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33話 打ち上げ

 風舞




「…って事が今日あったのよ。フーマくんがしれっと言うから事の重大さとのギャップですごい驚いたわ」

「わ、わかりました。分かりましたから少し休憩させてくだしゃい。さ、さっきから緩く耳を触られてて生殺し状態なんです。ひゃうぅ!」

「流石マイム様。見事なお手前です」



 夜、雲龍にて俺と舞、ローズ、シルビアさん、ボタンさん、ミレイユさんの6人で悪魔の叡智の件がひと段落ついたため、お疲れ様会をしていた。

 料理はボタンさんが腕によりをかけて作ってくれたものと、俺と舞とシルビアさんが作って持ってきたものがお座敷の机の上に並んでいる。

 座席はローズの隣に俺とシルビアさんが座り、その向かいに奥から舞、ミレイユさん、シルビアさんの順番で腰かけていた。


 因みにアンはまだまだ本調子ではないためお留守番である。

 出かける前に俺とシルビアさんで部屋を訪れてみたら「シルちゃんをよろしくね、朝帰りでも良いんだよ」とか下世話な事を言っていたし、お土産でも買って帰れば一人でのお留守番でも許してくれるだろう。


 また、今回の件での功労者であるガンビルドさんは「仕事もまだまだ残っているし、俺がいたらミレイユやシャーロットが気を使うだろうからな」と言って辞退したため今回は欠席だ。

 今度どっかに食事でも誘いたいな。


 それで、残るメンバーでここにいないのはシャーロットとキキョウなのだが、なんでいないんだ?

