28話 従者交換
風舞
「というわけで、風舞くんの可愛い従者達は私がいただいて行くわ!」
舞やエルセーヌと一緒に眠った次の日、二人に挟まれて目を覚まし、朝食を食べてそろそろ眠気も抜けてきたという頃合いに舞がそんな事を言い出した。
舞が言うには、俺はアンやシルビアとの連携が得意で、舞はトウカさんやフレイヤさんとの連携が得意だが、果たしてそれをシャッフルしても上手く立ち回れるのかという事を確認しておいた方が良いという事らしい。
「それじゃあ、今日は俺と舞で別行動をするって事か?」
「ええ。私はアンちゃんやシルビアちゃんと連合諸国の悪魔に関する調査を、風舞くんはトウカさんやドラちゃんと魔封結晶探しに行くという分担にしましょう」
「まぁ、俺は良いけど」
「私は良いと思うよ。マイ様に色々教えてもらって来るね!」
「私も構いませんよ」
「それじゃあ双方の従者の了意もとれた事だし、早速行きましょう!」
「え? あれ!?」
「それでは行って参ります」
「ああ。大丈夫だと思うけど、気をつけてな」
「ええ! 任せてちょうだい! それじゃあ行って来るわ!!」
そう言い残しながらアンを小脇に抱えた舞と、いつの間にかに外出の支度をしっかりと整えていたシルビアが物凄い速さで離宮を出て行く。
結局最後までアンは頭に疑問符を浮かべていたが、賢い子だしそのうち舞のペースにも慣れることだろう。
「さて、それじゃあ俺達もぼちぼち出かけますか」
「ふふ。こうしてフーマ様と共にお出かけするのも久しぶりですね」
「そ、そうですね……」
なんとなく、トウカさんの大人美人な顔で詰め寄られると妙に気恥ずかしくなってしまう俺がいる。
トウカさんはそんな俺の様子を見てもからかう事なく柔和な笑みを浮かべているが、それはそれで返って恥ずかしさが増す気がした。
「フーマ」
「あ、はい。なんでしょう?」
「今日はどこに行く?」
「とりあえず冒険者ギルドに行って何か依頼が無いか聞こうと思ってるんですけど…」
「それなら、今日の場所は私が指示する」
「別に構いませんけど、何か当てでもあるんですか?」
「ある」
フレイヤさんは以前も魔封結晶の影響を受けていたし、魔物特有の感覚器官で魔封結晶の位置をある程度特定出来たとしてもおかしくはない。
相変わらず無表情のままだが、自信があるみたいだしついて行ってみるか。
「それじゃあ、今日はフレイヤさんの指示する場所に行くことにしましょう。移動は転移魔法で良いですか?」
「良い。とりあえず、ソレイドの方」
「分かりました。それじゃあ、行きましょうか」
「フーマ様。転移先は上空ですか?」
「出来るだけ転移事故の確率を減らしたいので、そのつもりです。怖い様なら、俺の腕を掴んでいても良いですよ?」
「それではそうさせていただきます」
自分から言っておいてあれなのだが、トウカさんにこうも密着されると緊張してしまう。
これは早く転移して移動に集中するべきだな。
「それじゃあ行きますよ。テレポーテーション」
そんなこんなで、俺と舞の主従シャッフルデーはスタートしたのであった。
◇◆◇
舞
アンちゃんを小脇に抱えてシルビアちゃんと街を駆け抜けた私は、難民街のとあるホテルに足を運んでいた。
「お疲れ様。どこか痛いところとかはないかしら?」
「うん。私は大丈夫だけれど、どうしてここに?」
「アンちゃんとシルビアちゃんは少し前に連合諸国からの使者に圧力をかけて、悪魔の策略が王都を侵食するのを食い止めていたでしょう? お姫様が政務に戻った事で連合諸国の問題は一先ず解決したけれど、お姫様を説得出来ていない使者はまだこの王都に滞在しているのよ」
「まさか…」
「そう。その滞在先というのがこのホテルよ。ちなみにここのオーナーは私だから、滞在している顧客の動きはある程度把握していたりもするわ」
