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13話 謁見

 風舞




「なぁ、城で何か気をつけなくちゃいけない事あるか?」



 翌日正装に着替えた俺達は昼前に来た迎えの馬車に乗り込み城へと向かっていた。

 椅子はクッションがフカフカでケツが痛いという事はないのだが、揺れが酷くて結構酔いそうだ。

 実際、俺の横に座っているシルビアさんがさっきから青い顔でぐったりしているし。



「そうやねぇ。今回は非公式な謁見とはいえ宰相はんや他の貴人もいるやろうから、楽にして良いって言われるまでは片膝をついて頭を下げて、話しかけられるまでは喋らずにいないとやろうなぁ」

「じゃあ、俺は一言も喋んなくてすみそうだな」

「そこは公爵はん次第やな。まぁ、城にはフーマはんの知人もいるし、その人はフーマはんを気に入ってはるみたいやから問題ないと思うんよ」

「知人?」

「それはついてからのお楽しみやな」



 俺のこの世界に来てからの知り合いなんて数えられるくらいしかいないし、ソーディアにいる知り合いなんて殆どいない。

 マジで誰だ?

 そんな答えの出ない疑問と貴族の礼儀作法への不安を抱えつつも、馬車はガタゴトと進み俺達は城へと到着した。


 城につくと、(この国のトップは公爵なので玉座と言うのかは分からないが)俺達は玉座の間の近くにある控え室で軽い作法の説明を受けてすぐに玉座の間へと案内された。

 シルビアさんはさっきから一言も発さずにガンガンに緊張している。



「レイズニウム公国名誉子爵ボタン様御一行が到着されました」



 俺達が玉座の間に入ると部屋の隅にいた人がそう声を上げた。

 あの人がさっき習った司会っぽい事をする人だな。

 俺は出来るだけ堂々とボタンさんの後ろについて絨毯の上を進み、ボタンさんが立ち止まったのを見て彼女の右後ろで立ち止まった。

 因みにシルビアさんはボタンさんの左後ろに立っている。


 それにしてもボタンさんは名誉子爵だったのか。

 今も着物を着ていてとてもこの国の関係者には見えないし、おそらく無理矢理爵位を獲得したんだろうな。

 そんな事を考えながらキリッとした態度で立って公爵さんが現れるのを待っていると司会の人が再び声を上げた。



「レイズニウム公国大公ベッリテレス・レイズニウム様及びフェリアル・レイズニウム公爵夫人がお見えになりました」



 絨毯の端に立っていた貴族っぽい人達とボタンさんがその声で片膝をついて頭を下げたので俺もそれにならって頭を下げる。

 公爵さんと公爵夫人がどんな顔か気になるが今は我慢だ。



「うむ。皆楽にして良いぞ」



 声だけでは確証がないが、多分公爵さんがそう言ったのを聞いてみんな立ち上がったので、俺も一緒に立ち上がった。



「してボタン。どのようなの用件で此度は我の元を訪れたのだ?」

「はっ。本日は大公様に折り入って頼みがあって参りました」



 おお、ボタンさんがこんな真面目な話し方すんの初めて見た。

 いつもは色っぽくて掴み所がない話し方をするのに、今は凄いキッチリした話し方をしている。



「ほう。申してみよ」

「恐れながらその前に、人払いをしていただきたく存じます」


「この女狐が! よくもぬけぬけとそのような事を言えたな!」



 うわっ。

 公爵さんの近くに立ってる人から怒声が飛んできた。

 俺はまだ目を伏せているからどんな人かはわからないけど、その気持ちよくわかるぞ。



「よせ宰相。ボタン名誉子爵は我が国に大きな利をもたらした事で我が国の貴族として認められたのだ。そのような物言いはお主の品格を落とすだけだぞ。皆の者、我はボタン名誉子爵と内密な話がある。その身を引いてくれ」

「しかし大公様」

「宰相。我に同じことを言わせるつもりか?」

「くっ。分かりました」



 そうして貴族の皆さんはぞろぞろと玉座の間から出て行き、最後に俺達が入ってきた後ろのドアも閉められた。

 ずっと貴族の皆さんに俺たちの方をジロジロ見られていた気がするが、しっかり目を伏せていたので誰とも目が合わずにすんだ。

 絶対目があっても睨まれるだけだしこれで良かった気がする。

 そんな事を考えながら頭を下げていると玉座の方から俺に声がかかった。



「昨夜ぶりですねフーマ様」



 聞き覚えのある声に顔を上げるとそこには深緑色のドレスを纏った思わぬ人物が立っていた。



「め、メイドさん!?」



 俺は思いもしなかった人物が公爵さんの横に立っているのを見て思わず声を上げてしまった。

 昨日見たメイド服みたいな宿屋の従業員の制服ではないが、その上品な雰囲気ですぐに誰かわかった。



「はいフーマ様。貴方の専属メイド、フェリアルでございます」

「あらあらあら、フェリアルはん。あまりフーマはんを虐めるもんやあらへんよ。開いた口が塞がってないやないの」

「ふふっ。これは失礼致しました。改めまして、私はレイズニウム公国公爵夫人フェリアル・レイズニウムと申します。以後お見知り置きを」



 そう言ってメイドさん改めフェリアルさんはスカートの裾を掴み優雅なお辞儀をした。

 え?

 ボタンさんの言ってた俺の知り合いってメイドさんで、メイドさんは高級宿屋の従業員さんじゃなくて公爵夫人?

 どゆこと?



「さて、ここでの立ち話も何ですから隣の部屋に行きましょうか。最高級の茶葉を使った紅茶と茶菓子を用意してあります」



 え、公爵さん腰低っ?

