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19話 通信魔道具

 風舞




「ただいま」

「おお、全員無事のようじゃな。よく帰ったのじゃ」

「ええ。作戦も大成功だし、ゲードも連れて来たから万事OKよ!」



 俺達が家に帰ると既にやる事を済ませて来たのだろうボタンさんと、アンさんの護衛の為に家に残っていたローズが出迎えてくれた。



「ミレン様。アンを見守っていて下さりありがとうございました」

「別に妾は大したことはしておらんし、気にせんでよい」



 シルビアさんがローズに頭を下げてお礼を言っている。

 やっぱりこういうとこ、しっかりしてるよな。



「それで、ボタンさんの方はどうだったんだ?」

「うちの方は自治兵長はんと一緒に警邏隊長のへレイズとその他の関係者を牢に入れて終わりやね。呪術で喋れなくなってた自治兵はん達も治してきたし、話もしっかり聞いて来たから問題あらへんよ」



 ボタンさんはいつもの色っぽい笑顔でそう事も無さげに言った。

 俺達より後に出て先に帰って来たのに呪術も解いて来たって手際良すぎだろ。



「流石だな」

「ご褒美にうちと遊んでくれても良いんよ?」

「はいはい。今度な」

「フーマくん!?」



 舌舐めずりをするボタンさんと抗議の声をあげる舞を適当にあしらいつつ、俺は真面目な顔で口を開いた。



「で、ボスのアセ何ちゃらの位置は分かったのか?」

「アセイダルやね。へレイズの方はアセイダルの居場所に関する記憶を消されてたんやけど、呪術を解いて話を聞いてみたらこの魔道具がアセイダルの居場所へ案内してくれるらしいんよ」



 ボタンさんはそう言って裾から手のひらサイズの魔道具を取り出した。

 しかし、アセイダルは自分の仲間の記憶を消して呪術までかけていたのか。

 ダビルとかは結構ペラペラ話してたからそこまで厳重な情報管理がされていた訳では無さそうだが、結構慎重なやつなのかもしれない。



「それ、こいつも持ってたぞ」



 俺もアイテムボックスからほぼ同じ形の魔道具を取り出して机に置いた。

 魔道具は木でできた枠の中に水晶のような丸い宝石が嵌められていて、反対側が透けて見える。



「ふむ。これは通信用の魔道具じゃな。妾も何回か見たことがあるが短い文章を送れて同型の魔道具同士の位置もわかる優れものじゃ。品質によってその有効距離は変わるが、こやつらが使っておるとするとソレイド中を網羅してるじゃろうし、かなり良い出来の魔道具のようじゃな」



 ローズが二つを手にとっていくらか調べてみた後、そう説明してくれた。

 もしかするとゲードは俺達が現れたのを見て、アセイダルに連絡を取ろうとしていたのかもしれない。



「それじゃあ、それを使えばアセイダルの居場所がわかるのね」

「うむ。早速魔力を流してみるかの」



 ローズがそう言って魔道具に魔力を流し始めると透明な宝石の中に緑色の光の玉が二つ現れた。

 俺達がそれを眺めていると、現れてからゆらゆらと揺れ動いていた2つの光は水晶の中の一点でピタリと動きを止めた。

 おそらくこの光が指す方向が他の魔道具のある位置なのだろう。

 事実、ローズの手の上にある魔道具同士が互いの位置を示すように緑色の光を向けあってるし。


 シルビアさんがここにある魔道具以外の方向を指す緑色の光を見て、ふと何かに気づいた様に口を開いた。



「あの、これってダンジョンの方ですか?」

「そうやね。ここからこの光の方へ真っ直ぐ行くとダンジョンに重なるなぁ」

「え? アセイダルはダンジョンにいるってことか?」

「うむ。確かにダンジョンならばボタンが居場所を掴めなかったのも納得がいくし、身を隠すには持ってこいじゃな」

「けど、ダンジョンは魔物も出るしとてもアジトを作れる様な場所じゃないだろ?」



 以前ローズはダンジョンに放置されたものはいずれダンジョンに吸収されると言っていた。

 これが事実なら家具の類は一切持ち込めないだろうし、ちょいちょいダンジョンから出ていたとしても食料や睡眠の面でかなり厳しい気がする。



「それが妾にも不可解なところじゃが、取り敢えず行ってみなくては話にならんじゃろうよ。何せまだダンジョンと決まった訳でもないんじゃしな」

「それもそうか」

「それじゃあ早速行きましょうか」


「あの、私はここで待ってます。アンを見守っていたいですし、ここから先は私では力不足でしょうから。それに、私は皆様のお陰でもう十分にやり返せましたので満足です」



 舞の台詞を聞いて、シルビアさんはそう言って微笑んだ。

 確かに結構な呪術の使い手である悪魔の叡智のボスと戦うのはローズ抜きでは割と厳しい。

 とはいえ、アンさんを家に一人にしておくのもまずい訳で…。



「気を使わせて悪いな」

「そんな、フーマ様が謝る事じゃありません。フーマ様は私の中では勇者様なのですから、早く悪魔の叡智なんかやっつけてソレイドに平和をもたらして下さい! そうでないと、私のパンを作る腕がどんどん落ちてしまいます」



