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11話 黒い防具

 


 風舞




「改めてましてフーマです。冒険者をやっててセイレール村には旅の途中で立ち寄りました」

「おぉ〜。これはご丁寧にどうも。私はゼラ。ここの金物屋で働いていて、ファーちゃんとジャーちゃんの幼馴染です。よろしくねぇ〜」



 ジャミーさんを俺とファルゴさんで一通りからかった後、俺とゼラさんは互いに自己紹介をしていた。

 ファルゴさんとジャミーさんは俺達が話している間に持って来ていた剣と槍と鎧を奥のカウンターの上に運んでいる。

 ブルーパンサーは2人にとって中々の強敵であったため、今回は武器や防具のメンテナンスを頼むそうだ。

 因みに槍はジャミーさんのメインウェポンである。


 そういえば、舞に渡した槍はどうなったんだっけ。

 なんとなく馬車の隅の方においてあった気がしなくもないんだけど。



「おーい。ここにカネと一緒に置いとくからいつも通りで頼む」

「あ、は〜い。多分明日には終わってるから暇な時に取りにきてねぇ」

「ああ。いつも悪いな」

「そんな事ないよぉ。ジャーちゃんは武器や防具を大事に使ってくれるから、メンテナンスも楽だしね〜」



 鎧と武器をカウンターの上に置いたジャミーさんとファルゴさんが店先で話していた俺達の方へ身を横にずらしながらやって来た。

 店内にはナイフや鍋、蝶番や戸車に至るまで様々な商品が所狭しと並んでいるため、立ち話をするのにも少し気を使わなくてはならないのである。

 ゼラさんの様なドワーフならあまり気にならないぐらいの通路は確保できているんだろうけど。



「まぁ、ファルゴに比べたらそうだろうな。こいつは剣とかすぐぶん投げるし」

「なんだよ。剣は敵を倒すための物だし、鎧は身を守るための物だろ! 鎧を守って自分が怪我しちゃ世話ないだろうが!」

「俺だって鎧が身を守るための物だって事ぐらい知っている。俺が言ってるのは戦闘中でもないのに剣を投げたり鎧を汚れもとらずにほったらかしにしておいたりする事だ」

「えぇ〜。ファーちゃんまた鎧のお手入れしてなかったの? いつも最低限のお手入れはしてねって言ってるでしょ。これはそろそろシェリちゃんに報告しなきゃだね」

「おいっ! お前マジでそれだけはやめろ! あいつ武器とか防具の扱い悪いと、戦士が自分の牙を疎かにするとは何事だってすごい怒るんだよ! これからはちゃんとやるから。な! この通りだ!」



 そう言って頭をバッと下げるファルゴさん。

 多分毎回似たようなやり取りをやってるんだろうな。

 言い出しっぺのジャミーさんが「やれやれ。またか」みたいな顔してるし。



「もうっ。今まで何回お手入れはしてねって言って来たと思ってるの。今日という今日は許しません!」

「そこをなんとか!」

「ダメです!」



 そう言って腰に手を当てながらながらプンプンと怒るゼラさん。

 本当にお母さんみたいな人だな。

 ダメだって言われたファルゴさんが母親に怒られた子供みたいにすごいしょんぼりしてるし。


 そんなファルゴさんとゼラさんのやり取りを半ば呆れながらに眺めていると、俺の方を見たジャミーさんがふと思い出した様に話を切り出した。



「そうだ。そんな事より、今日はゼラに頼みがあって来たんだ」

「そうなの? 頼みってなぁに?」

「ああ。とりあえず、最近作った鎧はあるか?」

「え? まぁ、鎧というかブレストプレートと籠手ならあるよ?」

「おぉ、それなら都合が良いな! ちょっと見せてもらって良いか?」

「うん? 分かった。ちょっと待っててね〜」



 ゼラさんはそう言うと首を傾げながらもテコテコと店の奥の方へ歩いて行った。

 ブレストプレートって胸当ての事だよな?

 なんでブレストプレートや籠手だと都合が良いんだ?

 そう思って俺まで首を傾げていると、そんな雰囲気を察してくれたのかジャミーさんが説明をしてくれた。



「ブレストプレートや籠手なんかはフルプレートに比べるとサイズを合わせ易いんだ。ゼラの作る鎧は俺達が偶に持ち帰って来た魔物の素材と合わした物が多いし、もしかすると革の部分を直すだけで使えるかもしれないぞ」

「へぇ。やっぱり金属だけじゃなくて魔物の素材を使った防具ってそれなりにあるんですね」

「そうだな。大量に同じものが必要な軍隊とかは鉱山とかで大量に入手しやすい金属をよく使うけど、やっぱり魔物の素材の方が軽くて伸縮性も良いからな。俺達の騎士団の鎧も魔物の素材を使ってるんだぞ」

「あぁ、確かに部分鎧だから革の部分がありますね」



 これは最近実感した事なのだが、ステータスが上がっても重い物は重い。

 というのも、ステータスが上がるに連れてどんどん重い物でも持てる様になってきたのだが、力が入りすぎてコップを砕いてしまったり剣が軽すぎて振り辛いという事がないのだ。

