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8話 晩酌

 風舞 



 メイドさんの案内してくれた部屋はとても豪華な部屋だった。

 リビングに風呂、果てはワインセラーまであるし、ベッドルームが3つもあってそのどれもがキングサイズなので5人以上は楽に泊まれそうな部屋である。

 これを一人で所有してるってどういう事だよ。

 ベッド3つもあっても使わんだろ。


 俺がそんな事を考えながらリビングで紅茶を飲んでいると隣に座っていたシルビアさんが寝てしまっている事に気がついた。



「寝ちゃったか」



 部屋についてから腰が抜けていたシルビアさんをソファーに座らせて2人で紅茶を飲みながら話していたのだが、座って5分ほどで寝てしまった。

 まだダンジョンを睡眠時間を削ってまで探索していた疲れもあるのだろうし、寝落ちしてしまうのも当たり前な気もする。


 そもそもかなり夜も更けているし、シルビアさんは別の街に来たからかなんとなく眠れない俺に気を使って付き合ってくれていたのかもしれない。

 もしそうなら悪いことをしたかもな、なんて事を考えながら俺はシルビアさんを部屋にある馬鹿でかいベッドルームの一室へと運んだ。



「お休み」



 そうして俺はシルビアさんをベッドに寝かせてから布団をかけてやってベッドルームを後にした。



 ◇◆



「お疲れ様フウマはん」



 シルビアさんを部屋に寝かせてリビングに戻る途中、ソファーに座ってお酒を飲みながらワインセラーを眺めていたボタンさんに声をかけられた。



「別に大した事ないですよ」

「フウマはんは謙虚やねぇ。ちょっとこっちに来て少し呑まへん? 美味しいお酒があるんよ」

「いいですけど。俺はそんなに飲めませんよ? 大して酒を飲んだことないですし」

「そういえばそうみたいやね。それじゃあ……アイテムボックスからうちの荷物を出してくれへん?」

「荷物ですか? 分かりました」



 俺はアイテムボックスからボタンさんの荷物を取り出してボタンさんの横に置いた後、ワインセラーのそばのソファーに座った。

 俺と向かいに座っているボタンさんの間には膝丈くらいのテーブルがある。



「うーん……これなんてどうやろか? 果物のお酒で甘いし飲みやすいと思うんよ」



 ボタンさんがそう言って鞄から取り出したお酒をグラスに注いで、魔法で氷を出してそれを入れてから俺の前に置いてくれた。

 確かに果物の甘い香りがする。

 それにしても何本酒を持って来てるんだ?

 パッと見ただけでも5本以上鞄に入ってるみたいなんだが。



「お、確かに甘くて美味い」

「そうやろ? うちもこれ好きなんよ」



 そう言ってボタンさんも同じお酒を注いで飲み始めた。

 この人がこうしてると色っぽくて、結構ドキドキするな。

 ボタンさんがグラスを回しながら俺に語りかける。



「あのなぁフウマはん。うちフウマはんと知り会えてほんまに良かったと思ってるんよ」

「何ですか急に」

「うちの記憶を読む能力を知っても態度を変えない人は結構珍しいんよ。顔には出さなくても大抵2回目に読んだ時にはよく思ってない人が多くてなぁ」

「へー。そんなもんですか。まぁ、俺もボタンさんのこと女狐みたいだって思ってるんですけどね」

「フウマはんは意地悪やなぁ。うちがこうしてフウマはんを褒めのてるのにそうやってはぐらかすんやもん」



 ボタンさんがころころと笑いながら俺の方を楽しげに見る。

 俺は何だか気まずくなってグラスに口をつけた。



「俺は記憶を読むとか言われてもよくわかんないだけですよ。確かに見られたら恥ずかしい記憶もありますけど、16歳でも既に恥ずかしい思い出が多すぎるくらいありますからね。諦めもつきます」



