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不本意ながら、その場の流れでファーストダンスを踊った。

踊り出しに合わせて奏でられたバイオリン。大きく円を描きながら、元のパートナーの令嬢の元へと移動する。交代と共に一斉に奏でられる音。

あの時間で打ち合わせしてたのなら、見事と賛辞を送りたい。

人の目が、そのまま踊り続ける殿下を追う。

私は静かにフロアを出て、2階の控え室へと足を向けた。というか案内された。


コの字型に囲む様に配すされた3人掛けのソファー2つ。その1つには、エリアナを挟んでエドガー殿下とランス様。向かいの1つにはルキス様とエリオット。残りの1つに、第二王子殿下の側近だろう彼に案内されて私が座る。


エッグエッグとしゃくり上げながら涙を流す。白いハンカチは鼻から口元を覆う。瞳から流れ落ちる涙は、そのまま頬を伝い落ちる。

目元も拭えば?と思うけど、その勢いじゃ、鼻の方が大切だよね。乙女的に…。

俯いた顔に濡れたまつ毛。比護欲を掻き立ててるのか、エリアナの隣に座るエドガー殿下は、私に背を向けエリアナの顔を覗き込んだままこちらを見ない。入室から、1度も、見ない。

ランス様は、入室時と着席時の2度程、威圧的な視線を向けてきた。どうでもいいのでスルー。

お隣キープ大作戦に敗退したらしいルキス様は、ランス様を凝視。怖っ、怨み籠ってそうなの嫌だわ。

おおまかに4人を観察し終え、従弟のエリオットを見ると目が合った。

エリオットは私に、「ごめんなさい」「どうしようも無かったです」とか、必死に訴えてる気がする。多分、訴えてる。


ランス様とルキス様は、私と同じ中等科。エドガー殿下とエリオット、エリアナは初等科。どんな出会いかは知らないが、親しくなったのだろう。そして彼女の身の上に同情? 何か色々あって、八つ当たり的な勘違い。取り巻き使用人発言も、初等科兄妹との間に何かあって、守ってあげなきゃ的に乱入してきたんじゃ無いのかな?

だって彼女、可愛いもの。

14歳で、まだ体が出来上がって無いからだろうけど、小柄で、パッチリとした明るい茶の瞳。「どうしよう?」何て見上げられたら、助けてあげたい気持ちになるんだろう…多分。

対して私の兄妹は、私を含め髪と瞳の色は違っても、父に似て非常にスッキリとした姿形をしている。良く言えば綺麗系だが、今回の様な時は、只の意地悪者にしか見られないだろう。そんな容姿をしている。


彼女は、序列以前に必要なマナーがある事を理解しているのだろうか? エドガー殿下を始め、貴族である彼等は、自分の行いが如何なる時も見られ、評価されている事に気付いて無いのだろうか?

歪み引き結ばれた口元。膝の上で、キツく握り締められた両手。そんなエリオットを抱きしめてあげたくたる。気落ちした心を楽しく弾んだものにしてあげたい。従弟だもんね。


などと考え込んでいたら、外が騒がしくなった。

見計らった様に護衛騎士がドアを開ける。


ファーストダンスからのアレやコレやを終わらせて来ただろう第二王子アレックス殿下御入室だ。


御入室なのだが、今、自分の意思を言葉に出来るのなら、「椅子をもう1つお願いします」だろう。開口一番で言わせて貰いたい。

何故か、アレックス殿下は、私の横へと御着席なさった。

え~っ? そこは男2人の所か、隅に避けてある一人掛けのソファーでしょ? 私、家族でも婚約者でも無い方との相席は嫌よ。何でアレをセッティングしなかったの? 統一家具じゃ無いから? そんなの気にしないでいいじゃ無い。ここは応接室でなくて、控え室。多少の事には目を瞑ろうよ。ここは、王宮でないよ学園だよっ。

何なら私がと立ち上がろうとしたら、立ち上がれなかった。スカートが引っ張られて、腰が上がらなかった。見ると、アレックス殿下の長いおみ足が、ソファーの上に少し広がったスカートの上に乗っていた。

えっ?と、隣のアレックス殿下を見上げると、その目はわらっていた。

何だよ。意地悪かよ。 私は目を細めて睨み付ける。

とは言っても、私はアレックス殿下と眼力で向かい合う為にここに来たのでは無い。時間は有限。さっさと済ませてしまいたい私は、エドガー殿下へと視線を向ける。


「エドガー。何故騒ぎを起こした?」


アレックス殿下の言葉と共に、スカートに乗っていたおみ足は持ち上がり組まれた。

はい。立ち上がりませんよ。話の腰を折るのもどうかと思いますしね。何か確信犯的で嫌ですけどね。


「何故って、兄上。立場の弱い者に手を差し伸べるのは大切な事でしょう? 家族なのに、使用人の様に扱われてるって言うから…」


言うからって、それが本当か確かめる事はしましたか?


