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16話 賭けの結果



 風舞




 エルフ。

 この世界では人族随一の魔法の使い手にして長命な上に美人が多い種族。

 そう聞くと一見完璧な種族である様に思えるが、ローズの話だと吸血鬼と同様に生殖能力が極めて低いらしい。

 これは地球でもそうだった様に、強すぎる生物がその個体数が増えすぎて食料や住む場所に困らないように、自分自身をそう進化させてきた為と考えられる。


 そんな長命で個体数の少ないエルフが争いと肉を嫌う種族から、他の人族の様に肉や酒を飲み戦争もする様になった原因。

 その原因は自然現象ではなく、人為的な出来事が要因だそうだ。


 俺の日本でよく読んでいた異世界もののテンプレだと、長い間美人のままのエルフはよく人拐いにあったり奴隷にされたりと凄惨な過去を持っている事が多かったが、この世界ではその可能性はあまり高くない気がする。


 世界樹ユグドラシルはその葉の一枚を煎じて飲むだけでどんな病や傷、果ては呪いまで解けると言われている物凄い価値のある代物らしいが、エルフの里が長い間その管理をしているということは、今まで欲に目が眩んで侵略しようとしてきた者達を全て退けてきた事になる。

 いつからエルフが世界樹の管理をしているかはわからないが、仮にローズが産まれるよりも前からその管理をしていたならば、千年間常勝無敗の軍隊を持つ強力な種族であると言えるだろう。