 ちょうどボタンさんが飲み物を入れてくれているし、聞いてみるか。



「なぁ、なんでキキョウとシャーロットはいないんだ? 一応声はかけたはずだよな?」

「あぁ、キキョウには少し遠くまでお使いに行ってもらったんよ。シャーロットはんはその付き添いやね」

「む? お使いとは何を買いに行ったのじゃ?」

「頼んだのは買い物じゃなくて、調べものやね。本当はうちが行けば良いんやけど、キキョウにも色々経験してもらおうと思っとったしちょうど良い機会かと思ってなぁ」



 へぇ、調べものをさせにキキョウをどっかに行かせたのか。

 あいつは大分アホっぽいし、そういう意味じゃ結構良いかもな。


 もう一方のシャーロットの方はキキョウと一緒に旅ができるとかでついて行ったのだろう。

 ボタンさんの口振り的に結構遠い場所みたいだし。

 まぁ、あの二人ならよっぽどの事が無ければ危険はないだろうし、何の心配もいらないな。



「お主も色々と考えておるんじゃな」

「まぁ、うちは曲がりなりにもキキョウの保護者やし、あの子は年の割には幼いしなぁ」

「あぁ、確かに。あいつ見てると近所に住んでたガキンチョ思い出すんだよな」

「その点、アカリの言っとった通りミレンはんは順当に年を重ねてるんやねぇ。まぁ、うちよりも三百歳ぐらい年上やしこんな事言ったら失礼かもしれんけどなぁ」

「うむうむ。千年を生きる妾からしたらお主らは赤子もいいところじゃからな。……………って、お主今なんと言った!?」

「いや、だからミレンはんは大人やねぇって」



 ああ、もうローズの正体に気づいてる事バラす事にしたのね。

 ローズが持っていたグラスを握ったまま口をパクパクさせている。



「い、いつ気づいたのじゃ?」

「初めて会った日やろか。フーマはんの記憶に勝手に聞いたんよ」

「なるほど、ギフトを使ったという訳じゃな」

「流石ミレンはんやね。その通りやよ」

「はぁ、それならばそうと言ってくれれば良かろうに。いらぬ気をもんでしまったではないか」

「ごめんなぁ。なかなか言い出す機会が無かったんよ」



 ボタンさんが両手を合わせながら申し訳なさそうにそう言った。

 嘘つけ。

 黙ってた方が面白いからって言ってたじゃん。

 こらこら、そんなうっかりうっかりみたいな顔をするんじゃありません。



「まぁよい。お主の事はアカリから良く聞いておった。妾とも仲良くしてくれると嬉しいのじゃ」

「おお、伝説のフラム・レッドはんにそう言って貰えるなんて光栄やわぁ」



 ボタンさんがそう言ってころころと笑った。

 まぁ、シルビアさんやミレイユさんも話を聞いてたみたいだし、ちょうどいい落としどころだろうな。

 流石にまだ魔王だとバラすのは時期尚早な気がする。



「え? ミレンさんがフラム・レッドさんってどういう事ですか!? フラム・レッドさんは100年以上前の伝説の冒険者ですよ!?」



 ほら、やっぱり聞いてた。

 とはいえ、ミレイユさんは嘘を見通す目を持ってるらしいが、これで上手く誤魔化せるだろう。

 ローズがフラム・レッドというのは間違ってない訳だしな。



「うむ。お主らには黙っておったが妾はかのフラム・レッドで相違ない」

「で、でもフラム・レッドさんはとびきりの美貌でも有名な方ですよ? 失礼ですがミレン様はその、いささか幼いと言いますか」

「それは妾がかつての力のほとんどを失った影響じゃな。今はその力を取り戻す為に世界中を巡る旅の最中じゃ」

「ほぇぇ、どうりでミレンさんには底知れない力を感じる訳ですね。ステータスカードの方もそういう理由でしたか」

「うむ。お主には悪いことをしたの。それと、妾達を信じて黙っておいてくれた事に礼を言うのじゃ」

「いえいえ。ミレンさんやフーマさんやマイムさんには見通せない部分が普通の人よりも沢山ありますけど、ギフトなんて使わなくても皆さんが良い人だというのは分かりますからね。その正体を偽っていたところで気にしませんよ」

「もうっ。ミレイユさんは本当に優しいわね!」

「ひゃ、ひゃうぅ!? び、敏感になっていたから、い。いつもより刺激が、りゃめ、りゃめでしゅぅぅぅぅ!!」

「やるなら布団出すからその上でやってなぁ。畳は濡れると後が大変なんよ」

「それもそうね。さぁミレイユさん、お布団に行きましょう!」

「い、行きません!」



 舞が両腕を広げてカモンカモンしたタイミングで解放されたミレイユさんが、そう言ってボタンさんの後ろを通って俺の隣の席に逃げてきた。

 汗とかまぁ、いろんなものでしっとりしているミレイユさんは凄い色っぽい。

 それと、心なしかいい匂いがする気がする。



「おつかれ。はい、おしぼり。大変だったな」

「そう思うなら早く助けてくださいよぉ」



 ミレイユさんが俺から受け取ったおしぼりを受け取って首元の汗を拭う。

 だって俺からしたら眼福だし、モフリストの舞を止められるわけないじゃんね?

 俺がそんな事を思いながらボタンさんオススメのリンゴ酒に口をつけていると、何やら考え込んでいたシルビアさんがはっと何かに気づいた様子で口を開いた。



「ミレン様がかの伝説のS級冒険者なら、フーマ様やマイム様も偉大なお方なのですか? 以前から時々互いの呼び名が普段と違う時がありましたし、もしかしてと思ったんですけど」



 薄々そんな気はしてたけどシルビアさんにも俺達が正体を隠してる事バレてたのか。

 まぁ、そこまで気を張って話して無かったし、気づかないうちにボロを出していたのかもしれない。



「構わんぞ」

「いいわよ。シルビアさんもミレイユさんも信頼できるし、ボタンさんはもう知ってるみたいだしね」



 俺が舞とローズに目を向けると二人は頷きながらそう言った。

 どうやら二人ともシルビアさんとミレイユさんに俺と舞の正体というか、素性を話すことを許してくれたらしい。

 最近隠すのも面倒くさくなってきてたし、正直助かる。



「そうだな。えーっと、二人には今まで黙ってたんだが俺と舞は異世界から来た勇者だ。マイムとフーマっていうのはまぁ、色々あってあまり目立てないからその為の偽名だな」

「やっぱりフーマさん達もそういう凄い人達なんですね」

「あら、ミレイユさんはあまり驚かないのね」

「まぁ、前から3人とも普通の人じゃないのはわかってましたし、たった今ミレンさんが伝説のS級冒険者って知ったばかりですからね。フーマさんやミレンさんが勇者と知って確かにびっくりですけど、違和感はないですよ」



