3話 落下しました。
風舞
「ふう、なんとか転移魔法は成功したか」
テレポート後、周囲を見回すと結構な上空にいた。
真下には雲が広がり、その切れ目からは深い森が地平線まで続いている。
そう現状確認していると、左腕を掴んでいた土御門さんがばっと俺から手を放し、大声で叫んだ。
「ひゃっっほおおおおぉぉぉぉぉぉい!!!!! 自由よっ!! 私は自由だわっっっ!! もう面倒な社交会もないし、習い事もないっ!! 自由だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
わーお。
土御門さんキャラ変わってーら。
めっちゃいい笑顔で叫んでるし。
パンツ丸見えだし。
なんか純真な子供を見てる気分だわ。
黒の大人パンツ丸見えなのに興奮するどころか微笑ましいわ。
「ってちょっと、土御門さんっっ!! このままじゃ落ちて死ぬからっ!!」
「おっとそうだったわね。少し待ってちょうだい。今風魔法を習得するわ」
そう言って彼女は空中で脚を組みながら優雅にステータスカードをいじり始めた。
空中なのにすごい器用ですね。
そうして数秒後、どうやら彼女のステータスポイントの割り振りが終わったようだ。
「よし、出来たわ。これで飛べるはずよ。こっちにいらっしゃい。高音くん」
「で、どうすんだ?」
「さあ、私に抱きつきなさい!!」
「え?」
「ほら、早く!」
「あ、ああ」
どうやら彼女は異世界に転移する時に羞恥心を置いてきたようだ。
まぁ、俺的には役得だし不満なんてこれぽっちもないんだが。
そんな事を考えながら、俺は土御門さんに後ろから抱きついた。
「ひゃうぅっ!」
「だ、大丈夫か?」
「え、ええ。もちろん大丈夫よ。高音くんに抱きつかれたからってこれっぽっちも何も感じないわ。」
セリフ自体は結構傷つくが、後ろから見える耳は真っ赤なのできっと恥ずかしいのだろう。
土御門さんの振り切っていたテンションが異性の接触により、少し落ち着いたらしい。
「よし、それじゃあ頼む」
「ええ、任しときなさい」
土御門さんはそう言うと風魔法を発動させた。
上から下へ。
「お、おいっ! なんで加速させんだよっ! おいっ!」
「大丈夫よ、任せておきなさい!!」
「何が大丈夫なんだよ!!」
そのまま重力プラス風魔法でガンガン落下速度が上がっていく。
多分後五秒くらいで地面に激突しそうになったその時、土御門さんは下方向へ強烈な風魔法を放った。
ズガーーーン!!
辺りの木々が物凄い風圧によって吹っ飛んでいく。
俺は急ブレーキにふっとばされそうになるが、セミのように土御門さんに抱きつきつつ、無心で覚えたての魔法を使う事でなんとか着地まで耐えられた。
「殺す気か!!」
「何よ。死んでないからいいじゃない」
「そりゃ、俺が衝撃の瞬間に転移魔法を使ったからだ」
「あら、そうなの。助かったわ。ありがとう高音くん!!」
「お、おう」
どうやら俺は土御門さんの笑顔にはどうやっても勝てないらしい。
このままでは死にかねないと思い落下中に転移魔法を使えば直前のベクトルを殺せるんじゃないかと考え、とっさに同じ場所に転移したがどうにか成功した。
漫画で得た知識がここで役立つとは思いもしなかった。
「それでこの後どうするよ?」
「そうね、まずは町か村を見つけたいわね。とりあえず寝床を確保したいし」
「じゃあ、とりあえずは辺りを散策してみるか」
「ええ、森の中だしきっとエルフがいるはずよ!!」
「ああ、そうだな」
そうして俺は立ち上がろうとしたが、そこで気を失った。
「ちょっと?高音くん!?」
倒れる直前に土御門さんの声が聞こえた気がする。
◇◆◇
セレスティーナ第一王女
つい先程召喚した勇者様の内、2名が突如転移魔法によって姿を消してしまいました。
