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24話 呼び出し

 


 風舞



 アンの感知したマッドアリゲーターの親玉を討伐するために従者組と合流した俺と舞は、そのまま皆を連れて湿地の上流に位置する滝へとやって来た。

 そこは丈の高い木々に囲まれており外からは滝を覗く事は出来ないのだが、上空から見下ろすのであれば特に問題もなく敵の姿をとらえる事が出来た。



「あの個体が魔封結晶で強化されたやつで間違いなさそうだな」

「ええ。他のマッドアリゲーターよりも二回りは大きいし、おそらくあれが今回のターゲットね」

「フーマ様。討伐の方法はどうなさいますか?」

「とりあえず上空に転移させて、落下死を狙うんで良いんじゃないか? 流石にワニは飛ばないだろ」

「ふ、フーマ様……」「マイ様……」

「ん? どうした?」「どうしたのかしら?」



 それぞれ俺と舞にしがみついていたアンとトウカさんが、少し震えた声でそれぞれに声をかける。

 声だけでなく体まで震えているみたいだが、あの魔物がそんなに恐ろしいのだろうか。



「作戦会議は地上に戻ってからじゃダメかな?」

「別に良いけど、観察しながら話した方が楽じゃないか?」

「それはそうかもだけど、これだけ見ておけば十分だよ」

「そうですね。私もこの状況をしっかりと目に焼き付けましたので、早く地上に戻りましょう」

「そうは言うけれど、トウカさんはずっと目を瞑ってるじゃない」

「そんな事はありませんよ。目が乾燥しないように目蓋を閉じているだけです」

「……それじゃあ、とりあえず下に降りますか」

「そうね。そういえばトウカさんとアンちゃんは高いところが苦手だったのを忘れていたわ」

「べ、別に苦手っていうわけじゃないけど、私はあんな上空から落とされたら死んじゃうからね! 警戒するのは当然だよね!」

「ええ、そうですね。危機管理能力があるのは素晴らしい事だと思います!」

「……もう地上だから、俺にひっついてなくても大丈夫だぞ」

「え? あれ?」



 目を閉じて四肢の全てを使って俺に抱きついていたアンが、ゆっくりと目を開いて周囲を見回す。

 一方の舞の方に抱きついていたトウカさんはというと、少しだけ頬を染めながら乱れた髪をそそくさと直していた。



「えぇっと……それじゃあ普段は理性的な二人の可愛い一面が見れたところで作戦会議を始めたいと思います」

「「はい……」」



 アンとトウカさんにとっては少しだけ大変なそんな一幕がありもしたものの、マッドアリゲーターの討伐に関しては高度300メートルから墜落させたら即死したため、特に作戦らしい作戦を立てる事もなくすんなりと終わった。

