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45話 出撃

 


 風舞



 悪魔の晩餐会に関して俺が掴んでいる情報は主に3つ。

 場所と時間と主催者が悪魔であるという3つだけだ。



「その情報すらも俺達が倒した悪魔から入手した一枚の紙切れが元だっていうのに、まさかこれほどの面子が集まるとはな」

「その紙切れからお姫様が調査を始めて悪魔の晩餐会に確証性を得たからこの作戦があるのだし、何も謙遜する事はないわよ」

「それもそうか。あそこで部下に指示を出してる王国最強の騎士も、あっちにいるラングレシア王国最強の国家所属の冒険者も、あっちでブツブツ言ってる王国随一の魔法使いも俺がいなけりゃ活躍できないもんな」

「わお。急に傲慢になったね」

「フーマ様もそれだけ緊張しているという事なのでしょう」



 現在、悪魔の晩餐会の当日。

 城の訓練場に集められた俺達はお姫様の作戦開始の合図を待ちながら、装備の最終確認を行なっていた。


 この後の流れとしては定刻になったらお姫様が合図を出し、それと同時に俺がこの場にいる全員を連れて以前セーフポイントとして設営した急軍事基地へと転移するところまでが第一段階。

 そして第一段階の後はセーフポイントを現地で先に維持している部隊と共に防衛する部隊を一部残し、悪魔の晩餐会の会場までダッシュで移動するところまでが第二段階。

 そしてそのまま内部に突撃し制圧するまでが第三段階となっている。



「そう言えばなんだけど、第二段階のダッシュって俺でも付いて行けるスピードなのかね」

「あぁ、それなら心配要らないわ。ズィーちゃん達が風舞くん達を現地まで運んでくれるそうよ」

「え? ズィーさんも一緒に行くのか?」

「ええ。ほら、そこにズィーちゃんとアインさんとツヴァイさんとヒュンフさんがいるわ」

「いつの間に」



 舞に言われて後ろを振り返ってみると、お馴染みのちっこい短剣使いのズィーさんに、俺と同じぐらいの身長で腰にレイピアを提げたアインさん、さらには背中に弓を背負っていて黒い尻尾のあるツヴァイさんに、身長が2メートルほどあるヒュンフさんがいた。

 ズィーさんとアインさんは黒いゴシックドレスでツヴァイさんはタキシードにヒュンフさんはノースリーブの細身のドレスだが、ところどころに黒い刺繍がされていたりと統一感はかなりある。

 つまり何が言いたいかと言うと……



「ねぇ、シルちゃん。やっぱり私達もフーマ様の従者として制服とか用意しない?」

「うん。良いかも」



 アン達がそんな話を始めるぐらいにエルセーヌの部下達は格好良かった。



「それで俺達を運んでくれるってどういう事なんだ?」

「この前風舞くんを乗せた籠の大きいバージョンをこの4人が担いでくれるのよ。要は神輿スタイルね」

「マジかいな」

「マジよ。ちなみに一番身長の大きいヒュンフさんは後ろ側を一人で持って、ズィーちゃんは籠の上に乗る感じね」

「神輿って確か上に乗っちゃいけないんじゃなかったか?」

「中に入っている風舞くんが嫌なら別のところにしてもらうけれど、対空攻撃が出来るズィーちゃんを上に乗せておいた方が安全だと思うわよ?」

「……。よろしくお願いします」

「…………」



 ズィーさんがコクリと頷いてアインさん達が用意していた特大の籠の上にスチャリと飛び乗る。

 あ、ヒュンフさんよりも目線が高くなったのが少し嬉しそうだな。



「私達3人を運びながらフーマ様でも追いつけ無いスピードで走れるなんて、エルセーヌさんの部下って凄いんだね」

「未だに俺には顔を見せてくれないけどな」

「「「「………」」」」

「4人とも一切話してくれないし」

「え? 今、よろしくお願いしますって言ってたよ?」

「俺には何も聞こえなかったぞ?」

「エルセーヌさんの指示で風舞くんには声を聞かせない様に命じられているそうよ」

「それじゃああれか? 俺だけがこの人達の声を聞けないのか?」

「……………」

「人じゃなくてハーフなんですって」

「……さいですか」



 この前ズィーさんと行動した時もどうして舞だけが会話が出来るのかと思っていたが、声が聞こえるのが舞だけというもは誤りで、声が聞こえ無いのが俺だけというのが正解だったのか。