 ミレイユさんが微笑みながらそう言った。

 もっとびっくりしてくれるかと思ったけれど、この世界に勇者はちょいちょい現れてるらしいしこんなもんなのかもしれない。

 感覚としてはハリウッドスターを目の前にしたのと同じくらいな気がする。


 そんな感じでミレイユさんの心境を推測していると、シルビアさんの向かいに座っていた舞が驚きの声をあげた。



「し、シルビアさん!? どうして泣いているのかしら?」

「あ、あれ?」



 舞の声につられてシルビアさんの方を見てみると、以前俺が生きているのを知って安心した時の様に、シルビアさんがぽろぽろと涙をこぼしていた。



「大丈夫か? 舞にいじめられたのか?」

「ちょっと風舞くん!?」

「い、いえ。ただ、フーマ様が本当に勇者様であった事が凄く嬉しくて。その、私の好きなお伽噺話に出てくる勇者様が私の尊敬するフーマ様とよく似ていたものですから」



 そういえばアセイダルとの決戦に向かう前にシルビアさんが「フーマ様は私の中で勇者様」とか言ってた気がするし、どうやらシルビアさんは憧れのお伽噺の中の主人公が人物こそ違えど、こうして目の前にいる事が嬉しくて泣いているようだ。


 前々から思っていたが、シルビアさんは感極まると泣いちゃうタイプなのか。

 クールな感じの人が涙もろいのって何かぐっとくるな。



「おいフーマ。何か気の利いたことでも言ってやれ」

「気の利いたことってなんだよ」

「なんでもよい。これからも俺に仕えろでもなんでも、難しく考えずにお主が今思っておる事を言えばよい」

「わかった。今思ってる事だな」



 俺はローズのアドバイス通りに今思ってる事をシルビアさんに伝える事にした。



「シルビアさん」

「は、はい」

「シルビアさんって凄くクールで大人っぽいのに、俺よりも年下だったり感極まると泣いちゃったりでギャップが良い感じで凄い可愛いな!」

「か、可愛い!?」

「ちょっと風舞くん!? それはどういう意味かしら!?」

「あらあらあら」

「おおー」

「まったく。お主は本当に阿呆じゃな」



 あれ?

 ダメだったか?

 こういう時なんて言うのが正解なんだ?



「べ、別に変な意味じゃないぞ? ただ、従者として。そう、従者として可愛い気があるって意味だ」

「従者として可愛いってどういう意味よ!」

「そ、それはだな。そうだ! シルビアさんにはこれからも俺の従者として頑張ってもらいたいって事だな! 頼んだぞ、シルビアさん!」



 俺が舞の追求からなんとか逃れようと強引にシルビアさんの方に話をふると、感極まった表情で俺の方を見ていたシルビアさんと目があった。



「はい! この命が尽きるその日まで、フウマ様の筆頭従者として私の全てをフウマ様に捧げさせていただきます!」

「お、おお。まぁ、ほどほどによろしく頼む」

「はっ! 必ずやフウマ様のご期待に応えてみせましょう!」



 シルビアさんが座布団の上で片膝をつき、俺に向かって頭を下げた。

 んー?

 なんかよくわかんないけど結果オーライって事で良いのか?



「なぁローズ。気の利いた一言言えただろ?」

「はぁ。ここまでグダグダな従者の誓いなんぞ、妾でも見たことがないぞ」

「まぁ、フウマはんらしくていいんやない?」

「良かったですね。シルビアさん!」

「はい! ようやくフウマ様に従者として認めて貰えました!」

「ちょっと風舞くん!? まだ可愛いってどういうことなのか説明して貰ってないのだけど!」



 その後、舞に正座で説教をされたり、

 満面の笑みのシルビアさんがいつぞやの様に怒られている俺の横で正座をして舞がヒートアップしたり、

 両手を軽く挙げてやれやれするローズに呆れた目を向けられたり、

 ボタンさんが俺にしなだれかかってきて舞がフルスロットルになったり、

 怒り疲れた舞がミレイユさんをモフりはじめてミレイユさんが大変な事になったり、

 俺が舞の機嫌を直すために誉めちぎって、舞が真っ赤になったりもしたが、

 今までで一番楽しい夜を過ごした。


 最近の出来事のお疲れ様会としては満点以上の出来だろう。

 俺はそんな事を思いながら、かけがえのない仲間達と一緒に夜を更かした。



 そういえば、結局舞とミレイユさんが畳をびしょびしょにしてしまったが、畳は傷まなかっただろうか?