 フレイヤさんが魔封結晶の力に充てられて少しだけ目つきがおかしくもなったりもしたが、概ね大きな問題は無かったと言えるだろう。


 そうしてローズの力が封じられた魔封結晶を無事に回収した俺たちが王都の離宮へと戻って来ると、俺宛ての荷物が明日香によって運ばれてきた。



「最近の勇者は宅配業者もやんのか?」

「アンタ宛てだから機密上の処理で仕方なくウチが持って来てやってだけだし。ちょーしに乗んな」

「……すみません」



 今日も今日とて忙しいギャル様は俺が謝ったのを聞くと同時に用は済んだとばかりに離宮から去って行く。

 謝肉祭も終わったというのに、相変わらずあちこちを奔走している様だ。



「それで、その小包はいったい何なのかしら」

「それじゃあとりあえず開けてみるか」

「爆弾とかだったりしないわよね?」

「………助けてエルセーヌ!」



 なんとなく爆弾処理も出来そうなエルセーヌを呼び出してみる。

 近頃はスカーレット帝国の方にも顔を出しているみたいだし、王都にいるとは限らないが果たして……



「オーホッホッホッホッ! お呼びですか、ご主人様?」

「ああ、ちょうど王都にいたのか」

「オホホホ。ご主人様がお呼びとあらば例え世界の果てにいたとしてもすぐに馳せ参じますわ」

「ねぇ、風舞くん。試しにエルセーヌをソレイドにでも転移させて今のセリフが本当か試してみましょう」

「そうやって意地悪しちゃめっだぞ」

「オホホホ。ご主人様が私を庇ってくださいましたわ」

「むぅ……それよりエルセーヌ。これが爆弾かどうか確認してくれないかしら」

「オホホ。話は聞いていましたわ」



 エルセーヌはそう言うと無造作に小包を手に取って、これまた無造作に包みを解き始める。



「おい。そんなに適当で良いのか?」

「オホホホ。私、これでもプロですので」

「どう見ても適当に開けている様にしか見えないわね」

「オホホ。流石はマイ様ですわね。適当に開けたら中から板が出てきましたわ」

「おい………って、俺のスマホだ」



 アイテムボックスに入れておいたはずだが、いつの間にか落としたりしたのだろうか。

 いや、違うか。



「………エルセーヌ。他には何か入ってるか?」

「オホホホ。お手紙が一つ」

「………」

「風舞くん?」

「ベルベットからだ」

「どういう事かしら?」

「この前、ベルベットの世界から抜け出す時にアイテムボックスの中をほとんど出し切ったって話しただろ? 多分、その中にこれが入ってたんだ」

「なるほどね………とりあえず、手紙を読んでみましょうか」

「ああ……」



 そうして俺は舞の開いた手紙を固唾を飲んで覗き込む。

 なんとなく読んではいけない様な嫌な予感がしたが、何も分からない現状への恐怖を払拭するにはそうするより他になかった。



 拝啓 勇者様


 未だ残暑の残る陽気の中いかがお過ごしでしょうか。

 謝肉祭の時分には大変素晴らしい活躍をなさった様で、私の耳にもその噂は聞き及んでいます。


 さて、今回筆を取らせていただいたのは、先の晩餐会に関して事前に一度席を設けたいと考えているためです。

 勇者様にとって縁の深いとある海賊船にてお待ちしておりますので、私が飢えに耐えられなくなる前にどうぞ起こしください。




「……以上よ」

「ボブ達を人質にとったって事か。その後のハルガがどうなっているか知ってるか?」

「オホホ。王都から派遣された文官によって一先ずの体制は維持されていますの。交易に関しても未だ復旧は始まったばかりですが、これといった問題は特にありませんわ」

「そうか………」

「十中八九罠だけれど、とりあえず黒髭海賊団の船に向かうメンバーを決めましょうか」

「招待された俺は行くとして、舞とエルセーヌと後は…」

「私も行きます」



 アンやシルビアと一緒に冒険者ギルドへ行っていたはずのトウカさんが、離宮の玄関を開けながらそう言う。

 どうやら事情は把握しているみたいだが……。



「舞に任せよう」

「……私の出した課題はもうクリア出来るのかしら?」

「はい。既に奥の手は用意しました。未だ未完成ではありますが、勇者様の才能に負けない私だけの武器を用意したつもりです」

「……風舞くん。トウカさんも連れて行ってもらっても良いかしら? きっと彼女なら…」

「ああ。もちろん一緒に来てもらおう。トウカさんには何回も助けられてるし、ものすごく頼りになる」

「ふふ。お任せくださいませフーマ様。長年エルフの巫を務めた事が伊達ではないことをお見せしましょう」

「むぅ。せっかくトウカさんがどのぐらい頼りになるか力説しようとしてたのに」