「皆様。じきに定刻になりますが、準備はよろしいですか?」



 俺だけがハブられていたという事実を知って作戦前からゲンナリしている間にお姫様が訓練場に姿を見せる。

 最近はお姫様の前でもあまり緊張せずに話せていたのだが、今日のお姫様の雰囲気がそうさせるのか、俺達は気づかないうちに背筋を正してお姫様に注目していた。



「此度の作戦は我が国の民を、そしてこの大陸に住む全ての同志を守るためのものです。しかしそこに正義を見出してはいけません。我々はただ我々の隣人を守るために尽くを殲滅し蹂躙します。貴方達は我が国の剣としてその命を使い、守るべきを守りなさい」

「「「「はっ!!!」」」」



 いつの間にか整列を終えていた正規兵達がお姫様に頭を下げ、それによってその後ろにいた俺と壇上のお姫様の目が合う。



「勇者タカネフウマ。準備はよろしいですか?」

「お任せください殿下」

「ええ。期待していますよ。………それでは定刻となりましたので悪魔の晩餐会殲滅作戦を開始します。タカネ様」

「はい。テレポーテーション!!」



 そうして悪魔の晩餐会の当日の早朝、俺達は数百人の兵士達を連れてジェイサット国内へと転移した。



「襲撃なし!」

「予定通り隊列を維持したまま移動を開始する! 道中敵の襲撃があるだろうが、各自の判断で対処せよ!」

「「「はっ!!」」」



 転移直後、クロードさんの指示で兵士達が移動を開始し、ズィーさんに詰め込まれる様に籠の中に移動させられた俺はため息を吐きながら、一気に魔力を消費した事による疲労の回復を始める。

 アンはそんな俺の様子が少しだけ気になったのか、同じ籠の中で俺の顔を覗き込んで心配そうに声をかけてきた。



「大丈夫?」

「ああ。このぐらいは何でもない。それよりも、今日の作戦は長丁場になるから、二人とも気合を入れすぎてここぞって時にバテるなよ」

「はい。承知しました」

「そうだね。気をつけるよ」



 悪魔の晩餐会はその名の通り今日の夜に開催される催しだが、俺達はこうして朝早くから現地に乗り込んでその会場を制圧しようとしている。

 それは悪魔達の意表をつくという目的ももちろんあるが、俺が思うに早朝の襲撃である一番の理由は出来るだけ少ない消耗で悪魔の軍勢を撃破する事だと言える筈だ。



「悪魔の晩餐会を主催する悪魔は仮称ソロモンの72柱である可能性が高い。そして王家の調査によれば、この72柱の悪魔によってジェイサットは堕とされたそうだ」

「つまり今回の作戦の目的はその72体の悪魔を出来るだけ討伐し、ジェイサットの力を弱める事にあるって事だね」

「ああ。いくら悪魔が凶悪とは言えども、ラングレシアの兵と正面切って戦えば全滅は免れないし、個体数はそこまで多くはない。警戒すべきは洗脳やら脅迫をされたジェイサットの魔族だけど、これは支配者さえいなくなれば本来の力をガッツリ失う」



 そもそも悪魔の晩餐会に関する情報だって俺達が掴んだつもりではあっても、悪魔達がラングレシア王国に入手される事を前提に流した情報である可能性はかなり高いし、今回の悪魔の晩餐会は悪魔とラングレシア王国の精鋭同志をぶつけ合おうという悪魔側からの挑戦とも受け取れる。

 それならば悪魔側もそれなりの重鎮を出して来るだろうし、こちらとしては是が非でもその重鎮を魔石に変えておきたいところである。



「フーマ様。我々の現地での動きは昨夜お話しした通りですか?」

「ああ。兵士の皆さんが通った後をウロウロして、助けられそうな魔族を片っ端から助けてスカーレット帝国に転送する」

「確かあわよくばジェイサットの王族を捕まえてスカーレット帝国がジェイサットに踏み入れる大義名分を手に入れちゃおう作戦だっけ?」

「良い作戦だろ?」

「何というか、フーマ様らしいよね」

「ちなみに発案は俺だけど、許可を出したのはフレンダさんだからな」



 現在のスカーレット帝国は皇帝であるローズが揺らいだ事で他の魔族国家から攻め入られる可能性があるが、ジェイサットの王族を取り込む事が出来れば残りの魔族国家に対してプレッシャーをかけるぐらいの事は出来る筈だ。