「それじゃ無い。何故、今日、あの場所で事を起こしたのかを聞いている」

「それは貴族として、王家としての義務だと思ったからです」

「王家の義務?」


自信満々と答えたエドガー殿下に対して、アレックス殿下の声は低い。


「臣下の慢心を正す事です」

「エドガー!」


アレックス殿下の低い声が怒気を帯びる。

怒っても駄目だよ、アレックス殿下。

アレックス殿下の言わんとする事は、確かに大切なのだけれど、出来れば後にして欲しい。だって、エドガー殿下は、その前の前提から分かってないのだから。


「…っみませっ。私、私の為に…。エドガー殿下は悪く無いです」


エグエグしてたエリアナが、殿下2人の間に割り込んだ。

あぁ、どうにかならないものか…。不敬だよね、本来はさぁ。

不機嫌度が増したアレックス殿下。僕の為にと嬉しそうなエドガー殿下。

王家として理解させたいアレックス殿下。でも、今、それ、無駄! エドガー殿下は今、善意の固まり。自分の中の正義で進んでる。エリオットが事情を話し、エドガー殿下が聞いていたとしても、何時までも理解しないエリアナが不満や不安をこぼせば、改善されない状況を自分なら何とか出来るって突っ走ったのがコレなんだから。

勿論エドガー殿下も悪い。為政者の息子として自覚無し。だけど、やっぱり悪いのはエリアナだろう。王子が味方だから大丈夫。自分の言い分が受け入れられるって勘違いしちゃったのだろう。理解出来無いエリアナが悪いし、このまま話しても意味が無い。

私は不当な事は何もしていない。取り敢えず彼女を保護している。衣食住と教育だ。

親が亡くなって行くとしたら、彼女の場合孤児院だ。孤児院に行く事をかんがえたら、どう考えたって彼女は恵まれて居る。でも、王子達はそれが分からない。自分達が基準だから。「使用人」という言葉が出た。彼女は「自分の事は自分でしましょうね」が、お気に召さなかった様だ。妹だと認められたとしても、生活は他の兄妹と同じ。お父様は認知はしても、籍は入れない。籍に入ったとしても、お父様は爵位は無い。だからと言って、血を引かない彼女がレイナード家に入る為の方法は養子縁組だが、血縁者でも無い。只の善意でなんてそんな事は出来無い。

そういう事を、ちゃんと理解してもらわなければならないのだ。


「アレックス殿下。お話の途中にすみませんが、私も色々と知りたい事がありますの。よろしいですか?」


アレックス殿下が頷くのを待って、エドガー殿下に声を掛ける。


「エドガー殿下? 私とそちらのエリアナ嬢との間で食い違い…いいえ、噛み合わない事があると思いますの。殿下が、何を不当だと思っているかを、きちんとお聞きします。ですから、私の話も聞いて頂きたいのです」

「私が言っている事が分からないと言うのか?」


ありありと不貞腐れている事が分かる声音。兄君に叱責され、御機嫌斜めでいらっしゃる。


「そうですね。私としては分かりかねています」


「そんな…」と呟くエリアナ。

「馬鹿なのか?」とランス様。

同意する様に唸るルキス様。

お言葉ですが、馬鹿なのはお2人です。貴族子息として終わってると思われても仕方が無いですよ?

室内を見回す事をお勧めします。

自分の立ち位置を理解していれば、まず有り得ない状況です。

私は当事者ですが、アレックス殿下は調停者です。並び座るというのは、

おかしなことなのです。なら、当事者同士が相対する位置は何処でしょうか? 護衛騎士が控えて居るのは、身分のある王子がいるから。なら、第二王子殿下の側近は? 第二王子アレックス殿下の後に控えてますよ。

生徒間の揉め事じゃ無い。王子として公の場で騒ぎ立てしたのだ、貴族的に解決しなければならない。

そんな事にも気づかない程お馬鹿なんですか? 平和な治世でよかったです。このままこの方達が政治をすると思うと心配です。

アレックス殿下? いいですか? いいですよね? このままじゃ駄目ですから。っていうか、それしかないですよね!

私は改めて姿勢を正し、前を向いた。




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