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4話 作戦会議

 風舞




 ボタンさんが協力を約束してくれて話しがひと段落ついたところで、彼女がシルビアさんの様子を見て口を開いた。 



「さて、先ずはその獣人はんを治してあげんとなぁ」

「なに? お主呪術が使えるのか?」

「そうやね。少しやけど使えるんよ」

「ふふふ。中々やるではないか」

「いやいや、ミレンはん程やありまへん」

「ふふふ」

「あらあらあら」



 そうしてボタンさんとローズは互いを褒めあいながら笑いだしてしまった。

 何やってんだよこいつら。

 それに、お互い褒められて満更でもないし。

 二人ともアカリに凄い友人がいるって言われてたから軽く尊敬してたのか?

 それにしてもボタンさんも呪術使えんじゃん。

 悪魔の叡智の奴らは全然把握できてないな。



「あの、シルビアさんの体内には呪術以外にも毒素が溜まってしまっているそうなんですけど、そちらはどうですか?」

「もちろんそっちも治そうと思ってるんやけど、ただなぁ」

「あら、問題でもあるのかしら?」



 言葉を詰まらせたボタンさんに舞が質問をぶつけた。

 悪魔の祝福は一部ステータスの一時的な上昇と全能感を得ることを可能とする代わりに、呪術によって体を苛まれ毒素を蓄積する上に、強い依存性のある麻薬だ。

 シルビアさんの不調の原因は傷を負った事による疲弊もあるが、この麻薬によるところが大分大きい。



「そうなんよ。うちにはこの獣人はんにかかってる呪術と毒素は全て取り除ける。ただ、流石に精神的な依存までは取り除けないんよ。クスリを使ってた時に感じていた快楽や全能感は記憶と共に残るからなぁ」



 なるほどな。

 さすがのボタンさんも記憶の中に刻まれてしまった麻薬の快楽による依存性までは取り除けないようだ。

 麻薬の治療の一番難しいところはそこにあるとどこかで聞いた気がする。

 しかし…。



「シルビアさんなら大丈夫なはずです。その人は友達の為に自分の身を削ってまでダンジョンに挑む強さがある。もう二度と悪魔の祝福は使わないだろうと俺が保証します」



 あんなにもシルビアさんは気高く誇り高くて真面目な人なのだ。

 麻薬の依存性なんぞに負けはしないだろう。



「そうフーマはんが言うなら問題なさそうやね。よし、ぱっと治してご飯にしようなぁ。みんなお腹空いてはるやろ?」



 そこまでボタンさんが言ったところで俺の腹がぐーっと鳴った。

 昼から食べてなかったしもう随分と腹ペコなのを我慢していたが限界だったようだ。



「あらあらあら、フーマはん。お腹で返事するなんて器用やねぇ」

「フーマは食いしん坊じゃからな」

「そうね。フーマくんの良いところよ」

「そ、そうですね。私も良いと思いますよ」



 俺は顔が熱くなるのを感じた。

 後の二人はからかってるのかフォローしてくれてるのかわかんないし。



「うるせぇやい。さっさと治して飯を作ってくれ!」

「あらあらあら。怖いお客はんやなぁ」




 ◇◆◇




 風舞




 シルビアさんの治療が終わった後、俺達はボタンさんが作ってくれた夕飯を食べながらたわいない話しをしていた。

 シルビアさんは未だ目を覚まさないが、心なしか顔色が良くなったように感じる。

 今はボタンさんが持ってきてくれた毛布をかけて横の座席で寝ているが、安静にしていれば直に目を覚ますだろう。



「しかし、いつの間にボタンとフーマは仲良くなったんじゃ?」

「あん? 別にそんなこと無いだろ?」

「そうね。私もそれは気になっていたわ。何か心が通じ合っているみたいな感じだったし」

「そうですよね! 私もボタンさんがフーマさんと握手をしたら事情が全部わかったみたいだったから、凄い驚いたんですよ!」

「ああ。それはだな…」


 俺がそこまで言ったところで座席の横に立っていたボタンさんが俺に抱き着いてきて、胸で俺の顔を覆い隠して口を塞いだ。



「それはやね、うちとフーマはんが今日の朝フーマはんが財布を取りに来た時に意気投合したからなんよ。うちとフーマはんはマブダチになったって訳やね」

「ちょっと、何言ってるん、ムガゴゴ」



 俺が何とか豊満な胸を押しのけて否定しようとしたが、また顔を胸に押し付けられて口を塞がれてしまった。



「フーマくん!? 何をボタンさんと遊んでるのかしら!?」



 横に座っていた舞の怒る声が聞こえる。

 やばいやばい。

 このままじゃようやく右腕を解放されたのにまた舞に腕を絞められかねない。

 そう考えた俺がジタバタともがいているとボタンさんが俺の耳元でボソッと囁いた。



「余計なことは喋らん方が身のためやと思うんやけど」



 俺は無言で首を縦に何度も振った。



「フーマくん! どうしてボタンさんの胸にほおずりしてるのかしら?」



 ああ、後ろから舞の殺気が飛んできてるしもうだめだな、と思っていたところで俺はようやく解放された。



「ふぅ。助かった」

「フーマくん。後でお話があります」

「まったく何をやっとるんじゃ」



 ローズが呆れた顔で俺を見て、舞がお説教モードになっている。

 え? 俺が悪いのか?

