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21話 初夜

 

 風舞



 舞達の帰還と俺の復活を祝うパーティーは日が暮れるまで続き、フレンダさんやトウカさんが酔い潰れてしまったあたりで、その日のパーティーはお開きとなった。

 アンやシルビアはそんな大人達の醜態に溜息をつきつつも相手をしてやっていたが、エルセーヌはフレンダさんが酔っているのを良い事に、フレンダさんの秘蔵のワインボトルを飲み干したりとやる事に躊躇が無かった。


 そしてそんな後片付けも終わり、離宮に少しばかりの静けさが戻って来た頃、俺と舞は城のとある一室で二人きりの時間を過ごしていた。



「てっきり風舞くんもお酒を飲むと思っていたのに、今日はジュースだけだったわね」

「舞のお誘いがあるのに、酔っ払うわけにもいかないからな。それに、一口でも飲んだらフレンダさんとトウカさんの飲み比べに巻き込まれるところだった」

「ふふ。優勝した真弓先生も、帰りは千鳥足だったものね」

「安酒を大量に飲む事に慣れているってのが勝因だろうな」



 あの先生は大学生の頃から酒とタバコに溺れきっていたみたいだし、酔い潰れるにしても上手な酔い潰れ方というものを心得ているのだろう。

 それに引き換えフレンダさんやトウカさんは、高級なお酒をゆっくり楽しむ様なタイプだからなぁ…。

 そんな事を考えていると、俺の肩に頭を乗せて薄めのレモン水を飲んでいた舞がグラスを置いて、俺の膝の上に登って来る。

 俺はそんな舞を引き寄せて、その細い腰に手を回した。



「風舞くん。そろそろ……良いかしら」

「ああ。舞さえ良ければ俺はいつでも」

「……ええ。それじゃあ、少しベッドで待っていてちょうだい。少しだけ準備があるの」



 とろんとした舞の目に見つめられて思わず生唾を飲みながら頷くと、舞が笑みを浮かべて一度キスをしてから隣の部屋へと向かって行く。

 残された俺はソファからベッドへと移動して、夜空を写す窓の外を見上げながらこれまでの事を思い出していた。



「まさか、あの『土御門さん』と結ばれる日が来るとはな……」



 俺は初めて舞に出会ったあの日から舞に心惹かれ、そしてこの世界に来て舞と旅をしてきた。

 地中何度も死にかけたり辛い事もあったが、今日この時のためと思えば容易い障害だったのかもしれない。



「………緊張してきた」



 エルセーヌに言われてここに来る前に一度シャワーを浴びて来ているのだが、緊張のためか少し汗ばんで来てしまった。

 心臓がいつにも増して激しく鼓動し、顔がカァッと熱くなるのを感じる。

 期待と焦燥と不安と幸福をないまぜにした様な不思議な感情が俺の頭の中を支配していた。



「……待たせたわね」



 ただじっと、ベッドに腰掛けてその時を待っていた俺の前に、黒い上品な下着姿の舞が現れる。

 その白い肌は緊張しているのかほんのりと朱色に色づき、その相貌は微かに潤んでいた。



「舞……綺麗だ」

「んっ……風舞くん」



 俺の前に立つ舞をそっと抱き寄せて唇を交わし、互いに相手を求めながらベッドへと入る。

 以前はここで舞が沸騰してしまってお開きになったが、今回は二人の思うがままに熱く幸せな夜が始まった。



「っっ………舞」

「好きっ……好きっ…好きっ、好きっ! 大好き! 風舞くん風舞くん風舞くん風舞くん♡」

「ま、舞……もうっ……」

「んんっ……風舞くん。もっと、もっともっと! しゅきっ! しゅきなのっ! 世界で一番風舞くんが好き! 大好き! 好き好き好き好き好き好き好き好き!!」



 ………………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …



「マジかいな。途中から記憶が飛んでる」



 翌朝、俺は舞に腕枕をしながら目を覚ました。

 どうやら昨夜はあのまま寝てしまったらしく、俺も舞も裸のままシーツを被って二人で寝ている。

 俺は横で幸せそうな顔で眠る舞を見て僅かばかりに倦怠感を感じつつも、何かが満ちたりた様な充足感を感じていた。

 ただ……



「まさか舞があんなに激しいとは………」



 俺は記憶が飛ぶ寸前の俺を抱きしめながら見下ろす舞の蕩けきった顔を思い出して、今後の舞との夜に僅かばかりの危機感を覚えるのであった。




 ◇◆◇




 風舞



 舞と褥を共にした翌朝、俺が目を覚ましてから数分後に舞は目を覚ました。

 舞は目を覚ましてすぐに俺の顔があった事をすごく幸せに感じている様な顔で俺にキスをして、枕にしていた俺の腕を抱きしめながら滑らかな足を絡めてくる。