 そんな強い力を持つ魔法のスペシャリスト達がそう易々と他の種族に拐われたり奴隷にされたりするとは考えづらい。


 しかし、そうなると長命で排他的な暮らしをしてきたエルフが自分の文化を変えるに至った原因が思い付かない。

 それが自然的な原因ではなく、誰かの行いに依るものだと言うと尚更だ。



 考えが行き詰まった俺は一度気分を変えるために、何となくローズの耳を触ってみることにした。

 何か考え事をするときって指先を動かしていると集中しやすかったりするんだよな。 

 そういえば、ローズの耳に触るのはこれが初めてな気がする。



「む、なんじゃ? 考えが纏まったのか?」

「いや。どちらかというと、少し行き詰まってるところだな」

「ふむ。在り来たりな話じゃが、そういう時は視点を変えてみるとよいぞ。俯瞰で物事を見るのではなく、当事者の立場になって考えてみるのも大事な事じゃ」



 そんな事をつむじ越しに語るローズ。

 当事者の立場になって考えるか。

 今分かっている当事者はエルフしかいないし、エルフの立場になって考えてみろって事だろう。


 ローズのありがたいお話を整理して自分なりに消化していると、隣に座る舞がじっとこちらを見ているのを感じた。

 俺は引き続きローズの耳をいじりながら舞の方へ顔を向ける。



「むぅ。ローズちゃんと風舞くんは仲良しね。何だか実の兄妹を見ている気分だわ」

「実際の兄妹は仲が良くないって芝田が言ってたぞ」



 そういえば、俺と同じクラスの芝田は元気でやってるかな。

 今年同じクラスになって2、3回しか話した事なかったけど良い奴だったよな。

 物理の授業で俺が教科書忘れた時見せてくれたし。



「そんな事どうでもいいわ。私も仲間に入れてちょうだい」



 舞がそう言って俺の足の間に座っているローズを持ち上げて、俺の目の前にストンと腰をおろした。

 ドンマイ芝田。

 俺は舞と違ってお前のあの愚痴をそんなこととは思わないぞ。


 そんなどうでいい思い出に浸りながら目の前の舞を眺めていると、毛布を膝にかけ終わった舞がポスリと俺の胸に体を倒してきた。

 今度はローズに変わって舞のつむじがよく見える。



「なぁ舞さんや。俺はもう長らく風呂に入ってないし、色々と恥ずかしいんだが」

「あら、それはお互い様よ。私だって結局入れなかったし、何も恥ずかしがる事ないわ」



 そう言って後頭部をゴリゴリと俺に押し付けてくる舞。

 ここから抜け出そうにも後ろの木と舞に挟まれて身動きがとれない。

 痛い痛い。

 恥ずかしさっていうよりも、息が止まって顔が赤くなっちゃうから。



「そうは言うが、別に舞は臭くないぞ。普通にシャンプーの良い匂いするし」

「そりゃそうよ。風舞くんが寝てる間に毎日シャンプーしてるもの」

「え、マジで? 俺は舞が出してくれた水を被ってるだけなのに?」

「あら、言ってなかったかしら? シャンプー持ってきてるわよ」



 そう言って俺が背負っていたリュックを指差す舞。

 舞とローズが俺を馬車の外に出して互いの身体を拭きあっていたのは知っていたが、いつの間にシャンプーまでしていたのか。

 それなら俺が毎晩水を被ってるのを見た時に、何か言ってくれれば良かったのに。

 これじゃあ俺だけ一週間も頭洗ってない不潔な奴みたいじゃん。

 でも、何となく異世界での旅だからシャンプーなんて無いのが当たり前だと思っていたけど、よくよく考えたらこの世界はシャンプーとかリンスとか洗剤とか結構充実してるんだから、旅にも普通に持って来てて当然じゃんね。



「悪い。ちょっと頭洗ってくるから桶と水だしてくれ」

「それじゃあ、私が洗ってあげるわよ。夜に一人でいるのは危険だし、それが良いわよねローズちゃん」

「まぁ、ここは平原じゃしそこまで危険はないと思うが、舞の言う事も一理あるの」

「えぇ、マジで?」

「マジよ」

「マジじゃ」



 何か最近のローズはこういう時舞の味方をすることが多い気がする。

 もしかして舞に弱みでも握られてんのか?

 さっきお仕置きがどうとか言ってたし。



「ほら、風舞くんばんざーい」

「はいはい。自分で脱ぐからちょっと待ってくれ」



 というわけで、俺は舞の要望通りシャンプーされる事となった。

 昼間の風呂の時は途中で横槍が入ったし、その埋め合わせとして考えれば安いものだろう。

 俺も舞に頭を洗ってもらえるっていうのは結構嬉しいし。



「はーい。それじゃあお湯をかけますねー♪」



 上機嫌な舞が、上半身裸で土魔法で出来た大きな桶に頭を下げている俺の頭にお湯をかけていく。


 あー。

 久し振りにお湯を被ったからか凄い気持ちいい。

 やっぱり人間水を被るだけじゃ駄目だよな。

 お湯を被っただけで何か頭が冴えてきた気がするし。



「それじゃあ、目をつぶってちょうだい。シャンプーしていくわよ」

「おぉ。宜しく頼む」



 さて、舞がシャンプーしてくれている間にエルフの件をもう一回考えてみるか。

 さっきローズが当事者の視線から考えてみろって言ってたし、今度はエルフの立場から考えてみよう。


 長年争いを拒み続けていたエルフ。

 そんなエルフの文化が変わるという事は、多くのエルフの意識に変革が起こったという事でもある。

 意識に変革が起こる原因は、発言力のある若者が多くの支持を得たり、里の中で革命が起こったりと色々仮説を立てる事が出来るが、里を治めるトップがすげ替わったという点は共通項としてあげられる。


 昔のエルフは頑固で頭が固い奴が多かったらしいし、その中でも支配者層の連中はもの凄い石頭だったはずだ。

 長生きしてそれなりに力も付けているだろう支配者層が新進気鋭の若者に革命を起こされるとは考えづらいし、排他的な暮らしをしていたエルフの中から革命してやろうという気概のあるエルフが産まれるとは考えづらい。