「こんなに大きなホテルを所有しているのも凄いけど、連合諸国の人達に宿泊してもらうのは大変だったんじゃない?」
「この難民街は脛に傷のある人も多いから、王宮に反抗したい人にとっては馴染みやすいみたいよ。まぁ、ある程度の根回しというか情報操作はしたけれど、最終的にはここを選んでくれたのは彼らの判断という事ね。さぁ、とりあえずその連合諸国の連中にお話を聞きに行きましょうか」
「うん。なんだか今日のマイ様はキリッとしていて格好良いね」
「ふふ。あまり砕けた表情では舐められてしまうもの、ある程度の顔芸を心得ているだけよ」
そんな話をしつつ、従業員に指示を送って最上階の人払いを済ませた私は、ゆっくりと階段を登ってスイートルームで私のポケットマネーを増やし続けてくれている連合諸国の使者の元へ向かう。
普通のお客様だったら寛いでいるところにいきなり押し入ったりはしないのだけれど、私の縄張りにちょっかいを出して来るのならそれなりの対処はしないとよね。
「連合諸国使者諸君。少し失礼するわね」
「なっ、なんだね君は!」
「ここのホテルのオーナーよ。あぁ……貴女達は少し席を外してちょうだい」
まったく、私も繁華街の経営に一枚噛んでいるからとやかく言うつもりはないけれど、こんな昼間から女の子を連れ込んで遊ぶなんて何を考えているのかしら。
仮にも政務で来ているのだから、政治家としての自覚は持ってもらいたいわね。
「さて、今日ここに来たのは他でもないわ。王宮を退廃主義の人族の敵と揶揄する暇があるのなら、今すぐに故郷に戻って人族の敵を駆除しに行きなさい」
「何を訳の分からない事を言っている! 小娘如きが我々の使命に口を出すな!」
「昼間から酒精と煙と女に興じる使命とは随分と楽しそうね。とは言え、価値観をズラされた今の貴方達にはそれが高尚なものに感じるのかしら」
「何を訳の分からない事を!」
「あぁ、良いのよ。今日ここに来たのは貴方達と議論するためじゃないもの。これは私、土御門舞からの挑戦状よ。今日より3日以内にラングレシア王国に対する抗議を終了しない場合、貴方達の故郷に経済的な制裁を開始するわ。連合諸国の中には冬季の農工作に向かない土地もあったはずだけれど、冬を越せるだけの蓄えはあるのかしらね」
「………戯言だ」
「判断はどうぞご自由に。私は一応勇者という名目に従って人道的に動いているけれど、貴方達があくまで戦い続けるというのなら武神として正面から相手をしてあげるわ。それでは、良い休日を」
私はそう言い残し、すっかり口を噤んでしまった彼らを一瞥してから部屋を出る。
やれやれ。下着姿の中年男性ほど、見るに耐えないものはないわね。
「マイ様、この後はどうなさるのですか?」
「ここ数日彼らを監視していて分かったのだけれど、彼らは本国と連絡をとっていないのよ」
「ん? それって、あのおじさん達は自己判断で動いているって事?」
「いいえ。彼らは本国と連絡をとっていると思っているわ。ただ、その報告書が連合諸国にまで届いていないというだけの話よ」
「なるほどね。次はその連合諸国のフリをしてあのおじさん達を操っている人を叩きに行くのか」
「ええ。もうすぐジェイサット侵攻に向けて本格的に動き始めるし、今のうちに内部の不穏分子は少しでも削っておくとしましょう」
「うん! それなら私も力になれそうだから任せてよ!」
「私も微力ながらお手伝いいたします」
「ふふ。頼りにしているわね!」
あぁ、アンちゃんとシルビアちゃんの尊敬する視線が凄く心地良いわ。
トウカさんやドラちゃんも私を信頼してくれているけれども、こういう視線は向けてくれないし、なんだか新鮮味も増してグッとくるものがあるわね。
「さぁ、どんどん行くわよ!!」
あぁ、たまには従者を交換するのも悪くないわね!
