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無能な軍師が魔王様に呼びつけられたら。  作者: 松由実行
第一章 なにこの無理ゲー。
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2. 魔王様無限ループ


■ 1.2.1

 

 

 おう、もうこうなったらヤケクソだ、やってやるぜコンチクショウ。

 

 幾らキャンセルしようともキャンセル出来ず、タスクマネージャを立ち上げてからの強制終了も使えずに、マップ画面が開いて勝手にゲームが始まり、圧倒的に不利、という言葉さえ甘い絶望的戦況を見せられた後の俺の心境を表すとそんな言葉になる。

 と言うか、土曜の朝の6時から、缶ビール片手にモニタに向かって叫んだ記憶がある。

 酔ってるな、俺。

 

 ゲームが始まりまず最初にやることは、手持ちの戦力の確認が定石だ。

 ユニットリストを開く。

 

 ・・・おい。

 何だよこの種族名「侍女」ってのは? しかも26ユニット中6ユニットまでが侍女だよ! 要はメイドだよ! っていうか、種族かよ! どんな種族だよ!?

 そりゃお城にメイドは付きものだよ。王女様にも王妃様にもお付きのメイドは必要だろうさ。

 だから何でお前等がユニットとして戦場に出てくるんだよ。

 戦場ではお茶会とかしないんだよ。お掃除も必要ないんだよ。客引きもオムライスにハートのケチャップも要らないんだよ。

 

 頭が痛くなってきた。二日酔いかも知れない。

 

 残り20ユニット。

 種族名「宰相」ってのは・・・こいつもかよ! そしてこいつも使えないよ!

 力も魔力も素早さもダメダメで、特殊スキルも持ってない。せめて頭が良ければ、と思ったらおつむも残念な奴だよ! これで宰相が務まるのかよ。大丈夫か魔王国!?

 

 他にもツッコミどころ満載のユニットリストだったが、もう突っ込むのにも疲れてきた。きっとこの魔王国は全国民総ボケ倒しまくる「ヨ○モト王国」とかいう名前に違いない。戦場にも笑いを。絶望的戦況から笑いの渦で巻き返せ。

 ・・・ダメだ。さっさとユニットを動かそう。

 

 まずは敗北条件の一つである王女と王妃を何とかする。

 

 やっぱり魔王の娘とかいうと、鬼マッチョな父親にも似ず、月明かりが似合ったりするスレンダーなツンデレ美少女に違いない。そんな美少女が殺されたり、神聖アラカサン帝国のエロデブクソ司祭に拉致されて舐め回されたりするのは絶対に我慢ならん。

 魔王の妃もきっと美人だ、絶対そうだ。なんたって魔王のヨメなのだ。妖艶な笑いが似合う巨乳美熟女に違いない。そんな美熟女を、デブ司祭てめえにゃ絶対触らせねえ。

 ついでに戦力の集中も行う。

 

 オグインバル城から少し離れた山中にあるオフレン砦に配置されていた王妃と王女、その付き人らしい次女6人を全て王城に移動する。侍女だって大切な駒だ。いざとなったら王女を囲んで、1ターンくらいの時間稼ぎにはなるだろう。

 同時に、なぜかオフレン砦外に配置されていたダークエルフも王城に移動する。

 ダークエルフのユニット絵は女だが、この状況からするとこのダークエルフは相当な美人だ。間違いない。ダークエルフといえば浅黒い肌の銀髪美人で巨乳と相場は決まっている。

 6人のメイドも同時に王城に動かして、王妃と王女を囲むように配置する。

 メイド達のユニットを動かす度に、ドジっ子眼鏡メイド、ツンデレクールメイド、ゆるふわ癒やし系メイド、ギャル系元気メイドなどなど、6種の系統のメイド達が甲斐甲斐しく王妃と王女の世話を焼きながら、忙しく走り回っている映像が俺の脳裏をよぎる。

 ようし、なんか少しやる気が出てきたぞ。

 

 妄想しているばかりでは敵は減ってはくれない。

 防衛戦とは言え最低限の能動的な攻撃を行わなければ、圧倒的多数の敵に飲み込まれて城の防御力もろとも擂り潰されるだけだ。

 

 現存する最大戦力、魔王。最大の攻撃力と防御力を誇るこのユニットが、城に閉じ籠もってばかりでは宝の持ち腐れだ。

 幸いにも、魔王が使う「大魔法」リストの中には、1ターンに1回だけ任意のユニットをマップ上の任意の場所に飛ばせる「ワープ」がある。

 よし魔王、逝ってこい。

 ほらちょうどそこに、既に敵に落とされた出城らしい防御力の高い地形もある。

 

 開戦の瞬間には一瞬だけ全マップが見えるのだが、戦闘に入った現在は王城の近く、ユニットの索敵範囲しか敵の有無を確認することは出来ない。

 索敵範囲外の敵の動きが見えないのは、ストラテジーゲームの定番だ。

 それに対して地形だけは、マップの反対側の端まで確認することが出来る。

 玉座からワープして、敵ユニットひしめき合う出城にいきなり現れた魔王は、固有範囲魔法で周囲を攻撃する。

 

