も長い。
そして、移動後の攻撃でさえ2ヘクスの遠隔攻撃が出来る。
即ち、魔王は今から最大9回のアークメイジの攻撃に耐えきらねばならない。
唯一の救いは、いわゆる神聖系魔法に区分されるビショップの魔法よりも、魔王はウィザードの魔法に対して耐性が高いというところか。
だがそれはあくまでも隠しパラメータの話だ。
このマップの隠しパラメータはどうもおかしい。余り信用ならない。
兵士達が魔王城に向けて進軍する上空を、魔力を纏い、黒衣に身を包んだ高位の魔導士達が追い抜いていく。
魔道士達は魔王城に近付くと、城壁の上に立つ魔王に向けて一斉に攻撃魔法を放つ。
遠距離からの一斉の魔法攻撃に魔王はただ耐えるしか無く、煙を噴き上げ、焼け爛れていく己の身体を守りつつも、しかしその眼光だけは鋭く、彼方に浮かぶ魔道士達を視線で射殺さんとばかりに睨み付ける。
アークウィザードは両腕を振り上げ、詠唱を続け、魔王に攻撃を打ち込み続ける。
爆炎と雷光と粉塵に包まれて、城壁の上の魔王の姿が見えなくなる程の猛攻だった。
だが魔王は耐えきった。
満身創痍で全身から血を滴らせ、目も見えず歩くことさえままならぬほどではあったが、その命はまだ戦う為に小さくも強く燃えていた。
魔王ユニットをクリックしてステータスを表示すると、恐ろしいことに体力の残りはごく僅か、10%どころか5%さえも割り込んでおり、バー表示される一番左側にごく僅かな赤い線が表示されているだけだった。
俺は冷や汗をかくとともに、思わず右手で握りこぶしを作り小さくガッツポーズをしてしまった。
大魔法の行使は、移動とは別に残存魔力量にのみ依存する。
城壁で一度カタストロフを使用して、包囲していた魔法使い軍団に甚大な被害を与え、そして魔王を城内に移動した。
カタストロフによってテンプルナイトやアークウィザードを何騎も撃破したことで、魔王は今更ながらにレベルアップして全回復した。
しかしレベルが一つ上がったくらいでは、次のターンにまた同じ事を繰り返す可能性が高い、というよりも今度こそは魔王がやられてしまうかも知れない。
流石にその危険を冒す気にはなれなかった。
魔王の代わり、もしくは魔王とともに前線を支えるユニットとその運用を考えなければならない。
ゲーム開始後に一応一通りチェックしたのだが、再度全ユニットの詳細ステータスを確認する。
で、また二度見した。
・・・王妃様? それと、王女様?
王妃ユニットの詳細ステータス画面、攻撃手段の欄に、魔法が幾つも表示されている。
開始直後には絶対に一つも記述が無かった。「魔王ヨメ、使えねえ」と独り言を言ったのを覚えている。
それは王女ユニットも同じで、目を疑うような大魔法の名前がずらずらと並んでいる。
こっちも開始直後にチェックしたときにはなにひとつ記載がなかったはずだ。「ツンデレ、案外使えねえなお前も」と、こちらも独り言ちた記憶がある。
それは色々とおかしいのだが、今なら使えるというのなら、使わない手は無い。
王妃ユニットを選択し、そして魔法を選択する。
たった今詳細ステータス画面で見たばかりの魔法の名前がズラリと並ぶ。
王妃ユニットは魔王城の中から一歩も外に出ることは無いが、魔法の効果範囲が表示される。
一辺40ヘクスの巨大な正六角形。あり得ない大きさ。
だが、魔法の選択の時点から異常だったのだ。今更気にするつもりも無い。
その六角形を、忍者の偵察によって敵の主力部隊が待機していると判明しているあたりに合わせる。
大規模魔法は、行使の中心が自軍の索敵範囲内であれば、その大部分が索敵範囲外を対象としていても実行出来る。
そしてマウスボタンをクリック。
玉座の近くで魔王の帰還を待っていた王妃を中心に膨大な魔力が集まる。
王妃は怒っていた。
例え脱出後に全ての負傷が治り、無事王の間に戻って来た姿を確認出来たとは言っても、魔王が流した大量の血の跡までは消えてはいなかった。
着衣は見る影も無くズタズタに引き裂かれ、煤や泥がこびり付き、赤黒い血の跡で全身が染まったその姿。