「ふふ。おはよう風舞くん」

「ああ、おはよう」

「ふふっ…風舞くん」

「ん? どうした?」

「愛してるわ」

「ああ。俺もだ」

「ふふふっ……」



 舞が笑み浮かべながら俺の肩に頭を乗せて俺の顔をジッと見つめてくる。

 そんな舞への愛おしさから舞の頭を撫でると、舞はまるで猫の様に俺の手にすり寄ってきた。



「ねぇ、風舞くん。今日は謝肉祭が終わって断食をする日なのよね」

「そうだな。日頃の行いを見返して、色んな事に感謝する日らしい」

「それじゃあ、今日ぐらいはお昼頃までずっとこうしていても怒られないわよね」

「ああ。そうだな………」

「オホホホ。残念ながら、甘いひと時はそこまでですわ」



 いつからそこにいたのか、エルセーヌがそう言いながら真剣な顔でそう声をかけてくる。

 その表情はいつになく真剣で、決して俺や舞の間に入ってやろうという邪な考えは一切感じられなかった。



「分かった。舞、この続きは……」

「ほら風舞くん。いつまでも寝ていないでお仕事の時間よ! さぁ、まずはシャワーを浴びて頭をスッキリさせるところから始めましょう!」

「あ、あぁ……」

「オホホホ。流石はマイ様は話が早くて助かりますわ」



 そうして俺と舞の甘いひと時は終わり、次なる激動の日々が始まろうとしていた。




 ◇◆◇




 とある日の早朝。

 スカーレット帝国の魔王の元に一つの凶報が届いた。



「……その報せに間違いは無いんじゃな?」

「は、はい。間違いありません」

「そうか。下がって良いぞ」

「はっ! 失礼いたします!」



 魔王ローズ・スカーレットは緊張した面持ちの侍従を私室から追い出し、一つ深いため息をつく。



「はぁ……まさかこの様な事が…」



 凶報…それは、スカーレット帝国において最もローズが信頼できる序列上位のサキュバス、リディアが何者かの凶刃によって倒れたという報せだった。

 ラングレシア王国との和平に向けて、国内の反対派を根回し、脅し、妥協させてきたが、それは弱体化する以前の姿を風舞の血液を摂取することで演出している事と同じぐらいに、スカーレット帝国でも屈指の実力者であるリディアの力に依るところが大きい。



「幸いにも命に別状はなく、現在は回復魔法での処置により動ける様にはなっているそうじゃが、これは妾への脅迫ととるべきじゃな」



 そう言ったローズは苦い顔のままベッドから降り、一度顔を洗って状況を整理するために鏡の前に立つ。

 そこには睡眠を削りギフトを無理矢理に発動させ、出来る限りの策を弄してきた彼女の酷くやつれた顔が写っていたのだが、逼迫した状況にある彼女がそれに気がつく事はなかった。




 ◇◆◇




 風舞




「そうですか。スカーレット帝国でそんな事が」



 エルセーヌに呼び出されて離宮へと戻った俺は、フレンダさんやアンやトウカさんなど全員が揃ったリビングで、スカーレット帝国にて起こった事件を聞かされた。

 そしてその話をしてくれたフレンダさんが、真剣な面持ちで再度口を開く。



「どうやら事態は一刻を争いそうですので、私は帝国へと戻ろうと思います」

「………他に手はないんですか?」

「今まではエリスとその配下に任せきりでしたが、悪魔の会合に関しては間違いなくエリスの力が必要です。状況的に私が行くしかないですね」

「…………少し考えさせてください」



 フレンダさんがここにいてくれるのは、ローズやエルセーヌなどスカーレット帝国組の3人の中で、俺たちを守るのにフレンダさんが適任だという事になったからだ。

 俺はスカーレット帝国で一度派手に動いているし、悪魔に対しても抗戦的な態度をとっている事も既に多くの人が知る事実となっている。

 そんな俺たちが下手な襲撃に遭わずに暮らせているのは、スカーレット帝国においてナンバー2のフレンダさんが俺の側にいるという抑止力があるからだ。



「風舞くん……」

「悪い。大丈夫だ」



 思わず苦い表情になっていたのか、そばにいた舞が不安そうな表情で俺の顔を覗き込む。

 俺は一度顔をあげて深く息を吸い、そうして頭の中の感情と情報を整理して考えを話した。



「スカーレット帝国に関してはフレンダさんにお任せします。それとローズがギフトを使うのに血液が不足しているでしょうから、大至急その用意もしましょう。ラングレシア王国との条約に関しては調印式を残すのみですから、まずはそこを目標に動きたいと思います。俺たちはそれまでにラングレシア王国の特使としてスカーレット帝国に滞在出来る様にしておきますので、それまでは何とか耐えてください。後は…」