物質崩壊(カタストロフ)

 

 魔王の周囲半径8ヘクスが閃光に包まれ、そしてその光が収まった後には何も残っていなかった。

 代償として魔王の魔力がゴッソリと減る。

 さすが魔王。同ヘクスにスタックされていた分も含め、今の一撃で数百の兵士が消し飛んだ。

 まさか開戦1ターンでいきなり魔王が殴り込んでくるとは思わなかったろう? ククク。

 

 魔王が開けた穴に向けて、一気に他のユニットを突入させる。

 王城から飛び立ったレッドドラゴンが、出城の城壁に降り立ち兵士達の頭上にファイヤーブレスを撒き散らす。

 合わせて出撃したブラックドラゴンが、反対側の城壁から平原に向けてブラックフレイムをぶちまける。

 空から舞い降りたアークデーモンが、「精神崩壊(マインドブレイク)」で辺りの兵士達の魂をごっそりと刈り取る。

 将軍に引き連れられたダークナイト二騎が、まるで槍が突き刺さるかのように敵部隊に突撃し、戦場を駆ける。

 アークメイジとダークプリーストも王城の城壁の上に立ち、それぞれ「爆裂轟焔(デトネイト・ノヴァ)」と「天雷疾駆(ボルトランナー)で無数の敵兵をなぎ倒す。

 

 ここでターン終了。

 さて、敵はどう出てくる?

 

 索敵範囲の外から足の長い宮廷神聖騎士、つまりパラディンが駆け込んでくる。

 パラディンはブラックドラゴンの横を駆け抜けようとして、ブラックドラゴンの反撃に遭った。

 パラディンはブラックドラゴンに隣接したヘクスに足止めされ、そして戦いの結果、パラディンの体力がゴッソリと削られる。

 

 別のパラディンが駆けてくる。同様にアークデーモンの反撃を食らい、瀕死の状態になる。

 次から次へとパラディンが、魔王の範囲魔法で出城周辺に出来た空白地帯に駆け込んでくるが、周りを固めるユニット達に魔王への肉薄を阻止されるか、運良く駆け抜けても鬼マッチョ魔王の反撃を食らって瀕死の重傷となる。

 

 もちろんこちら側も損害ゼロという訳には行かず、どのユニットも戦う度に体力を削られていくのだが、そもそも防御効果の高い地形を占領していることと、魔王やドラゴンのような膨大な体力を誇るユニットを前面に押し出しているため、深刻な状況には全く至っていない。

 

 その後、出城の周りはパラディンとその格下クラスのホワイトナイトで埋め尽くされ、さらにもともと最前線に大量に配置されていたソルジャー(歩兵)がその隙間を埋めるようにして動く。

 索敵範囲外なので見ることが出来ない大量の敵ユニットがさらに行動して、敵のターンは終わった。

 

 俺のターンだ。

 

 まず最初に、少ないながらもダメージの溜まった味方ユニット達の体力を、魔王のみが使用出来る大魔法「ヒールオール」で治癒する。

 魔王の周囲に展開しているユニットは、体力も魔力も人間の兵士などとは比べものにならないほど巨大なので、削れている量は僅かだ。

 ヒールオールはパーセンテージで回復を行うので、全ユニットの体力が全快した。

 唯一集中的に狙われ、回復手段を持たない魔王様だけが、体力が少々寂しいことになっている。

 このままではあと2ターン保たないだろう。

 

 今魔王を配置している出城は、大きさこそはそこそこあるが、建物の扱いとしては砦よりも下になる。その為魔王は、各ターンの切替毎に体力や魔力を回復させることが出来ない。

 そこは考えがある。

 残りが心許なくなった魔王の魔力だが、再びカタストロフを発動して周囲のユニットを殲滅し、魔力がほぼゼロとなった。

 パラディンなどの耐久性の高いユニットが残ったが、これは脇を固めるドラゴンやデーモンで止めを刺す。

 王城の方はメイジとプリーストが引き続き範囲魔法攻撃で、城下に迫るユニットを血祭りに上げる。

 そしてターン終了。

 

 再び空白地となった出城周辺に、またもやパラディンが次から次へと突入してくる。

 宮廷新世紀師団サマだ。パラディンなど腐るほどいて、そのありったけを対魔王戦に投入しているのだろう。

 既にこちらの罠にはまり込んでいるとも知らずに。

 多分対戦相手の神聖アラカサン帝国皇帝くんは、魔王プレイをしたことがないのだろう。

 まあ、ハンドルに「神聖」だの「皇帝」だの付けるあたりで、正統派人間プレイしかしたことがないのだろうというのは予想が付いたのだがね。

 

 6ユニット目のパラディンが馬鹿の一つ覚えのように魔王に突撃し、鬼マッチョ魔王にぶちのめされてあえなく玉砕したときにそれは起こった。

 魔王のユニットが光る。軽い電子音とともにダイアログが開いた。

 

「魔王バイルークがレベルアップしました。」

 

 そして体力と魔力が全回復する。

 