◇◆◇
風舞
フレイヤさんの案内で何度か転移を繰り返す事数回、俺達がやって来たのはスカーレット帝国国境ギリギリの森の中だった。
スカーレット帝国の西側は北端から南端まで魔の樹海に面しているのだが、俺達の現在地は魔の樹海の北端である。
つまり何が言いたいかと言うと……
「ものすっごい寒い」
「エルフの里よりもかなり北部の土地ですし、確かにこの寒さは相当ですね」
「そう?」
俺とトウカさんは冬もかくやという寒さに身を震わせているのだが、ドライアドであるフレイヤさんにはこの寒さは大した事が無いらしい。
相変わらず横乳全開の薄着なのに、どうしてそれなりに着込んでいる俺達よりも平気な顔をしているのだろうか。
魔物の生態は未だ謎ばかりである。
「俺のサイズなんで合うか分かりませんけど、コートがあるんで良ければどうぞ」
「ありがとうございます。流石は準備がよろしいですね」
「アンとシルビアが先を見越して色々と買い揃えて来てくれるおかげです。あ、手袋もあったんでどうぞ」
「ふふ。お気遣い感謝いたします」
他にパッと思いついた防寒グッズに厚手のタイツもあるが、これは何故か俺のウエストにぴったりのスカートをアンが買って来た時に一緒に袋に入っていたものだから、アイテムボックスから出しておくのはやめておこう。
俺はトウカさんに特殊性癖だと思われるのは避けたいのだ。
「まだ?」
「お待たせしました。もう行けますよ」
「それなら付いて来て。あまり遠くない」
俺の感知できる範囲内には魔物の気配らしいものは特に引っかからないのだが、フレイヤさんは森の中を迷いなく進んで行く。
「集中して行くか」
なんて呟きながらも、特に何のアクシデントもなく歩き続けてしばらく。
無言で歩き続けるのも暇になったのか、トウカさんが俺に声をかけてきた。
「そういえば以前、王都で様々な茶葉を売るお店を見つけたので、よろしければご一緒にいかがですか?」
「確かに冬に向けていくつか買いに行くのも良いかもですね」
「それでは早速明後日に行ってみるのはどうでしょう? マイ様はアスカ様達と訓練をすると仰っていましたし、私は特に予定が無いのですが…」
「明後日なら俺も特に予定はないので構いませんよ」
「それでは明後日に二人でお出かけするとしましょう」
「はい。…………はい?」
「いかがなさいましたか?」
あれ?
いつの間にか明後日にトウカさんとデートに行く事が決まっている。
トウカさんのオススメのお店に二人で行くって事はデートなんだよな?
「心配せずとも、以前貸しにしていただいた件はこれで埋め合わせますよ?」
「いや、それを悩んでいた訳じゃないんですけど…」
トウカさんには海を見せるという約束を反故にしてしまった貸しがあったが、今悩んでいたのはそれではない。
確かにそれも早めに解決しなければならないと思っていたのだが、それではないのだ。
「それでは一体何が気になるのですか?」
「えぇっと、これってデートのお誘いですか?」
「はい。私が何度もアピールしているのに、中々フーマ様が応えてくださらないので、そろそろ自分で動かねば大きく出遅れると思いまして」
「……アピールしてたんですか?」
「はぁ。そういう事だろうと思いました。フーマ様はマイ様やエルセーヌ様の様な過激な女性ばかりを相手にしすぎて、普通のアピールには気付かなくなってしまったのですね」
「い、いくらなんでもそれは無いと思いますよ。トウカさん相手にドキドキする事も何回かありましたし」
「そ、そうですか。ドキドキしていただけていたのですか……」
あれ? ついさっきまで少しだけ頬を膨らませていたトウカさんが、頬を緩めて微妙に笑みを浮かべている。
「……コホン。それはさておき」
「あ、はい」
「トウカ。照れ隠し」
「………フーマ様、少し手が冷えるのでよろしければ暖めてくださいませんか?」
「それ以外に手袋は無いんですけど…」
「もう、ワザとやっていますよね?」
「…………はぁ。…分かりましたよ。トウカさん、手を繋ぎましょう」
「ふふ。ありがとうございます」
トウカさんが俺の差し出した手をとってグッと肩を寄せ、俺の横で小さく笑みを浮かべて姿勢を正す。
少しばかり子供っぽい仕草ではあるが、トウカさんはいつだって清楚で大人な女性なのだ。
「明後日、楽しみですね」
「ええ。とても」
俺はそう言って優しく微笑みを浮かべるトウカさんから思わず目を逸らし、熱くなった頬を隠す様にコートの襟に顔を埋めるのであった。
次回、24日予定です