魔族の王を、何よりも最愛の伴侶を傷つけた人間の兵士達を、軍を、その軍を指揮する者達を、何よりも神聖アラカサン帝国とその皇帝を、胸の奥で激しく燃え盛る怒りの炎で焼き尽くしてやりたいと思った。
その怒りが彼女の振り上げた指先に集まり、集まる魔力を増幅する。
「隕石群雨」
王妃イレーヌの声と共に、集まった膨大な量の魔力が天に向けて迸る。
立て続けの魔力の行使によって、まるで嵐に襲われたかのようにどんよりと暗い雲の立ちこめた戦場に、突如巨大な火球が落ちてきた。
その真っ赤に灼けて炎の尾を引く巨大な岩の群れは、空のいずこからか現れ、戦場にかかる黒雲に幾つもの巨大な穴を開けて地上に降り注いだ。
例えワイバーンやグリフォンでさえ、避けることの能わない猛烈な速度で地上に激突した巨岩は、焼け爛れた破片を辺りに飛び散らせ、鋼鉄の鎧さえ一瞬で溶かす程の熱量を撒き散らし、纏った衝撃波で辺り一面のあらゆる物をなぎ倒し、大地を抉り、大量の土砂とともに兵士達を巻き上げ、そして最後に大爆発を起こして巨大なクレーターを形成した。
巨岩は戦場のあらゆる所に落下し、全てを灼き尽くし、吹き飛ばして、辺り一面に死と破壊を撒き散らした。
「お・・・王妃サマ・・・?」
見慣れたメテオストライクの破壊力の遥か上を行く、今王妃ユニットが行使した大魔法に俺は絶句した。
まるで母親の怒りがそのまま伝染したかのように、王女エリンゼも怒りに燃える瞳で魔力を集め始める。
とても生きているとは思えないボロボロの姿で城に戻ってきた父と、泣き叫ぶようにしてその父に駆け寄り、こびりついた泥や血で汚れることも厭わずに抱き付き、父の身体を触って無事を確認する母。
ただ彼女たちが魔族と呼ばれるものであると云うだけ、ただそれだけの理由で、遙か昔から執拗に彼女たちが居住する地域に侵攻を繰り返し、無辜の人々を殺戮し続けてきた神聖アラカサン帝国。それを統べる皇帝と自称聖職者達。
叶うことならば、彼らが住まう帝都に直接赴き、この手でその首全てを縊り殺してやりたかった。
その者達が今まさに神の代理人を騙り、ふたたび領土を侵し、民を殺戮し続け、国土を破壊し続けて城下まで押し寄せて来た。
その怒りと憤りが胸の中に渦巻き混ざり合い、今にも炎の形を取って全身から噴き出しそうな程であった。
ボロ布のように傷ついた父と、その姿をみて泣く母を見て、その怒りが今明確な形となって常識では考えられないほどの魔力を集める。
「遠眼」で覗き見た、戦場の遙か彼方で輿に揺られる大司教。
朧に視野に映るその年老いた身体を中心として、集まる全ての魔力を叩き付けた。
「天地氷結」
何の前触れも無く全てのものが動きを止める。
大気中の水分が凍って地に落ち、人の身体の中のあらゆる水分が凍り、固まり、結晶となって皮膚を突き破り飛び出す。
空を飛ぶものは凍り付いたまま地上に落ちて砕け散り、地を駆けて居た者はそのままの姿で、凍り付き倒れてやはり砕け散る。
あり得ないことに、兵士達の持つ剣や鎧までもが凍り付き、僅かな衝撃でそれを纏う肉体と共に砕け散った。
その絶対零度の世界は、帝都神聖大教会から派遣された高位の司教の命を一瞬で凍り付かせて奪い、目で追うことも出来ない速度で辺り一面広範囲に拡大していった。
全てのものが凍り付き、動きを止める。
ただバランスを崩して倒れ、砕け散る、氷の彫像のようになった兵士達騎士達の、動かぬ身体が立てる音のみが辺りに無数に響き渡る。
風さえも凍る微細な氷の結晶と舞い散る雪とで白く煙ったこの世界に、命あるものはただ一つも存在し得なかった。
「ツンデレ王女・・・」
通常のメテオストライクや、大規模氷結魔法とは遥かにかけ離れた威力で、魔王城正面の平原をほぼ一掃してしまった王妃ユニットと王女ユニットの大魔法に、俺はただ呆然とモニタを見つめることしか出来なかった。
拙作お読み戴きありがとうございます。
メテオストライク、定番ですよね。
大○略でこれが使えたらどんなに良いか、と何度思ったことか。核ミサイル使えねえし。
でも、一番楽しいのはヘリ部隊でキルゴア中佐ゴッコです。最愛のロングボウアパッチ。