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13話 セイレール村からの脱出

 風舞




「マジかいな」



 俺の目の前の全裸の魔王様が言うには、団長さんにローズの正体が魔族だとバレたから直ぐに逃げなくてはならないらしい。

 確かに人族の大敵である魔族がここにいると知られれば人族総出で俺達を襲って来ても不思議ではないが、ここが人の大勢いる街中だというのが運が悪い。


 ていうか、逃げるたってどこに逃げれば良いんだ?

 ローズが魔族だということは団長さんの口から直ぐに広がるだろうし、こうなったら魔族領域に逃げ込むしかないか?


 そんなことを考えながら右手に持っていた剣を鞘に納め周囲を警戒していると、水着から普段着に着替えていくつかの大荷物を持った舞が玄関から飛び出してきた。



「お待たせ。ミレンちゃん!」

「うむ。掴まれフーマ!」



 舞がローズの肩に手を置いているし、どうやらローズの転移魔法で逃げるらしい。

 けど、今のローズの転移魔法のLVじゃ見えてる範囲にしか跳べないはずだが、どうするんだ?



「フーマくん!」

「あ、ああ。ジャミーさん!」

「フーマ?」

「これ、この鎧の代金です! ゼラさんにもよろしく伝えておいてください!」



 俺はポケットに入れていた財布をジャミーさんに向かって放り投げた。

 驚いた顔をしつつもジャミーさんはそれをキャッチしてくれる。



「おい! 待てフーマ!」

「頼むぞミレン」

「うむ。しっかり捕まっておるのじゃぞ」



 ローズはそう言うと地面にファイアーボールを放って土煙を起こし、上空へ目を向けて転移魔法を発動させた。



「テレポーテーション!」



 俺達は遥か上空へと転移した。




 ◇◆◇




 ジャミー セイレール騎士団詰所にて




「フーマ!」



 俺がそう叫んだ直後、ミレンが地面に火魔法を放って土煙を起こし、それが晴れた頃には3人の姿が忽然と消えていた。

 まさか、あの中の誰かが転移魔法でも使ったのか?