「敵襲!! 上空より魔法攻撃!!」

「何だか外が騒がしいけど大丈夫かな」

「すぐそこを舞とトウカさんとフレイヤさんが走ってるし、上にはズィーさんが乗ってるから問題ないだろ」



 3人乗りの籠なんかに乗っているせいか、心なしか他の場所よりも攻撃される回数が多い気がするが、上空からの攻撃は魔法で迎撃されているし、そもそも隊列の中央付近にあるこの籠まで辿りつける敵はほとんどいない。



「暇だな」

「えぇ……」



 ラングレシア王国の皆さんの送迎役である俺はこんなところで死ねないために外に顔を出す事など出来る筈も無いしただ籠の中でジッとしている事しか出来ないのだが、暇と言ったらアンにジト目を向けられてしまった。

 いや、だって物凄い暇じゃない?




 ◇◆◇




 舞



 悪魔の晩餐会をつぶすためにラングレシア王国からジェイサット魔王国まで風舞くんの転移魔法で転移してからすぐに移動を開始したのだが、私がいるこの場所は隊列の中央付近だからかまったく敵の姿を見ることができない。



「暇だわ」

「既に敵陣へと踏み込んで絶え間なく攻撃が降り注いでいるのに、マイ様は何をおっしゃっているのですか?」

「だって、遠方からの攻撃はあの最強の魔法使いとかいうお爺さんと愉快な仲間達が全部打ち落としちゃうし、そもそも先頭を突っ走るクロードさん率いる第一師団が強すぎてこっちまで魔物やら魔族やらは全然来ないじゃない」

「今回の作戦は超精鋭による人数有利の戦闘で出来る限り多くの悪魔を討伐する事が目的ですし、作戦が上手く行っているという事ではありませんか」

「そうは言っても暇なものは暇なのよ。こんな事なら私も風舞くんと一緒に籠の中に入っておけば良かったわ」



 そんな事を言いながら風舞くんの乗せられた籠と並走していたためか、上に乗っていたズィーちゃんに声をかけられた。



「マイ様。中…入る?」

「いいえ。どうせ中に入っても暇な事に変わりはないでしょうし、3D映像でも眺めている気分のままボンヤリ走るとするわ」

「分かった。がんばり」

「ズィー。そこは頑張ってくださいだよ」

「ばってください」



 籠の後ろ側を一人で持ち上げている背の高いヒュンフさんに共通語の至難を受けたズィーちゃんだったが、あまり上手く聞き取れなかったのか、おかしな発音になってしまっている。

 ただ、籠の上に立ったまま少し自慢げにピースサインを向ける姿が可愛すぎて、むしろこれはこれで正解な気がしてくるから不思議だ。



「やはり可愛いは正義なのね」

「マイ様。フレイヤを見習ってもう少し静かに走れないのですか?」

「そうは言っても私はドラちゃんみたいに寝ながら走るなんて芸当出来ないもの。マグロみたいに寝ながら動けるドラちゃんの方がどうかしているわ」

「まったく……。フーマ様達はきっとその籠の中で作戦の最終確認をしているでしょうに、どうして我々の主人はこうなのでしょうか」

「どうかしら。風舞くんだってなんだかんだ言いつつも、その籠の中で暇だとか言ってアンちゃんあたりに呆れられているかもしれないわよ?」

「………そんなはずはありません」

「少しありそうな気がしているあたり、流石はちょいちょい風舞くんに夜這いをかけるだけの事はあるわね」

「そ、それとこれとは関係ありません」

「何はともあれ私達の戦場はもう少し先なわけだし、今はのんびり雑談でもしながらリラックスして走りましょう。そして主戦場ではなんとしてもMVPに輝いて風舞くんに目一杯褒めてもらうのよ!」

「………仕方ありませんね。この場は主人の言葉を聞いておくとしましょう」



 数秒前まで真剣な顔でキョロキョロと周囲を見回しながら走っていたトウカさんが、風舞くんのご褒美に気を取られ始めたのか注意力が散漫になり始める。

 今から厳重警戒しておいても疲れるだけだし、最低限自分の周囲の状況さえ分かっておけば今は問題ないはずだ。

 気をつけるべきは先ほどから隊列に紛れ込んでいる暗殺者紛いの魔物達だけれど……



「ツヴァイ。3時の方向」

「了解」



 風舞くんの乗っている籠の前方を受け持つ二人が対処しているし、あれは放っておいても問題なさそうね。

 さてさて、そろそろ歯応えのある敵でも現れないかしらね。

次回、1日頃予定です

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