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98話 始動

 


 舞



「おい! 起きろ小娘! おい!」



 誰かが瞑想して回復に努めていた私の肩を揺さぶっている。



「……風舞くん?」

「意識が朦朧としているのか?」

「……………はぁ。寝ている女の子に手を出すなんて最低ね」

「い、いや。俺はただ、無事なのかと…」



 ドラゴニュートの男性が私に睨まれて、数歩下がりながら狼狽る。

 せっかく風舞くんが助けに来てくれたのかと思ったのに、どうして起きがけにワニ顔なんて見なくちゃいけないのかしら。



「まぁ、良いわ。ここにいるという事は、貴方もレイザードを仕留めるつもりなのでしょう?」

「あ、ああ。そうだな」

「なら、さっさと行くわよ。流石にクロードさん達だけだと、骨が折れると思うわ」

「ああ……」



 おそらく私が目を閉じていたのは数十秒ほどで、レイザードに奪われた力の多くは取り戻せていないが、神降しを使えば戦えなくはないし、私一人では無いのなら、いくらでもやり様はある。



「私は土御門舞。勇者よ」

「…俺はセイラム。将軍だ」

「元気がないわね。お腹でも空いたのかしら?」

「別にそうではない」

「そう心配せずとも貴方の重心の運び方を見れば只者では無いのは分かるし、少なくとも足を引っ張る様なレベルでは無いのでしょう?」

「当然だ。俺はスカーレット帝国序列第3位だぞ」

「へぇ。なら、期待しておくわね」

「……ああ」



 このおじさん、大丈夫かしら?

 なんとなく戦闘に対するスタンスが風舞くんと似ている気がするけれど、こんなにも戦いたくなさそうな人も、これはこれで珍しいわね。



「まぁ、良いわ。さて、それじゃあ行くわよ!」

「ああ。俺の力を見せてやろう」



 そうして私は見るからに臆病そうな将軍とともに、激しい猛攻を続けるレイザードの元へ急ぐのであった。




 ◇◆◇




 風舞




 フレンダさんや皆のおかげで目を覚ましてから、どうにも身体が軽い。

 ソウルコネクトは行っていないしステータス的な変化はおそらく無いと思うのだが、肉体が吸血鬼のそれになった事で、少なからず変化があるのかもしれない。



「フーマ? どうかしたのかの?」

「いや、何でもない。それより、取り敢えず周りの双子を何とかしないとだよな」



 俺の治療をしている間はシェリーさんとターニャさんとエルセーヌでどうにか抑えてくれていたみたいだが、流石に増え続ける敵を3人で相手にするのは厳しいのか、額に汗が浮かんでいる。



「取りあえず、本体を探して叩くべきか」

「本隊の捜索はシルビア様とフレイヤ様とアメネア様が行っています。それと、エルセーヌの配下の方達も、その援護をしている様です」

「そうですか。なら、取り敢えずシルビア達と合流を…」

「オホホホ。それには及びませんわ。あちらはあちらに任せておいて、私達はレイザードを叩くべきですの」

「そうだね。幸いにもこの双子は数が多いだけでそこまでは強くないし、僕達はここに残してフーマ達だけでレイザードの元へ向かうべきだ」

「ユーリアくんが言うならそうしても良いけど、本当に大丈夫なのか?」

「おいフーマ。いつまでも無駄話をしていないで、マイを助けに行きますよ。先程から、少し様子がおかしいみたいです」

「……………分かりました。なら、こっちはユーリアくん達に任せる」



 シルビア達の方にはエルセーヌの配下が付いているらしいし、エルセーヌ本人が大丈夫と言うのであれば、問題は無いのだろう。

 一つ懸念点があるとすれば、リディアさんやお姫様などの戦闘能力があまり高くない連中をここに残して行くことだったが、お姫様やリディアさんも頷いているし、ここはユーリアくん達に任せても良いはずだ。


 って、リディアさんは相変わらず俺のことが嫌いなんですね。

 苦虫を噛み潰した様な顔をしていらっしゃる。



「そういう事であれば、道を開けるね! シェリー! 3秒保たせて!」

「ああ! 任せろ!!」



 ターニャさんが何か大きな魔法でも発動させるのか全力で魔力を練り始め、その間、団長さんが馬鹿でかい剣を振り回しながら時間を稼ぐ。



「よし! んじゃ、行くよ!! ヨトゥンフィスト!!」



 大きな氷の拳が無数の双子と城の壁を押し除け、多くを破壊しながら道を切り開く。

 確かに道は開けたけど、よく城主の前でここまで派手に城をぶっ壊せるな。



「ターニャ。後ほど請求させていただきますので」

「え!? ウソ!? マジで!?」

「時期里長になろうという者が、まったく……」

「えぇ!? これって取り敢えず敵を倒すために頑張ろうって流れじゃないの!?」

「良い。良いんじゃよターニャ」

「って、思ったよりもローズが悲しそうなんだけど!?」



 フレンダさんやトウカさんやローズが一人ずつターニャさんに声をかけて氷の拳の上を走って行き、壁をぶち抜いてしまったターニャさんがどんどん申し訳なさそうな顔になっていく。