 しかし、そんな高等な魔法を使える奴がそこらにゴロゴロ居るとは思えない。

 もしかすると俺が知らない何らかの方法で姿を消したのかもしれない。


 そんな感じで俺が3人の行方について考えていると、ファルゴの声によって俺の意識は目の前の状況に引きずり戻された。



「おいシェリー! 無事か! おい!」

「お、おい! ファルゴ! こんなに沢山の人の前で抱きつくなよ! は、恥ずかしいだろ!」

「良かった。本当に無事で良かった」

「きゃっ!?」



 ファルゴの熱い抱擁をうけて、顔を真っ赤にしながら年頃の乙女の様な反応を見せる団長。

 どうやらミレンが放ったあの強烈な一撃は見た目ほどの威力がなかったらしい。

 昨日からかなり強いエルフの子供だと思っていたが、まさか団長を超えるほどだとは思いもしなかった。

 あの3人の中で一番弱いだろうフーマでさえ団長と渡り合っていたし、あの3人がいかに規格外なのかを思い知らされる。



「ご無事ですか団長?」

「あ、ああジャミーか。怪我自体は肘のこれ以外大した事はないが、体が全く動かねぇ。あのガキは私の体の芯だけを的確に打ち抜いたみたいだ」

「それは、再起可能なのですか?」

「ああ。3日もすればまた動ける様になるはずだ」

「そうか! 怪我は大した事無いんだな! この3日間は俺がシェリーの世話を全部やってやるから、安心しろよ!」

「ふぁ、ファルゴ!? ぜ、全部って全部か?」

「おうよ! 朝から晩までずっと一緒だ!」



 二人揃って顔を赤くしながら、イチャイチャと抱き合う赤髪のバカップル。

 この人達は未だ衆目に晒されていることに気がついてないのだろうか。

 団長は裸のままだし。



「おいファルゴ。イチャつくのは後にしてくれ」

「バカっ! 全然イチャついてなんてねぇよ!」

「はぁ、そうかよ。それで、団長はどうしてミレンと戦う事になったんですか?」

「あ、ああ。それは、まぁ、その、なんだ。何となくだ」

「何となくって何ですか」

「何となくは何となくだよ! そんなことはどうでもいいから、お前はご近所さんに騒いでごめんなさいって謝ってこい!」

「騒いだのは団長達じゃないですか」

「うるさい! これは団長命令だ!」



 というわけで俺は団長の理不尽な命令通り、集まっていた人達に今の戦闘はただのお遊びで何も危険性はないと説明して廻る事になった。

 団長にはご近所付き合いを気にするなら、俺の心労にも気を使ってほしいものである。


 それよりも、フーマ達は突然逃げるようにいなくなってしまったし、団長はその理由を語ろうとしない。

 フーマ達には人には言えない秘密でもあるのだろうか。

 俺は人々の対応に追われながらも、その事で頭がいっぱいになっていた。




 ◇◆◇




 風舞




「すまぬ。妾は魔力が切れたから少し休む」



 ローズの転移魔法でセイレール村の上空へと転移した俺達は、空中で互いの体や荷物を掴みながらそれぞれで体勢を整えていた。

 転移魔法で俺達を運んだローズはかなりの量の魔力を失ったらしく、ぐったりしている。



「ええ。ここからは私達に任せてちょうだい!」

「うむ。頼んだぞ」



 舞の自信満々な笑顔を確認したローズは微笑みを浮かべると、そっと目を閉じた。

 今俺達がいる場所はかなりの上空だし、視界内の転移とはいえほぼ全ての魔力を使いきってしまった様である。



「舞。荷物は俺が持つからローズを頼んだぞ」」

「ええ。減速させながら出来るだけ町から離れた場所へ降りるから私の手を離さないでいてちょうだいね」

「ああ。頼りにしてるぞ」

「ふふん! このくらい余裕よ!」



 そう言うと舞は風魔法で足の裏から風を噴射させて、セイレール村の町から遠ざかるように俺とローズを連れて移動し始めた。

 近頃の舞は縮地の際に風魔法を使ってより高速で移動しようと訓練していたため、風魔法を手だけではなく足の裏からも出せるようになっている。

 ただ、未だに裸足にならないと靴に穴を開けてしまうし、かなりの集中力を要する様で今も額に汗を浮かべていた。


 それでも流石は舞と言うべきか、舞はうまく落下速度を調節し、セイレール村からかなり離れた平原の上へと誘導してくれた。



「舞。ここら辺なら多分飛び降りても大丈夫だから、俺は先に降りるぞ」

「駄目よ。まだ地面までかなりあるし、それなりにスピードも出ているから私が先に下に行くわ」



 三人揃って降りてはいくら舞の風魔法があっても着地の衝撃を殺すのは難しいかと思い、そう提案したのだが舞に断られてしまった。

 話しながらも地面の様子を確認していた舞は、俺の手をパッと離し俺を下から風魔法で吹き上げる。


 俺は自分の体重を支えるほどの風を受けて一時的に落下を止めるが、風魔法を上に向かって放った舞は当然のごとく地面に向かって加速していった。

 俺が今まで体験したことがない程の強風を感じて閉じていた目を再び開いた時には、舞は地面まであと50メートルといった地点まで迫っている。


 おいおい、あのスピードで着地しても大丈夫なのか?


 そう思った矢先、舞がローズを上にふわりと放り投げて地面に向けて両手で風の砲弾を放つ。

 今まであの魔法は見たことがないし、舞の風魔法のLVがこの数分の間に上がったらしい。


 そうして地面に大きなクレーターを作りながらも無事に着地した舞は、少し遅れて降ってきたローズを上手くキャッチした。

 ローズを横におろした舞が両手を口に当てて俺に声をかける。



「風舞くん! 私が受け止めるから動かないでちょうだいね!」

「何だって!? 風でよく聞こえない!」



 舞の声が風の音で聞き取れなかったため下の方に向かってそう叫ぶと、2、3回屈伸をした舞が膝をぐっと曲げて、俺の元まで大ジャンプをして跳んできた。



「ふふっ。私が風舞くんを受け止めるって言ったのよ」



 空中で俺の腕を掴んで胸元に引き寄せた舞が、俺の腰を押さえながら微笑みつつそう言う。


 またこの展開か。

 今回も空中で抱き抱えられている俺がお姫様で、格好いい笑顔で俺の顔を覗いている舞が勇者様らしい。



「ちくしょう!」



 俺はせめてもの抵抗として、荷物だけはしっかりと落とさない様に持っていようと思い、こぼれ落ちそうになる涙をぐっとこらえながら両手に力をこめた。



「ちょっと。風舞くん? どうしてそんなに悔しそうな顔で歯を食い縛っているのかしら?」

「落下の衝撃で舌を噛まないようにしているだけだ!」

「そ、そう。出来るだけ優しく着地するから安心してちょうだい」

「出来るだけ雑に頼む!」

「なんで!?」



 そんな男のプライドに基づくカッコ悪い会話をしている内に、俺をしっかりと抱き締めていた舞はゆっくりと減速していき、何のトラブルもなく安全に着地した。

 舞が歯を食いしばって衝撃に備えている俺をそっと地面に下ろしてくれる。



「はい、到着したわよ」

「ありがとうございます」

「え、ええ。どういたしまして」



 体育座りをして俯いている俺を見て舞は少し驚いた顔をしていたが、すぐ側に置いてある鞄から洋服一式を取り出してローズに着せ始めた。


 今はセイレール村から出来るだけ遠くへ逃げなくてはならないし、落ち込んでいる暇はない。

 それはわかっているのだが、



「なんか、俺の思ってた異世界生活と少し違う気がする」



 そんな気がしてならないのだ。

 気を失っているローズに服を着せていた舞が俺の一人言を聞き取ったらしく、顔を上げて声をかけてくる。



「ん?違うって何が違うのかしら?」

「いや、何でもない」

「そう。よく分からないけど、何かあったら相談してちょうだいね」



 舞がそう言って優しく俺に微笑みを向けた。

 普段は無邪気でワンパクな舞さんなのに、今みたいな緊急時は凄く頼りになるのが彼女なのである。



「くそぅ! 絶対にいつか舞をお姫様にしてやるからな!」



 舞の優しさと包容力を受けてやるせなくなった俺は、天に向かって謎の宣誓をした。

 視界の端で舞が首を傾げていたが、俺には見えなかった。


 見えないったら見えないのだ。

 決して涙で前が見えなかったとかじゃないんだぞ。


 俺は誰に対してか分からない言い訳を心の中でしながらも、舞がローズに服を着せている間、目から汗が溢れない様に空をキッと睨み続けていた。

4月6日分です。

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