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47話 順当

 


 風舞



 悪魔の晩餐会の会場として指定されたこのリィンジェル離宮はジェイサット魔王国の現王政府が建てた美しい白亜の宮殿である。

 魔族にしては珍しく洗練されたデザインで優美さを感じさせる建築様式はかつてのジェイサットの栄光を感じさせるが、悪魔の巣窟と化した現在の宮殿は血と侵された命に塗れた魔窟となっていた。



「さてさて。城内の敵性反応は物凄い勢いで減ってるし、俺たちは人の少なそうな地下に行ってみましょうか」

「………」



 エルセーヌの1の配下であるアインさんが代表してコクリと頷き、先導する様に離宮の中を歩き始める。

 スカーレット帝国の諜報員であるアインさんならこの離宮の間取りをある程度は知っているのかもしれないが、それにしても迷いのない足取りだった。



「アインさんはここに来たことがあるんですか?」

「…………」

「…………」



 アインさんに目配せをされたツヴァイさんが身振り手振りで何かを伝えようとしているが、俺には彼女が何を言わんとしているのかちっとも分からない。



「えぇっと、後でエルセーヌに聞くんで無理しなくて良いですよ。道が分かるなら今は困りませんし」

「…………」

「…………」

「…………」



 俺に上手い説明ができなくて落ち込んだツヴァイさんの肩に、ヒュンフさんが手を置いて気にするなとでも言わんばかりに首を縦に振っている。

 エルセーヌの配下ってズィーさんも含めてだけど、皆ボディーランゲージが多彩だよな。

 もしかするとエルセーヌに普段からあんまり喋らない様に言われているのかもしれない。



「うっ……すまない」

「………」



 アインさんが道中で壁に手をついて肩で息をしていたラングレシア王国の兵士に回復魔法をかけて軽く会釈をした後、そのまま足を動かし続ける。



「アインさんって、優しいしかなりクールだよなぁ」

「………。…!?」

「………」

「………」




 俺の言葉を聞いてフルフルと首を振っていたズィーさんがアインさんのスカートから這い出て来た黒い触手に捕まり、何言か二人の間で会話がされた後で元の位置へと戻ってくる。

 もしかするとアインさんの性格を俺に伝えようとしていたところを、当人に口止めされたのだろうか。

 意外とエルセーヌの配下は上下関係が厳しそうである。



「ん? この部屋に何かあるんですか?」

「…………」



 アインさんの反応を見る限りこの木製の扉の先には何かがあるらしく、各々が武器を構え始めたのを見て俺も片手剣を取り出してしっかりと右手に握る。

 そんな俺の様子を確認したアインさんは豪快に内側から鍵のかけられた扉を蹴破り、その先にあった階段を降りて行った。



「………」

「はい。よろしくお願いします」



「私が守ります」とばかりに俺の方を見て頷くズィーさんに連れられて俺も階段を降り、蝋燭の薄い光に灯された長い階段をアインさんの後に続いてサクサクと降りて行く。

 そうして数十段にも及ぶ長い階段を降りた先にあったのは、数多くの客席に囲まれた円形のコロシアムだった。



「おや? 何やら上が騒がしいと思ってはいたが……」

「…………」



 コロシアムの中央で数人の魔族を相手に何かをしていた悪魔を視界に捉えるや否やアインさんとツヴァイさんが動き出し、ズィーさんとヒュンフさんが俺を守る様にそれぞれ前後を固める。



「やれやれ。せっかくこの僕が魔族を合成した怪物同士の殺し合いという最上のエンターテイメントを用意していたのに、それを邪魔するなんて君達は無粋だなぁ」



 アインさんとズィーさんの華麗な連携に押されつつも額に黒い角を生やした悪魔は余裕を持った口調で話しているが、漆黒の二人はそんな事を気にも留めずに相手の命を刈り取るための一手を次々に積み上げて行っていた。



『トウカさん。地下で怪物にされそうになっていた魔族を3名発見しました。気絶させてからそっちに送るので後はお願いします』

『かしこまりました。ちょうど私達も応急処置に使えそうな食堂を確保したので、いつでも転移させてしまって大丈夫ですよ』

『流石ですね。頼りになります』

『ふふ。もっと頼りにしてくださっても構いませんよ』



 そんなエルフのお姉さんの頼もしい声を聞いているうちに遂にアインさんの剣が悪魔の首を跳ね、姿を変えようとしていた悪魔の死体がその場に崩れ落ちる。

 流石に即座に魔石に変えるほどの大差をつけての勝利は出来なかったみたいだが、戦闘を終えても無傷のままだったツヴァイさんが悪魔の死体に青いブレスを吹きかけて灰塵に変えてしっかりとトドメを刺していた。