「オホホホ。この城は貴重な調度品も多いですし、後が怖いですわね」

「そ、そんな……」

「やめたりなさい。大丈夫ですよ。道を開いてくれてありがとうございました」

「ししょ〜!」

「まぁ、弁償はしたほうが良いと思いますけど」

「ししょー!!?」



 そうして俺とエルセーヌもフレンダさん達の後に続き、双子の大群を超えてレイザードと戦う舞達の元へ向かう。



「おいフーマ。レイザードの能力について現状判明している事を改めて説明しなさい」

「そうですね……。レイザードの能力は主に三つ。一つは闇に触れた相手の力を封じる能力。もう一つは闇を使って分身を生み出す能力。三つ目は、超質量の闇を武器に変えて攻撃する能力です」

「そうですね。そしてその他にもう一つ判明している能力があります」

「そうなんですか?」

「はい。私がボタンと共にレイザードと相対した際、私達は二人揃って何の前触れもなく力を失い、立っている事すら出来なくなりました。幸いにも、フーマがレイザードを退けた後には力が戻ったのですが…」

「闇に触れる事で力を封じるものとは別種の能力なのでしょうか」

「ふむ。何の前触れもなくとなると、厄介じゃな」

「ラングレシア王国の騎士やマイが戦闘を続けている事から察するに、やり様が無いわけでは無いのですが、十分に注意した方がよろしいかと」



 確かに力を奪われる能力は厄介だが、その上どういった条件でその影響を受けるのか分からないというのは、かなり厳しい。

 クロードさんや舞はおそらくレイザードに能力を使う時間を使わせる隙を与えない様に動いているのだろうし、俺も何か準備をするべきか。



「オホホホ。ステータスカードを取り出して何をするつもりですの?」

「重力魔法のLVを上げる。転移魔法でこの人数を動かすのは無理がありそうだしな」

「転移魔法では転移直後に硬直があるはずですが、どうなさるのですか?」

「誰かが誰かをフォローして、その間に危険な位置にいる人は転移させます。全員で範囲攻撃を避けるんじゃなくて、あちこちから常にレイザードを攻撃する感じですね」

「その様な事が可能なのですか?」

「幸いにも吸血鬼になったおかげか若干動体視力も上がっていますし、やろうと思えば出来ると思います。ただ、正確な連携となると少し難しいかもしれないのがネックですね…」

「それなら問題ありませんね。私には、フーマの考えなど、手に取る様に分かりますから」

「わ、妾もじゃ! のう、フウマ?」

「まぁ、ローズは俺に初めて戦い方を教えてくれたし、そうかもな」

「オホホホ。当然私も、伊達にご主人様の従者をやっているわけではありませんの」

「それでしたら私も…」

「私もなんですか? まさか、いつも影からこっそり舐め回す様に見ていると、白状するのですか?」

「舐め回す様には見ていません! それを言うのなら、寄生虫の様にフーマ様の御心を勝手に出入りしているフレンダ様の方がよっぽどでしょう?」

「何で此奴らはこんな時に喧嘩を始めるんじゃ…」

「無理やり興奮状態に持って行って、すぐに戦闘に対応出来る様にじゃないか?」



 うん。きっとそうだ。

 フレンダさんもトウカさんも聡明で素敵な女性だし…



「第一。トウカは考える事が陰湿なのです。これだから拗らせた箱入り娘は」

「そういうフレンダ様こそ、ここまで来て一体どういうおつもりですか? これまでは保護者としての立場で満足していたのに、生娘の様に頬を染めて…」

「そ、それは関係ないでしょう! それに、そういうお前だって生娘ではありませんか!」



 ……………きっと、何か考えがあって喧嘩をしているんだよ。

 そうに違いない。そうだと思いたい。



「やれやれ。あやつらは変わらんの」

「はぁ。取り敢えず今回は重力魔法も使うんで、臨機応変にお願いしますね」

「望むところです!」

「お任せくださいフーマ様」

「またお前はそうやってすぐに色目を使って…」

「色目ではありません! そういうフレンダ様こそ…」

「オホホホ。騒がしいですわね」

「はぁ。本当にな」



 もう少し走ったらそろそろレイザードも見えて来るというのに、この二人はいつまで喧嘩をしているのだろうか。

 今も舞やクロードさん達が頑張って戦ってるんですから、マジで頼みますよ。


次回、17日予定です

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[一言] ボタンさん復帰まだかなぁ〜?
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