 人は幸せを知らなければそれを求める欲が出ないのと同様に、閉じられた世界で完結した生活を送っていたエルフが外の世界に興味を持つことは少ない気がする。


 となると、エルフの里を変えた何者かは凝り固まった頭をした支配者層を説得したか、老エルフ達の口封じをして外の世界を教えるなりしたと推測できる。

 多分後者の方なんだろうな。

 数千年間考えの変わらなかった老エルフの説得なんて不可能に近いだろうし、さくっと殺して啓蒙活動をした方が早い気がする。


 何者かがエルフのトップ連中を殺すなり排除するなりして意識改革をしたという所まで考え付いた。

 後は、誰がそれをやったかという話なのだが……



「痒い所はありませんかー?」

「ああ。舞は結構センスが良いな。凄い気持ちいいぞ」

「そ、そうかしら? 風舞くんにそう言ってもらえると凄い嬉しいわ!」

「いや、めちゃくちゃ上手いって。何かガキの頃母さんに頭を洗ってもらった事を思い出す」

「そ、それって私は風舞くんのお母様と同じくらい素晴らしい女性という事かしら?」

「そうなんじゃね? 多分そうだと思うわ。舞は超素晴らしい女性だな」

「ふ、ふふん! そりゃそうよ! 何たって私は風舞くんのソウルメイトですもの!」

「へぇ、超ヤバイな」



 あ、適当に返事し過ぎた。

 舞が何て言ってたか殆ど聞いてなかったわ。

 まぁ、そこまで大事な話じゃないだろうし、今は置いといて良いだろう。


 それで、何だったっけ。

 あぁ、そうだ。

 誰がエルフのトップ連中を倒したかって話だった。


 強力な魔法の使い手で長らく誰にも負けて来なかったエルフ集団。

 そんなエルフの中でも強者揃いである老エルフ達に勝てるとすると、かなりの軍事力を持った集団であると考えられる。

 となると…



「ねぇ、風舞くん。その、風舞くんは私の事どう思ってるのかしら?」

「魔族か?」

「え? 魔族? 私は魔族じゃなくて人間よ?」



 いや、待てよ。

 たまたまかもしれないがソレイドにいる間に、世界樹の近くで人族と魔族で戦争があったなんて話は一度も聞かなかった。

 魔族領域のすぐそばにあるあの街で魔族との戦争の話を一度も聞いていないということは、この600年間世界樹ユグドラシルの辺りでは魔族による被害は無かったんじゃないか?

 まぁ、ソレイドがつい最近出来た街だと昔話なんて碌に残っていないだろうからこの説は成り立たないけど、俺の直感も違うって言ってるしきっと魔族が原因ではないはずだ。


 そうなると、魔族以外にエルフに勝てる軍団がいることになるが、そんな奴いるのか?

 魔法が得意なエルフに勝つ集団となると、何となく筋肉がムキムキの軍隊な気がする。

 ゲームとかだと魔法を使うキャラに相性が良いのって近接系のキャラが多い気がするし。



「もう一度聞くわよ? 風舞くんにとって私はどんな存在なのかしら?」

「ガチムチ」

「が、ガチムチ!? 私そこまで筋肉ないわよ!? 風舞くんの中の私はどうなってるの!?」



 いや、ガチムチはないか。

 この世界の魔法はかなり強力だし、たかが筋肉ぐらいで防げるような代物じゃないからな。

 しかし、そうなると本格的にエルフに勝てる軍隊が想像つかなくなってきたな。

 もしかして、軍隊じゃなくて個人戦力なのか?


 そう考えてみると、戦争だと若いエルフも大勢死んでしまうし、暗殺形式で上層部を潰す方が効率的かもしれない。

 お、これは良い線いってるんじゃないか?



「強い。めちゃんこ強い奴。もの凄く強い暗殺者」

「ふ、風舞くん。分かったわ。分かったからもうやめてちょうだい。それ以上は私の心が持たないわ。そうなのね。風舞くんの中で私はガチムチの暗殺者なのね。これからはもっとおしとやかにするから、私の事を見捨てないでね…」



 ん?

 何か後頭部に暖かい水滴がポタポタと降ってきてるがどうしたんだ?

 もしかして、水魔法と火魔法を同時に使おうとしてるのか?

 こんな時でも魔法の訓練をするなんて流石舞だな。


 ってそうじゃなくて、今はエルフに勝てる個人戦力を考えるんだった。

 えーっと。

 強い奴。強い奴だろ?

 もしかして、ローズじゃね?


 600年前のローズならこの世界でトップクラスに強いだろうし、エルフなんて数十人くらいなら瞬殺しそうな気がする。

 いや、そんなわけないか。

 ローズはそんなことする奴じゃないし、仮にローズがやったとしてもしょうもない賭けの問題にするようなトチ狂った事はしないだろう。


 となると残るは、



「勇者か。その当時の勇者がエルフのお偉いさん達をぶっ殺したんじゃないか?」

「お、正解じゃ。よく分かったの」


「マジで!? あだっ!?」

「痛っ!?」



 ローズに正解と言われて勢いよく頭を上げると、俺の後頭部を覗き混むようにしていた舞の顔に当たってしまった。

 ん?