「舞の従者なら頼りになるに決まってるだろ? さぁ、行くならさっさと行こう。ボブ達が心配だ」

「オホホ。アン様とシルビア様へのメッセージも用意できましたわ」

「よし。それじゃあ行くぞ。テレポーテーション!」




 ◇◆◇




 風舞




 ハルガ近郊の海上に転移して黒髭海賊団の船を見つけるまでにそう時間はかからなかった。

 というより、一瞬で捕捉された。



「オホホホ。させませんわ!!」



 エルセーヌが眼下に結界魔法を展開させて船上からの魔法を防ぎ、その間にトウカさんが迎撃用の水魔法の矢を無数に現出させる。



「さぁ、行きましょうか」

「ああ。そうだな」



 敵の初撃を防ぎ、臨戦体制を整えた俺たちはそのまま海賊船の上へと降り立ち、甲板にて船室から持って来たのだろう椅子に腰掛けるベルベットと腕落としの前に立った。



「ウフフ。流石は転移魔法の使い手ね。お早い到着だわ」

「腹が減って大変なんだろ? とりあえず、串焼きでも食べながらゆっくり話そうぜ」



 俺はソースの塗りたくられた串焼きとテーブルを置き、俺と舞の椅子も用意してベルベットと腕落としの対面に座る。

 エルセーヌとトウカさんはそれぞれ俺と舞の後ろに控え、完全に巻き込まれ損のボブ達は船室からこちらを恐る恐る覗いていた。



「そうそう。そういえば無事に快復したみたいでおめでとう。いやぁ、やっぱり男の子としては動けないっていうのは不便だったでしょう?」

「皆がチヤホヤしてくれたからあんまりだな」

「へぇ、それは羨ましい限りだ。おじさんはベルベットちゃんにこき使われてばかりだから、本当に羨ましいよ」



 相変わらず軽薄な態度で飄々とした男だが、これでいてエルセーヌと同格の力を持つのだから油断はできない。

 それにベルベットの方は全くもって底の見えない強さだし、会話の中でも決して隙を晒す事は出来ないのだ。



「それより、風舞くんにあんな手紙を送ったのは貴女ね?」

「ウフフ。その通りよ。貴女達も悪魔の晩餐会に一枚噛むつもりなのでしょう?」

「ええ。貴女もろとも全ての悪魔を根絶やすつもりでいるわ」

「生憎だけれど、その晩餐会は72柱の座を冠する悪魔が集まる会合だから、全ての悪魔を根絶やす事は出来ないでしょうね」

「72柱……俺達がこれまで倒したモラクスとレライエの残りが集まるのか」

「ウフフフ。おそらく空いた席には他の悪魔が座っているでしょうから、残りは72柱と考えるべきよ。叩くならそんなお遊びにかまけている大元を叩くべきね」

「そんな事まで教えてくれるなんて、随分と気前が良いのね」

「悪魔が多すぎる現状が私にとっては気にくわないから、一勢力でも削ってくれると助かるというだけよ。ちなみに、貴方と因縁のある元鬼の男……何と言ったかしら?」

「レイザードだよ。そろそろ覚えなよ」

「ウフフ。悪魔に成り果てた肉は美味しくないもの、興味がないわ」

「はぁ…。その72柱の悪魔は君と因縁の深いレイザードとも関わりがあるから、是非とも頑張っておくれ」

「頑張れって、お前達は今回の晩餐会には手出ししないのか?」

「ウフフ。これだけ注目を集めているイベントで下手に動いたら周りに目をつけられるもの。今回は一先ず見送りかしらね」



 ベルベット達の言うことを全て信用する事は出来ないが、悪魔の晩餐会の主催者が72柱の悪魔だと分かったのはそれなりに大きい収穫な気がする。

 出来れば他の悪魔の勢力に関しても聞いておきたいのだが…



「さて、用は済んだし私はこれで帰るわ」

「そういえば、今日は君の獣人の方の従者はどうしたんだい?」

「何?」

「いやね、おじさんの知り合いも今頃王都にいるんだろうけど、隙を見てちょっかいを…」

「斬波!!」



 腕落としが話をし終わる前に、アンやシルビアに危険が迫っていることを悟った舞が一気に攻勢に出る。

 だが、腕落としは舞のそんな攻撃を余裕の表情で躱し、そのまま先に離脱していたベルベットを追って船から出た。



「それじゃあ、また会える日を楽しみにしておくよ」

「ウフフ。いずれ美味しいお肉を食べさせてちょうだいね」



 そんなセリフを各々が残し、ベルベットと腕落としが姿を消す。



「坊主! いったい今の奴らは何なんだ!?

「悪いボブ。説明してる暇が無いかもだからまた今度にしてくれ。全員準備は良いな?」

「ええ。いつでも行けるわ」

「テレポーテーション!」



 そうしてハルガ近海へと呼び出された俺たちは、僅か数分でトンボ返りをする事となったのであった。



次回、11日予知です

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