 後でボタンさんから請求書が届かないか少し心配だ。




 ◇◆◇




 セレスティーナ第一王女 ラングレシア王国王城国王の居室にて




 私の父であるセイレネード・ラングレシア国王に促されて配下からの報告書に目を通した私は苦々しい顔でその感想を述べました。



「まさか、ここまで早く魔族が動き出すとは思いもしませんでした」

「だが、北のグルーブニル砦が落とされた今、我が国はジェイサット魔王国との戦争において劣勢に立たされたと言っても過言ではない。また、暗部の情報だと早ければ半年後にはジェイサットが本腰を入れて攻め込んでくると予想されている。一刻も早い軍備の増強が求められるであろうな」



 勇者様方をこの世界に召喚してから今日で15日目になりますが、つい最近レベルを上げ始めたばかりです。

 勇者様方はかなり頑張って訓練に勤しんでくれていますが、このままでは魔族との全面戦争で十分に戦えるような一騎当千の力を手にするまでにはそう至らないでしょう。

 一刻も早く勇者様方の精神状態を考慮した上で訓練のスケジュールを組み直す必要がありますね。



「半年、ですか。勇者様方には酷ですが、メンタルケアを十分に行いながら訓練を前倒しで行わなくてはなりませんね」

「うむ。勇者様方の精神を重視した上で計画を進めてくれ」

「お任せください。お父様」

「すまぬ。セレスには苦労をかけるな。儂が日の本の国の言語を操れればもう少し力になれるのだが」

「お父様はもうレベルがかなり高くなって上がりづらくなっておりますし、日の本の国の言語を習得する為のステータスポイントをなかなか用意出来ないのですから仕方ありません。それに、勇者様方の世界の言語はどれも習得に必要なステータスポイントがかなり多いですからね。お父様が日の本の国の言語を話せないのは当然の事とも言えるでしょう」

「すまぬ。セレスのステータスポイントの多くを日の本の国の言語を習得する為に使わせてしまい、本当に申し訳なく思っている」



 お父様はそう言って私に頭を下げました。

 お父様は私と二人きりになるといつもこうです。

 私の事を大事に思ってくれているのはよく分かるのですが、私もこの国の王族の一員であるという事をもう少し考えて欲しいと思ってしまいます。



「お父様。私は自分の意思で勇者様方とお話をする役目を引き受けたのです。近衛騎士の者達も私の事を支えてくれておりますし、私はラングレシア王家の一員としてこの上ない名誉な職務に就かせていただいております。ですから、お父様はただ前を向いてジェイサットとの戦への準備を進めてください」



 ラングレシア王国はこれから本格的に戦時へと突入します。

 王族である私達が誰よりも前に立って国を守る為に動かなくてはならないでしょう。



「そうだな。儂は儂の使命を、セレスはセレスの使命を全うしよう。ジェイサットの魔の手が我が国に伸びるまでもう僅かしかない。勇者様方の力をお借りして何としても我が国を守り抜くぞ!」

「はっ! 全ては我が国と愛する民の為に」



 そうして私はお父様に一礼をして国王様の居室を後にしました。


 明日香様や勇気様が勇者様方の皆様を率先して纏めてくださっていますが、私は未だ土御門舞様と高音風舞様の行方すら掴めていません。

 平和な国で生まれた皆様が我が国の為に戦いに身を置こうとしてくださっているのです。

 召喚者である私だけが怠けている訳にはいきませんね。


 そう決意を新たにした私は、ジェイサット魔王国との戦争になる前に何としてもお二方を見つけだす事を心に誓い、自分の職務を全うする為に長い廊下を進みました。




 ◇◆◇




 人族の国であるラングレシア王国と魔族の国であるジェイサット王国の全面戦争の日は近い。


 そして、風舞と舞が自分の勘違いに気が付きセレスティーナ第一王女に土下座する日はそれよりも近くに迫っていた。

3月27日は1話のみの更新です。



これで第2章は完結となります。

SSを数本挟んだ後で、遂に舞のお気に入りであるエルフが登場する第3章が始まりますので、今後ともよろしくお願いします。

また、感想や評価等をくださってありがとうございます。

毎日の執筆の励みとなっております。

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[気になる点] でも拉致したのは本当だし、補填も十分かわからない状況なら離脱した2人が悪いとはとても言えないかも。
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