 ボタンさんの能力は記憶を読む事らしいが、口ぶり的におそらくその時々の考えている事も判るのだろう。

 そう考えると他人の記憶や感情を能力を使う度に受け止めているボタンさんが純粋に凄いと思う。

 俺に同じ能力があったとしても使える自信ないな。

 他人が自分の事どう思ってるのかなんて怖くて知りたくないし。



「フウマはんみたいにうちとこうして接してくれはるのはアカリ以来なんよ。だからフウマはんとは仲良うしたいなぁと思うてなぁ」

「俺もボタンさんとは仲良くやっていきたいと思ってますよ。ローズの真実を知っている数少ない人ですし、こうして美味しいお酒も教えてくれましたしね」

「フウマはんは女性の扱いが上手やねぇ」

「そりゃどうも」



 なんだかボタンさんとこうしてたわいもない話をしているのが凄い楽しい。

 これが大人のお酒の楽しみ方なんだろうか。

 なんかいいな、こういうの。

 俺がそんな事を思っているとボタンさんがふと思い出したように俺に話しかけた。



「そうや。うちにも他のみんなと同じように話してくれへん? うちだけ他人行儀な感じで寂しいんよ」



 ボタンさんがそう言って上目遣いで俺をまじまじと見つめてくる。

 今までは大人の女性と接する感じでなんとなく敬語を使っていたけど、こんな可愛い一面もあるならタメ口でも良いかもしれない。

 ボタンさんもこう言ってる訳だしな。



「わかった。これからもよろしくな、ボタンさん」

「あらあらあら。ありがとうなぁ。ささっ、まだまだ美味しいお酒は沢山あるんよ。これも呑んでみいひん?」

「もちろんいただこう!」

「さすがフウマはんやね」



 こうして俺は美味しいお酒をボタンさんに教えてもらいながら色んな話をした。

 結構楽しい夜だった気がする。




 ◇◆◇




 風舞




 翌朝、俺はドアをノックする音で目を覚ました。

 頭がガンガンと痛んで何だか体がだるい。

 俺は痛む頭を抑えつつ体を起こした。



「マジかいな」

「あらあらフウマはん。お早うさん」



 体を起こして目を擦ってから周りを見回してみると、俺の横で裸のボタンさんが寝ていた。

 あれ? どういう状況だこれ。

 ここはシルビアさんを寝かせた部屋とは違う部屋だよな。

 昨夜は確かボタンさんと酒を飲んでて、タメ口で話すよう言われて、

 あれ? その後どうなったんだ?



「フーマ様。朝ご飯はどうなさいますか? 従業員の方が朝ご飯を用意するか尋ねに来ているのですが」



 部屋の外からシルビアさんの声が聞こえてくる。

 とりあえず部屋に入って来られる前に返事をしなくては。



「ああ! 用意して貰ってくれ。今着替えてそっちに行く!」

「分かりました。そう伝えておきますね」



 ふぅ。とりあえず何とかなったか。

 それよりも今はボタンさんだ。



「おい、これはどういう状況だ」

「あらあら。フウマはんはその話し方を続けてくれるんやね」

「ああ。なんかこっちの方がしっくりくるからな。ってそうじゃなくて、これは事後なのか?」

「昨夜のフウマはんはカッコ良かったんよ」



 ボタンさんがシーツで口元を隠しながらそう言った。



「ジーザス」



 俺はあまりの現実に直面して目の前が暗くなるのを感じた。



「はぁ。とりあえず顔洗ってこよ」



 俺は肩を落としながらボタンさんを残して部屋を後にした。

 あー、事後なら責任を取らない訳にはいかないよな。

 ここは魔物のいる危険な異世界な訳だしその辺りは厳しそうな気がする。

 あと、ボタンさんのご両親にも挨拶に行かないとか。

 そんな事を考えながら洗面所に向かうとシルビアさんが鏡の前で身だしなみを整えていた。



「あ、フーマ様。顔を洗いに来たんですか?」

「ああ」

「どうしたんですか? 何か問題でもありましたか?」



 シルビアさんが俺の顔を見てそう声をかけてくれた。

 どうやら俺はかなり酷い顔をしているらしい。



「そうだな。責任を取らなくてはいけなくなったんだ」

「責任ですか? よくわからないのですが、困っている事があるなら力になりますよ?」

「いや、いいんだ。これは男の問題だ」

「はぁ、そうですか。そういえば、ボタンさんを見ていませんか? 今朝フーマ様を起こしに行くと言ったきり姿を見てないんです。匂いが残っていないのでフーマ様の部屋に入ってから出て来ていないと思うんですけど」