「フーマ」

「後はそうですね。ローズが弱体化を手っ取り早く治すにはやっぱり魔封結晶を集めるのが最優先でしょうから、そっちも並行して進めます。エルセーヌがいればそういった情報も集めやすいですし、一先ず大陸中の結晶を集めるだけなら問題はないはずです」

「フーマ。一度落ち着きなさい」

「俺は至って冷静ですよ。だからフレンダさんがいなくても……」

「分かりました。分かりましたから少し落ち着きなさい」



 フレンダさんが窘める様にそう言いながら、いつの間に立ち上がっていた俺の肩に手をおいてソファに座らせる。



「フーマが頑張っている事も優秀である事もよく知っています。スカーレット帝国とラングレシア王国との条約はフーマの努力が無くては頓挫していたでしょうし、私がスカーレット帝国に戻るという選択が出来るのもフーマの積み上げてきたものがあってこそなのです。確かにお姉様が帝国へと戻らざるを得なくなったのは事実ですし、フーマがそれに対して己が無力である事を嘆いていたことは知っています。しかし、今回はあの時とは違います。フーマが状況を良い方に動かしたから、フーマが私達に救いの手を差し伸べてくれたからこういった選択が出来るのです」

「フレンダさん……」

「まったく、何を泣きそうになっているのですか。せっかく舞と想いを確かめあえたばかりだというのに、あまり恋人の前で情けない姿を見せるものではありませんよ。それに、フーマは私の……相棒なのでしょう? わ、私の隣に立つならもう少し男を磨きなさい」

「フレンダ様、何を赤くなっているのですか?」

「……なっていません。まったく、ようやくフーマが一皮剥けた事で自分の番がもうすぐ来るのではないかと気になって仕方のない色ボケエルフは何を言い出すんだか」

「そ、それは言わない約束でしょう!」

「ふん。せいぜい私がいない間に頼りになる大人の女性であるところをフーマに見せる事ですね。まぁ、引きこもりの田舎者エルフには私を超える事など出来ないでしょうが」

「そうして油断していられるのも今のうちです。フーマ様はこの私がしっかりとお支え致しますので、フレンダ様はどうぞご自分の職務を全うなさってください」



 フレンダさんが俺を励ましてくれていたはずが、いつの間にかフレンダさんとトウカさんが大人気ない口喧嘩を始めている。

 そんな二人の様子を相変わらず仲が良いなぁなんて思いながら見上げていたら、横のソファに腰掛けていたアンとシルビアが俺の元へとやって来た。



「フーマ様。私じゃあ先生ほど頼りにはならないかもだけど、精一杯フーマ様をお支えするから、一緒に頑張ろうね!」

「フーマ様。私も微力ながらお力添えいたします」

「ああ、ありがとう。凄く嬉しい」

「ふふっ。風舞くんはモテモテね。恋人として鼻が高いわ!」

「マイ。くれぐれもトウカがフーマを襲わない様にしっかりとフーマを守るのですよ」

「フレンダ様? あまり口が過ぎる様なら、以前お聞きしたフーマ様をどう思っているのかについてこの場でお話ししますよ?」

「え? 何それ超聞きたい!」

「おい! さっきまで気落ちしていた癖に、その代わり様はなんですか! まったく、これだから風舞は……」

「フーマは優秀でありながらもどこか自分に自信がなく、それでいて向上心が高いところに見守ってやりたい可愛らしさが……」

「あぁぁもう! 良いですかフーマ! 次に会う時までしっかりやるのですよ! エリスを通して連絡はつく様にしておきますから、何かあれば……いいえ! 無くても頻繁に連絡なさい! 良いですね!?」

「わ、分かりました」

「よろしい! それではこれで話は以上です! 私は少し準備がありますからこれで失礼します!」



 捲し立てる様にそう言ったフレンダさんが顔と耳を真っ赤にしながらズンズンと階段を上がって行く。

 フレンダさんのあんな姿も当分の間は見れなくなるというのは寂しいが、ラングレシア王国とスカーレット帝国との調印式もそう遠くはないはずだ。

 それまでの間に、俺は悪魔の会合の方に集中するとしよう。


次回、5日予定です

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― 新着の感想 ―
[一言] 兎にも角にも400話おめでと~
[良い点] 400話おめでとうございます! そしてフーマもおめでとさん(笑)
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