 そういえば全部やる事が終わったらシルビアさんがパンを焼いてくれるって言ってた気がする。

 シルビアさんが早く倒してこいって珍しくお願いしてくれた事だし、俺も精一杯自分に出来る事をしよう。



「ああ、任せとけ! ちゃっと終わらしてすぐ帰ってくる」



 こうして俺と舞とローズとボタンさんはシルビアさんに見送られて、緑色の光が指す方向へと走った。

 3人よりも足が遅い俺はちょいちょい転移魔法も使っている。

 魔力はまだ1000以上あるし、この後の決戦でも十分に戦えるだろう。


 そんな事を考えながら走っていたら、俺達の少し後ろを走っていたボタンさんが声をかけて来た。



「さて、うちはここらで別行動させてもらうんよ。フーマはん達に追い詰められたアセイダルが逃げ出して来るかもしれんしなぁ」

「それもそうじゃな。宜しく頼む」



 ローズはそう言って持っていた魔道具をボタンさんに投げ渡した。

 ボタンさんはそれを危なげなくキャッチして微笑む。



「ミレンはんありがとう。それじゃあ、くれぐれも怪我せん様に頑張ってなぁ」



 ボタンさんはそう言うと家々を大ジャンプで飛び越えてどっかへ行ってしまった。



「良かったのか? ボタンさんは現時点での俺達の最大戦力だろ?」

「うむ。アセイダルが本気で逃げ出した場合に捕まえられるのはおそらくボタンしかおらんじゃろうからな。妾達が足手まといになってアセイダルを逃してしまっては元も子もないないし、あやつとは別行動の方が良いじゃろうよ」

「なるほど」



 ローズは俺よりも先を見通してそう判断した様だ。

 彼女の魔王としての才覚は身体が小さくなった今でも健在のようである。



「それにしても、アセイダルって何者なのかしらね。呪術をソレイドに広めたのも悪魔の祝福を作ったのもアセイダルでしょうし、どんな人なのか想像できないわ」

「そうじゃな。まあ、最悪の場合を考えるなら悪魔じゃろう。むしろそれ以外であれば特に問題はないはずじゃ」

「この世界には悪魔なんてのもいるのか。それって魔物の一種なのか?」



 そういえば今まで特に考えずに言っていたが、敵は悪魔の叡智という組織で悪魔の祝福なんてものまで作っていた。

 普通に考えれば悪魔が関わってて当然じゃん。

 気づけよ俺。



「うむ。悪魔は知能が高く戦闘能力も他の魔物とは一線を画す。妾も何度か戦った事があるが、あやつらは狡猾で魔物特有の惨忍な性格も持ち合わせておる厄介な相手じゃった。特徴としては人型に近いほど強い個体である事と、頭に黒い角が生えておる事が有名じゃの」

「そうなのね。でも悪魔であった方が、人族や魔族じゃない分思い切りやれるから私としては好都合だわ」



 先頭を走っていた舞が振り返りながら口角を上げてそう言った。

 決戦を前にした彼女のやる気は十分なようである。



「そうだな。って結局ダンジョンまで来ちゃったか」

「そうね。どうやらここで間違いないみたいよ」

「まぁ、逃げ場の少ないダンジョンなら捕まえるのも楽じゃろうよ」



 屋根の上を走っていた俺たちはダンジョンの前の広場に降り立ってそう話した。

 シルビアさんのダンジョンじゃないかという説は正しかったようである。



「で、何階層に行けば良いんだ?」

「ふむ。どうしたものかの」


「おーい。みなさーん!」



 俺達が広いダンジョンのどこを探せば良いのか困っていると、数分前に冒険者ギルドで別れたミレイユさんが手を振りながら走って来るのが見えた。



「はあはあ。や、やっぱりこっちに来ていたんですね」

「まずはこれを飲んで息を整えなさい」



 俺がアイテムボックスから取り出したコップに舞が水を注いでミレイユさんに差し出す。

 ミレイユさんは受け取ったコップの中身を一気に飲み干すと、俺たちにお礼を言った。



「ふぅ。ありがとうございます」

「で、そんなに息を切らして走って来てどうしたんじゃ?」

「は、はい。実は悪魔の叡智の頭領がいるかもしれない場所を掴みました」

「マジっすか?」

「はい。フーマさん達に拘束してもらった職員に話を聞き出していたところ、新しく見つかった未調査領域の情報をもみ消していた者がいました。ボタンさんでも掴めない場所となるとそこかなと思いまして」



 いつもほんわかしていてみんなのウサミミお姉さんであるミレイユさんは噂に聞くようにかなり有能な人らしい。

 そんな僅かな情報だけでアセイダルの居場所を推測して、俺達がここに来る事も読んで伝えに来たってどんだけだよ。



「新しく見つかった未調査領域って事は分かりづらいとこにあるんですか?」

「はい。場所は第27階層の壁画の奥で、どうやら仕掛けを動かすと道が拓けるようです。今回は特例で転移魔法陣の使用許可をギルマスが出してくれましたから、第20階層から進んでください。あ、これは仕掛けの作動のさせ方とそこまでの地図です」



 ミレイユさんがそう言って地図とメモの書かれた紙を俺に渡した。

 ガンビルドさんが転移魔法陣を使う許可を出してくれたらしいし、俺だけ第11階層からの探索にならなくて本当によかった。



「ありがとうミレイユさん。私達ダンジョンのどこに行けば良いか分からなくてちょうど困ってた所なのよ!」

「えへへ。皆さんのお力になれたみたいで良かったです。まだ敵味方の判別が済んでないので私達は力になれませんが、どうか頑張ってくださいね!」

「うむ。妾達に任せておくと良いのじゃ!」



 ローズが腕を組みながらドヤ顔でそう言った。

 おいおい、俺達はまだ何もしてないのに今からドヤ顔してどうすんだよ。


 そんなこんなでミレイユさんに見送られた俺達は第27階層を目指してダンジョンの探索を始めた。

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