「え? ボタンさんは俺を起こしに来たのか?」

「はい。私の後に起きて来てからフーマ様のベッドルームに向かいましたけど、それがどうかしましたか?」



 ん?

 つまりボタンさんが俺が寝ていたベッドに入って来たのは今朝方の事で、夜は違うベッドルームにいたってことか?


 そう考えた俺はそのままトイレに走って自分の逸物を確認した。

 あ、多分新品だわこれ。

 身の潔白の確認を済ませた俺はボタンさんの元へ駆けつけて感情の赴くままに叫ぶ。



「この女狐がぁぁぁ!!!」

「あらあらあら、フウマはん。またうちと寝たいん? 朝からなんて流石やねぇ」

「やかましいわ! 朝から体をはったドッキリ仕掛けてくんな! お陰でどう責任取るか物凄い悩んだわ!」

「あらあらフウマはんは責任とってくれる漢気のある人なんやねぇ。それなら本当に襲えば良かったわぁ」

「頼むからやめてくれ! 次やったらもうボタンさんとは酒呑まないからな!」

「あらあら、それじゃあ我慢せんとなぁ」



 ボタンさんがそう言って楽しげに笑う。

 はぁ、この人はなんでこうなんだろうか。

 昨日ボタンさんを少し見直した自分に少しガッカリした。

 


「フーマ様? どうかなさいましたか…ってな、なんでボタンさんは裸なんですか!?」



 その後顔を真っ赤にしたシルビアさんを何とか落ち着かせて説明をした後、俺達は揃って朝食を食べた。

 疲れた心に染み渡る美味い飯だったよ。



 ◇◆



 朝食を食べた後、俺が一足先にリビングに戻って紅茶を飲んでいるとシルビアさんがやって来て俺に頭を下げた。



「私の事を信じて下さってありがとうございます」

「ん? 何の話だ?」

「今朝ボタンさんに治療のお礼を言った時に、フーマ様が私はもう悪魔の祝福に手を出さないだろうと保証して下さったと聞きました」

「ああその事か。それにしてもボタンさんにお礼を言えたんだな。昨日俺がお礼を言う機会を作るって言ったのに悪かったな」

「いえいえ、気にしないで下さい。こうしてボタンさんにはお礼を言えましたし、私はフーマ様に感謝しかありません。必ずやフーマ様のご期待に答えてみせます」

「そんなに気張んなくても良いと思うけど、困った事があったら何でも相談してくれよ?」

「はい。ありがとうございます」



 シルビアさんはそう言って大人っぽい笑みを浮かべながら頷いた。

 この調子なら本当に悪魔の祝福の心配はしなくて大丈夫そうだな。

 ボタンさんにお礼も言えたらしいし、万事OKだろう。


 そんな事を考えながらブンブンと振られているシルビアさんの尻尾を眺めていると、タイミングを見計らっていたかの様にボタンさんが俺達のもとへやって来た。



「あら、話はもう終わったんやね」

「ああ。それで早速城に行くのか?」

「いや、まずはフーマはんとシルビアはんの服を買いに行くところからやね」

「ああ、確かに城に行くなら正装じゃないとダメか。よし、それじゃあ行くか!」

「はい!」「そうやね」



 こうして俺達は宿を出てソーディアの街へと繰り出した。

 初めて見るソーディアがどんな所なのか楽しみだ。

3月14日分2話目です。

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