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無能な軍師が魔王様に呼びつけられたら。  作者: 松由実行
第一章 なにこの無理ゲー。
3/39

3. 魔王城急襲


■ 1.3.1

 

 

 白く大きな翼を広げ空を駆けるペガサスに乗った白銀の鎧騎士。

 まるで獲物を狙う猛禽類のように、王城の周りを音も無く旋回する無数の翼。

 その内の一騎がひらりと身を翻し、空を駆け、眼にも止まらぬ勢いで王城に突撃する。

 一騎の突撃に釣られたかのように、次から次へと王城に突撃する有翼の白馬。

 朝の光に銀の鎧を煌めかせ、鞍上で騎士が長槍を構える。

 空を蹴るそのままの勢いで王城内に降り、地を蹴って真っ直ぐに突き進む。

 蹄が一歩地を蹴る毎にさらに加速するその先に見えるのは、魔王国王妃と王女。

 側仕えの侍女達が貴人を守ろうと立ちはだかるが、その手に武器は無く、辺りには彼女たち以外に人の姿も無く、助けを求めるべくもない。

 石畳を蹴る蹄の音を響かせて、雷光の速さで騎士が迫る。

 

 ペガサスナイトのユニットが王女に向かって真っ直ぐと突っ込み、その1ヘクス手前で侍女ユニットの迎撃を受けた。

 武器さえ持っていない、ましてや護るべき対象の王女よりもステータス値の低い侍女が迎撃など行っても、足止めにもならないだろう。

 いやそれ以前に、余りに非力で迎撃実行の判定さえ出ず、ペガサスナイトの攻撃は侍女をスルーして全て王女達に届いてしまうだろう。

 事実、ペガサスナイトは王妃ユニットと王女ユニットを囲む侍女ユニット達の脇を通り、直接王女を狙える位置まで一気に到達・・・出来ずに侍女に迎撃されてマップ上から消えた。

 

 ・・・・・・・は?

 思わず目をこすって、もう一度王女達が固まっている場所を見る。

 確かに残っているのは青い侍女ユニットで、赤いペガサスナイトユニットはどこにも存在しない。

 何が起こった?

 

 呆然とモニタを見ている内に、次のペガサスナイトが王城内に突入する。

 先ほどと同じ様に、障害となるユニットさえ無い城内を真っ直ぐに駆け、王妃と王女が居る場所に向かう。

 侍女の脇をすり抜け・・・られずに迎撃され、そしてペガサスナイトが消える。

 

「ええええ!?」

 

 清々しい朝日がレースのカーテンを通して部屋に差し込む中、俺の奇声が他に誰も居ない部屋の中にこだまする。

 

 確か侍女の全ステータスは一桁、それに対してペガサスナイトは防御以外の全ステータスが100にも達しようかという高レベルだったはずだ。

 次のペガサスナイトが場内に突入するのを横目で見ながら、俺はユニット一覧表を開き、ステータス一覧を表示する。

 間違いない。ユニット「侍女」は6人ともステータスが全て一桁だ。

 一番上の侍女の詳細ステータス画面を開く。

 黒いメイド服を着たユニット画像と絶望的な数字が並ぶ詳細画面の、スキル欄にただ一つ怪しげな記述が。

 

「侍女の(たしな)み」

 

 これか!? これなのか!?

 侍女の嗜みって、礼儀作法のことじゃないのかよ! お茶を入れたり、床をピカピカに磨き上げたり、王女様の着替えを手伝ったりする事じゃないのかよ!

 しかしそのスキル以外、詳細ステータス画面になにひとつ怪しげな疑わしい記述はない。

 全部この一言で片付ける気か!?