 どうして舞は涙目なんだ?

 もしかして、そんなに痛かったのか?



「ごめん舞。痛かったか?」

「痛いわよ! 心が凄く痛いわよ!」

「心? 何の話なんだ?」

「もう! 風舞くんなんて知らないわ!」



 そう言って手についた水滴を拭って木の下においてある毛布にくるまり始める舞。

 何であんなに怒ってるんだ?

 そんなにメイド服が嫌なのか?


 そんな事を考えていると、火の番をしていたローズが俺の方へやって来て見直した様な顔をしながら話しかけてきた。



「しかし、まさか正解するとは思ってなかったぞ。何故分かったのじゃ?」

「ああ。ローズのアドバイスのお陰だな。少し視点を変えてみたら閃いた。後はスキルの直感も役立ったな。命懸けの戦闘で結構使ってたし、LVも少なからず上がってるのかもしれない」

「そんなのインチキじゃない! 風舞くんのチートヤロー!」



 毛布にくるまっている舞が足をバタバタさせながら騒いでいる。

 まったく、勝負の世界は厳しいんだぞ?



「それでも大したもんじゃ。本来人族の味方である勇者がエルフの敵になるとは中々考えつかんからの」

「ああ。そこが俺にもわからないんだが、何で当時の勇者はエルフのお偉いさんを殺すなんてヤバい事しでかしたんだ?」

「それは妾にも分からんが、表向きには世界樹を崩壊させようとしていた長老の連中を、当時の勇者が粛清したと伝えられておる。ただまぁ、妾はこの話には何か裏があると思っているがの」

「へぇ、何か色々難しい事情がありそうだな。それで、その勇者はその後どうなったんだ?」

「うむ。確か魔王の一人に戦いを挑んで死んだ筈じゃ。暗殺術や気配を消すことが上手い勇者だったらしいが、魔王側の感知能力の方が一枚上手だった様じゃな。ほれ、妾が泡を流してやるから頭を下げよ」

「お、サンキュー」



 そうしてローズに頭の泡を流してもらってさっぱりした俺は、毛布に顔を埋めてモゴモゴ言っている舞の元へ向かった。



「何かよくわかんないけど悪かったって。頼むから機嫌直してくれよ」

「別に怒ってなんてないわよ」

「はぁ。そんなにメイド服が着たくないなら別のでも良いから、そろそろ顔を見せてくれよ。そうやって頭まで毛布を被ってたら綺麗な髪が傷むぞ」

「別にメイド服はそこまで嫌じゃないわ。でも、そう言うなら態度で示してちょうだい」



 そう言って毛布から目だけを出してこちらをじっと見つめてくる舞。

 態度で示すって何をしたらいいんだよ。

 天岩戸の話みたいに歌いながら躍りでもしたらいいのか?



「なぁ、ローズ。何か良い案はないか?」

「そうじゃな。舞の髪でもとかしてやれば良いのではないか? この前フウマが舞の髪を結ったときも舞はだらしない顔をしておったし、それで機嫌も直るじゃろ」

「べ、別にだらしない顔なんてしてないわよ! でも、今回はローズちゃんの案で許してあげるわ! 仕方なくよ、仕方なく」



 そうブツブツ良いながらもリュックサックから櫛を持ってきて俺の前にスッと腰かける舞。

 まったく、本当に困ったお嬢様だ。

 ローズも土魔法で作った桶の後片付けをしながらやれやれって顔してるし。



「それじゃあ、始めるぞ」

「ふふん! 宜しくお願いするわ!」



 こうして俺は舞が満足するまで髪に櫛をかけてやり、3人とも瞼が重くなってきた所で今日は就寝となった。

 賭けに勝った俺は遂に舞のメイド姿を拝める日が来た訳だし、今晩はここ最近で最高の夜だったと言えるだろう。


 俺はメイドになった舞にどんな命令をするか妄想しながら、ニヤニヤとした顔で眠りについた。

4月9日分です。

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