国益のためには嘘をつき勇者様方に催眠などを施すべきでしたが、勇者様方の人生を奪う非道であるために召喚者の責任として真実をお話ししたことが問題だったのでしょうか。
高音風舞さんと土御門舞さんのお二人を私の力が及ばないばかりに危険に晒してしまいました。
私は勇者様方の命を預かる立場として彼等をこのまま放っておく訳にはいきません。
早速捜索隊を編成し、彼等を保護しなくては。
◇◆◇
風舞
あぁ、クソっ。頭が痛い。
そもそも最初の転移の時点から無茶があった。
転移魔法のスペックも何もわからないないし、そもそも転移魔法なんてものが存在しているのかもわからない。
そんな状況で無理を通すなんてどうかしている。
どうやら俺も異世界に転移して少なからず調子に乗っていたようだ。
俺が読んできたラノベだと異世界で調子に乗ったやつはすぐに死ぬ。
今後は注意して行動しよう。
そんな事を考えていたら体を揺さぶられながら声をかけられている事に気が付いた。
「高音くんっ! ちょっと高音くん!」
俺が目を開くと土御門さんの不安そうな顔が見えた。
どうやら心配してくれていたらしい。
「ん、ああ、土御門さん」
「良かった。無事なのね。急に倒れるからびっくりしたわ」
「ありがとう。見張ってくれてたのか」
「ええ、私達はもう運命共同体だもの」
なんて嬉しい事を言ってくれるのだろうか。
俺はこの危険な異世界で彼女をなんとしても守り通そう。
そう思った。
「それで、俺はどのくらい倒れてたんだ?」
「三分ほどね。割とすぐに目を覚ましたわ。それで、どうして倒れてしまったのかしら?」
「ああ、多分だが、」
そう言って俺は自分のステータスカードの魔力の欄を確認した。
残り魔力が6になっている。
やっぱり…
「どうやら、魔力が尽きたみたいだ」
「なるほど。魔力が尽きると気を失ってしまうのね」
「多分そうだろうな。今もまだ頭痛がするし」
「ごめんなさい高音くん。私が迂闊なばかりに君に負担をかけてしまったわ」
「ああ、いいんだ。俺も異世界に来て調子に乗っていたし、土御門さんだけを責められない」
俺がそう言うと、土御門さんはふっと微笑んだ。
土御門さんも俺が倒れて少なからず反省していたのだろう。
「それじゃあ早くここから移動しよう。さっきの大きな音で魔物とか寄ってくるかもしれない」
「そうね、互いのステータスも確認しながら移動しましょう。お互いに何ができるか知っておきたいわ」
「そうだな」
俺は歩きつつ自分のステータスカードを確認した。
◇◆◇
フウマ タカネ
レベル 1
体力 12/13
魔力 6/1314
知能 1314
攻撃力 6
防御力 4
魔法攻撃力 0
魔法防御力 0
俊敏性 7
魔法 転移魔法LV8
スキル
称号 異世界からの来訪者 勇者
ステータスポイント 0
◇◆◇
「これ、やばいな」
「どうかしたのかしら?」
そう言って俺のカードを覗き込んでくる土御門さんに俺は自分のステータスカードを渡した。
「ふむふむ。魔力と知能がとても高いわね。ただ、これって」
「ああ、そうなんだよ。焦ってポイントを振ったから攻撃力とか防御力が皆無だな」
「ま、まあ大丈夫よ。レベルが上がればステータスポイントも増えるそうだから地道に頑張りましょう」
レベルを上げればステータスポイントも増えるのか。
それならなんとかなるか?
俺たちはステータスの伸びが良いらしいし、そのうち何とかなるかもしれない。
「それで、土御門さんのステータスはどんな感じなんだ?」
「ええ、こんな感じよ」
え、土御門さん強すぎません?
◇◆◇
マイ ツチミカド
レベル 34
体力 498/662
魔力 31/602
知能 301
攻撃力 637
防御力 598
魔法攻撃力 589
魔法防御力 588
俊敏性 672
魔法 風魔法LV2
スキル 身体操作 LV3
称号 異世界からの来訪者 勇者
ステータスポイント 516
土御門さんのステータスを一部変更しました。