 

「侍女の嗜みでございます。」

 

 ペガサスナイトをどうやってか一瞬で両断した清楚クール系メイドのお姉さんが、顔色ひとつ変えず当然のことの様に呟くのが聞こえたような気がした。

 

 その後も次から次へと城内に突入してくるペガサスナイトを、6人の侍女達が完璧に撃退する。

 6人の侍女全ての詳細ステータスを確認したが、多少のパラメータの差こそあれ、全員が共通してスキル「侍女の嗜み」を持っている。

 間違いない。

 侍女の嗜み、恐るべし。

 やはり魔王城に務め、王妃や王女のそば仕えをする程の侍女は、ただの侍女ではないという事か。

 ていうか、パラメータ意味ないじゃん。ゲームのシステム根底から覆ってんじゃん。

 

 そうこうするうちに、城内に突撃するのを踏みとどまったのか、それともただ単に移動距離が足りなかっただけなのか、数騎のペガサスナイトを王城周辺に残して、王城攻防戦は守備側の圧倒的勝利で終わりを告げた。

 お城の守りはもうメイドさん達に任せちゃって良いかな。

 そう言えば、ユニットリストには名前があるけど、まだ見た覚えの無いユニットも居るんだよね。魔王様が王城から外に出ている今、召喚のしようも無いのだけれど。

 

 そしてまた俺のターンが回ってくる。

 変わらずの魔王様無双、両脇を固める赤と黒のドラゴン、槍のように敵陣に穴を開け平原を駆ける将軍とダークナイト。

 戦いで多少傷ついても、ターン最後に我らが魔王様の発動する大魔法、オールヒールでほぼ全快。

 

 勝ちパターンにハマってきた。

 だが、対戦型ストラテジーの相手は人間。パターン化した攻略には必ず何かしらの手を打ってくる。油断大敵。小さな変化も見逃さないよう、索敵の可能な限りの領域に目を配る。

 こういう時に、索敵範囲の広い航空戦力に乏しいのは厳しい。

 空も飛べるが、地上に降りれば戦車並みの火力と防御を誇るドラゴン二匹を索敵に使うのは勿体ない。魔王様の両脇を狛犬の様に護って貰う方がいい。

 

 8ターン目と、10ターン目に自陣に大きな変化があった。

 敵のターンが終わって、自軍の8ターン目が始まると同時にダイアログが開いた。

 

「『上忍』、『忍者』、『忍者』が帰還しました。ユニットを出撃させますか?」

 

 もちろん!

 ユニット数は一つでも多い方がいい。しかも忍者とか、偵察と暗殺に特化したユニットは嬉しい。

 王城にユニット「上忍」と、ユニット「忍者」が二人現れる。

 忍者達はすぐに偵察に飛び出す。その隠遁性から、忍者は敵の部隊の中を駆け抜ける事が出来、移動範囲内に空きヘクスがあれば、例えそれが敵陣のど真ん中でも移動できる。

 さらに移動終了と同時に敵を攻撃するようなことをせず隠遁を選択すると、余程の特殊地形効果を持つ相手でなければ、例え敵陣のど真ん中でも敵に見つかるようなことは無い。

 余程の特殊地形効果というのは、その種族独自の特に得意とする地形、つまり森の中のエルフや、闇夜のヴァンパイア、水辺のリザードマンなどだ。

 

 まるで無敵のように思える忍者だが、その特殊能力の代償として攻撃力と防御力は高くない。素早さがあるので敵の攻撃をかわす可能性も高いが、しかしナイトなどから一発貰えば確実に深刻なダメージになる。

 攻撃力も高くは無いのだが、こちらはクリティカル率が異様に高いのでそれを補っている。

 要するに、敵陣深く単騎で侵入して大将首を狙えるが、それをやれば確実にこちらも折角育てた大切な忍者を失う、というわけだ。

 

 だが今やっているのはキャンペーンでは無く、一回限りの対人戦。

 転戦連戦を考慮してユニットを大事に育てる必要は無い。

 一撃入れるのも有りだ。

 指揮官がいなくなれば、こちらには見えない相手側のサブ敗北条件が満たされ、神聖アラカサン帝国軍とやらが兵を引く可能性も高まる。

 状況次第では、魔王国を護るため、忍者君には貴い犠牲になって貰う必要があるかも知れない。

 そして忍者達をマップ上に散らした以外は他に変わったことも無く終わる8ターン。

 