 つまり、日本にいた頃と物を持った時の感覚は変わらないが、ステータスという概念のお陰で重い物でも楽に持てるようになっているのである。


 純粋な筋力とステータスの数値が別なのが、その話をよく表しているだろう。

 舞やローズは自分の何倍もある魔物をバカスカ吹っ飛ばすが、二人とも腹筋すら割れてなかったし。


 本当に異世界は不思議でいっぱいである。



 そんな取り止めもない事に頭を回していると、胸当てと籠手を抱えてゼラさんが戻って来た。

 どちらも真っ黒な金属と真っ黒な革で出来ていて、すごいカッコいい。

 ブラックオークの鎧も黒かったが、なんか高級感が違う。


 その二つの防具を見てファルゴさんが興味深げな声をあげた。



「へぇ、今回出来たのは黒い防具なんだな」

「うん。この前シェリちゃんが持ってきてくれたオルトロスの牙を鉄と錬成してみたら黒くなったんだぁ。あ、革の部分もオルトロスの物を使ったんだよ」

「あぁ、この前戦った強い魔物のやつか。それなら結構いい防具になってそうだな」

「うん。作った私からしても今回のは力作だよ。それで、この防具をどうするの?」

「ああ。良かったらフーマにそれを譲ってくれないか? 今回も鋳潰してしまうつもりだったんだろ?」

「うん。そうだね〜。それじゃあフーちゃんにあげるね。はい、どーぞ」

「あ、ありがとうございます。って、ちょっと待ってください! 流石にこんなにいい防具受け取れませんよ!」

「あ、そうだったね。サイズを合わせないとだったよ。ごめんね〜。多分大きさはそこまで変わらないと思うから少し待ってね」

「いや、そうじゃなくて。こんなに凄そうな防具タダで貰う訳にはいきませんよ」



 この黒い胸当てと籠手は俺よりも数段強いファルゴさんでも苦戦するような魔物を素材にしているらしいし、とてもじゃないがそう易々と人にやっていい物ではない気がする。

 ていうか、何で誰もゼラさんが俺にこんな高級な物をポンとあげようとしてる事を気にしないんだよ。



「えぇ〜。でもでも、これは趣味と練習を兼ねて作った物だし、どうせその内溶かしちゃうから欲しいならフーちゃんにあげるよ?」

「いや、凄く欲しいですけど。俺にタダであげるくらいならソレイドとかで売った方が良くないですか? 多分結構な金額で売れると思いますよ?」

「ん〜。確かに売れるかもしれないけど、私はそこまでお金に困ってないし、ジャーちゃんの事を助けてくたお礼もしたかったから、貰ってくれると嬉しいかなぁ」

「そうだぞフーマ。くれるって言ってんだから貰えるもんは貰っとけ」

「でも、ジャミーさんの怪我を治したのはミレンだし、俺は偶々同じ馬車に乗ってただけですよ?」

「その他にもお前はファルゴとネーシャの喧嘩を止める手伝いをしてくれただろ? さっきそのお礼に鎧を用意してやるって言ったじゃないか」

「いや、俺はゼラさんを紹介してくれただけで十分なんですけど。流石にこんなに高そうな物をタダで貰うのは気が引けます」

「え〜。でもでも、これはシェリちゃんが要らないからやるってくれた物を使って趣味の一環で作った防具だし、そうすると使ったのは鉄ぐらいだから、全部で金貨1枚くらいの価値しかないよ?」

「オルトロスの素材の分と人件費はどこに行ったんすか」

「え〜。要らないなら捨てちゃうよ?」

「そ、それは待ってください」



 そんな感じで俺とゼラさんで「あげるよぉ」と「いやいやいや」を交互に繰り返していたその時、店の外から急にドガンッッ!という爆音が響いてきた。

 その音を聞いたファルゴさんとジャミーさんが奥のカウンターの上にあった鎧を素早く装備して戦闘準備を整える。



「フーマ! 話は後だ、さっさとその防具を着て爆音の発生地点に行くぞ! ゼラ、とりあえずで良いから簡単なサイズ調節を頼む!」

「はいは〜い。それじゃあフーちゃんばんざ〜い」

「ば、ばんざーい?」



 ゼラさんにつられて両手をあげると、その隙にゼラさんが胸当てを俺に装着してさっと横に回り、革のあたりをいじり始めた。

 どうやらサイズを俺の体に合わせてくれているらしい。

 金属の部分は俺の胸の部分をぴったりと覆っていて、先程ゼラさんが言った様にほとんど俺の丈に合っていた。



「それじゃあ、次は籠手だねぇ。………はい。これで良しっと」

「よし、行くぞフーマ! 多分うちの詰所のあたりだ!」

「遅れるなよ!」

「は、はい!」

「気をつけてね〜」



 ファルゴさんとジャミーさんに真面目な顔で声をかけられた俺は、金物屋を飛び出した二人の後を追ってセイレール村を走った。


 え?

 これってどういう状況?

 防具まで着せてもらっちゃたけど本当に良いのか?


 ていうか、詰所のあたりって舞とローズが関わってたりしないよな?


 俺は一抹の不安といくつかの疑問を抱えながらも、二人の後を必死に追った。

4月4日分です。

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