 そう世界の理不尽さに嘆いているとミレイユさんがボタンさんを見ながらボソッと呟いた。



「あんまりフーマさんをイジメちゃ駄目ですよボタンさん」



 どうやら兎獣人のミレイユさんにはボタンさんが言っていたことが聞こえていたらしい。

 一方のボタンさんはというと、いつもの色気のある笑顔で俺達のほうを楽し気に眺めている。

 やっぱりこの人は女狐と呼んでも差し支えないだろうな。

 そう思った。




 ◇◆◇




 風舞




「さて、今後の方針だがどうしたもんか」



 舞の追求からなんとか逃れようと思った俺は、この前の貸し1に今回心配させた罰も含めて貸し10を追加することで手打ちにしてもらった。

 当分は舞の言いなりになりそうな気がする。



「そうね。まずは貴族の問題を片づけた後で急いでアンさんを保護ってところかしら」

「その貴族を抑えるのに何日くらいかかりそうなんじゃ?」

「そうやなぁ。どんなに急いだとしてもソレイドでポートル家が悪さしている証拠を掴むのに1日、公爵はんに会いに行くのに3日ってところやなぁ」



 お偉いさんに会いに行くのに3日もかかるのか、とは思ったが国のトップに会いに行くのなら3日で会えるのは異常な早さかもしれない。

 ボタンさんがいかに権力者との繋がりが強いのかを感じられた。



「なるほど。それじゃあアンさんの救出作戦は今日から4日後って事になりますかね?」

「いや。今のところアンの安全はエサにする為にある程度保障されておるが、それもいつまで続くか分からん。ボタンが話をつけ終わるタイミングでアンを救出するのがいいじゃろうな」

「それもそうか。でも、俺とボタンさんが公国に行ってるとこっちに残る人数は少なくなるが大丈夫なのか?」

「妾もそろそろ活躍せんと面目が立たんからの。呪術に甘えておる小僧なんぞ相手にもならんわい。それに、フーマは姿が見えなくても怪我の治療中という事で誤魔化せるが、妾達が街中で姿を何日も見せんかったら怪しまれてしまうじゃろう」

「それじゃあ、私達はソレイドに残ってないとダメね。私もレイズニウム公国に行ってみたかったのだけれど、断腸の思いで留守番してるわ」

「今回は仕方ないですよ。事情が事情ですしね。私達には私達にできる事をしましょう!」

「そうね。フーマくんが留守にしている間、私も頑張るわ!」

「みんながそう言うなら大丈夫か。けれど、くれぐれも怪我はしないでくれよ?」

「もちろんじゃ。この妾がついておるんじゃから問題ないわ!」



 こうして俺達の方針が決まった。

 俺とボタンさんはボタンさんがポートル家の暗躍の証拠を掴んだ明後日に、レイズニウム公国まで転移魔法で行って公爵にポートル家を抑えてもらう。

 舞とローズ、ミレイユさんは俺達が帰って来る前日まではいつも通りの日々を過ごし、俺達が帰って来る前にはアンさんを確保しておくこととなった。



「うち達が公爵直筆の公文書を持って帰ってくれば、相手の貴族は抑えられるとは思うんやけれど、悪魔の叡智がそれで動きを止めるとは限らへんし、みんなは逃げなくちゃならなくなる事も覚悟しておいてなぁ」

「わかったわ」

「私も皆さんと一緒なら冒険者ギルドのお仕事ができなくなっても構いません!」

「あら、ミレイユさんは優しいわね!」



 舞が例のごとくミレイユさんをモフり始める。



「なに。妾が動くんじゃ。そんな半端な事にはせんよ」

「流石ミレンだな」

「うむ。なんせ妾はま…お主らの仲間じゃからな!」



 今「魔王じゃからな!」って言いそうになって咄嗟にごまかしたんだな。

 ボタンさんもそれに気づいたのか口角を上げてるし。

 それはともかく、ローズもこう言ってるし俺も自分にできる事をしっかりとやろう。

 まあ、俺がする事は1日引きこもってからボタンさんを転移魔法で送る事だけなんだけどな。


3月12日分 2話目です。

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