 そして10ターン目。

 夕闇に染まるマップにまた新たなダイアログが表示された。

 

「『伯爵』が目覚めました。ユニットを出撃させますか?」

 

 夕暮れに目覚める「伯爵」と言ったらやっぱりアレだろ。いやむしろアレでしかあり得ない。

 夜の帳が降りてきて世界を包み、魔王城が闇の中に沈む頃、城の地下室の奥深く普段誰も近付かない小部屋に安置された漆黒の棺桶の扉が音も無く開く。

 柔らかな深紅のビロードに内張された、棺桶の中から伸びる生気の無い青白い手が縁を掴み、その男はゆっくりと上半身を起こす。

 青白い死者の顔色、闇の中で金色を帯びて光る血の色の瞳、綺麗に撫で付けられた銀髪と、酷薄そうな薄く形の整った唇。

 輝くような純白のシャツに漆黒の燕尾服を着て、黒いマントを羽織るその長躯がゆっくりと棺桶の中から一歩を踏み出す。

 男はまるで地下の暗闇の中に溶け込むかのように、冷たく湿った空気の中、音も無く石畳の廊下を歩いて行く。

 先の戦の傷が癒えていないのか、ふと足を止めた男が鳩尾の辺りを鷲掴みにしてその美しい相貌を歪めた。

 

「・・・腹減った・・・」

 

 折角クールに耽美に登場したのが、全部台無しだよ!

 そりゃずっと地下で寝てりゃ腹も減るだろうさ! さっさと戦場に飛び出して敵兵の生き血を啜ってこいこの残念ヴァンパイア!

 て言うか、長いシリアスに俺の妄想力が耐えられなかったよ!

 

 魔王城を飛び出したヴァンパイアユニットは、ダークプリーストの範囲魔法「暗黒霊死(アストラルデス)」によって魂魄を貪り喰い尽くされた敵兵の死体が積み重なる広野に降り立つ。

 

「ひ弱き者どもよ、我を恐れよ、逃げ惑え、絶望せよ。炎と死と破壊の渦巻くこの戦場で、()が奏でる暗黒の旋律にその血を捧げよ。『鮮血の(ブラッド)交響曲(シンフォニー)』!」

 

 ・・・あかん。このオッサン、ただのイタイ患者さんだったわ。

 

 永遠の14歳病罹患者であろうが無かろうが、不死者の王が行使(キャスト)した魔法の効果は絶大だった。

 見渡す限りの敵兵の全てが、目から、口から、そして皮膚からも、大量の血液を迸らせる。

 数百もの血飛沫が、まるで一人の指揮者に操られるかのように渦巻き、そして大きな赤い流れとなって不死の王に飲み尽くされた。

 一瞬で全ての血液を吸い取られた兵士達が、まるで数百年前のミイラのように干からびて倒れる。

 

「目覚めの一口は滋養溢れる美女の生き血としたいところだが、望むべくもなし。粗悪なものでも腹の足しにはなった。鈍った身体に一つ準備運動を行うとするか。出でよ我が(しもべ)達。」

 

 イタイです。もう見てられません。というか、悪ノリしすぎだ俺の妄想力。

 

 マントと共に大きく広げられたヴァンパイアの両手の先にそれぞれ、おぼろげに光る白い固まりが発生した。

 白い光は徐々に人の形を取り、半ば身体の透けた全裸の美女二人を形作った。

 

「行け。」

 

 ヴァンパイアの命令と共に、人が聞けば発狂するような歪んだ歓喜の声を上げ、二体の死霊(レイス)が空を舞う。

 逃げ惑う兵士を優しく抱きしめ、精気を吸い取り魂を啜り上げる。

 剣を振るっても素通りしてしまう死霊に、為す術も無く次から次へと魂を吸い取られていく兵士達。

 

 今気付いたんだけどこの残念中二吸血鬼、1ターンで2回魔法行使してなかったか?