「まったく出番がなかった」

「………」

「あぁ、はい。気絶させてトウカさんのところに転移させる事になってます」



 俺の肩をちょんちょんと叩いたヒュンフさんが意識の朦朧としている3名の魔族を順にデコピンで気絶させ、3人一気に担いで俺の前に連れて来る。

 この4人と行動してるとマジでする事がないな。



「ま、楽だしいっか」



 そうして俺はそんな事を呟きながらヒュンフさんが運んで来た魔族をトウカさんの元へ転移させ、アインさん先導のもと次の悪魔狩りへと向かうのであった。




 ◇◆◇




 舞




 今回の作戦はジェイサットに巣食う悪魔を1匹でも多く討伐する事が主目的だが、悪魔の今後の行動を予測するための情報を入手するという第二の目的もある。



「そしてそんな情報を持っているのはどこの誰なのか。そんな事は単純明快、一番強くて偉そうな奴よ」

「そ、それは分かるけれどこれは流石に無理があるんじゃないかな?」



 この宮殿の構造を元にアンちゃんに玉座がありそうな部屋を推察してもらって実際にそこまでやって来た私達を待っていたのは、6名の人型の悪魔達だった。



「ほらやっぱり来た。だからここで待っていても大丈夫だって言ったでしょ?」

「それは結果論に過ぎないでしょう? それに今夜は晩餐会だというのに城もこんなに荒らされてしまったし」

「場所などどうでも良い。それよりもそこの羽虫が目障りだから羽を捥いでバラしておけ」



 玉座に座っていた一番偉そうでねじ曲がった黒いツノを生やした赤い髪の悪魔がそう言って奥の部屋に進もうとする。



「ねぇ、アンちゃん。実は今の私ってかなり強いのよね」

「それは知ってるけど、流石に言葉が流暢な悪魔を6体同時は無理でしょ? というより、早く撤退しようよ!」

「そう慌てる事はないわ。後ろからクロードさん達も来ている事だし、壁と床を破って最短ルートを通ったとは言えども、3分もあれば誰かしら来てくれるはずよ」

「まさか僕たちを相手に3分間も息をしていられるつもりなのかい?」

「ええ。というより3分もあったら皆が来る前に終わって暇をしてしまいそうだわ」

「はっ! これは人間如きが大きく出たものだね! そういう事ならこの僕が……」



 6体の中で最も幼い容姿の悪魔が腕からタコの様な触手を何本も生やしながら私の方へ一直線に飛びかかって来る。

 魔法も同時に放とうとしているみたいだけれど、何とも柔らかそうな身体ね。



「ごめんなさい。確かに私は人間だけれど、半分は神様みたいなものらしいのよね」

「な……にを?」

「土御門流剣術 外伝 壱の型 黒雷」



 私がそう呟きながら星穿ちを鞘に収める間に真っ二つにされた悪魔の上半身が下半身からずり落ち、両方が地面に落ちると同時に黒い雷に焼き焦がされて最後には真っ黒い魔石のみが残る。



「あぁ、そこのアンちゃんの後ろに回ろうとしている貴女。それ以上アンちゃんに近づくと首を飛ばすわよ」

「へぇ、なかなかやりそうね」



 自分の首に刃を突きつけられている事に気がついた女性型の悪魔が私から一度距離をとり、玉座のある方へと戻って行く。

 お仲間がやられたばかりだというのに動揺も無いなんて、やっぱり悪魔を相手にするのは気持ち悪くて仕方ないわね。



「アンちゃん。何か分かった事はあるかしら?」

「そうだね。マイ様が物凄く強いって事と、もしかするとあの悪魔達は本命じゃないかもしれないって事かな」

「と言うと?」

「先生の話だと悪魔は人型に近ければ近い方が強いらしいけれど、あの悪魔達は変身して人型になっているだけかもしれないんだよね」

「私が今まで相手にして来たソロモンの72柱の悪魔は全部変身するタイプだったわよ?」

「う〜ん。それならあの赤い髪の悪魔が一番偉そうだし、とりあえず倒してみれば良いんじゃないかな?」

「ふふ。アンちゃんはゴーサインを出してくれるからやりやすいわね」

「フーマ様やトウカさんにマイ様は無茶苦茶だけど失敗はしないから、好きにやらせておけば良いって言われてるからね」

「流石はアンちゃん! それじゃあ目の前の敵を好きにやっておくとするわ!!」

「あはは。どうせ退きたいって言っても聞いてもらえないし、私は諦めて大人しく情報収集でもしておくよ」



 なんだかアンちゃんの目から覇気が消えてしまっているけれど、身体から余計な力が抜けて目の前の事に集中できているみたいだし、私がアンちゃんをしっかりと守り通せば問題なさそうね。


 それよりもソロモンの72柱の悪魔全員がこの程度の実力ならあと15分ほどで完全にこの離宮の制圧は終わりそうな気もするのだけれど、今回の作戦はこんなに簡単に終わってしまって良いのかしら。

 ここまで順調だと、逆に不安になってしまうわね。




 ◇◆◇




 風舞




 正直俺は今回の作戦を舐めていた。

 何故なら俺はこれまでにソロモンの72柱の悪魔との戦闘を乗り越えた実績があるし、今の俺はハルガでの一件の時よりも確実に強くなっている。

 それに今回はラングレシア王国の最強の兵士達も一緒に戦ってくれるのだ。


 これで負ける方が難しい。

 そう思うのも当然のことである。

 だが、今の状況はどうだ。



「風舞くん! このままじゃ全滅するわよ!」

「フーマ様! 更に新手です!」

「タカネフウマ。すまないがお前だけが頼りだ」



 俺と共にどうにか正気を保っている面々がどうにかこの場を抑えてくれているが、この戦線が破られるのも既に時間の問題だ。


 確かに俺は今回の作戦を舐めていた。

 しかし、一体誰がこの状況を予見出来ただろうか。


 敵は悪魔が30体にラングレシア王国の最強の兵士が100余名。

 さぁ、どうすれば俺はこの絶望的な状況を打開できる?


次回、5日予定です

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