 玉座に座ってんのにそう見えるってどういう事だよ。

 見た目は30代ぐらいのイケメンだけど、国家元首なんじゃないのか?



「あらあらあら、気ぃ使わせてごめんなぁ」

「い、いえ。ボタンさんをお立ち頂いたままにはしておけませんので」

「あらあら、もううちよりも偉くなったんやからボタンさんなんて呼ばんでもええんよ?」

「そ、そういう訳にもいきません。ささっこちらへどうぞ」



 ああ、この人そういう事か。

 多分今までボタンさんに散々いじめられてきたからボタンが怖いのだろう。

 話を聞く限りボタンさんとは公爵になる前から知り合いっぽいし、幼少の頃からの付き合いなのかもしれない。

 子供の頃からボタンさんと付き合いがあったらトラウマになっていてもおかしくないな。

 お気の毒に。


 そんな微妙に失礼な事を考えつつも、俺達は公爵さんに玉座の間の横にある部屋へと案内されて揃ってソファーに腰掛けた。

 そういえばさっきからシルビアさんが緊張と驚きのあまり目を回しているが大丈夫だろうか?

 もうそのカップには紅茶入ってないぞ。



「先程はお話の途中でしたので改めて、私はフェリアル・レイズニウム。こちらが夫のベッリテレス・レイズニウムでございます」

「ああ、これはどうも。俺はフーマ、それでこっちのがシルビアです」



 紅茶を飲んで一息ついたところで、フェリアルさんが俺の方を向いて自己紹介をしてきたので俺も自分の名前とついでにシルビアさんの名前を紹介した。



「ええ存じております。フーマ様方は我が宿にご宿泊頂いている大事なお客様ですからね」

「それなんですけど、なんで公爵夫人が宿の従業員を?」

「それはですね、そもそもあの宿は私が運営する国営の宿泊施設でして主に他国の重鎮の方々にご宿泊頂いているのですが、その方々が我が国に有益か否かを私が直々に見極めさせていただくために従業員に扮して時々働いているのです。そして、今回は私の勤務中に既知のボタン様がいらしたので私がご案内させていただきました」

「ああ、なるほど」



 どうやらフェリアルさんもイタズラがお好きな様だ。

 奥さんもこの調子だと、公爵さんは普段から気が気じゃないんだろうな。

 頑張って生きて欲しい。



「そ、それでこの度はどういったご用件でしょうか? 何でも急用だという事でしたが」



 俺とフェリアルさんの話が終わったあたりで公爵さんが口を開いた。

 少しでも早く俺達、というかボタンさんに帰ってもらいたいんだろう。

 さっきから早く話を済ませたい感じがひしひしと伝わってくる。

 ボタンさんはそれを見てちょっぴり残念そうな顔をするとティーカップを置いて話を始めた。



「そうやったね。短刀直入に言うとやな、公爵はんの国の貴族であるポートル家を罰するよう頼みに来たんよ」

「ポートル子爵家ですか?」

「ポートル子爵家、正確に言うなら次期当主のスワルゴル・ポートルが冒険者ギルド管轄地のソレイドで悪魔の叡智っていう組織とつるんで悪さしてるんよ。これがその証拠やな」



 ボタンさんはそう言うと着物の袖からこの前見せてくれた羊皮紙を取り出してテーブルの上に置いた。

 公爵さんがそれを手に取って中身を検める。

 数十秒程で公爵さんは羊皮紙に一通り目を通し終わると目頭を押さえてため息をついた。



「はぁ、まさかこの様な事態になっていたとは思いもしませんでした。ソレイドはどこの国にも属していない中立地域、我が国の貴族が暗躍していたとなっては国際問題になりかねません。早急にポートル家を潰しソレイドから手を引かせます」

「よろしゅうなぁ。それとうち達はすぐにソレイドに戻らんとあかんから公文書を書いてくれへん?」

「分かりました。直ちに発行させていただきます」



 そう言うと公爵さんはさっと部屋から出て行った。

 おそらく執務室かどこかに公文書を書きに行ったのだろう。

 俺がその様子を眺めているとフェリアルさんが口を開いた。



「しかし悪魔の叡智ですか。まさか我が国の者にまで手を出してきているとは」

「悪魔の叡智を知ってたんですか?」

「はい。レイズニウム公国の西に位置する小国群の一部で悪魔の祝福という麻薬が出回っているという情報を掴んだので、我が国の暗部に調査させたところ背後に悪魔の叡智という組織がある事を把握しました」

「悪魔の祝福。そんなところにまで…」



 今の今迄一言も発さなかったシルビアさんが悪魔の祝福の名を聞いて口を開いた。

 つい最近までその麻薬の影響を受けていた彼女には何か思うところがあるのかもしれない。



 その後、ボタンさんとフェリアルさんの情報共有を聞いている内に公爵さんが公爵家のものであろう刻印のついた羊皮紙を持って部屋に戻って来た。



「公爵家の名の下に即刻城へ出頭する命令とソレイドに金輪際関わることを禁止する内容が記されています。どうぞお持ちください」

「ありがとうなぁ。今日は忙しいからこれで帰るんやけど、今度ゆっくりお礼しに来るから勘弁してなぁ」

「い、いえ。お構いなく」

「そうなん?」

「はい、お構いなく」



 そうして特に問題もなく公文書を手に入れた俺達は優雅に手を振るフェリアルさんと、お構いなくを連呼する公爵さんに見送られて城を後にした。

 さて、舞の方は上手くいってるだろうか。

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