 吸血魔法と召喚魔法と。

 ステータスウィンドウを開き、「伯爵」の詳細ステータスを開く。ああそう言えばコノヒトそんな名前でしたね。

 

 黒く長いマントに身を包んで直立した身をちょっとひねり、腕組みした右手の平を無意味に顔の前で広げたアレな感じ溢れるユニット画像の脇のパラメータを確認した・・・二度見した。

 コノヒト、素早さがオニですが。というよりもバグの領域に入ってますが。

 多分、異常なほどに高い素早さパラメータで、ヴァンパイア独特の高速移動を表しているのだろうと納得する。やりすぎだけど。

 

 余りにインパクトの強すぎる伯爵様の登場に呆然とする内に10ターンは終了。

 そして敵は、相も変わらず人海戦術のゴリ押しで攻め寄せてくる。

 既に幾つもレベルが上がっている魔王にはまともに傷を付けることさえ出来ず、ぐるり兵士達に囲まれてタコ殴りにされた魔王様のライフは一切減っているようには見えない。

 それは魔王の両脇を固める2匹のドラゴンと、広野を駆け巡る3人の騎士達も同じで、どのユニットも敵のターンが始まると同時に敵兵に取り囲まれタコ殴りにされるが、毎ターンレベルアップを繰り返してきた彼等に深いダメージを与えるには至らない。

 

 俺はずっと違和感を感じている。

 おかしい。対戦相手の差す手が余りに単調すぎる。人間を相手にしていると思えない。

 兵士やナイトではもう太刀打ち出来ないところまで来ていることは分かっている筈だ。

 なぜに10ターンも延々と同じ事を繰り返す?

 まるで出来の悪い思考ルーチンで操作される対コンピュータ戦を行っているようだ。

 仲間でワイワイやりながらゲームを進めるMMORPGとは異なり、囲碁や将棋を指すのと似た雰囲気があるストラテジーゲームの対戦では、良く知った対戦相手でなければそれ程言葉を交わすこともない。

 時々そういうプレイヤーもいるので余り気にしていなかったが、そう言えば最初の挨拶はおろか、対戦開始以来一度もチャットの一言さえも流れてこない。

 モニタの向こうに居るのは、実はプログラムなのではないか?

 

 もちろん途中でペガサスナイトによる魔王城の急襲などという変化球はあった。

 だがそれも、PCの思考ルーチンでさえ考えつきそうな単純な手であり、ペガサスナイトがメイド達に一刀両断されてしまうと分かった後も、延々と突撃を繰り返した。

 とは言え、慢心しないように三方向に散らした忍者達を操り、敵陣深くに偵察を進める。

 

「なるほど。やってくれる。」

 

 他に誰も居ない部屋に、再び俺の独り言が響く。

 

 忍者が進む事で新たに見える様になった敵陣深く、魔王やドラゴン達最前線で戦うユニット達の索敵範囲の少し外側。

 神聖寺院騎士テンプルナイト大神聖騎士ハイパラディン神聖重装騎士ホーリーヘビーナイト重装兵アーマードソルジャー宮廷魔術師コートウィザード大魔導士アークウィザード大司教アークビショップと云った強烈な破壊力を持つユニット達が、まるで先ほどまでのこちらの索敵範囲を見切っていたかのように、魔王城を包囲して大量に布陣されているのが表示された。

 

 この10ターンは、これらのユニットを最前線一歩手前に送り込み集結させる為と、そして最前線で有力ユニットの行動を邪魔する有象無象の兵士ユニットをこちらに始末させるためだったのだろう。

 


 拙作お読み戴きありがとうございます。


 永遠の14歳病です。死ななきゃ直らないのですが、死ねない伯爵です。

 時々、永遠の17歳とか云う人がいますので、きっと永遠に14歳な人もいるはずです。



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