 例え勇者であっても、どこかの帝国の皇帝であったとしても、人間には出来ないハメ戦術。

 低レベルの魔王を前線に放り出せば、ここぞとばかりに必ず敵は攻撃してくる。

 だが、例え低レベルでも絶大な体力と魔力を誇る魔王を倒すのは容易ではない。

 大魔法や、周りに配置した護衛ユニットを上手く使って肉薄する敵の量をコントロールしつつ、さらに攻撃時よりも遥かに経験値が多く溜まる防御反撃を上手く使うことで効率的にレベルアップさせることが出来る。

 レベルアップさえすれば、例え非生産地形であっても体力魔力は全回復する。

 後は延々これを繰り返せば良い。

 

 もちろん、経験のある奴や勘の良い奴は引っかかりもしないし、例え引っかかったとしても魔王のレベルが上がった時点で一発で気付く。

 だがそれがどうした。気付かれたとしても前線の魔王様に手を出せなくなるだけ。

 逆に魔王様は地形効果で身を守りつつ、やりたい放題好き放題前線で暴れまくって、やはりレベルを上げる。

 レベルを上げれば魔力が増えて使用出来る大魔法の回数も増える。支配力が高くなり、より高レベルのモンスターを多数召喚出来るようにもなる。もちろんあらゆるパラメータが上昇する。

 さらに激しく暴れ回る魔王様、うなぎ登りのレベルはもう手を付けられない。

 ウホッ、魔王プレイ、やめられまへんな~。

 

 半ばヤケクソでも、こんな無茶苦茶な設定のマップに「やってやらあ!」なんて台詞を吐いたのは、この嵌めプレイを知っていたから。

 実際にやったことはないけれど、魔王お一人様プレイなんてのも不可能じゃ無いと思ってる。

 マップにボッチ感吹き荒んで、魔王様の心の汗が鮮血で染まってしまいそうな気がするからやらないよ?

 

 レベルアップした魔王を見たはずなのに、敵は相も変わらずパラディンを魔王にぶつけてくる。

 移動距離が届けば、ファイターやソルジャーと云ったユニットまでも魔王にぶつけてくる。

 魔王様がおわす出城の周りには、瀕死の重傷を負った夥しい数の人間どもが息も絶え絶えに膝を突き、絶望の瞳で魔王を見上げる。

 そして俺のターン。

 

物質崩壊(カタストロフ)

 

 出城の周りが一瞬でクリアされる。

 ふはは! 見ろ! まるで人がゴミのようだ!

 このマップでこの台詞絶対言ってみたかった。

 

 出城の固定砲台となったドラゴン二匹とデーモンが、ブレスと魔法の範囲攻撃でカタストロフをかろうじて生き延びた残党を狩る。

 ドラゴンとデーモンも順調にレベルを上げている。

 そして出城を回り込んで王城に直接攻撃を企む敵兵力には、戦場を縦横無尽に駆け回るダークナイト達による遊撃をぶつけ、こちらも王城の固定砲台と化しているメイジとプリーストの範囲魔法。

 魔法で撃ち漏らしたユニットには、城壁からの撃ち下ろしでダークエルフが撃ち出す矢が突き刺さる。

 

 各ユニットとも存分に暴れて敵のターン。

 そして敵は、相も変わらずパラディンやナイトを中心とした構成で、敵うはずも無い魔王に向けて次々と突っ込んでくる。

 おかしい。これを繰り返しても相手に経験値を与えるだけともう分かった筈だ。なぜ繰り返す?

 まさか?

 

 嫌な予感とは当たるもので、余りに単調でまるで魔王の周りにユニットを捨てるかのような敵の行動を不審に思ったその時、全体をひっくり返しかねない手を敵が打ってきた。

 

 赤いユニットが王城北側の山岳地帯を一気に飛び越えて、王城に到達する。

 ペガサスナイト。

 山岳や森林などの難移動地形など何のその、どの様な場所でも空から一気に攻め込んでくる、守備側にしてみれば最悪な敵。

 移動能力も高ければ、格闘戦能力も高いという厄介極まりないユニットだ。

 宮廷神聖騎士団などと云うウザい名前を掲げている以上、必ず居るだろうとは思っていた。

 だがまさか、この広いマップを開始4ターンで踏破して王城に到達するとは。

 北側の山岳部から突入されているので、城門付近で砲台代わりになっているメイジやプリーストでは反撃出来ない。

 王妃と王女を守るのは、たった6人のメイド達のみ。

 まずい。

 長距離を飛行してきたペガサスナイト達は、あるものは王城まで到達出来ず王城北の山岳地帯で滞空するが、城壁まで到達するものもいる。

 そしてとうとう王城内にペガサスナイトが侵入し、たった6人のメイドに守られた王女に肉薄する。

 

「エリンゼ!」

 

 前線で戦う魔王が、ペガサスナイトに囲まれた王城を振り返り、愛する娘の名をあらん限りの声で叫んだのが聞こえた気がした。

 


 拙作お読み戴きありがとうございます。


 連続投稿二つ目です。


 ゲーム内視点と、主人公の一人称視点が入り交じります。雰囲気を変えて分かり易くしているつもりですが・・・

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